【特別企画】
「ELDEN RING」開発初期の無個性な景色を絵画的に進化させた2つのコンセプト【CEDEC2022】
「ファルム・アズラ」の竜巻は動物の毛並みを応用。個性的な風景の誕生秘話
2022年8月24日 18:59
- 【CEDEC2022】
- 開催期間:8月23日~25日
8月23日からオンライン開催中の開発者向けカンファレンス「CEDEC2022」。本稿ではセッション「ELDEN RINGの大気表現 -スカイボックス、およびボリューメトリックフォグを活用したアートの作り方-」について聴講レポートをお届けする。
講演タイトルのとおり、題材はフロム・ソフトウェアから2022年2月25日発売のアクションRPG「ELDEN RING」。スピーカーは同社3Dグラフィックセクション チーフの佐藤秀憲氏と、グラフィックシステムセクション シニアの二ノ宮絵理華氏が務めた。
講演の流れは、前半で佐藤氏が同作のビジュアルコンセプトについて説明。その後、同作で活用した大気表現のツール「スカイボックス」と「ボリューメトリックフォグ」の調整について佐藤氏と二ノ宮氏がそれぞれ解説した。最後に各ツールの適用事例を紹介するという流れだ。
本稿では、「ELDEN RING」ファンが気になる同作の絵画的なビジュアルの作り方について、コンセプトや景観の成り立ちを中心に紹介する。
「ELDEN RING」のビジュアルコンセプト
佐藤氏が講演の冒頭で取り出したのが「ELDEN RING」開発初期のビジュアルだ。「ELDEN RING」といえば、金色の黄金樹が遠くの空にドンと浮かんだ幻想的なイメージが思い浮かぶ。しかし、開発当初のビジュアルは“よくあるファンタジー”のような個性に欠けるものだった。
開発初期のビジュアルは、現実の風景を参考に絵作りをしていた。彩度が低く落ち着いた雰囲気となっているが、開発チーム内での評判はよくなかったという。問題点は、「印象に残らないこと」と、「変化が少ないこと」だ。
これらの問題点を克服するために、佐藤氏は「絵画的なビジュアル」と「多彩な見た目」という2つのコンセプトを決定した。地球の風景ではあり得ない色を使うこと、強い印象の絵作りを心がけることで、「ELDEN RING」独自のビジュアルを生み出す。また、ゲーム内の地域ごとに異なるビジュアル、天候による変化を加えることでプレーヤーを飽きにくくさせる狙いがある。
こうしたコンセプトを実現するために活用したツールが「スカイボックス」と「ボリューメトリックフォグ」となる。
簡単に役割を説明すると、「スカイボックス」は大気の色や太陽や月、雲といった空の様子や空気の感じを表現するツールだ。パラメータの設定で時刻に合わせた変化を行なうなど、3D空間の演出に役立つ。一方「ボリューメトリックフォグ」は、その名の通り霧を描画するためのツール。レイトレーシングの一種である「レイマーチング」を用いて光が大気中で散乱する様子をシミュレーションしている。そうして生み出された霧をマップに配置していくことで空間を立体的に表現している。
これらのツールをアーティストが活用し、「ELDEN RING」の絵画的な世界が生み出された。
ゲーム内の各地域から見る活用事例
上述のコンセプト「絵画的なビジュアル」と「多彩な見た目」にしたがって、「ELDEN RING」でプレーヤーが冒険する各地の風景ができあがった。幻想的な空気感がどのようにして生み出されたのか、「スカイボックス」と「ボリューメトリックフォグ」のグラフィックアーティストによる活用事例を見ていこう。
絵作りの基準となった「リムグレイブ」
「ELDEN RING」における絵作りの基準となったのが、最初の冒険舞台となるフィールド「リムグレイブ」だ。どのような工程でそのビジュアルが完成したのか、工程の1つ1つを佐藤氏が解説した。
各地の雲や霧の基礎となった「湖のリエーニエ」
「湖のリエーニエ」は広大な湖に霧が深く立ちこめたフィールド。プレーヤーがはじめて訪れた際には高台から見下ろす深い霧が印象的だ。
同マップでは、「ボリューメトリックフォグ」の機能の1つ「ハイトマップ」を用いて霧が描かれた。ハイトマップは本来地形の高さに応じてフォグを発生させるものだが、ここでは地形に応じて雲や霧の見た目を変化させるために活用したという。使い勝手がよかったため、ほかの場所でも同様に雲や霧を描くこととなった。
「ストームヴィル城」の嵐
多くのプレーヤーが序盤に訪れるであろう「リムグレイブ」のレガシーダンジョン「ストームヴィル城」では、嵐の演出に工夫がある。同地域で常に吹いている嵐は、配置式フォグボリュームの3Dテクスチャをスクロールすることで実現しているという。ほかの地域の吹雪なども同様に表現している。
はじめは狭間の地の地底に宇宙はなかった。「シーフラ河」
「ELDEN RING」の冒険の舞台である「狭間の地」の地下には広大な空間が広がっている。地下空間の1つ「シーフラ河」では、地底であるにも関わらず天井の部分には星空が広がっているのだ。開発当初「地底の星空」という要素はなく、あとから開発されたもの。その特異な星空の描き方が紹介された。
タイトルの方針に合わせたさらなる大気表現を
佐藤氏は講演の締めくくりに、今後の目標として「ELDEN RING」だけでなく、“タイトルの方針に合わせた絵作り”を掲げた。また、同作の開発ではアーティストが手動で調整した部分が非常に多かったという。可能な部分は自動化を進め、フォグのカスタマイズ性の向上なども目指すとした。次回作でのさらに進化した大気表現に期待したい。
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