【特別企画】

業界トップのイベンターたちが語る、eスポーツの今後、そして野望とは。スペシャルトークセッションレポート

E5esports Works、ウェルプレイド、CyberZ、それぞれのトップがeスポーツ業界を語る

3月3日開催

会場:LFS 池袋 esports Arena

 他の多くの業界にとってそうであったように、2020年はeスポーツ業界にとっても苦しい年だった。オンラインでも楽しめるのがゲームの強みではあるが、やはりeスポーツイベントの醍醐味は実際に会場に赴いて感じる熱気で、それに代えられるものはない。オフラインイベントが無くなってしまったことで多くのイベント企業は減収にあえいでおり、またファンの多くも寂しい思いをしたことだろう。

 そんな中、eスポーツイベントの運営を行なうE5esports Works(以下、E5)が自社の新体制を発表する配信を行なった。eスポーツキャスターの岸大河氏が司会を務めた当配信では、E5が今後予定している定期配信やeスポーツ大会の概要が明かされ、またこれまで運営していたeスポーツ施設「LFS 池袋 esports Arena」のスタジオ化も発表された。

司会を務めたキャスターの岸大河氏

 そして配信後半では、E5代表取締役社長の西川典孝氏をはじめ、ゲストにウェルプレイド・ライゼスト代表取締役の古澤明仁氏、CyberZ取締役CSOの大友真吾氏を招いてのトークセッションが行なわれた。日本eスポーツ業界の開拓者ともいえる彼らは、この2021年にeスポーツの未来をどのように見ているのか。

登壇者一覧

「ゲームは人を変える」業界人が語るeスポーツの魅力とは

 今では業界を率いる企業のトップに立つ彼らだが、そのバックグラウンドはそれぞれ異なる。E5の西川氏はもともとサードウェーブレンタルでゲーミングPCの貸し出し事業に携わっていて、転機となったのは「高校eスポーツ部支援プログラム」だったと語る。eスポーツ部を創始する高校に無償でゲーミングPCをレンタルするこのプログラムを通じて、西川氏は高校生の活発なeスポーツ文化に触れ、それに感化されたことで自らE5取締役に志願をしたのだという。

E5esports Works代表取締役社長の西川典孝氏

 古澤氏の場合は以前はLogicoolに勤めており、PC周辺機器の売上を伸ばすために奮闘していた。そこで自らのサッカー好きであるバックグラウンドから「ただ商品のスペックを周知させるだけでなく、有名選手に使ってもらう方が訴求力があるのではないか」という結論にたどり着き、当時はまだ少なかったeスポーツ選手の広告起用を始めた。そしてマーケティングを通じてeスポーツ選手たちとのかかわりを深めていく中で、いつしか「人生をかけてeスポーツで勝負したい」と思い、会社を立ち上げるまでに至ったと語る。

ウェルプレイド・ライゼスト代表取締役の古澤明仁氏

 OPENREC.tvに携わっていた大友氏がeスポーツに惹かれるキッカケになったのは「LJL 2015 Season1 Final」の現地観戦だったようだ。当時大友氏は「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」についてなんの知識もなかったそうだが、選手のプレイ一つ一つにドッと沸く歓声や会場の盛り上がりに圧倒され「自分たちでeスポーツ大会のブランドを創りたい」と考えるようになったそうだ。そしてそんな大友氏の情熱が反映されてできたのが今の「RAGE」なのだという。三者共もとからゲーマーであったわけではないようだが、今ではeスポーツを通じてゲームをプレイするようになり、それぞれゲーム好きの社員たちに教えられながらゲームをする毎日だという。

CyberZ取締役CSOの大友真吾氏

 「LJL 2015 Season1 Final」の話が持ち上がると、実は古澤氏はこの大会に運営として携わっていたそうで、裏話を一つ語ってくれた。DetonatioNの優勝で幕を下ろした当大会だったが、実は当時のメンバーの一人がeスポーツに理解のない母親との関係に悩まされていたという。古澤氏は「僕らも泣かれてしまったことがあるんです、息子をどうしたいんですか、と言われて」と語るが、しかしこの母親も「LJL」を通して息子のeスポーツ選手としての実力や影響力の大きさに気づき、決勝戦では父親と共に息子を応援していたとのこと。古澤氏は「ゲームが一人の青年をアスリートに変え、周りの人間までもを誇らしい思いにさせられるような人物へと成長させたんです。そういう変化を見ていると、この仕事をやっていてよかったなって思いますね」と語った。

LJLについて語る古澤氏(左)と大友氏(右)

 印象に残っているイベントについて聞かれると、大友氏は「やっぱり第1回目のRAGEですかね」と答えた。このイベントは古澤氏にも「黒船が来た気分だった」と言わしめるほど、当時としては桁違いの規模で行なわれた大会で、それを3カ月足らずの準備期間で実現させたというのだから、大友氏のeスポーツに対する熱意が伺える。岸氏にとっても第1回「RAGE」は印象深い大会だったようで、「あの世界的キャスターMonteCristoが来日するのはあれが最初で最後なんじゃないですかね」と語った。

岸氏(左)と西川氏(右)

ゲームだけじゃない、複合型イベントの可能性とは

 次に話題は「今後やってみたいイベント」に移った。若いころから野球が好きだという西川氏は、ハイレベルな競技シーンのみならず、草の根シーンに焦点を当てたイベントにも力を入れていきたいとのことで「たとえば草野球の大会でも、決勝会場が東京ドームだったら参加者の皆さんはすごくテンションが上がると思うんです。そんな風に、アマチュアの方にも大きなステージを経験してもらえるようなイベントをeスポーツでやってみたいですね」と語った。

今後の展望を語る西川氏

 古澤氏も同じような意見を持っているようで、トッププロたちだけにフォーカスするのではなく、音楽フェスのような複合型のエンタメイベントを開催することでよりマスなオーディエンスを対象にしていきたいとのこと。これを受けて大友氏も「音楽で言うと、うちはエイベックスと協力して何か新しいことができないか模索中です」と語り、また将来的にはさいたまスーパーアリーナのような大きな会場でのイベント開催や、海外進出も目指していると今後の展望を語った。

eスポーツの未来を語る古澤氏(左)と大友氏(右)

 最後に「今後の野望」について聞かれると、まず古澤氏は「オンラインイベントにおける選手と観客との距離感を技術革新で縮めることですね」と語った。古澤氏の会社にとっても2020年は苦しい1年だったようだが、その中でも学んだことは多く、特にオンラインイベントへの更なる可能性に気づかされたそう。もちろんオフライン大会の開催を諦めた訳ではなく「もし今年のどこかでオフラインイベントを開催できる機会があれば、これまでできなかった鬱憤を一気にぶつけるような豪華なものにしたいです」と語った。

 大友氏は「やはり僕らの目標はスターを排出することなので、プロプレーヤーが年俸数億円くらい稼げる環境を作りたいですね」と語った。大友氏によると、イベントにカリスマ的なプレーヤーがいればスポンサーにも還元でき、視聴者からの支援も増えるため、結果的に興行面が潤うようになるとのこと。しかしそれにはまだ課題もあるようで、例えば現在のプロプレーヤーたちの多くは10代のうちから契約書への調印や報酬の交渉を自らしなければならない環境にあり、将来的にはeスポーツに特化したエージェントの台頭が望まれているそうだ。

 そして西川氏は野望を「eスポーツを文化にすること」と語った。いずれ過ぎ去ってしまうブームではなく、日本の社会に根付いた一つの文化としてeスポーツが認められるように活動をしていきたいと、今後の活動に意欲を見せた。

今後の野望を語る3名

 2020年はeスポーツシーンも様々な制約に面し、オフラインイベントの熱狂は遠い昔のものに感じられるようになってしまった。しかし西川氏をはじめ、彼ら3人のような熱意のあるイベンターがいるかぎり、いつかまたオフラインイベントでプロの試合を観戦できる日が来るかもしれないと思える。そんな日のために、今はオンラインイベントも全力で楽しみたいところだ。