「ニーアレプリカント ver1.22474487139...」レビュー

　2010年にPS3/Xbox360で発売された「NieR Replicant/Gestalt」（以下、「レプリカント/ゲシュタルト」）のバージョンアップ版「ニーアレプリカント ver1.22474487139...」が4月22日に発売される。

　本作は、2010年度版「レプリカント」をベースにしつつも単なるHD化作品を遥かに超えたタイトルとなっており、グラフィックスの向上や、キャラクターの3Dモデルデザインの変更、オートバトルモードの搭載、60fpsへの対応、フルボイス化、新イベントの追加などを行なったものとなる。

　世界累計出荷・ダウンロード販売本数が2021年2月時点で550万本という記録的な大ヒットとなったアクションRPG「NieR:Automata」や、スマートフォン向けタイトル「NieR Re［in］carnation」、はたまた他作品のコラボ等から「ニーア」シリーズに入った人には、ぜひとも触れてほしいタイトルだ。

　なお、ファーストインプレッションにて、オートバトルモードや音楽、新要素などにあらかた触れているため、今回の記事ではファーストインプレッションと重複する内容には軽く触れる程度としておくことを、予めお伝えしておこう。

　本稿では、前回の記事では触れなかった、もっと根底の部分――「ニーアレプリカントという作品に魅せられた者たち」からの視点で、本作の物語の要素を語っていきたい。 なお、本稿は序章あたりのストーリーに触れており、中盤以降の軽微なネタバレも含むので、注意して読み進めてほしい。

物語は、今から数十年後の新宿で始まる。だが、本編が動き出すのは更に1,000年以上も先

その根底にあるのは、深くて重い愛

　本作を語る上で外せないのは、”愛情”だ。

　主人公（※「ニーア」と称されることが多いが、公式の正式な主人公名はニーアではないため、本稿では”主人公”表記で統一する）は、両親を失っていることもあって、たったひとりの肉親である病弱な妹のヨナを溺愛しており、この物語の全ては主人公とヨナを中心に描かれていると言っても過言ではない。

　血の繋がりからの愛情が強固なものであることは確かだが、主人公が己の全てを投げ打ってまで妹を助けようとするその姿は、美しいながらもある種の狂気すら感じさせる。だが、それをただの狂気と感じさせないのは、主人公の少年時代から物語が始まるおかげもあるだろう。

　少年時代の主人公は、何事にも真っ直ぐ。自分たちも両親を失い裕福な暮らしとは程遠いのに、困っている人を捨て置けない。両親がいない兄妹を気にかけてくれる村のひとたちに少しでも報いようとする優しい心を持ち、そんな兄を一心に慕う、穢れを知らない病弱な幼い妹。ヨナはヨナで、大好きな兄のために自分にできることはないか、と懸命に兄を気遣う。お互いに深く想い合い、その日一日を無事に生き延びようとする幼い兄妹の姿には、胸を打たれる。

　主人公は、妹の薬代を稼ぐために、時にはマモノ退治などの危険な仕事も引き受ける。それも全ては、妹への無償の愛のためだ。

　だが、ただでさえ病弱な妹は、やがて「黒文病」と呼ばれる不治の病に侵されてしまう。かかったら必ず死んでしまう黒文病は、かつて主人公とヨナの母親の命も奪ったというのに、次は妹のヨナまで黒文病にかかってしまったことに、怒りすら覚える主人公。

　「何故自分たちだけが……」

　そんな気持ちを滲ませながらも、主人公はヨナを救うため、ある出来事をきっかけに出会った謎の本「白の書」と共に、黒文病を治す術を探しながら奔走する。

　ただひたすら妹のために生きる幼い少年の姿は純真無垢にも見え、だからこそ我々は”病弱な妹の面倒を一生懸命に見る兄の姿”に、（少々シスコンが過ぎるのではと思いつつも）共感を抱くことができる。

　主人公とヨナの兄妹愛に端を発する物語は、時に美しく、時に残酷だ。
　だが、本作で描かれる愛は、これだけではない。
　美しい女剣士のカイネ、そして謎の少年エミールとの間に育まれる想い。

※ラブシーンです

※ラブシーンです（2回目）

　そして物語で重要な立ち位置となるデボル、ポポルの双子の姉妹。ロボット山に登場する兄弟。こういったサブキャラクターそれぞれにも、各立ち位置ならではの愛がある。もちろんこのことに限らず、クエストでも何度も心を抉られる愛に出会うだろう。

　前述の通り、それらは美しくハッピーエンドで終わるような物語ばかりではない。時には残酷で、醜悪で、歪で、唾を吐き捨てたくなるようなことだってある。けれど、その根底には大抵、何かしらの愛があるのだ。

　愛に生きて、己を犠牲にする者。
　愛に生きて、他者を犠牲にする者。
　愛に生きて、全てを犠牲にする者。

　「レプリカント」では、そういった多くの愛が描かれ、道徳的に見れば悪でしかないような出来事も、裏を見ればそこには愛がある。だからこそ、「レプリカント」は尊く、そして地獄のような絵を、我々の心に刻み付ける作品なのだ。