「コーヒートーク」レビュー
コーヒートーク
夜のカフェで紡がれる、異種族間のほろ苦くも心温まる日常の物語
- ジャンル:
- コーヒーをいれながら、心と心をかよわせるノベルゲーム
- 発売元:
- コーラス・ワールドワイド/Toge Productions
- 開発元:
- Toge Productions
- プラットフォーム:
- Nintendo Switch
- PS4
- Xbox One
- Windows PC
- 価格:
- 1,600円(税込)より
- 1,320円(税込、Steam版)
- 発売日:
- 2020年1月30日
2020年2月3日 12:54
コーラス・ワールドワイドは、プレイステーション 4/Xbox One/Nintendo Switch用ノベルゲーム「コーヒートーク」を1月30日に発売した。なお、パッケージ版はPS4/Switch版のみの販売となり、初回生産分にはオリジナルサウンドトラックCD(2枚組)が付属する。また、PC(Steam)版は開発元のToge Productionsが販売する。
本作の開発を担当したのは、インドネシアのゲームスタジオToge Productions。プレーヤーはカフェのマスターとなり、店を訪れる人々との会話を楽しみつつ、注文に応じて温かい飲み物を提供していく。言葉にすればそれだけのゲームだが、多民族国家インドネシアならではの人種や文化の多様性を反映したかのようなテイストが本作には色濃く反映されており、エルフや吸血鬼といった異種族のキャラクターが数多く登場する。夜のカフェを訪れる住民たちの悩みは現実とシンクロする部分も多く、人生というものについて、ゆっくりと思いを馳せたくなること間違いなしだ。
今回のレビューではゲーム本編を見習って、テンション控えめの落ち着いた“大人な感じ”で、本作の魅力を存分にお伝えしていきたい。
カフェのマスターとなって、異種族の客人をおもてなし
夜の帳が下りたころ、一軒の喫茶店の明かりがそっと灯る。そこは、知る人ぞ知るカフェ「コーヒートーク」。人間だけでなく、エルフにオーク、サキュバスや吸血鬼といった様々なファンタジー世界の住民たちも訪れる。現実とは少し異なる現代のシアトルを舞台に、プレーヤーはカフェのマスター兼バリスタとしてお客様と交流しつつ、彼らの人生を変えるきっかけになるかもしれない1杯のコーヒーを提供するのだ。
「VA-11 Hall-A(ヴァルハラ)」インスパイアとも評される本作だが、提供する飲み物はカクテルではなく、コーヒーや紅茶となっており、アルコール類は一切なし。それが作品全体の落ち着いた雰囲気ともマッチし、本作の独自性のひとつとなっている。あらかじめ言ってしまうと、本作には派手などんでん返しもなければ、最後に登場人物たちの物語がひとつに繋がって……などという大掛かりな展開もない。プレーヤーによっては、「えっこれだけ?」と感じてしまう方もいることだろう。だが、カフェを訪れる人々の悩みは彼らからすれば切実なものであり、現実を生きる私たちの悩みとも相通じる部分が多い。プレイを進めていくうちに、登場人物に深く感情移入してしまっている自分に気づかされるはずだ。
本作の物語は1日区切りで進み、日によって店を訪れる人々の組み合わせは異なる。メインヒロインのような存在となるのは、常連客である人間のフレイヤだ。彼女は大手新聞社のライターとしてコラムや短編小説を寄稿しつつ、カフェに通いつめて長編小説の執筆に挑んでいる真っ最中。ネタ探しも兼ねて、日々いろんな会話に首を突っ込んでいくため、フレイヤがある意味では媒介となって物語が進んでいく。そのため、フレイヤが中心となるのではなく、焦点が当たるのは、あくまで登場人物それぞれの人生。それでも筆者は何を隠そう、フレイヤ一筋!タロウと呼ばれるたびデレデレしてしまうので、ゲームが進まないったら進まない。もう永遠にフレイヤに尽くしたい気分である。
会話を楽しみながら、要望に合った飲み物を提供しよう
真夜中のカフェで流れる、ゆったりとしたローファイヒップホップ(チルホップ)のBGMと静かな雨音は何とも心地よいが、来店客の会話にはしっかりと耳を傾けよう。常連客などは飲みたいものが決まっているが、時々異なる注文を受けることもある。また、はじめてのお客様の中には注文自体が曖昧な者もいるので、油断はできない。ただ、NGな材料などを聞き漏らした場合も会話ログを読み返すことができるので、そこまで神経質になる必要はなく、基本的には会話を楽しめばOKだ。
飲み物は、「ベース」、「メイン材料」、そして「サブ材料」の3種類の組み合わせで決まる。材料によって、ほっこり感、甘みなどのパラメータが異なるので、注文内容に合う組み合わせを選ぶことが重要だ。マスターとしてやれることは飲み物の提供くらいだが、注文に応えることができたかどうかで、セリフだけでなく展開に多少の変化が生じる場面もある。本作で唯一の腕の見せ所と言ってもいい。作成したレシピは画面左下のスマホに保存されるので、次回も同じ注文を受けた場合はレシピを見返せばよいが、筆者は腐ってもダンディズム漂う大人のマスター!(妄想)「いつもの」と言われたら、レシピを見ることなくさっとお望みの1杯を提供する。それが、イケてるバリスタの証しなのだ……とかなんとか謎の縛りプレイをしていたら失敗しまくってお客様を軒並みガッカリさせてしまったので、読者の諸君は真似しないように。
飲み物が完成した時点で特定の名前が表示されていない場合は、基本的に失敗を意味する。とはいえ注文に応えられなくても物語は進むし、本作は 1周あたり4~5時間ほどでクリアできる。そのため、まずは試行錯誤しながら1周目を終え、2周目以降で他の展開がないか探っていくのもお勧めだ。このご時世、インターネットで検索すればレシピや正しい攻略ルートなどいくらでもヒットするが、敢えて己の観察力と勘だけを頼りに来店客の無茶ぶりに応えていくのも、本作ならではの醍醐味と言えるだろう。
多様性が香り立つ日常の物語を味わう
記事の冒頭でも触れたとおり、本作の根底にあるキーワードは“多様性”だ。本作をプレイしていると、かの詩人・金子みすゞ氏の「みんなちがって、みんないい」というフレーズがたびたび思い起こされる。多民族国家であるインドネシアでは様々な民族や宗教が入り交じっており、本作ではそんな多様性という言葉がファンタジー世界の住民にうまく置き換えられている。たとえばエルフとサキュバスのカップルでは種族の違いによる恋の障害が、吸血鬼と人狼のコンビの間では種族を超えた友情が、それぞれ描かれている。
愛し合うカップルが結婚を前に家族(種族)を取るか、恋人を取るかで悩むのは、現実においても普遍的な問題だ。違う民族、違う人種という現実が、本作ではエルフとサキュバスという種族の違いに置き換わったことで、問題の深刻さがビジュアル的にもわかりやすく伝えられている。一方で、同様に異種族の吸血鬼と人狼が固い友情を築いている光景を目の当たりにすると、月並みだが「種族(人種)の壁は乗り越えられる!」と強く感じたのも事実だ。
ファンタジー世界の住民たちの悩みは、どれも現実以上にリアルだ。他にもオークのメジャーゲーム開発者と人魚のインディーゲーム開発者のやり取りなどは、制作陣のリアルな心情の吐露かと思うほど、それぞれの立場で抱える難しさが丁寧に表現されていた。出会った頃は距離感のあった他人同士が日を追うごとに関係性を深めていく様は、見ているだけで微笑ましい。その一方で彼らの抱える問題は現実と同様、簡単に解決できることでもない。だからこそ、決して甘くはない現実と闘いながら、少しずつでも前進する登場人物たちの姿に、つい感情移入してしまう。そんな不思議な引力が本作にはあり、エンディングを迎えた頃には多様性のすばらしさ、他者を認め合うことのすばらしさを実感できることだろう。
ほろ苦い現実さえ愛おしく思える、心温まる一作
本作におけるプレーヤーの役割は、カフェのマスターの視点を通して彼らの悩みに触れることが大部分だ。提供する飲み物によって多少の展開の違いはあるものの、コーヒー1杯が人生に与える影響は決して大きくはない。物語の主役は、あくまでカフェに来店する人々なのだ。ゆえに、プレーヤーが見守る立場に徹するからこそ、ほろ苦い現実と闘う人々のことが愛おしく思え、彼らの注文に全力で応えたくなってしまうのかもしれない。
一方で、プレイ後の余韻が、まるで良質な映画や小説を味わったような心温まる一作だからこそ、ゲームの最中は無茶ぶりな注文にかなり悩まされた。クリア後にトゥルーエンディグへのヒントが示されるものの、どうしても適切な1杯を提供できないという場合もあるだろう。その場合は「エンドレス」というミニゲームを遊ぶことで、目ぼしいレシピを開放していくという方法もある。気晴らしだけでなく、困ったときの手段としても活用いただければ幸いだ。
最後に、本作では好きなタイミングで画面左下のスマホを操作して、フレイヤの書いた短編小説を読んだり、店内に流れるBGMを変更したりと、自分のペースで物語を楽しむことができる点も申し添えておきたい。あっと驚く展開やド派手な演出がない分、落ち着いた空間で美しいドットグラフィックスやキャラクター同士の交流を楽しみたい方には、きっと心に刺さる一作になるだろう。かく言う筆者も、フレイヤの可愛さにハートを盗まれ、その表情のひとつひとつにドキドキしてしまう体たらく……様々な種族が登場するからこそ、多様性の本質に触れつつも、お気に入りのキャラクターと出会えるはずだ。なお、本作は体験版も絶賛配信中。気になった方は、ぜひコーヒーを片手に、異種族間の交流を覗いてみてほしい。
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