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「エースコンバット7」開発チームがVRモードの裏側を語る
XR事情を学ぶ「Tokyo XR Meetup」でセミナーを開催
2019年2月13日 17:55
いろいろな裏側があった「エースコンバット7」VRモード
デジタルハリウッドが開催している、最先端のXR事情を学べる「Tokyo XR Meetup」。これはVR、AR、MRを総称した「XR」についてのセミナーだが、2月12日に開催された「#27」では「開発チームに聞く『エースコンバット7』VRモードに込めた想い」と題したセミナーを開催。そこには「エースコンバット7 スカイズ・アンノウン」(以下、ACE7)のVRモード開発チームから、バンダイナムコエンターテインメントの玉置 絢氏(ACE7 VRモード担当プロデューザー)、バンダイナムコスタジオの夛湖久治氏(ACE7 VRディレクター)、同社の山本治由氏(リードVRエンジニア)の3氏が登場。VRモード開発の裏側についてたっぷりと語ってくれた。
まずは玉置氏の「『ACE7 VR』に至る道程」というタイトルのプレゼンからスタート。2019年に発売された「ACE7」だが、その淵源は1990年に大阪市で開催された「EXPO'90 花博」で出品された「ギャラクシアン」にあるという。「ギャラクシアン3」は体験型のアトラクションで、球体状に配置された360度スクリーンを見ながら敵と戦うシューティングゲーム。座席が動くなどかなり大がかりな仕掛けが施されていた。
ここではまた、ゲームが急に始まるのではなく、まずはオペレーターによるミッション説明から始まり、敵が襲ってきたので戦うという緊急通信へと移り、エアロックをくぐってシートに着いてようやくタートするという作りとなっている。これ、どこかで体験したことがあるだろう。まさに「ACE7」のミッション開始時と同じ作りだ。最初から最後まで、あなたがパイロットであるという体験をすることが重要になるのだ。
「ACE7」のVRモードは、ミッションの比率が特殊になっているという。それは「戦う前後を含めた体験が重要だから」と玉置氏は語る。VRの中でホログラムによるブリーフィングが見られるのだが、それと同時に乗っている戦闘機が見える。これが重要なことなのだという。
その後1993年にはアーケード版の「エアーコンバット」、1995年にはこれを家庭用向けに改変したプレイステーション版「エースコンバット」が登場する。そして2001年、シリーズファンにとっては重要な「エースコンバット04 シャッタードスカイ」が発売されたわけだが、その時にはアーケード版筐体として、丸いドーム型スクリーンを持つ「O.R.B.S.」も開発されていた。「エースコンバットによる英雄体験と、O.R.B.S.による全視界体験。まったく同じ9月に始まったことがVRにつながっていく」(玉置氏)。またこの頃にソニーからHMD「PUD-J5A」が発売されているのだが、「エースコンバット04」も対応していた。このためフライトとHMDは関係があったとも言える。
そして2006年にはO.R.B.S.はP.O.D.となり、アーケード版「機動戦士ガンダム 戦場の絆」が登場する。ここでは全視界のディスプレイの中でモビルスーツを操作して戦うわけだが、酔いが発生する「ベクション効果」への対応策が考えられていた。その方法はコクピットフレームを作ること。頭の動きにひも付いているものを作れば、それだけで酔いにくくなる。これはHMDでも「バーチャルノーズ」といって、鼻に当たるものを下に付ければ酔いにくくなるのと同じだそうだ。このため注視範囲をなるべく絞り、ロックしたところにカメラが向くようにし、自分が真正面の注視点だけを見ていればよいという対応をした。
「ACE7」のVRモードも同じだそうで、普通のミッション画面では、左上に時間やスコア、左下にレーダーと、四隅に情報が表示されているわけだが、VRモードでは酔いをなくすために真ん中しか見せないように画面作りがされている。
加えて重要なのが地平線の存在だ。通常の画面では、ゲームに慣れてくると意識的に離れた状態から画面全体を把握するのに長けてくるので、自分の視界の中で地平線の存在が大きくなっていき、それに釣られてしまうのだとか。しかしVRで地平線がぐるぐる回ると、それだけで酔いが発生する。これもあって、1か所だけを見ていればいいように、意識的に画面作りをしたそうだ。
そして2012年には「Oculus Rift DK1」が登場し、本格的なVR時代が始まる。また2013年にはP.O.Dを利用した「マッハストーム」が登場する。プレイ動画を見てもらえばわかるように、どこかで見たようなシーンが展開されている。いわばVRモードの先駆けのような作りに見えるのだが、戦闘機を倒すゲームというのは同じでも、進んでいくルートが決まっているなど、ガンシューティングに近い作りとなっている。
そののち、2013年には「エースコンバット インフィニティ」が発売される。この時の開発は大変だったそうで、玉置氏はかなりストレスがたまり、いろいろな企画書を書いていたのだという。その中に、P.O.D.活用コンペの新企画として「全視界映像でキャラクター体験」という企画書を提出する。これについて、プロデューザーの原田勝弘氏から「VRでやれ」と言われ、山本氏とともに作り上げたのが、のちの「サマーレッスン」になる。
これに続き玉置氏がやっていたのは、P.O.D.のゲームをOculus Riftで検証するということ。ガンシューティングの「LOST LAND ADVENTURE」と「マッハストーム」を移植してみたところ、「LOST LAND ADVENTURE」の方が酔いにくく、「マッハストーム」の方が酔ったのだという。「LOST LAND ADVENTURE」は「インディ・ジョーンズ」のトロッコシーンのように進んでいくゲーム。「マッハストーム」も道筋は1本で動くという、やっている動きはほぼ一緒なのに、酔いにくさが違った。これは「LOST LAND ADVENTURE」ではレールが見えるが、「マッハストーム」ではその同線が見えなかったから。つまり、事前にどちらへ動くかわかると、酔いが低減されることがわかったのだそうだ。これがのちの「アーガイルシフト」につながっていく。
「アーガイルシフト」はアンドロイドの女の子とコミュニケーションしながら敵を倒していくロボットアクションだが、自分の動きは決められており、酔わないような軌道になるように設計されていた。しかし最初は、自由にビルの中を飛び回れるゲームを作っていたのだという。ただしこの場合、進行方向を見ていないと酔うと思ったため、ターンをしたかったら、その方向に向いてから回るようにしたのだが、それがダメだった。もちろんバックもダメ。スライド移動もダメ。玉置氏はあまりの酔い方に苦しんで終電を逃しそうになったこともあったのだとか。
視点を集中することで酔いを低減させる
こうしていくうちに2015年には、「ACE7」のVRモード開発が始まる。ここで玉置氏が考えたのは、コクピットビューを徹底すること。UI系統をそこに埋め込むほか、普通の場合は何もない画面にHUDビューを見せることで対応した。またレーダーもUIに埋め込み、自分が必要な情報だけを注視していればいいようにした。
ステージの設計だが、必ず僚機が先に発進するようにして、何をさせられるのかを予期できるようにした。このように前もって情報を与えることで酔いにくさが生まれる。発進の時も、射出音が鳴ってから動くなど、音でこれからの動きを予告する設計となっている。「予告して身構えさせることをやって、酔いの低減ができる」(玉置氏)。
似たようなもので旋回がある。普通に曲線を引いてパス通りに動かすと急に曲がっているように見え、これは酔いやすい。しかし「次に曲がりますからね」と言って、曲がるときは一気に回すほうがよい。「高速で動いている時間を一定量かけるよりも、急激に動いた方がまし」(玉置氏)。そして発進後も同様だ。地平線を意識すると酔ってしまうので、飛び立ったらすぐに雲があるように設計したそうだ。
ここで玉置氏が語ったのが「酔いのコップ理論」。人にはそれぞれコップに見立てられる酔いの許容量があり、ストレスが生まれるとコップの中にたまっていく。このストレスは何から引き起こされるかというと、視界の動きと三半規管の動きが矛盾しているとき。そしてそのコップの大きさは人によって違うし、水のたまり方も人によって異なる。「これをどうやって1本のソフトでまかなうかが究極命題」(玉置氏)。
ただしやってはいけないのは、コップの中へ一気に注ぐこと。そこで大量に注ぐことを削るのが第1目標だったという。かといって、一切水が注がれない状態での面白さを作るのにも無理がある。「自分のコップのサイズはこれくらいだと自覚する方が友好関係が長く続く。これくらいにしておこうと思った方がいい。ちょっとずつ注いで、そろそろかなと思ってもらえるようにしている」(玉置氏)。
また、ゲームを長くプレイさせるよりも、濃い体験をさせることが重要だと玉置氏は語る。「時間をかけずに長い時間遊んだのと同じような体験を持ってもらうために、いかにアイディアを出すか。延々とドッグファイトをしていてもコップがあふれてしまう」(玉置氏)。このため連続で戦うことがなく、途中でブレイクタイムを設けている。「これは結果的によかった」(玉置氏)。
「サマーレッスン」の教訓がVRモードに生かされるとき
ところで「サマーレッスン」の何がよかったかというと、キャラクターが目の前にいて、近くに来るとまるでそこにいるかのような感覚を覚える「センス・オブ・プレゼンス」があったから。Oculus RiftやPlayStation VRは左右独立の立体視のため、近いものは実際に目の前にあるように感じられる。
そして大事にしたのが「数センチ単位で近さを決める」ということ。「サマーレッスン」を開発していたときに、突然女の子にドキドキしなくなったときがあったのだそうだが、それはアンリアルエンジンのバグのために、カメラが数センチ後ろにずれたから。3、4センチ離れただけでも微妙になったのだという。「センチ単位でも近いのが重要。ここに妥協したら負け」(玉置氏)。
また「サマーレッスン」では、女の子がプレーヤーの肩にあるゴミを取るというシーンがあるのだが、手が伸びてくる感覚がとてもリアルに感じられた。これは「プレーヤーにゆっくりと近づくことが大事」(玉置氏)。VRモードでも2面の発進シーンで、落とされた爆撃機が目の前を横切って墜落し、破壊された破片がこちらに飛んでくる場面があるのだが、そのシーンは何回もリテイクしたと玉置氏。「キャノピーに当たってコツンと言わなければダメ。これが重要なこと」(玉置氏)。
しかしミサイルや戦闘機は一瞬のうちに通り過ぎてしまう。そこで演出として登場したのが、爆撃機と自機が同じ速度で移動すること。相対速度がゆっくりと展開されるが「これがひかりちゃんの手」(玉置氏)。早い方が怖いと思いがちだが、「1番怖いのはゆっくりと動くもの」だと玉置氏は語る。なぜなら首を動かして見回せるためだ。
「当事者感」から「クロスモーダル現象」へ
重要なこととして玉置氏が強調したのが「当事者感」だ。「サマーレッスン」でも自分が当事者としてそこにいると感じることが重要となる。「コントローラーを耳に近づけるといった変な動きをさせたのも、あなたが主人公と思わせるため。これにより当事者として認識される。体の習慣似ない動きが当事者感を強化する」(玉置氏)。
また「ACE7」の「エアショーモード」についても、ゲームの習慣外の行動を盛り込んでいるとのこと。頭の上を飛行機が通ったり、後ろに回ったりすることで、VRヘッドセットを動かして頭上を見たり振り返るといった、普通にはない動きが盛り込まれている。
また次のポイントとして玉置氏があげたのが「クロスモーダル現象」。これは視覚と音しかないVRの世界にいるはずなのに、温かさやニオイを錯覚するというもの。「サマーレッスン」でもひかりが近づいたときに香りや体温を感じることがあった。これはこうなっていないとおかしい、と脳が勝手に解釈して体を合わせるためだ。
これにならってVRモードに盛り込まれたのが「煙の充填」。相手に落とされたとき、ミッションモードでは機体が墜落したところを俯瞰で見せられて終わりだが、VRではやられた演出を作らなければいけなかった。そこで10秒かけて、機体の操作ができなくなり、煙が湧いてきて火の手が上がり、最後に爆発するという演出が作られた。ゲームオーバーとしては長い演出だったが、VRの体験として、やられて死ぬのは怖いということを感じさせたかったと玉置氏。
「VR ZONE SHINJUKU」で「エヴァンゲリオンVR THE魂の座」をプレイしたことがある人ならわかると思うが、コクピットをLCLが満たしていく瞬間、息苦しくなったことはなかっただろうか。これもクロスモーダル現象だ。
「煙が充填される“やられ演出”はクロスモーダルを起こせる。煙が下から上がってきて脱出できない、操作もできない恐怖。戦争の当事者という生々しい感覚を作れた。クロスモーダルと当事者感の接続。これが2019年到達点」と玉置氏は語った。ちなみに煙のシーンは、敵機にミサイルで落とされないと体験できないので、1度やられてみることをオススメする。
さらにおなかいっぱいになったパネルディスカッション
そして次は玉置氏に加えて、夛湖氏、山本氏も加わってのパネルディスカッションとなった。
まずは「『ACE7』はVRに向いていたか」という問いに対して夛湖氏は「最初に見たときから勝ったと思っていた。VRにガン向きで、必要な知見をすべてそろえていた。ある方向にさえ動けば勝ったなと。それだけだった。最初から向いていたというのが自分の見解」と語る。
山本氏は逆に「これはダメなんじゃないか」と思ったのだそう。「戦闘機も一瞬で通り過ぎてしまって、迫力体験を演出できないと思っていた。しかし実際に遊んでみると、オブジェクトは小さいがHUDが動いているので、近場の爆発など、すごい絵が出たらすごい体験ができる。体験してみて面白かったと思った」。
玉置氏は実は、「エースコンバット」だけは無理だと言っていたそう。しかし関わることになってからも向いていたかどうかわからなかったが、発売後の評価を聞いて努力したと言うことを話してもいい時期だと思い、この日話をしたのだそうだ。
コクピットの演出についてだが、最初はMFDにスコアが表示されていたのだとか。しかしそれだと遊園地の乗り物のように見えたので、コースメニューに移動させて消した。これも没入感を高めるためだ。「冷めると嘘の世界になってしまい、酔ってしまう。ゲームだと認識して引いた時点でゲーム視界になってしまう。総じて冷めるものは作らない。演出は没入感をより盛り上げるためにリアルにした」と語る夛湖氏。途中表示される赤ランプの処理が重かったそうだが、フレームレートを下げずに軽くしてくれと夛湖氏はエンジニアに投げたのだとか。「興奮、没入、実在は残す」(夛湖氏)。
これと同様なのがコクピットのフレーム。影がMFDに落ちなくてもいいのではという話もあったが、プレーヤーの近くで起きる演出なので残したかったと山本氏。「ランプが付いたら赤く反射してほしいとこだわった。しかしトータルで全部乗っかったのでよかった」(山本氏)。「これらをすべて残して60fps出しているのがすごい。理想論じゃなくて本当にやっている。青空の下からロールしているときに影が落ちるのは本当にリアル」と玉置氏。
続いて話題は雲の演出へ。山本氏によると、雲の描写はミドルウェアでやっているので思うように手を入れられなかったのだとか。夛湖氏は「VRではやめちゃおうという話もあった。雲いらないじゃんと。それを河野(ブランドプロデューサー)に言うと『ダメ』と。空も新しくなっていないとダメだと。言うのは簡単だけど、やるのは山本さん(笑)」。実際に担当した山本氏は、特有のノイズが出て大変だったと語るが、最終的には中央部だけ解像度を上げて外側を落とすことで対応したそうだ。
しかし雲については、1面の設計で地獄を見たのだという。というのも、VRモードの1面は「これはエースコンバットである」とプレーヤーに納得させることが大事なので、敵の動きがシンプルである代わりに、雲に演出を頼っている部分が大きかった。爆撃機を倒してからミラージュが登場するまでの間に、雨雲を通過するのだが、その時に地平と雲の間に隙間ができ、そこを通ると圧迫感を覚えるようになっているのだ。
しかしそのように作ってみると、空母のエレベーターから上がって左に曲がると青空が広がっているはずが、艦橋の後ろからすべてが雲。「これでは出撃したくない(笑)」(玉置氏)。このため玉置氏は「あの雲をどかしてください」と言ったものの、そうなると次のグループにひも付いている雲を動かさなければいけず、すると次のグループも同様に。「1個変えろと言われると後半全部がダメになる。つらかったですね。言うは易しです。ペーシングを理解していればいいけれど、それがなしで開発者任せだったので」(夛湖氏)。
次の話題はUIについてだ。VRモードではブリーフィングの内容などはVRヘッドセットに同期して動くようになっている。これは本当はやってはいけないと言われているものなのだそうだが「ゲームの世界観的に、ヘルメットに写っているものだと理解してもらえればいい」(夛湖氏)。この演出も凝っており、ハンガーに移るといったん画面が暗くなるのは、液晶が起動したということを意味しているのだという。ちなみにキャンペーンモードで、敵のテストパイロットである「ミハイ」のヘルメットにはホログラムが投影されているのだが、この時の起動演出とVRモードの起動演出を比べると、HMDの歴史がどう進歩しているかがわかるようになっているのだとか。
なおコックピット視点で飛んでいるとき、速度のデータはHMDに表示されるが、下を向くと消えるようになっている。これはHMDの情報がコックピットの上に乗ったとき、字幕は遠くにあるので、下を向いたときに手前に表示されてしまっては矛盾が起きてしまう。それを回避するためなんだそうだ。
VRモードのレベルデザインについて夛湖氏は「『エースコンバット』シリーズは敵の数が増えるトレンドにある。しかしVRでは左右もあるので4倍負荷がかかる。このため数を絞った」と語る。しかしこうなるとレベルデザイン的にペーシングが大変になってしまう。「敵の数が少ないという前提で雲などでプレイの質を変えている」(夛湖氏)。
加えてキャンペーンモードでは敵がオーバーラップするような勢いで登場するが、VRでこれをやると視界が散らかると夛湖氏は語る。「河野さんには怒られ気味だったが、自分の判断でぶつ切りにした。心構えを作ったり休憩を入れたり。キャンペーンモードそのものを持ってくるといいんじゃないかと言われるのはうれしいが、それはゲームでVRの体験ではない。ゴーグルをかぶったゲーム」(夛湖氏)。
なお先ほども述べた2面の冒頭シーンは夛湖氏の思い入れがこもっているそうだ。「VRのノウハウをすべて入れて作った」と夛湖氏。あまりにも物量が多く、アニメーションを作る人員がいないと言われたとき、ニヤリとして「僕がやりまーす」と夛湖氏は言ったそうだ。「弾がどう出るかも含めてアニメーションは全部自分で作った。飛行機の人生を入れた。中に入っているパイロット、地上で援護している対空戦車の気持ちなど、人生を込めた。あるラインを越えるとメビウスワンを上げろ! と言ったり。自分が作りたかったというのもあるが、没入感のある、ご都合主義じゃないドラマを作った」(夛湖氏)。
VRモードのサウンドだが、「リアルで実在する、没入感には音の演出が大事。空からセンチ単位で降ってくる部品は距離だけでなく、音も何度もリテイクした。時間にして90フレームなかったイベントに全精力を使った」(夛湖氏)と、こだわりを見せる。玉置氏も「キャノピーに当たる音がダメで、サウンド担当を運転席に座らせて小石をぶつけることをやろうかと思った。そう言ったら理解してくれた。それくらいこだわっている」と語る。
音が先に聞こえて予測することも大事で、それにより状況をリアルに伝え、冷めさせないようになっている。「左から右に爆撃機が落ちてくる時も、左を見てもらわないとわからない。その音もかなりリテイクを出した」(夛湖氏)。音の質についても掃除機のような音を使い、不調なエンジンの音が左から右に流れるようにしたそうだ。
なおこのような作り込み具合なので、2面の冒頭はとてもうるさく感じるかもしれない。しかしそれは、夛湖氏が言うには「戦場はうるさくて当たり前です」。「戦場感を出すためにうるさくしてくれと。しかし空に上がると音が消える。そこで戦場から逃れたんだという空気感ができる」(夛湖氏)。商業のゲームデザイナーが作ると心地いい音にしてしまうが、「VRでは『やべえ戦場にいる』と思ってもらわないといけないので、ひどい音じゃないといけない」(玉置氏)。しかし健康に影響が出てもいけないので、ギリギリの大きさにしているという。
そしてファンならば気になるボツ仕様についての話題に。ベイルアウトについては作ったそうなのだが、「うたれた瞬間に操作して射出するのが難しかった。コントローラーのボタンを押したのだと手が伸びて操作している感じがしない。しかも射出されると酔う」(玉置氏)。このためボツになった。
また、VRではスタンダードでの操作には対応しておらず、エキスパートモードだけだ。VRを体験したことがない人でも操作しやすいように入れるべきだと言われたそうだが、左右に倒したときの横滑り感覚がダメで、酔うのだとか。このためボツに。
酸素マスクについては、パイロットなら付けているのだから表示されないのはおかしいと思った人もいるかもしれないが、これを付けたらとてもうっとうしかったのだそうだ。このためボツ。
タキシング中に矢印を出してはどうかという話があったが採用はされなかった。「冷めるから」(夛湖氏)。このため、先に出発する戦闘機を出したり、曲がり方にこだわったりして誘導することに。「茨の道だったが矢印に甘えなかった」(夛湖氏)。
「基本的には知見を発揮できたので大きな違いがなかった。『サマーレッスン』をやっていたので新たな知見も入った。家庭用VR対応だって進歩したんだなという感じ」(夛湖氏)。
「サマーレッスン」以来、60fpsを落としてもいいやと思って最適化した作り方はしていない、と玉置氏。「関わっている人間が思ったことはどんなことでも付せんに貼ってレビューする。最後までこだわるのには必要」(玉置氏)。レビューについては2週間に1回行なっていて、課題を解決したものを見せて検討、そしてまた次回という感じで回していったのだそう。「ディレクターやプロデューザーは慣れてしまうのでわからなくなる。最近は言ってきた人の意見こそ聞くべき。偉くてもVRをかぶっていない人は発言権がない」(玉置氏)。
「MFDに影が落ちたのがぴたっとハマった瞬間に戦闘機になったと思った。いままでUIとして浮かんでいたものが機体になったなと。このビジュアルなら勝ったと思った」(山本氏)。
「1番最初から思っていた。ゲームの企画なので弾着点、最終形が想像できないとダメ。最初に見た瞬間にコクピットフレームがあるので盤石な座標が存在する。そして英雄体験を求めているので、プレーヤーはVRにも興奮を求めている。あとはそれにどう誘導していくか。この3つがそろえば勝ち。これが見えた時点でものになる。あとはそれに沿った意見が来たら採用する。逆に沿わないものは削除する。ゲームは慣れてきちゃうので、VRに対して慣れは危険。いつも新鮮な人の感動を取り上げた上で、その視点が重要だと消化しないと結論は捨てられない」(夛湖氏)。
「面白いのはVRがものになったと思うのは些細な瞬間。『サマーレッスン』はひかりちゃんが化粧をした瞬間。テクスチャが入ってめちゃめちゃかわいくなって、現実と一緒だと思ったときに、ものになると思った。煙演出と同じで、『自分は死ぬんだ』こんなにミサイル撃たなければよかったと思ったときに戦争の当事者になるというのはこういうことかと思え、いけると思った」。
以上、かなり長くなってしまったが、全文を書き起こししたいと思ったくらいとてもためになるセッションだった。ファンの方の参考になれば幸いだ。
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