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“ほおばりヘンケイ”誕生の経緯が公開! 「星のカービィ ディスカバリー」制作のアートディレクション手法【CEDEC2022】
プレーヤーへ“最高のカービィ体験”を届けるには
2022年8月24日 17:19
- 【CEDEC2022】
- 開催期間:8月23日~25日
2日目を迎えている開発者向けカンファレンス「CEDEC2022」。本稿では、ハル研究所のアーティスト・ファーマン 力氏らによるセッション「『星のカービィ ディスカバリー』シリーズ初の挑戦 3Dアクションと現実世界との融合を実現したアートディレクション」について紹介する。
30周年を迎えた「星のカービィ」シリーズ。3月にリリースされた最新作「星のカービィ ディスカバリー」は、本編シリーズ初となる3Dアクションとなり、これまでにない「カービィ」の世界を作り出した作品となった。本セッションでは、3Dアクションの「カービィ」を制作する上で、「ほおばりヘンケイ」へのアプローチや、プレーヤーへの配慮、立ちはだかった壁への工夫が語られた。
制作陣の“カービィ愛”によって生まれた「ほおばりヘンケイ」。カービィの魅力を引き出すためのデザインとは?
最初に、「星のカービィ」シリーズの3Dへの挑戦が語られた。2003年に発売された「カービィのエアライド」内の「シティトライアル」にて、初めてカービィが3D空間を歩き、2018年リリースの「星のカービィ スターアライズ」では、ボスに注目したカメラによる3Dアクション戦闘を実装。着実にノウハウを蓄積した結果、「ディスカバリー」での完全3Dアクションが生み出された。
制作過程では、舞台を先に決めたのではなく、“遊びの観点”から「カービィ」を改めて見直すところから入ったという。カービィにしかできないこと「すいこみ」に着目し、“ゴムマリ”のような生き物であるカービィを、変形させたら楽しいのではないかと生まれたアクションが、物を吸い込んで変形する「ほおばりヘンケイ」だ。
「ほおばりヘンケイ」というアイデアが生まれると、何をほおばったら面白いかを考えた制作陣。そこで、現実世界の身近なモノをほおばったら、最大限に魅力を引き出せるのではと考案し、カービィの世界と現実世界を組み合わせ「文明を自然が融合した世界」が冒険の舞台に決まった。
初期段階の「ほおばりヘンケイ」のデザインを見せながら、初期デザインはどちらかというと「ヘンシン」に近かったことを明かした。どうすれば「ほおばってる感」を出せるのか、制作陣が苦悩しながらデザインしていったという。
何度もデザインを考案していくうちに、完全にほおばりきるのではなく、少し“はみ出る”ことが大事ということに気づくと、デザインしやすくなったという。ここでファーマン氏が「ほおばりきれてないヘンケイ」という言葉を使ったのが印象的だった。
また、「飛行機をほおばるとカービィが飛ぶ」という直接的な考え方ではなく、アーチをほおばることで“グライダー”的に飛ぶことなど、ほおばるオブジェクトとアクションの結びつきは薄くする方針になっていることを明かした。
そして、どうやって“ほおばる”かに着目する段階に。カービィが大きく吸い込むことで、飛行機が吸い込まれ、カービィが“びよ~ん”となりながら変形するコンセプトアートを公開した。
また、ほおばるオブジェクトによって、カービィがどのようにヘンケイするかをデザイン。階段を吸い込んだ状態では、「敵に倒れこむときに顔が正面にあると、カービィが痛そう」や「カービィの口の中から、階段の構造が見えるのは痛々しい」など、制作陣のカービィ愛によって、少し違うデザインになっていることを明かした。
こうして「ほおばりヘンケイ」が完成。いよいよ舞台の制作に移っていく。
カービィが“現実世界”にやってくる。基準を模索するところから始まる「星のカービィ」でのワールドとは?
「ディスカバリー」では、シリーズで初めて現実世界が舞台となることもあり、どこまで“ファンタジー要素”を持ち込むか基準を模索するところから始まったという。初期段階ではヨーロッパや中国など、特定の国や地域を押し出していたが、最終的には特定の地域を押し出さず、「ニュートラルなそこそこの都市部」に設定し、親近感を狙っていることを明かした。
また、楽し気なビジュアルにしたいが、舞台が現実世界のため「うずまきの雲」などシリーズならではのフシギなモノは封印。だからといって、現実世界にカービィが“ポン”とおかれた世界では浮いてしまうため、あくまで「星のカービィ」ということを忘れずにデザインするという、葛藤があったことを明かした。
全く新しい「星のカービィ」シリーズのゲームということもあり、何をもって“カービィらしさ”とするのかが課題となった。そこで、ただ単に都市を荒廃させるのではなく、草などの自然物で覆ったり、鮮やかな配色にすることで、これまでの“カービィらしさ”を損なわずに、現実世界が舞台のカービィを構築した。
また、被写界深度を強めにすることで、ミニチュア感を演出。また、「当時の住人はこう暮らしていたんじゃないか」など、人が住んでいた現実感を残すことで、親近感がわき、プレーヤーのワクワクを演出することに成功していることを明かした。
カービィがどこを向いているのかわからない! プレーヤーに対するわかりやすさの工夫
シリーズ初の3D作品となった「ディスカバリー」では、これまでになかった壁が立ちはだかった。カービィは、まんまるとした体なので、進行方向を少しでもわかりやすくするために、カービィの3Dモデルや影に工夫が取り入れられている。
どの角度に向いているかわかりやすいよう、手・足の位置を調整。また、太陽が同じ方向でも、影の方向は変わるようになっている。また、3D空間において目・体でカービィを追っていることをわかりやすくするため、敵のデザインも変更していることを明かした。
また、まんまるとしたカービィの体によって、“飛んだ時の立体感がわかりにくい問題”が発生。こちらは太陽の方向に関係なく、カービィの影を常に真下に描画することで、解決された。
このほかにも、暗闇の中でキャラクターとアイテムの位置をわかりやすくする「キャラクターライト補正」や、影の中で画が“のっぺり”しないよう影の中でも立体感を生み出すなど、プレーヤーの遊びやすさのため、様々な補正は加えられている。
3Dアクション化によって増えた作業により、関わったスタッフは前作比で2倍以上となったことを明かした。これによりコストが増大が発生したが、適正なルールを設け、各スタッフが最高峰を目指さず、チームで最高のスペックを出せるよう、調整されたという。
ビジュアル重視の“魅せマップ”が登場! プレーヤーにとって楽しく・わかりやすいマップとは?
「ディスカバリー」では、企画実験と並行してビジュアルの検証が行なわれたため、コンセプトアートが豊富だったことを明かした。これにより、コンセプトアートから得られる“遊びの要素”が、レベルデザインに取り入れられ、より楽し気で濃密なマップが登場している。
また、ゲームを魅力的に思ってもらえるよう、スクショ映えするエモーション重視の「魅せマップ」があると明かした。魅せマップでは、固定カメラとなっていて、1枚絵になるよう仕掛けられている。なお、魅せマップでは、敵やギミックをあまり入れないようにしているが、“ただ歩かされているマップ”にもしたくないため、塩梅が重要だとしている。
マップには「遊びを立たせて飾るマップ」と「シチュエーションをつくるマップ」の2種類が登場。基本的には、前者のマップが多いとしつつ、ゲームへの没入感を増すため、適宜後者のマップを使用しているという。
また背景を装飾していくと、カービィの進むルートがわからなくなってしまう。そこで、ルート上には遮るものを配置しない、わかりやすいよう道を描くなど、プレーヤーに対し、さりげなくわかりやすくなるよう工夫がされている。
カービィのビジュアルは進化させにくい!? 「ディスカバリー」ビジュアル向上への技術とは
カービィといえば、やはりピンク色のまんまるとしたシンプルなキャラクター。だが、シンプルな見た目ゆえに、ビジュアル的に進化させることが難しいという。そこで「ディスカバリー」では、目の虹彩の色が角度によって変わったり、実は本当に口がへこんでいたりと、細かなビジュアル向上が果たされていることを明かした。
さらに、画像編集ソフトなどで使われている「カラーグレーディング」を応用し、ワールドをより印象付けるカラーにしていたり、霧のような効果を見せる「フォグ」に濃淡をつけ、リアル感を増しているという。
また、リアリティのあるワールドを作り出すとなると、大量のアセットが必要になる。そこで「ディスカバリー」では、すでにある装飾パーツを組み合わせることで、新たなパーツを生み出しているとのこと。時に大胆な手法を取り入れることで、リソースを大幅に削減しながら、高いクオリティのパーツを生み出している。