レビュー

「ニーアレプリカント ver1.22474487139...」レビュー

推察・考察する楽しみを与えてくれるシナリオ

 「レプリカント」は登場人物がそこまで多い物語ではないが、だからこそ各キャラクターの繊細な心の動き、関係性が描かれている。そしてそれは時にはキャラクターの口から語られる言葉だけではなく、細かい表情や断片的に与えられる情報から推察されるものも多く、それが本作最大の魅力であり、「解らない言葉も出てくるけれど、物語としての満足感は非常に高い」という、最高の経験を得させてくれる。

 例えば前述のロボット山の兄弟たちは、名前すらない。ゲーム中で表記されるのは「兄」「弟」のみ。それでも彼らには、物語上でも非常に重要な役割がある。

 ゲームの中での役割的な重要度に差はあれど、名前すら付けられていないキャラクターたちにも様々なドラマがあり、描かれている部分から描かれていないところを想像する余地がある。

 この「余地」については「想像するより答えを提示してほしい」というプレーヤーもいると思うが、それこそが「ニーア」の味なのだと思ってもらえると幸いだ。

 本作は、「ドラッグオンドラグーン」(以下、「DOD」)の続編となっているため、恐らく「DOD」をプレイしていない人にとっては言葉少なに語られる本作の物語は、最初はわからない部分もあるだろう。だが、もしもこの記事を読んでいる読者が「オートマタ」や「リィンカネ」に触れたことがあるならば、断片的な情報から推察する楽しみや、実は地続きの世界観だからこその考察に「なるほど」と頷く楽しさをきっと知っていることだろう。そして、必ずしも”前作を知らないことが物語の直接的な面白さに響くわけではない”ということも知っているはずだ。

 まさに「レプリカント」も然りであり、「DOD」を知らなくても自然と引き込まれるストーリー、そしてもっと深く知りたいと思った時には改めて、「DOD」から「レプリカント」、「オートマタ」までの出来事の考察を探るのも良いだろう。

ところどころに残るかつての地球の姿。ここは「石の神殿」から見える風景だが……

 そして、我々はそれらを全て知った時、改めて思うのだ。これは1万年を超える壮大な愛の物語であるのだと。(ちなみに広げていこうと思えば、もっともっと更に過去に振り返ることも可能だ。それこそ「DOD」の時代から。だが、そこまで含めても、やはり”愛”の物語なのだ)

 これらの”愛の形”を全て受け止め切った時、もしも「オートマタ」しかやっていない人がいたら、ぜひ「オートマタ」をプレイしなおしてほしい。かつてはわからなかったシーンや、なんとなく通り過ぎていたシーン、セリフの意味が、きっとわかるようになっている。そして「DOD」の時代から「レプリカント」を経て、1万年越しの想いを見届けた時には、きっと初めて「オートマタ」をプレイした時とは違う涙を流すだろう。

 ――あえて意味深な表現をしたことには、意味がある。実は旧「レプリカント」は発売前から短編ノベライズにてゲームの設定を少しずつ明かしており、哀しくも優しい本編では語られない裏側を、発売前から知らされていたのだ。だが、そのノベライズが再公開されているわけでもないため、今回はノベライズで明かされた情報ついては、一切伏せておく。ノベライズは設定資料集に全編再掲されているので、もしも本作で「レプリカント」の世界に魅せられたならば、その時はそちらを読んでほしい。

 ただ、本作には旧「レプリカント」のDLCとして配信された「15 Nightmares」が最初から収録されている。このDLCでは「DOD」と「レプリカント」を繋ぐワードがいくつも出てくるのが特徴だ。このDLCによって、更に「ニーア」の世界観を深く知ることが可能となっており、一連の物語の全容――とまではいかなくても、かなり考察を進めることが出来る。

なお「15 Nightmares」では、操作キャラクターが父親の姿になる。まさか3Dキャラクターモデリングがバージョンアップされた父の姿を見ることができるとは……。感涙

ストーリーを彩る、荒廃した世界

 繰り返しになるが、このゲームの特徴は「愛のために生きる」人たちを描く心優しいストーリーではない。

 この美しくも残酷な物語を描くために作られたフィールドには、かつてここに栄えた文明があったことを彷彿させる荒廃感があり、たまらなく淋しさが募る。けれど、その淋しさこそが、「ニーア」シリーズならではの美しさだ。

 「ニーア」シリーズ(「DOD」シリーズ)は、ファンタジーでありながらも、地球が舞台であることは明言されている。厳密に言うと、「レプリカント」や「オートマタ」は「DOD1」にて描かれた2003年の新宿から連なる世界となっているのだが、地球だとは思えない幻想的なフィールドから、かつて栄えた地球の片鱗を感じさせるフィールドまで、多岐に渡る。

 この「地球でありつつも、地球でなさそうな何処か」という世界は、ストーリーを盛り上げるのに一役も二役も買っており、舞台が地球だと明言されているからこその疑問も浮かんでくるはずだ。

 恐らく「オートマタ」をプレイした人ほど、「レプリカント」の世界はどこか不思議に映るのではないだろうか。

 「オートマタ」は1万年以上未来のストーリーでありながら、もっと地球らしさが感じられる世界だった。言うなれば、現在の地球と、「オートマタ」の地球は線でつながるのだ。なのに「オートマタ」よりも1万年近く過去でありながら、「レプリカント」の世界は現在の地球とはあまり線でつながらない。「レプリカント」の世界は、確かにこの線上にあるはずなのに、それは”線”ではなく、”点”なのだ。

 知っているどこかに見えて、知らないどこかに見える――それが「レプリカント」の持つ独特な魅力であり、”点”のように見える世界には、理由がある。それらも含めて、何故地球がこのような姿になったのか――「ニーア」シリーズの奏でる世界を楽しんでほしい。