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鎧に蟻に「エルデの獣」。「ELDEN RING」モデル班が時間をかけた“こだわり”とは?【CEDEC2022】

それでも深夜残業ゼロ! “こだわり”への“こだわり”も徹底解説

【CEDEC2022】

開催期間:8月23日~25日

 8月23日より開発者向けカンファレンス「CEDEC2022」がオンラインにて開幕となった。本稿では、「ELDEN RINGの大量のキャラクターモデルを制作したチームの『こだわり』自己分析」について紹介する。

 「ELDEN RING」は、プレイステーション 5/プレイステーション 4/Xbox Series X|S/Xbox One/PC(Steam)用アクションRPG。本セッションでは、「ELDEN RING」のキャラクターモデル製作について、「こだわりとは一体何なのか?」、「何を考えて作っているのか?」など、モデラ―がどういった思考でどういった取り組みを行なったのかについて、フロム・ソフトウェアの3Dグラフィックセクションサブリーダー・藤巻亮氏が語った。

 なお、前置きとして藤巻氏は、本セッションにはタイトルの性質上「主にアリ、ザリガニ、蛇、ぐちゃぐちゃのなにか」が登場するため、苦手な人は注意してほしいと注意喚起を行なった。

コンセプトアートからモデリングへ

 藤巻氏は、始めにコンセプトアートからモデリングする際に気を付けたことについて紹介した。中でも特に、コンセプトアートにおけるキャラクターの魅力や特徴をモデラ―の間違った解釈やエゴによってエ次曲げてはいけないことや、コンセプトアートは正確な設計図ではなく自分達で情報を補ってモデルを作る必要があることを強調。「当たり前のようでいて当たり前にこなすのは難しい」としたうえで、「だからこそこだわりたい」要素として紹介した。

 ここで出た「こだわり」について藤巻氏は「モデリングの取り組みと、コンセプトアートの向き合い方」、「シェーダーによる表現の仕組み」、「こだわりを発揮できるチームであるために」の3つに分けて語った。

キャラクター理解には実際に飼育するのもアリ?

 藤巻氏によれば同開発スタッフは主に、「立体として対象を観察する人」と「境界線や空間で観察する人」の2通りに分けられたという。どちらにも一長一短あり、2つどちらもできるように様々な工夫をしたと語った。

 取り組みの一例として、生物の場合には「飼育方法」を考えることで、愛着を持つことでリアルに想像できる傾向が確認できたという。特に同開発スタッフには生物好きなスタッフが多かったのも要因となったようだ。というのも、生物の特徴は食生活や狩の仕方などが最大の特徴であることが多く、それらに併せて生息環境や性格、苦手なものや天敵など様々な考えることにつながるからだという。

実際の鍛冶職人ならどのように作るのか?

 キャラクターの次には鎧のモデリングをする際に気を付けたことについて紹介された。藤巻氏によれば、資料の確認は当然のことながら、「実際の鍛冶職人ならどのように作るのか」について考えてモデリングしたという。史実に完璧に基づいて製作したわけではなく、あくまでもファンタジー世界に似合うモデルとするために、鎧の裏側や頭部バイザーの突起などは一部オミットし、世界観に似合うよう意識したと語った。

 また、「鎧の状態」にもこだわったと紹介。素材への理解からどのように劣化するのかを再現したり、汚れ具合や損傷具合を表現することで、着用している人物の財力や性格、何と戦って損傷したのかなどを表す指標にしたという。

 こういった実際の製造方法を調べ、印象深い箇所に取り入れることである種の「説得力」が生まれると語った。

シェーダーは理屈的に作れる他、「エルデの獣」など特殊なイメージにも使える

 藤巻氏によれば、シェーダーの実装方法によってはゲーム自体の処理を軽減できるという。さらに、UVのプリセットをいくつか作ることで作業の効率化を図ったなど業務効率化のアイデアも紹介した。

 また、素材の汚れをブレンドする「基本のシェーダー」として鎧に施した処理も紹介。マスクを2つ作り、そこに汎用テクスチャを貼り付けることで、金属部分の劣化を表現したという。また、これによってモデラ―は素材に応じたマスクを書き込むだけでよく、素材がどのような素材であるかに集中できるため、作業効率と品質の底上げ両方に貢献していたと語った。他にも、メモリの節約に貢献しているという。また霊馬「トレント」や狼の毛並み、クラゲの透明感と屈折表現なども紹介された。

 さらに、「特殊なシェーダー」の例として、同作ラスボスでもある「エルデの獣」の構成についても言及。「宇宙の様な闇の様な体」を作る際にはシェーダーを前提としたモデリングを行ない、モデリングを前提としたシェーダーの作成を行なう必要がったという。

 これは最初に下地を作り、その後に体を覆う“闇”のような輪郭のぼけを作成、さらに、内側のガスの様なものを表現、そこに光る骨の様なものを入れ、星の様なものを入れ、目玉を入れて製作したという。他の素体がある場合と異なり、その中にシェーダーが描かれている模様だ。他にも、ポリゴンについても紹介されており、モデリングに興味のある「ELDEN RING」ファンには垂涎ものの情報も明かされた。

「こだわり」には時間と心の余裕が必要!

 最後に藤巻氏は「これまで紹介した『こだわり』には時間と心の余裕が必要」とした。特に「ELDEN RING」ではチーム規模が十数名をアウトソーシングのみであり、同チームでプレーヤーもエネミーもNPCも製作しており「どう考えても気合でどうにかなる物量ではない」とのこと。そこで藤巻氏は、「休日出社」も「深夜残業」もゼロを徹底したという。これは熟練スタッフだけではないチームの中で、スタッフの成長を促すため激務に追われず、安心してこだわれる状況を提供したかったからだという。

 当然そのためには作業の効率化を図る必要があり、こだわる箇所についても取捨選択したという。その際の考え方の例として、作っているものの存在意義として「ゾンビの恐ろしさ」にはこだわり、「ゾンビの靴の品質」は相応のこだわりに抑えるといったものが挙げられた。

 そのかいあってか、スタッフも成長したようで、藤巻氏はそのことを嬉しそうに語っていた。「どこか一部だけでも共感いただき、皆様のお役に立つ部分がありましたら幸いです」として本セッションは終了した。