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コロプラ、「最果てのバベル」のセルラン操作に関する報告書を公開

なにがきっかけとなり、どういう手法で操作が行なわれたのか

8月13日 発表

 コロプラは、自社の従業員による不適切な取引に関して、特別委員会による調査報告書を8月13日に発表した。

 この報告書によると、6月12日にローンチした同社のAndroid/iOS用ゲーム「最果てのバベル」において、本作のプロデューサーで取締役の森先一哲氏を含む従業員2名が、セールスランキングの操作を目的として、同社の費用800万円を使って取引先に依頼、課金を実施させたという。

匿名の情報提供によって課金ブーストが判明

 匿名の情報提供によってこの事実を把握した会社は特別調査委員会を設置し、6月18日から8月12日まで、課金データを含む取引データや、メールやテキストチャットの調査、関係している疑いのある従業員からの聞き取りや、情報提供ホットラインの開設などを行なった。

 同社では「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ」や、「白猫プロジェクト」に続く、強力なタイトルを打ち出せず、売上高は2016年9月期をピークに徐々に下降を続けており、特に2018年9月期の決算では経常利益、純利益ともに大きく下落していた。そんな中で開発されていた「最果てのバベル」には、新たな主軸タイトルとして大きな期待がかかっていた。

 だが、事前の登録者数は期待していた数には届かず、この時点でマーケティング本部長だったA氏は、自社の資金で課金を行ない、セールスランキングの上昇を測るという、いわゆる課金ブーストを思いつく。A氏は海外では恒常的に行なわれているという話を耳にしており、機会があれば試してみたいと考えていた。そこでA氏はプロモーションで取引のあったD社に依頼して、D社が運営しているゲーム攻略サイトの攻略の一環として課金アイテム「精霊石」を購入してもらえるよう依頼した。

 D社はローンチ当日に870万円分の「精霊石」を購入。その際、不自然さがないよう、レンタルや私有のスマートフォンで分散して購入し、一部はゲームプレイの中で使用した。調査報告では、この行為によってセールスランキングが一定程度押し上げられたと推察している。

 プロデューサーの森先氏は、委員会の聞き取りに対してこれらの事実を認識していなかったと説明したが、A氏とB氏は共に森先氏の了承も得ていると証言している。森先氏は企画・開発・リソースのすべてを統括する立場にあり、プロモーション施策についても承認する立場にある。そのため、今回の件についても事実を認識していた可能性が高いとしている。

【アプリ課金から売上計上までの流れ】

景品表示法やプラットフォーマーのガイドラインに抵触する可能性

 では一連の流れのどこに問題があるのか。1つは景品表示法へ抵触する可能性があることだ。「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」には、「事業者が、自己の供給する商品・サービスの取引において(中略)実際のものよりも著しく優良である」と示すことを禁止している。セールスランキングを自社費用で底上げするという行為は、消費者の正しい判断を阻害するとして、この法律に抵触する恐れがある。ただし、今回の課金ブーストによる影響は限定的であり、委員会の報告書では「著しく優良」といえるほどの誤認表示をしたと評価するのは難しいのではないかとの認識を示している。

 もう1つは、Appleガイドラインへの抵触だ。また、Appleはガイドラインで、デベロッパがカスタマーレビューの内容を改ざんしたり、金銭や報酬を与えてフィードバックを得たり、偽のフィードバックを書くなどでそのサービスのチャートランキングの上昇を図るような行為を禁止している。今回の行為は、レビューの改ざんなどではないためガイドラインには抵触しないものの、「不適切な行為と評価すべきものである」としている。

 調査の結果、「最果てのバベル」のプロデューサーで取締役の森先一哲氏が取締役を辞任、この件に関与したマーケティング本部長のA氏と、プロモーショングループマネージャーのB氏には懲戒処分が決定した。さらに代表取締役兼CEO兼COOの馬場功淳氏と、取締役でCSO、マーケティング本部管掌の長谷部潤氏がそれぞれ月額報酬を3カ月間10%減額する。

 あわせて2019年9月期第3四半期の決算において、この取引に使われた800万円と広告宣伝費800万円を相殺するとともに、関連して発生したプラットフォーム使用料約200万円を連結損益計算書に計上する処理を行なう。

【実効に係る一連の経過】

今後は、コンプライアンスと業務モニタリングの強化で再発を防止

 今回のような取引が会社に知られることなく行なわれた理由については、A氏がかねてより課金ブーストに興味を持っており、機会があれば試したいと思っていたことがきっかけの1つにある。また、コンプライアンス意識の不十分さと共に、社内手続きの不備が指摘されている。

 通常の社外業務を発注する場合には稟議手続きが必要だが、広告宣伝費ついては多量の発注を効率的に行なうことを可能にするため、広告宣伝費の予算内であれば発注金額の大小にかかわらず、上長1名の承認によって発注することができるという運営がなされていた。今回の場合で言うと、A氏の証人によってB氏が発注している。

 また、広告宣伝費の予算項目が「Web運用」、「TV枠」、「その他」といった大まかな単位で割り振られており、どの会社にいくらで発注するかといった詳細な情報を共有するしくみが存在しなかったため、今回のような不適切な発注にたいする牽制が効きにくい状態だったと論じている。またB氏がD社に発注したメールには、関係者へのCCが入っておらず、他のメンバーが気付くことができなかったという点も指摘している。

 報告書は、再発対策として、コンプライアンス教育を強化、徹底するとともに、稟議手続きの見直しや、社内業務のモニタリングの強化を行なうことで適切な管理監督機能が発揮されるような形に改めていく必要があると結論づけている。

 コロプラは8月13日に第3四半期累計を発表したが、それによると、2019年9月期第3四半期累計の連結経常損益は1,600万円の赤字(前年同期は46億円の黒字)に転落している。厳しさを増す経営環境の中で、同社には社内体制の立て直しも含めた経営の刷新が求められている。