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「舐めると味がするテレビ」で味覚ゲーム開発中。食べ物を別の味に変える新技術など“味”の最前線【CEDEC2022】
明治大学・宮下芳明教授が解説
2022年8月25日 15:09
- 【CEDEC2022】
- 開催期間:8月23日~25日
8月23日からオンライン開催中の開発者向けカンファレンス「CEDEC2022」。本稿では、セッション「『味覚ディスプレイ』が切り拓くコンテンツ・エンタテインメントの未来」について聴講レポートをお届けする。
スピーカーは明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 教授・学科長の宮下芳明氏。宮下教授が研究しているのは、視聴覚メディアと同じように味を記録し、再現する「味覚メディア」の実現だ。発表済みの研究成果として、画面を舐めると味がする「味わうテレビ TTTV」などがある。
今回のセッションでは、基本五味(甘味・旨味・苦味・塩味・酸味)からなる味覚の基本的な説明から、その再現について発表済みの研究成果を解説し、ゲームへの応用も含めた「味覚メディア」の最前線を紹介した。
2023年には商品化予定。減塩が捗る箸型デバイス
宮下教授が約10年間研究に取り組んできたのが「電気味覚」と呼ばれるもの。味覚とは、舌の「味蕾」にある受容体の反応で、電気的な刺激によっても味を感じることができるという。「電気味覚」は1960年代から研究が進められている分野で、医療機関で味覚検査に使用されている「電気味覚計」などの形で実用化されている。
宮下教授が「電気味覚」の研究成果の1つとして、2022年4月に発表したのが「塩味を約1.5倍に増強する箸型デバイス」だ。箸の先端に備えた電極をコンピュータ制御することで、味噌汁などを食べる際に感じる塩味を強めることができる。減塩食の味を濃くするなどに役立つ。今後さらに実証を進める予定で、2023年にはキリンから商品化を予定している。
舐めると味がする「味わうテレビ TTTV」、飲食物の味と見た目を変える装置「TTTV2」
宮下教授の研究成果としてもう1つ有名なものに、舐めると味がする「味わうテレビ TTTV」がある。「TTTV」本体は食べ物の映像を表示するディスプレイと、その表面に巻き取り式の使い捨て透明シートを備えた機器。シート上に味覚五味と辛味を再現した液体を混合してスプレーすることで、画面を舐めると表示した食べ物の味がするという仕組みになっている。
味の再現には、「味覚センサー」という機器を使用して味の成分を分析、分析結果に応じて液体の混合比率を調整し再現を行なっている。
「TTTV」から進化し、飲食物の味と見た目を変える装置が「TTTV2」だ。シートの液体を舐めとる方式から、飲食物へ直接液体を噴霧することで食べ物の味を変化させる。
7月に明治大学のWebページで研究成果が公表されており、“牛乳をカニクリームコロッケの味と見た目に変える”、“ちらし寿司の見た目と味に変えた白米”、“ベニテングダケの見た目と味に変えたエリンギ”といった事例を確認できる。
協力して味を当てる「味わうテレビ」用ゲームを開発中
宮下教授は「味わうテレビ TTTV」の新たなコンテンツとして、味覚を活用したゲームを開発中だという。9月の学会発表に先駆けて、その一端を公開した。
1本目は「五味霧中」というゲーム。霧の中にいる敵を倒すというゲームで、敵の攻撃属性を「TTTV」が出力する味から判断して防御し戦うというコンセプトだという。
2本目は「味加減」という推理ゲーム。「TTTV」が出力する味をもとに、複数人で協力して、基本五味の値を当てるというものだ。
このほか、味覚と嗅覚を用いたシステムも開発中だという。「口臭を気にせずニンニク料理を食べる」システムとして、同じく9月に学会発表を予定している。
宮下教授は講演を通して味覚とVRの親和性の高さもなどもコメントしていた。今回紹介したような「味覚メディア」最前線の技術を活用することで、本当にRPGの世界に入り込むような没入体験ができる日も近そうだ。講演の最後には梅干しの味を再現するレシピをお土産として公開していた。不思議な味覚の体験に活用いただきたい。
記事初出時、電気味覚について「1980年頃から研究が進められている分野」としておりましたが正しくは「1960年代から研究が進められている分野」となります。お詫びして訂正いたします。