「ウォッチドッグス レギオン」レビュー

これは“誰でもない人々”の抵抗の物語。市民のパワーをつなぎ、託し、巨悪を打ち倒す!

【ウォッチドッグス レギオン】

ジャンル:アクション

開発元:Ubisoft Toronto

発売元:Ubisoft

プラットフォーム:PS4/Xbox One/PC

価格:8,400円(税込)

発売日:2020年10月29日

 街をモデルとしたオープンワールドゲームにとって、背景を行き交う人々(モブ)はリアリティを高める存在だ。電話をかけていたり、ベンチに座っていたり、コーヒーを飲みながら歩いたり。通りを多くの人が行き交えば、街そのものに大きな説得力が出る。だからこれまで多くのオープンワールドゲームは、自動生成を駆使してこうしたモブを描いてきたのだと思う。たとえ、物語上はほとんど意味がなかったとしても。

 しかし「ウォッチドッグス レギオン」は、一見モブに見える市民たち“全員”に意味がある。オーソドックスなオープンワールドゲームのような見た目をしながら、実際に触れてみると目の前の通りを歩く人ひとりひとりに名前、職業、年齢、住所、一日の行動、他の市民との関係性など、驚くほど細かなアイデンティティが設定されている。しかも、これは単なる設定だけではない。登場するすべての市民が主人公になれるところに、本作の強烈な個性がある。

本作の主人公は、さきほどまでその辺りを歩いていた市民たち。採用することで操作可能になる

 市民たちはAIによって自動生成されており、作り込まれたキャラクターではない分どこか素朴な人ばかりだ。だがその垢抜けない素朴さにこそに妙なリアルさがあり、「何気ない市民が集まり、協力して悪を打ち倒す」ところに本作のテーマがある。

 では、実際に本作はどのような手触りなのだろうか。「ウォッチドッグス レギオン」の特徴的なシステムとともに、その流れをお伝えしていきたい。

【『ウォッチドッグス レギオン』ストーリートレーラー】

ハッカー、養蜂家、マジシャンも! 怒れる市民が能力を活かして大反逆を巻き起こす

 「ウォッチドッグス レギオン」は、近未来のロンドンをテーマにしたオープンワールドアクションだ。ゲームの流れそのものはオーソドックスで、各地で発生するミッションを繰り返しクリアすることでストーリーを進めていく。

 「ウォッチドッグス」シリーズといえば監視カメラなどをハイジャックするハッキングシステムで、これも健在。警戒中の建物の監視カメラに侵入し、そこから内部の様子を偵察できたり、爆破物があればハッキングして罠を設置できたりする。より侵入しやすくなるような環境を整えることで、無駄な戦闘を避けつつスマートに目的を達成できるわけだ。

プレイ感そのものは一般的なオープンワールドアクションのイメージであっている

 さらにガジェットとして活躍するのがスパイダーボット。名前通りクモの形をした小型ロボットで、歩みを進めながらスルスルと建物の奥へと入っていける。小型なので見つかりにくいし、後ろからこっそり近づけば敵を気絶させることもできる。この動きのかわいいロボットをうまく使えば、建物の外から安全にミッションをクリアできる。

 今回、空中を自由に操作できるドローンは手持ちガジェットとして登場しない。が、結果としてはよく使う。というのも街はドローンだらけなので、ハッキングして都合よく使わせてもらえるからだ。

 飛んでいるドローンをキャッチするようにハッキングして、そのまま危険エリアに潜入。そこで敵の位置の把握やなんならギミックの解除なんかもして、大いに潜入の準備をさせてもらう。たとえ見つかっても警戒が強まる程度でリスクは低い。この遠隔操作でだいたいのことができてしまう感じは、まさに「ウォッチドッグス」の手触りだと言えるだろう。

最初から最後までよく使うことになる相棒、スパイダーボット
ドローンもとても役立つ。ミッションにはドローン操作に特化したものもある

 プレーヤーのできることはミッション以外にも様々だが、中でも重要になるのがメンバーの勧誘だ。ハッカー集団でレジスタンスのデッドセックは、本作の冒頭で色々あって壊滅状態になり、最初のメンバーは1人しかいない。そこからどんなメンバーを集めてどんなレジスタンスを作っていくかは、プレーヤー次第となっている。

 街にはバーテンダーに会計士、ハッカー、警備兵、副社長、ゲーム開発社、俳優、ストリーマーなどなどあらゆる職業、あらゆる年代の人がいる。各市民をハッキングすると個人情報とともに能力が表示されて、勧誘候補にするかどうかを決められる。

市民のアイデンティティは様々。街中のどの人物でも採用できる

 ハッカーであればハッキングのスピードがはやかったり、警備兵なら装備に警棒があったり、それぞれに特徴がある。変わったところではロボット蜂を敵にぶつける養蜂家なる職業の市民もいる。能力重視で勧誘するか見た目重視で揃えていくかは自由で、ときにはミッションの流れで特定の市民を勧誘することもある。このシステム自体は、プレイするうちにコツは掴めるはずだ。

 ちなみに筆者的おすすめは、医療関係者と法務関係者。医療関係者は負傷して一定時間使用不能になったメンバーの回復時間を早められ、弁護士などは逮捕されたメンバーの拘束時間を短縮できたりする。メンバーに入っていれば能力が発揮されるので、何かあったときのための備えとして、たとえ操作しなくてもいるだけでありがたい存在だ。

養蜂家にマジシャンも。市民のプロフィールを見ていくのも楽しい

 本作がいいバランスだと思うのは、市民たちに能力の差はあれど、これらは必須ではないこと。

 ハッキングやスパイダーボットといった最も強力なデッドセックの武器は誰でも使えるので、たとえ無職の人をメンバーに採用したとしても、プレーヤー次第でどんなミッションでもこなせる。画面に映る人すべてに、驚くほどの可能性があるのが「ウォッチドッグス レギオン」ならではだ。

基本的には誰でもミッションをこなせる。人によって状況ごとの有利不利があるようなイメージだ

 能力にはデメリット方面のものもあって、たとえば高齢者は足が悪い場合がある。足が悪いと他の市民と比べてアクションが遅くなり、敵から逃げるのが難しくなる。ただし、そのハンデを背負いながらバリバリ敵施設を壊滅させる痛快さは捨てがたい。こうしたメリットデメリットは捉え方次第であり、ロールプレイを楽しむ上では大切なところだ。

 また笑ってしまったのが、「有名」というステータスがあると他の市民に気づかれることが多いこと。スーパースターが凄腕ハッカーだった……というのはいかにもありそうなシチュエーションだが、真剣な潜入には思いっきり邪魔だったりするわけだ。

ケンカ上等の闘技場「ベアナックル」では、格闘能力の高い市民が役立ってくれる

 なお勧誘は一筋縄ではいかなくて、1人の市民をメンバーに採用することそのものがひとつのミッションとなっている。市民はデッドセックに友好的だったり懐疑的だったりして、あまりに嫌われていると勧誘できない(デッドセックが成長すると勧誘できるようになる)。

 友好的な人はだいたいひとつのミッションで採用できるが、嫌われている人はその度数に応じて複数のミッションをこなすようなイメージ。どうしても採用したいなら、その人の困っていることをとことん手助けしてあげるといいだろう。

清掃人からストーリートコンピューティングに勤しむハッカーまで、画面に映る全員が採用対象だ

市民の力をつなぎ、託す。そのメッセージ性に勇気をもらう

 さて、ではそんなメンバーでストーリーが成立するのかどうかだが、これが完璧に成立している。どんな市民でも表情があり、身振りがあり、セリフがある。カットシーンはそのとき操作しているメンバーのままで進行するのだが、そこに不自然さはない。

 むしろ、自分が見出した市民ががんばって活躍してくれるので、取りまとめ役としてはなんだか嬉しい気持ちになる。メンバーを揃えていくと、デッドセックの親のような気分になってくるからじつに不思議である。

こちらはカットシーンの一部。同じ場面でも、プレイする人によってまったく違う顔ぶれになるだろう
採用した時点で、デフォルトの衣装センスもバラバラ。あえてそのままで行くか、ガラッと印象を変えていくかも楽しみのひとつ

 話の内容については、人身売買や脳機能のAI化、行き過ぎた監視社会の実現など社会の闇に踏み入るようなテーマを扱っている。ゲームの構造上、デッドセックのメンバーひとりひとりの強いストーリーづくりが難しい代わりに、ボスたちのキャラクターづくりには力が入っている。

 メインストーリーを追うことで、ボスたちの背景を体験するようなものが多い。そのあたりは社会問題とうまく絡めながら描かれていて、明確な主人公がいないストーリーを堅実にまとめあげている。肥大化した巨悪が、蜂起したいち市民に打ち倒されていく感じがまたいい。

人を平気で売りさばくメアリー・ケリー。やっていることがボスの中で最も残忍
こちらの臓器売ってまーす! のエグすぎるパネル

 またミッションによってはメンバーの能力が活きることもある。建設現場に潜入するなら現役作業員の制服が役立つし、戦闘がありそうならスパイが会得しているガンカタは大いに助けになるだろう。ミッションの特性に合わせてメンバーを変え、それぞれの得意分野を活かして“交代交代でつないでいく感じ”がいい。

通常、気づかれないまま背後を取らないとテイクダウンを取れないが、ガンカタを持っていればいついかなるときでも敵を瞬時に倒せる。強い
ちなみにメンバーの交代はその場のロケーションで行なわれる。個人的には「各地に広がっているメンバーの位置がマップ上に表示されて、ミッション近くの人に交代できる」みたいなシステムがあったらよりつないでいる感が出たかなと思うのだが、どうだろうか

 それと、間違いなく人気が出そうなのが本作の超高性能AIことバグリーだ。バグリーはAIなので音声のみの活躍となるが、真面目に分析しているかと思ったら「本当にクソですね」と突然暴言を吐いたりして笑わせてくれる。ウィットに富んだブリティッシュジョークを心得たAIが、嫌味と皮肉を交えて軽やかにミッションを導く。あらゆる意味で、本作の裏の主人公的存在だ。

 また個人的には、ファストトラベルシステムの印象がよかった。「ウォッチドッグス レギオン」ではメトロ(地下鉄)の駅がそのままファストトラベルの拠点になっていて、街全体に点在している。

 メトロは一度すれ違ったり近づいたら拠点として自動でオープンするので、行っていない場所に行けば行くほど新たな駅が使えるようになる。感覚としては「いつの間にか使えるようになっている」ので大変便利。歩いたり車での移動が重要になるようなゲームの作りではないので、ここを割り切ったことでプレイしやすくなっていると感じた。

街のいたる所にあるメトロ。何度もくり返すが、こちらのスクリーンショットに映っている人全員がプレイ可能だ
ファストトラベルではないが、車はオートドライブ機能が付いていて、目的地を決めれば勝手に連れて行ってくれる。本作の世界ではAIが進化しすぎているために、タクシーには運転手がいなくなっている
もちろん自分で車の運転もできる。過去作に比べてかなりキビキビ動いてくれるようになり、警察との追いかけっこもだいぶ楽になった

 本作のプレイ中は、常に採用候補はいないかとすれ違う人を次々と調べていくことになるのだが、プレイ時間が数十時間を超えてくると、現実世界で街へ出たときに人々をハックしたくなるような気になってくる。そしてハックしたくなっている自分自身も、何者でもない市民のひとりであることに改めて気づかされる。

 そういう意味で、「ウォッチドッグス レギオン」の主人公は市民そのものなのだと言える。個々の存在はスーパーヒーローに比べたら何ということもないが、ひとりひとりの能力を活かし、つなぎ、託すことで最後には大きな成果を上げられる。奇しくも「鬼滅の刃」にも同じようなテーマが立ち表われているのだが、これは果たして偶然だろうか。

 「ウォッチドッグス レギオン」は超絶AIの性能を存分に見せてくれると同時に、市民のパワーこそが体制の脅威になるとする強いメッセージ性を伴っているところがいい。筆者自身も市民のひとりとして、とても勇気のもらえるタイトルとなった。

綺麗に描かれたロンドンの街並みも見どころのひとつ。自身が乗れるドローンを使えば、高い位置から絶景も楽しめる
最後に、はしゃぐデッドセックメンバーをご紹介して、本稿を終えたいと思います!