レビュー
「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」レビュー
記憶をなくした刑事が、24もの人格に導かれ、謎めいた殺人事件に挑戦!
2022年8月25日 00:00
- 【ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット】
- 発売元:スパイク・チュンソフト
- 開発元:ZA/UM
- 8月25日 発売予定
- 価格:4,939円(税込)
- CEROレーティング:D(17歳以上対象)
- プレイ人数:1人
「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」は奇妙な感触が味わえるRPGである。主人公は自分の名前がわからないような記憶喪失なのだが、その原因はおそらく酒。人に話を聞いても「自分がいかにひどい酔っ払いだったか」の話しか聞けない。それなのに殺人事件を解決しなくてはならないのだ。生真面目な他分署の刑事に付き添われ、主人公は記憶も取り戻せないまま謎に立ち向かう。
主人公が調査すべき死体は数日も前からホテルの裏庭に吊されたまま。近所のクソガキが暇つぶしに石をぶつけているという信じられない状況だ。プレーヤーにとって本作は不安の連続だ。自分が誰だかわからないし、歩く場所も全く未知の世界だ。怪しげな登場人物達は多いし、主人公は酒を飲みたがるし、カラオケをやりたがる。まともに捜査しようとする相棒のキムだけが支えだ。
世界観もストーリーもシステムも奇妙な本作は、だからこそ面白い。物語を進めていくほどに謎は増えていくゲームだが、その奇妙な世界観や語り口にプレーヤーは囚われ、そしてストーリーを進めるべくもがいていく。暗闇を手探りで進むような感覚が楽しい作品である。
弊誌では本作のファーストインプレッションと、TRPG要素を取り上げた記事で本作を紹介している。今回はレビューとして、改めて本作の物語やシステムを紹介し、感触を語っていきたい。
自分の記憶も定かではない中で事件に挑む謎だらけのアドベンチャー
「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」のスタートで主人公の刑事は全裸でホテルの部屋の中央で倒れ込んでいる。部屋には脱ぎ捨てられた服が散らかっており、それらを身につけても自分が誰かわからない。ホテルのホールに降りたところで、キム・キツラギという刑事から、自分も刑事であること、協力して殺人事件を調査することを告げられる。
記憶もない、刑事としての身分証はおろか、拳銃さえもなくしてしまっている。キムに無線を借りて本署に電話してもこちらの窮状をあざ笑う同僚の声しかしないという最悪の状況で主人公は調査を開始していく。
最初は何をして良いかもわからないが、話ができるキャラクターや調査できる場所を探っていくうちに複雑な背景が見えてくる。殺人事件には労働者と企業の深刻な対立が背景にあるようだ。また中毒性のある薬物「ハーブ」の存在や、かつてあった大きな戦争などの背景も見えてくる。
本当に1つ1つ手探りで様々な事象のピースをかき集めていきながら、プレーヤーの中で本作の世界が構成されていく。スキルの使い方や、成長要素、アイテムの活用の仕方、マップの移動範囲や、先に進める場所……。徐々に行動範囲が増え、やれることが多くなる。事件の真相はまだまだ遠いかもしれないが、この世界を探索するコツがわかってくる。
「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」はせっかちにゲームを進めるタイプではなく、この独特な雰囲気のある世界を歩き、様々なキャラクター達と独特の会話を進めることで、徐々にこの世界で進行している物語を味わえる。
また、この世界には共産主義や人種差別、フェミニズムや同性愛など様々な思想があり、それらを取り込んでいくことで主人公の思考も変わっていく様も楽しい。ふとしたきっかけで思考に目覚め、それらの思考を「思考キャビネット」に収めキャラクターが形成されていく過程も楽しみの1つだ。
本作はシンプルな英雄物語でも、苦い味わいのあるミステリーでもない。謎だらけの世界で人々の中に潜む様々な秘密に触れながら、その秘密や不条理な状況そのものを楽しんでいくとても奇妙なアドベンチャーゲームである。
目の前に殺人事件があり、それを解き明かすという大きな目標はあるのだが、小さな願いを叶えたり、謎めいた人の秘密の一端に触れたりと、プレーヤーの目標は様々に変化していく。まずこの世界に飛び込み、歩いてみて欲しい。本作の奇妙な味わいを、ぜひ味わって欲しい。
24もの人格の声に翻弄され、明日の宿代に悩みながら進める捜査
「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」はシステムもユニークだ。スキル性のシステムを導入しているゲームは他にもあると思うが、本作のスキルは主人公の内面の"人格"として話しかけてくる。そしてそのスキルの数は24もある。
事件を分析する「論理」、どこでその知識を得たかも覚えていないような細かい情報を教えてくれる「百科事典」、嘘をついたり相手の嘘を見破る「演劇」、インスピレーションで起こりうることを予測できる「内陸帝国」、人知れずものを盗むようにもなれる「手さばき」……。これらのスキルは主人公の会話や目にしたものに反応し、会話の途中に自動的に発動する。「このものは嘘をついているようですぞ……」という感じで、主人公にそれぞれの口調で話しかけてくるのだ。
このスキルシステムによる会話劇は本作に独特の雰囲気をもたらしている。主人公は常に内面の声に語りかけられ、その声に聞き返したり、聞き流したりしながら事件の調査を進めている。主人公の周りは常に賑やかだ。しかし、これを"異常な状況"と単純に言えるだろうか? 実は私たちも内面で架空の会話をしたり、時には意見を争わせたりしながら日常を過ごしているのではないか? 深く考えると人格が分裂してしまいそうな、ちょっと怖いシステムかもしれない。
ゲーム内で現れる選択肢の中には成功率が表示されるものがある。特に成功率が低いものは、成功すると事態が大きく動くものもある。このときいかにこの成功率を上げるかがゲームとして駆け引きが楽しい部分である。装備品でスキルにプラス補正がつくものを装備したり、あらかじめ対応するアイテムを用意したりできる。また再挑戦できるチェックの場合は失敗しても対応するスキルを成長させることで成功率を上げて再挑戦が可能だ。思考キャビネットでの思想もボーナスをもたらすものがある。
スキルチェックで注意したいのは失敗した場合、肉体や精神にダメージを受ける場合があるということだ。会話の選択肢でもダメージを受ける場合がある。体力や気力が0になってそのまま放置するとゲームオーバーになってしまう。このため常に回復アイテムを複数持っておきたいところだ。回復アイテムは薬局で買えるがお金がかかる。フィールドは細かく探索することでお金や回復アイテム、衣服なども手に入るので積極的に探していこう。
お金に関して主人公には頭が痛い問題がある。彼は"家なし"なのだ。夜にはホテルに泊まらなくてはいけないが、それにはお金がかかる。探索では小銭しか入手できない。街には質屋もあるが……。宿泊代が常に心配の種になる刑事など本作くらいではないだろうか。
「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」では独特のシステムを活用し捜査を進めていく。街の住人は怪しげで一癖も二癖もある人達ばかりだ。次ページでは登場人物にも触れていこう。
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