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【特別企画:学生eスポーツの今】「ストリートファイター V」編

"格ゲー"サークル屈指の強豪――駒澤大学格闘ゲームサークル「駒格」

10月6日 公開

特別企画:「学生eスポーツの今」

 「eスポーツ」の流行は目覚ましく、今やその流れはプロに限らず、一般の社会人や学生にまで波及し始めている。中でも次世代のeスポーツを支えるのは、なんといっても若きプレーヤーたちだ。

 そこで今回は「学生eスポーツの今」として、学生大会が存在する「コール オブ デューティ ワールドウォーII」、「League of Legends」、「ストリートファイターV」の3タイトルをピックアップ。学生たちにインタビューを行ない、彼らが「今」どのようにeスポーツに取り組んでいるのかを探る。

第1回:「コール オブ デューティ ワールドウォーII」編
第2回:「League of Legends」編
第3回:「ストリートファイターV」編(本稿)

 「駒澤大学eスポーツサークル」として、大学生サークルにて格闘ゲームを専門に活動しているチーム「格闘ゲームサークル『駒格』」。過去4回行なわれた「TOPANGA『ストリートファイターV』大学対抗戦」のうち、実に3回もの優勝を飾っており、高い実力を備えた格闘ゲームサークルとして知られている。そして、この「駒格」には、もうひとつ、ほかの大学にはない特徴がある。それは、チームメンバーにプロゲーマーが在籍しているという点だ。

 今回は、この強豪格闘ゲームサークル「駒格」メンバーと、そこに在籍するプロゲーマー・立川選手に、その活動内容やeスポーツ、プロゲーマーの在り方などについてお聞きすることができた。これから業界を引っ張っていくであろう若いプレーヤーたちが、本分である学業や将来を見据えながら、どうゲームに取り組んでいるのかをご覧いただきたい。

サークルでも古株のヤス選手は、勉学以外の時間のほとんどをゲームプレイに費やすほどのゲーム好き。しかし、実家がお寺ということで将来については複雑な思いも
フラメカ選手は幼少のころからゲームに慣れ親しむサークル2年目の選手。「ストリートファイターV」ではアレックスを使う好青年
サークルの中心的役割を担う大学生プロゲーマーの立川選手。プロスポーツチーム「DetonatioN Gaming」に所属し、現在は「ドラゴンボールファイターズ」を主軸として活躍中
サークル期待のルーキー、ほった選手。先日の東京ゲームショウ「CAPCOM Pro Tour ジャパンプレミア」でオフライン大会デビューを果たした
プロ志向の強いしかばね選手。大会にて格上相手に自分の勝ち筋を通して勝利していくなど、着実に成長を遂げている
りょうと選手は初心者からスタートし、短期間で上達していった実力派プレーヤー。立川選手いわく「練習の要領がいい」

非公認のサークルとして活動がスタート

――格闘ゲームサークル「駒格」の創部はいつ頃ですか?

ヤス選手:4年ほど前になるでしょうか。もともとうちのサークルにいた「ぼくふぃ」さんと「刑事N」さんが、たまたま授業で出会ってそこからサークルを作ろうという話になったみたいです。そのあとに、TOPANGAの大学対抗戦があったりとか、学生主導の大学対抗戦があったりして、それで存在が校内に知れて、サークルにもだんだん人が集まってきました。自分が4年前に入ったときには10人ぐらいいたでしょうか。


インタビューは「駒格」のサークル活動の場、サウンドスタジオノア駒沢店にて実施した

――最初からeスポーツサークルとしての活動しようとしていたのですか?

フラメカ選手:僕らのほかにも「リーグ・オブ・レジェンド」(以下、LoL)をやっているサークルや、「コール オブ デューティー」(以下、CoD)をやっているサークルもあるのですが、僕たちは格闘ゲームサークルとして独自の活動をしていました。

立川選手:うちのサークルは「eスポーツサークル」となっていますが、それも今年からの話で、最初は格闘ゲームをやるためだけのサークルとして活動していました。しかし格闘ゲームサークルだけだと人が少なすぎるので、今後、継続させるためにもeスポーツサークルにしよう、と判断してそうしました。学校から準公認を得られたのは去年からになります。

――公認になるための基準とはどのようなものなのでしょうか。

立川選手:サークル活動をしている人数に規定があるほか、きちんとした活動記録、大会における実績などがないといけません。僕たちはそれらすべてを満たすことができたので、準公認となれました。

――公認がもらえると、どのようなことができるようになるのですか?

立川選手:まず、ロッカーが使えるようになります。それによって重い機材を毎回、家から持ってくる必要がなくなります。それと、新入生勧誘のためのスペースをもらうこともできます。その2点が大きなメリットと言えるでしょうか。

――なるほど。ちなみに、サークルの活動としてはどのようなことをされていますか?

立川選手:基本的には、月1回のペースで対戦会を開いている感じですね。僕が主体で動いているのですが、自身にやることが多くてスムーズに管理できていない反面、メンバーはみんな自主的にオンラインでも対戦しているので活動そのものに支障などはありません。今は対戦会を月2回ぐらいにしたいなと思っているところです。

――サークルの運営面において、苦労などはあったりするのでしょうか。

立川選手:苦労というのとは少しちがいますが、先ほども少しお話をした、eスポーツサークルにせざるを得ない、という部分には少しわずらわしさがありました。本来、僕らは格闘ゲームサークルだったし、そのままいければそうしたかったんです。しかし、今後、人数が減りそうだという懸念もあって、あえて「eスポーツサークル」としている現状があります。

 また、最初は学校側の理解度が低かったというのも困った点でした。これについては僕が12月に大きな大会で優勝して、それの結果報告をしに行ったときから、学校側の対応が少し良くなった気がします。今はなかなか融通がきくようになりましたね。

――準公認となったことで、やはり恩恵があるんですね。

ヤス選手:サークルが準公認になって、それにともない新入生歓誘が許可されるようになったのは大きいですね。

立川選手:来年、準公認が公認になると、今度はアケコンやモニターを置いてデモンストレーションもできるようになる。そうなれば、もっと人も増えるのではないかなと。

フラメカ選手:空き時間に、校内でポータブルモニターとプレイステーション 4を使って練習などもできるようになりましたね。

立川選手:こういう練習用の機材を毎回家から運ぶのはとても非現実的だったのですが、ロッカーが使えるようになったことで置いておけるのは大きいです。そして何よりも、学校側から僕らの活動が評価されるようになっているというのがいいことだと思います。

 僕は学校から表彰されているのですが、そういう実績を、サークルのために外へと知らしめていきたいですね。そうすることでサークルだけじゃなくてゲームの地位も上がっていく。こういう活動を、プロゲーマーで大学生の僕にしかできない方法でやっていきたい。そのためには、まず勝たないとだめなんですけど(笑)。これが本当に難しいですね。

――今年、新入生はどの程度入ってきているのでしょうか?

立川選手:今年は2人ですね。

ヤス選手:去年が4人。みんなFPSや対戦格闘ゲームなど、何かしらのゲームを経験して入ってくるというパターンが多いです。

――例えば、テニスサークルなんかは、テニスを経験したことがない人でも入ってきたりします。対戦格闘ゲームひいてはeスポーツサークルでもそういうものがあっても良さそうですよね。

立川選手:それは確かにその通りなのですが、実際問題として僕らのやっている活動があまりにもインドアというか大学生らしからぬものすぎて、そもそも人が寄ってこないといいますか……(笑)。

――ちなみに、女性メンバーはいらっしゃるのですか?

立川選手:いないですね。実は僕、今年はものすごく真剣に女性部員を募集したんですよ。盛り上げるためには本当に必要なんだろうなと思って。一応、新入生の勧誘をするとき、必死に女の子に声をかけました。Twitterも駆使して、フォロワーが減ってもなりふり構わず色々な女の子に声をかけたんですが、いずれも嫌な顔をされて終わりでしたね(笑)。

 僕、海外に行くじゃないですか。それで「海外にも行けるよ」って誘い文句を使ってみたところ、ちょっとだけ興味持ってくれた人もいましたね。……まぁ、現実にはそう簡単に行けるわけではないので、ほぼ嘘をついているようなものですけど。

一同:(笑)


フラメカ選手:駒澤大学には「LoL」のサークルもあるのですが、そちらにも女子はいないんですよ。でも、東京大学とか青山学院大学の「LoL」サークルには女子がいるんですよね。もしかしたら、駒澤大学という場所が悪いのかも……?

立川選手:いや、それはない!

一同:(笑)

――ところで「駒格」と言えば「TOPANGA『ストリートファイターV』大学対抗戦」で何度も優勝されていますが、そのあたりのお話も伺えますか。

立川選手:駒澤大学は、第1回と第3回、第4回で優勝しました。ただ、格闘ゲームの大学対抗戦自体が参加者が少ないこともあって、今後は残念ながら開催されないようです。一方で「CoD」なんかは本当に盛り上がっていますね。大学対抗戦からプロが生まれる、という流れが基本みたいな感じにもなっていますし、そういう環境は格闘ゲームよりも整っていると言えますね。


大学生によるeスポーツの舞台となっていた「TOPANGA『ストリートファイターV』大学対抗戦」

――プレイ人口は難しい問題ですね……。ちなみに、その過去大会で優勝したときに、他校との実力差はどのように感じましたか?

ヤス選手:第3回のときは「ストV」リリース後、比較的早めに行なわれた大会だったので、他校の選手がそれほどやり込んでなかったのに対し、自分たちはかなりやり込んでいたという部分があって勝てたと思います。でも、第4回では他校選手のプレーヤーレベルも高まっていて結構キツかったですね。

 また、第4回では、この人が出てきたときには誰々が対応する、という感じで、相手のキャラクター対策というか役割を決めていました。ただ、大会の恐ろしさといいますか、それがうまく機能せず、苦戦したという感じですね。

――優勝に向けた取り組みなどは行なっていたのでしょうか。

立川選手:とくにしていないですね。僕らチーム内だけで対戦しても、相手のキャラクター対策となるわけではないのであまり意味がないんです。強いて挙げれば、当たりそうな相手が使うキャラクターと対戦しておくとか、この人と当たったらどうしよう、みたいな対策は各自でやっていたんだと思います。

 実際、それをやるだけでかなり違ってきますし、それが優勝につながる1歩となったのかなと。僕らがやっていたことはチーム戦ではありますが、例えばヤスさんが3タテしたらもうそれで勝ててしまう、というものでもあるので、半分は個人戦みたいな側面もありましたね。

――他の大学の格闘ゲームサークルとの交流などはありますか?

立川選手:全然ないですね。というよりも、ほかの大学ではもう格闘ゲームサークルという単位で活動していないところが多いのではないでしょうか。格闘ゲームをプレイしている絶対数が少ないと言いますか。FPSとかは、若い層が本当に多いなって思いますね。

 対戦格闘ゲームは逆に、僕よりもひとつ上の世代が多いせいで、大学生あたりは盛り上がりづらいのではないかなと見ています。あまり環境のせいにはしたくないので、僕らも対戦相手を積極的に探すなど、自発的に動いていけたらいいなと思いますね。

ヤス選手:FPSプレーヤーより母体数が少ないので、いかに格闘ゲームの方に勧誘できるかというのはどの大学でも大事なことなのかもしれないです。

eスポーツをプレイしているという意識

――改めて、チームの皆さんのゲーム歴を教えていただけますか?

ほった選手:「ストリートファイターIV」(以下、ストIV)のときにはいわゆる動画勢だったのですが、そこで格闘ゲームに興味を持ちました。そうして「ストリートファイターV」(以下、ストV)がリリースされたのと同時に「ストV」を始めて、それ以来となります。今は「ドラゴンボールファイターズ」(以下、DBFZ)もやっています。

しかばね選手:高校生の頃に「ブレイブルー クロノファンタズマ」という格闘ゲームを勧められて、それがはじめての体験でした。そのあと「ギルティギア」などほかの格闘ゲームにも触れたりしていましたが、大学入学後、このサークルでは「ストV」が流行っていたので、それもやろうということで今は「ストV」をメインに「DBFZ」もプレイしています。

フラメカ選手:触っただけ、というところでは「鉄拳2」が1番最初になります。それが18年ぐらい前でしょうか。今が21歳なので、当時は3歳ぐらいです。


「ストリートファイターV」


「ドラゴンボールファイターズ」
「ブレイブルー クロノファンタズマ」

――物心ついたころ、すでにゲームをプレイしていた、と(笑)。

フラメカ選手:最初の記憶がそんな感じですね(笑)。つぎに「ストリートファイターEX Plus」をやって、そこでソニックブームや波動拳を出せるように練習した……というのが、5、6歳の頃です。そのあとは動画勢としてニコニコ動画で「M.U.G.E.N」の動画を見ていて、そこにアレックス(『ストリートファイターIII』に登場するキャラクター)が出てきたのを見て、その影響で今はアレックスを使っています。

 「ストIV」のときも"動画勢"だったのですが、そのときはプレイステーション 3を持っていなかったのでプレイはせず、プレイステーション 4を購入する段になって、そこで始めたのが「ストV」ですね。「ストリートファイターIII」の存在は知っていましたが、当時はゲームセンターに自由に通うことができない環境だったので、とくにプレイをしたことはありませんでした。

立川選手:初めて触れたのは、父親が持ってきた「ストリートファイターII」(以下、ストII)だったのですが、それは軽く遊ぶくらいでした。「ストIV」は、リリース直後からずっとやり込んでいましたね。それ以降、さまざまなタイトルにも触れましたが、本腰を入れて遊んでいたのは「ストIV」と「ストV」だけです。今は所属チームの意向で「DBFZ」だけをプレイしていますが、来年はまた変わってくるのかなというところですね。

ヤス選手:親戚の従兄弟とスーパーファミコンで「スーパーマリオブラザーズ」シリーズや「スーパードンキーコング」シリーズをプレイしたのが1番古い記憶ですね。本当にゲームが好きで、そのあと従兄弟がプレイステーションを購入したことにともない、不要になったスーパーファミコンをもらってからはずっと遊んでいました。

 対戦格闘ゲームとしては、スーパーファミコンの「ストII」に触れ、その後、中学2年生のときにリリースされた「スーパーストリートファイターIV」を少しプレイしてからFPSの「コール オブ デューティ」にもハマりました。以後、「スーパーストリートファイターIV アーケードエディション」が出たのを機会に、フレンドと一緒に対戦格闘ゲームにのめり込んでいく、という感じです。カプコンのゲームは基本的に触れつつ、「BLAZBLUE」、「GUILTY GEAR」シリーズもプレイし、「ストV」はベータテストからプレイして、今は「DBFZ」もやっています。


「GUILTY GEAR」シリーズ(画像は「GUILTY GEAR Xrd -SIGN-」

――ご自身がゲームをプレイしているときに、eスポーツを意識することはありますか?

立川選手:最初にウメハラ選手を見たのが高2か高3のときでした。そこでeスポーツというものを知り、その時点でプロゲーマーを目指そうと思いました。

――かなり早い段階でeスポーツやプロゲーマーを意識していたんですね。

立川選手:今活躍しているウメハラ選手たちを第1世代とすれば、自分は第2世代の最初の方になるでしょうか。当時、18歳でプロゲーマーになった人というのはいなかったし、そういう意味では自分が初なのかなと。ちょうど、「ストV」が初めて出たときと大学のために上京する時期とが重なって、初めて開催された全国大会の2on2で準優勝して、それが印象的だったのでプロになり、今こうしてeスポーツとしてゲームをプレイしている、という感じです。

ヤス選手:自分は逆にeスポーツと言われてもあまりピンとこないのですが、「ストV」をプレイしているときは、そういう風を強く感じます。それでも、普段はそんなことを意識せずに格闘ゲームをプレイしていて、それが自然とeスポーツと呼ばれている、という印象ですね。

フラメカ選手:ヤスさんの言うように、自分もプレイしているゲームがeスポーツだと呼ばれていることはわかっているのですが、自分のプレイスタイルはeスポーツじゃない、というかそんなに真面目なことはしていないと言いますか。

 以前に立川さんの家で練習を見る機会があったのですが、そのときにいぶきを使って、立ち中キックがノーマルヒットしているときと、カウンターヒットしているとき、それにガードされているときでコンボを使い分ける練習をしていて「ああ、これがeスポーツなんだな」とは感じました(笑)。

立川選手:僕とゲームしていると「(自身が)プロゲーマーを目指しているとは言えなくなる」というのはよく言われますね。でも、普通に楽しんでいる人と、プロである人がそのぐらい取り組み方がちがうのは当たり前だとは思います。

ヤス選手:「ストV」はそういうことを必要とするゲームで、だからこそ練習もするのですが、傍から見ている人にとっては「君は何をしているの?」と思われてしまいがちですね。

立川選手:そもそも「ストV」は差が出づらいゲームではあるのですが、プロとしてその差をどう出していくのかと言われれば、そういった細かいところを詰めていくしかない。さっきフラメカさんが言っていたカウンターヒットの練習も、結果的には難しすぎて導入できなかったんですが、それが無理かどうかをまず検証して、本当にできるものを大会に向けて取り入れていく、ということは大事です。

しかばね選手:今の話にもあったように、アマチュアがやっているものとプロがやっているものには温度差がありますけど、そういった部分を含めてアマチュアの人はプロのプレイを楽しんだり尊敬するものなのかなと。僕は今年の5月にRed Bull Kumiteに出場したのですが、このときは試合に向けてのモチベーションがとても高くて、強くなるために色々なことを覚えて自信を持って臨みました。

 そこで当たったのが立川さんと同い年のプロゲーマーの方だったんですが、この数カ月で覚えたことが何も通用せず、文字通りのフルボッコにされて……。試合後は放心状態で会場の配信台をボーッと見ているだけで、このときに「これがプロであり、eスポーツなんだな」と感じました。

ほった選手:自分がプレイしているときはeスポーツという高尚なものをやっているとは思っていませんが、大会動画などで例えばときど選手が倒されているシーンの盛り上がりなどを見ていると、これがeスポーツなんだな、と感じます。

――サークルにプロの選手がいることで、メリットを感じたり意識の持ち方に変化があったりはしますか?

立川選手:しかばねさん以外はプロに興味がないというところもあって、そんなに意識してはいないんだろうなと思います。僕としても意識しないで気軽に接してくれればなと。

ヤス選手:自分は立川さんの「ストV」のプレイを間近に見ることで参考にしたり、考え方を変えるきっかけにしたりしていましたね。

フラメカ選手:サークルに入ったときは「これが立川さんなんだな」と緊張していたこともありましたが、立川さん自身がフランクな方で、そのおかげで遠慮や気遣いといったものを感じずに接することができるようになりました。

立川選手:プロ・アマという部分に特別な意識を感じることなく同じサークルメンバーとして活動している、そういう感じですね。もしかしたら、自分のプロとしてのランクが上がったら意識されるようになるのかもしれません。今はナメられているだけかも(笑)。

一同:(笑)

――そもそも友達にプロゲーマーがいる、という時点でかなりなレアケースではないですか?

立川選手:僕はこんなに簡単にプロになれると思っていませんでしたし、それこそかずのこさんやウメハラさんと仲良くなれるとも思っていなかったです。一緒にやっていたゲーム仲間がプロになるとも思っていなかった。プロのバーゲンセールですよね(笑)。

――プロになりやすい道筋ができてきている、ということでもあるのでしょうか。

立川選手:そうですね。今はもう、プロなんて誰でもなれる、というぐらいに増えていますね。それよりも大事なのは、プロになってからどれだけ尊敬を集められるプレーヤーになれるかというところです。尊敬を集めていればお金につながっていくので。プロゲーマーはそういう方向を目指していくべきなのではないでしょうか。

 もちろん、尊敬されるには勝ちを重ねていく方法や、業界に貢献していく方法など、さまざまなやり方があると思いますし、各プロが自分に合った方法を模索していくことになるんでしょうね。

――ちなみに、皆さんには目標としていたり、好きだったりするプレーヤーはいますか?

ほった選手:ときどさんカッコいいから好きです。

しかばね選手:立川さんはもちろんすごく尊敬していて、立川さんの配信も好きで見ている僕ですが、家ではつねに流しているほどに「ストV」の配信を見ています。そんな見慣れたような光景のなかでも輝いて見えるウメハラさんが、僕のなかでは1番ですね。負けても勝っても、面白いことをしてくれるというのが好きです。

フラメカ選手:試合を見ていてときどさんやウメハラさんを応援するということはありますが、それはいわばオリンピックなんかで日本人選手を応援しているのと同じような感じです。プロゲーマーになりたいわけでもないので特に目標もなく、ファンという意味でも1番応援しているのは立川さんですね。

立川選手:1番尊敬しているのはふ~どさんですね。彼のどうでもよさそうにゲームしている感じがすごく好きで(笑)……人読み(対戦相手の使用キャラクターや癖から対策を練ること)がうまくて理屈が丁寧なんです。そして面白いからですね。あと、最近、マルチゲーマーを目指すようになってから目標としているのは、マルチゲーマーとしてもっとも大成しているかずのこさんですね。そういう人たちの取り組み方を見て真似ているつもりではあります。

ヤス選手:僕は……全然思いつかなくて。ゲーム配信や大会動画もしょっちゅう見ているんですが、教材的なところで見ている感じですね。言うなれば「ストV」のプロの方々はみんな尊敬している、というところでしょうか。

りょうと選手:ふ~どさんの配信は参考にしていて、尊敬もしています。かずのこさんも尊敬していて、「DBFZ」の配信とかを見ています。

学生であること、そして将来のことをどう見るか

――皆さんの本分は学生である、というのは大前提になるかと思いますが、そういう観点からゲームのプレイ時間に制限をかけたり、ということはされているのですか?

ヤス選手:時間があるとズルズルとやってしまいますね。時間を決めて集中してやったほうが身につくとはわかっていますが、つい長時間プレイしてしまいます。

立川選手:普通にゲームをプレイしているぶんには、学校生活に影響が出ほどのことはないんじゃないでしょうか。逆に、本気でプロゲーマーを目指しているなら、学業が危うくなってるべきなんでしょうね(笑)。僕の場合は、海外遠征があるので厳しくなっています。

 テストと海外大会が重なると海外大会を優先せざるを得ないので、そういう場合はレポートで対応してもらったりとかしますし、代替案が通らない単位については最初から捨てています。海外大会が多くなると、そのぶん学業が厳しくなりますね。僕はプロゲーマーとしてお金をもらっているので、それで自分の学費をまかないつつ、卒業を前提に行けるところまで行こうかなと思っています。

――大学生プロゲーマーならではの対処法ですね。

立川選手:もうひとつ、大学生であるこだわりとしてサークル活動があります。eスポーツのサークルというものが盛り上がっていないのですが、自分のようにeスポーツのサークルにいるプロゲーマーという他に例のない立場を生かして、日本のeスポーツの発展に寄与できないかなと。せっかくなので僕が大学生かつプロのあいだにできることがあれば何かをした方がいい、という思いはあります

――「大学に行ったらeスポーツサークルに入るぞ!」と思っていた方はいらっしゃるのでしょうか?

フラメカ選手:いえ、何かないかと探していたら見つかったのが今のサークルですね。

立川選手:僕はちょっと違っていて、駒澤大学を選んだ理由が、格ゲーサークルが強かったからなんですよね。「刑事N」さんという方がズバ抜けてうまかったので。もともと大学は楽しいところに行こうと思っていて、それが駒澤大学だった、というところです。

――それはかなり特殊なケースですね(笑)。

立川選手:めちゃくちゃレアだと思います(笑)。

ヤス選手:大学選ぶのにサークルがあってこの人がいるから入る、とか、そんな人いないと思いますよ(笑)。

立川選手:でも、今後増えていってほしいんですよね。僕はずっと駒澤大学を推しているのになかなか人が増えない。

ほった選手:あ、でも僕は駒澤大学に格闘ゲームサークルがあるのがきっかけで入りました(笑)。学力などもちょうどよかったし。

――ここにいらっしゃいましたね(笑)。

一同:(笑)

――高校野球で「あの学校が強いからそこの高校に行きたい」というのがあるわけだから、eスポーツサークルにもそういうのがあってもいいですね。

立川選手:そうですね。プロゲーマー目指したい大学生がいるなら、僕のいる駒澤大学に来るのが1番いいに決まってるんですよ。だってほかにいないんですから。僕の場合、本気でプロゲーマーになりたかったんです。そのためには地元の富山ではなく、東京に出る必要があった。そして、両親に有無を言わさず東京に出るとなったら、これはもう東京の大学に入るのが1番だと思ったわけです。

 自分と同じ境遇にいる人もたくさんいると思うんですよね。だから、そういう人は大学に行くことにして、僕のところに来てプロゲーマーについて学んで、大学生のあいだにプロになる何かを掴めれば、プロへの道のりの9割くらいは達成できるんじゃないでしょうか。他にもプロゲーマーになる方法はあると思うけれど、大学生になる必要があって、プロゲーマーも目指したいなら駒澤大学ですよ!


一同:(笑)

――色々とお話を聞いていると、皆さんが純粋にサークル活動としても楽しまれているようだという感じがとても伝わってきました。

ヤス選手:同じ趣味を持った人たちが集まるというだけでもいいなと思っています。

――一方で立川選手のようにプロになってしまうと、サークルとして楽しむ、というのは難しくないですか?

立川選手:それはあります。プロになってからの1番の敵がモチベーションの維持ですね。プロになってゲームをやらなくなってしまう人もたくさん見てきました。それまではゲームを楽しんでいたのが、プロでは求められるレベルが一気に高くなって、例えば「ときどさんに勝ってくださいね」と言われるようになるわけです。でも、いきなりそんなのは無理に決まっているじゃないですか。プロになったものの、あまりに無理難題を突きつけられすぎて、失速していく人は多いですね。

――プロにともなう責任、という厳しい現実もあるわけですね。ちなみに、皆さんは将来的にどういうことをやりたいと考えているのでしょうか。

しかばね選手:今、せっかくeスポーツが盛り上がっているという現状があるので、自分もそのなかに飛び込んでみてもいいのかもしれないと思っています。これは、プレーヤーとしてという部分にこだわらず、盛り上げる側に回ってみるのも面白いのではないかなと最近考えています。

フラメカ選手:現時点ではゲームに関することを職業にするかはわかりません。まだ大学2年生なので将来を決めかねている段階ではあるのですが、趣味でも仕事でも、何らかの形でゲームに関わっていきたいな、ぐらいに考えています。

立川選手:僕は、目標といったら最初はEVOでの優勝だったんですけど、今はそうじゃないと思っていて、今は日本のeスポーツの地位を向上させたいな、というのが1番の目標になっています。1,000万プレーヤーが生まれるような環境ができればいいなと思っているんですよ。金額はすごさを理解してもらうのにわかりやすいものなので。

ヤス選手:自分はどうしようかと悩んでいるんですけど、今でもゲームが好きすぎるので、たぶん一生やっていると思います。それを趣味とした場合、仕事に支障がでるだろうなというぐらいゲームをプレイしているんですね。ただ、実家がお寺なので……。

立川選手:僕もお寺ですね(小声)。

――えっ、お寺!寺ゲーマーとか新しいですね……!

ヤス選手:お寺さんにも「最近eスポーツとか盛り上がってるからお坊さんやりながらプロゲーマーやりなよ」ってよく言われるんですけど、場所が京都の田舎だということもあって、そこで活動したとして、どうなるのかなと……。あと、宗派から何か言われそうで怖いというのもあるんですよね(笑)。

――実際、ご両親とかを見ていて、お寺とプロゲーマーは両立できそうなものだと感じますか?

ヤス選手:うちの寺は小さくて、親も兼業しながらお寺の仕事をやっていかないといけないぐらいのものでして……。そう考えると、どうしたものなのかなと悩んでしまいますね。

――なるほど、色々と考えや悩みなどがあるのですね。今回はとても貴重なお話をお聞かせいただけたと思います。本日は、ありがとうございました。


「駒格」のみなさん、ありがとうございました!

 最終回となる今回は、対戦格闘ゲームシーンにおいて活躍している大学生のサークルメンバーを取り上げた。対戦格闘ゲームといえば日本のeスポーツシーンが語られる際、話題に上りがちなジャンルではあるが、その一方で大学生として限定してみると意外にもプレーヤーが少なく、有名なプロ選手を擁するほどのサークルですら、メンバー不足の悩みがあるのだという現実を知ることができた。

 また、大学生という先の人生を決定づける貴重なタイミングにあるなか、勉学とは相反するゲームというものと、どのようにして向き合っていくのか……という部分を考えざるを得ないプレーヤーたちの葛藤も垣間見えたように思う。

 このインタビューを通じ、厳しい環境下でも着実に活動をつづけている「駒格」メンバーの努力は素晴らしいものであると感じたし、ゲーム業界に携わる者としても積極的に応援していきたいと思えた。

 さて、3回にわたってお届けしてきた「学生eスポーツの今」。このシリーズを通じ、学生たちのeスポーツの捉えかたや将来観など、興味深い話題を多岐にわたってご覧いただけたと思う。現在学生である方、そしてこれから進学を目指す方だけでなく、社会人の方にも、今後の業界を追っていく上での貴重な生の声として心に留めていただければ幸いである。