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サンリオがVRChatでフェスを敢行! バーチャルとリアルを融合した新しいエンタメ体験【CEDEC2022】
大好評を博したVRChat内の音楽フェスはどのように実現されたのか
2022年8月25日 10:12
- 【CEDEC2022】
- 開催期間:8月23日~25日
メタバースという言葉が流行語として踊っている。そのサイバー感あふれる響きは、SF的未来感への期待を膨らませてくれるが、一方ではその単語が含有する概念の大きさゆえに、ふわっとした掴みどころのなさも感じる。だが、メタバースの存在を現実のものとして味わえる空間に身を置くと、その新しさ、可能性に震えざるを得ない。
2021年12月11日と12日にVR内で開催された「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland(サンリオ バーチャルフェス イン サンリオピューロランド)」は、まさにそんな空間だった。サンリオといえば、ハローキティやマイメロなど可愛いキャラクターを使ったグッズメーカーというイメージが強いが、テーマパーク「サンリオピューロランド」の運営や、ゲーム、アニメと幅広いジャンルに展開しているエンターテイメント企業でもある。
CEDECのセッション「『サンリオ バーチャルフェス イン サンリオピューロランド』のメタバース音楽フェ スが絶賛された秘密」では、プロデューサーを務めたサンリオの町田雄史氏、総合演出を手掛けた異次元TOKYOの篠田利隆氏、メタバースイベントを制作したGugenkaの三上昌史氏による講演が行なわれた。篠田氏は音楽フェスの老舗ファンでありVRChatのヘビーユーザーでもある。両方の世界をよく知っている人物がいたからこそ、アーティスト、Vチューバ―、VRChaterという3つの異なる世界を融合したイベントを生み出すことができた。
「サンリオ バーチャルフェス イン サンリオピューロランド」は、リアルアーティストとVチューバ―、VRChatを表現の場にしているアーティストなどを集めた日本で初めての本格的な音楽フェスティバル。会場はVRChatに、地上1階、地下5階の専用会場を持つワールドが作られた。
「なぜサンリオが?」という誰もが持つ疑問は、インタビューなどでもっとも聞かれる質問なのだそうだ。町田氏はその理由を「新しいエンターテイメント体験への挑戦」だという。サンリオはピューロランドにおいてショーや体験型のコンテンツを発信しており、世界中の人がどんな場所からでも共通の目的をもって集まることができるコンテンツとして音楽フェスを選択した。
バーチャルでの開催というと、現実には不可能なことができる魔法のような空間を想像しがちだが、実際には参加する人の機材やスペック的など様々な制約がある。特に現状のVRChatでは1つのワールドに入れる人数に制限があるため、周りに人がいるという状況を作り出すための工夫が必要だった。
このイベントまでVRChat内では有料イベントが開催されたことがなく、その仕組みもなかった。そこでVRChatの公式パートナーでもあるGugenkaが運営しているデジタルコンテンツ専用ストア「XMarket」でチケットを販売し、購入者の情報とVRワールドへの入室権限を紐づけるという形で有料化を実現した。VRChat公式もツイートでイベント告知に協力した。プラットフォーマーの密な協力も、このイベントを成功に導いた要因だ。
1階部分には、実際のサンリオピューロランドをフォトグラメトリでキャプチャーしたデータをもとにした、リアルなバーチャルピューロランドが再現された。実際にあるエレベーターも再現され、そこをエントランスにバーチャル空間にしかない地下会場へと入っていくのは、シームレスにリアルからバーチャルに移行していくという演出だ。リアルな場所を使った相乗効果は大きく、バーチャルを体験した後実際の場所に行ってSNSに写真を投稿する人もいたそうだ。
地下は1階がチュートリアルスペース、地下2階はリアルアーティストのステージ「LUNA STAGE」、地下3階はVチューバ―のステージ「FUTURE STAGE」、地下4階は物販やキャラクターミニライブなどが開催されたカフェスペース「CHILL PARK」、地下5階はVRのディープな世界を体験できる「ALT3」というクラブフロアになっている。
参加者はフォトグラメトリで作ったリアルなスペースから始まり、リアルなアーティストのステージ、Vチューバ―のステージとだんだんとディープな世界に入っていき、地下5階でディープなVRの本質と出会うことができるという仕掛けだ。
VRChatでは通常、自分で作ったり購入した豪華なアバターを身にまとうが、メモリを食うために遅延の原因になってしまう。そのためイベントの参加者は地下1階のチュートリアルエリアで、単純なポリゴンで構成された専用アバター「モチポリ」に着替える。
モチポリはゆきだるまのような形に顔がついただけのシンプルなキャラクターだが、カワイイキャラクターのプロであるサンリオのデザイナーが作っているだけあり、とてもカワイイ。さらに専用アプリで色を変えたり、表情を変えたりといったカスタマイズ要素もあり、個性を出すことができる。ライブ中にはペンライトを降る機能も搭載されている。このモチポリによって、通常よりも多くのキャラクターを1つのインスタンスに収容することができる。
地下2階「LUNA STAGE」は、様々なジャンルのリアルアーティストが出演する夜のロックフェスというイメージで、月明りやキノコの明かりなど光の演出にこだわった作りになっている。VR空間の中で実在のアーティストのライブを開催するためには、クロマキー撮影した映像に影を重ね、角度によって歪んで見えないよう技術的な試行が繰り返された。
地下3階では逆に、Vチューバ―やVRChatでライブ活動を行っているアーティストと同じ空間に存在できるという特徴を生かして、360度どこからでも見られる円形ステージや、いくつかのエリアを移動しながらのライブでバーチャル空間でのライブをいかに面白く見せるかという演出に力を入れた。ライティングではあらかじめ空間内にたくさんのエフェクトを仕込んでおき、それを組み合わせて使用することで、様々な楽曲に対応した。参加者が同じ時間を過ごしているライブ感を演出するため、参加者全員の時間が同期されるような技術も使われている。
地下4階の「CHILL PARK」は、必要なものだけあるのでは面白くないという遊び心から、サウナまで作られた休憩エリア。このエリアと1階部分は無料で参加することができたため、海外のVRCHaterも含めた多くの人でにぎわった。
物販コーナーではデジタルとリアルのイベントグッズや、参加アーティストのグッズなどが販売された。また、ここではポエトリーリーディングというVR空間ならではの空間表現をしているアーティスト、キヌさんのライブも行なわれた。
サンリオキャラクターのグリーティングでは、キャラクターが現れると、現実の世界でそうなるように参加者が一列に並び、スタッフに促されて少しずつ進みながら順番を待つという光景が出現した。
最後にたどり着く地下5階「ALT3」は、VRChat内でバーチャルクラブの先駆けである「GHOSTCLUB」を運営している0b4k3氏にステージの構築から運営まですべてを委託している。この階だけは、サンリオキャラがちりばめられた可愛い世界観で充満している他のフロアとはまったく異質の空気が漂う。フォトリアルな質感で作られた工事中のステージには、サンリオキャラを使ったサイバー感を感じさせる看板が並ぶ。中は、鉄骨と網の狭小で濃密なクラブ空間となっている。まさに、異文化が1つの空間内に共存するカオスなVRChatの世界観を体現しているような場所だ。このフロアだけは、よりネイティブなVRChatの雰囲気を味わえるよう、本来のアバターで参加することができた。
このライブは、VRヘッドセットを持たない人がスマートフォンやPCからも視聴できるよう2Dの映像としても配信された。この映像は、VR空間内に設置された複数のカメラをプロのスイッチャーがリアルタイムに切り替えるという手法で、通常のVR映像では映さない参加者の後ろ頭も映っている。
当初は、VRChatが落ちた場合の避難的な意味合いで用意されていたそうだが、あまりにもクオリティが高い映像だったために、もっと広報の仕方を考えるべきだったと後悔したほどだったそうだ。
現在、サンリオピューロランドでは、VR空間と同時に開催する新しいショー「Nakayoku Connect」が開催されている。このショーは1日に3回、リアル会場とVR空間の両方で開催されている。ショーの監督は、ポエトリーリーディングのキヌさんが努めており、音楽フェスによってできたVRChat内のネットワークから生まれた新たな発展形と言える。興味があればぜひ、できることならVRヘッドセットで参加してみてほしい。
また、次回のフェスイベント企画もすでに動いているようで、前回参加できなかった人も、次回はぜひVR空間内でしか味わえない不思議な連帯感を体験してみてはどうだろうか。