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「エースコンバット7」の無線は“高速インタラクティブラジオドラマ”だった。「AC7」ナラティブディレクターと無線セリフ担当者がその仕組みを解説

【CEDEC 2019】

9月4日~6日開催

会場:パシフィコ横浜

 プレイステーション 4/Xbox One/PC「ACE COMBAT 7:SKIES UNKNOWN」(AC7)は、フライトシューティングであると同時に、プレイ中に無線のやり取りでストーリーが進んでいくゲームだ。

 「AC7」のポイントは、プレイを通していかに「エースパイロット気分」を味わえるかにある。ゲームの中では、自由に飛んで戦う“ゲームプレイ”と、英雄になっていく“ストーリー”という2つの要素からアプローチすることで実現している。

 興味深いのは、プレイ中のストーリーはすべて無線での会話で語られているということ。「エースコンバット」シリーズの特徴とも言えるが、一体どのような考えで作られているのか。CECEC 2019では、バンダイナムコスタジオ「AC7」ナラティブディレクターの糸見功輔氏と、バンダイナムコスタジオで「AC7」の無線セリフの執筆・実装を担当した鬼頭雅英氏より、その制作手法が語られていった。

バンダイナムコスタジオ「AC7」ナラティブディレクターの糸見功輔氏
バンダイナムコスタジオで「AC7」の無線セリフの執筆・実装を担当した鬼頭雅英氏

 糸見氏は、「エースコンバット」シリーズのストーリーテリングはラジオドラマなのだと説明した。間合いの短い掛け合いなら、キャラクター間の阿吽の呼吸や、焦りなどを表わし、間合いが長いなら熟考や悩みを表わす。無線の背後で流れる環境効果音も使用しながら、この「間合い」の積み重ねでドラマを作っていく。

 ただしゲームプレイそのものの楽しさを追求しようとすると、こうした無線のやり取りが邪魔になる可能性もある。「AC7」ではミッションごとの大まかな流れがわかる「シーン構成表」と、もっと詳しくあらすじや重要なセリフが具体的に書かれた「ミッションストーリー」という2つの資料を用意し、問題があった時にすぐに照らし合わせられるようにした。

ラジオドラマの手法
シーン構成表
ミッションストーリー

 特に「シーン構成表」には、脚本を務める片渕須直監督との打ち合わせやメモ、メール内容をまとめた注釈が合わせて記載されている。これらのメモには、脚本上には表われてこないキャラクターの性格や背景、状況の経緯などが書かれている。

 こうすることで、各設定やセリフがなぜ必要だったのかがすぐにわかる。最終的な判断は「ゲームプレイ体験が阻害されるかどうか」だが、セリフのアレンジも含めてより素早い判断が可能になったとした。

最終的な判断はプレイ体験にある
セリフ作成の際には、ゲームプレイの参考映像にセリフを仮当てした「プレビズ」も作成。これによって目指したいものを最初にチームで共有したという

 一方、そうした無線セリフの執筆と実装を行なったのが鬼頭氏だ。鬼頭氏は、ストーリーとゲームプレイは単純にまとめるだけでは相性が悪く、その関係性を例えて「水と油のよう」と語る。ただし、上手く攪拌すれば「乳化する」。

 「AC7」では、無線のカテゴリは3つある。ひとつはプレーヤーがロックオンされた時や敵機を撃墜した時に流れる「実況無線」、もうひとつは敵のダメージ率などの状況に合わせて流れる「おはやし無線」、最後は条件達成でシナリオが進行する「攻略無線」だ。

 それぞれの無線には役割があり、「実況無線」はインタラクティブに再生して行動の手応えを作るため、「おはやし無線」はランダム再生で戦場の雰囲気を出すため、「攻略無線」はフラグ再生で物語の盛り上がりを作るため、といった意味がある。

 しかしプレーヤーのスキルや進行スピード、攻略手順は人によってバラバラである上、無線が重なれば聞き取りづらくなるため、1つの無線再生時は他の無線は流せない。そのズレによって少しでも無線の内容に違和感があれば、ゲーム体験が損なわれる危険性がある。

 そこで鬼頭氏が実践したのが、キューに入れた無線を優先度(Priority)、時間による寿命(QueueLimitLife)、キュー待機時間(RequeueingWaitTime)、開始遅延(StartDelay)などの概念で管理する方法だ。

次に再生するセリフのキューがどんどん入っていく
セリフ管理の項目と数値

 これらはセリフ1つ1つに設定されており、同時にキューに入ったセリフが各個管理されるようになっている。たとえば、プレーヤーがミサイルを発射した時、「メイジ2 ミサイル発射」という無線がキューに入る。ただし、即座に再生すると「人間らしさ」がなくなるため、0.6秒の遅延を待ってからセリフが再生する。

 敵機を撃破し、実況無線の「敵機撃墜!」が再生されていると、今度はおはやし無線の「さすがにケツに火が付いてきた!」がキューイングされる。しかし、同時に優先度の高い攻略無線のセリフ「いいぞメイジ2 生き残れる仲間を増やすんだ」がキューイングされ、そちらが再生される。

 攻略無線の再生中に「さすがにケツに火が付いてきた!」は時間寿命が来て、キューから外れる。以降は攻略無線が続き、シナリオが進行していく。

キュー入りと消滅が繰り返されながらゲームが進行する

 またセリフ開始遅延については、よりリアリティを上げるために細かい調整をしている。たとえば管制官が「敵機撃墜」と言う場合は、レーダーを見ての反応なので遅延は1秒、しかし味方機が目視して「撃墜を確認!」と言う場合は遅延0.6秒と設定されている。この微妙な間は、セリフの意味合いを考えながらすべて個別に決められている。

 さらに会話の「間合い」を作る意味合いもある。即答なら0秒から0.1秒、一呼吸なら1秒、短い沈黙なら2秒。0秒から数秒の間を絶妙に操ることで、キャラクターの感情の動きや葛藤を描いている。

ある1シーンのセリフの間合い。0.1秒単位でコントロールされている

 つまり、「AC7」の無線は状況に合わせてキュー入りと再生、待機、消滅を高速で繰り返しながら、しっかりとキャラクターをも描いている。糸見氏は、「エースコンバット」のストーリーテリングはラジオドラマと語っていたが、実際にはもう何歩も踏み込んだ高速なインタラクティブラジオドラマだと言える。技術的な派手さはないが、ストーリーの見せ方が高いクオリティで成立している。

 これが鬼頭氏の言う「乳化」であり、まさに経験と知識を活かしたベテランパイロットのような味わいだ。「AC7」における無線、さらにその間合いに注目すると、新たな発見があるかもしれない。