【特別企画】

祝実装! 今こそじっくり味わいたいシュトルムティーガー

「World of Tanks」10周年記念で、あの幻の“重突撃戦車”を期間限定で実装へ

6月17日14時~24日14時期間限定実装

 Wargaming.netは、「World of Tanks」10周年を記念したイベントにおいて新型車輌「シュトルムティーガー」を期間限定で実装する。実装期間は6月17日14時から24日14時までのわずか1週間。搭乗するためにはゲーム内での購入やイベント達成の必要はなく、始めたばかりのユーザーでも乗ることができるので、現役ユーザーのみならず、引退したユーザー、新規ユーザーも一緒になって楽しみたいところだ。このシュトルムティーガーは、とにかく「WoT」において曰く付きの存在だった。本稿では特別企画として、シュトルムティーガーの写真とともに、その想い出を語りたい。

 シュトルムティーガーは、戦車ファンなら誰もが知っている戦車史に残る(残らない)特異点として、歴史にその名を刻んでいる。ドイツを代表する名戦車ティーガーのボディに、38cmロケット臼砲を積んだ自走砲。ドイツ陸軍兵器局が、“突撃戦車(Assault Tank)”という、第一次世界大戦でほぼ役目を終えたカテゴリーの自走砲の強化版として“重突撃戦車(Heavy Assault Tank)”を提案。これに強い関心を示したヒトラーがいきなり生産を命じたものの、兵器としての有効性や生産性の懸念などからハインツ・グデーリアンらドイツ陸軍の強い反発に遭い、わずか18輌しか生産されなかった。1944年8月に初めて実戦投入されたものの目立った戦績はなし、ドイツのムンスター戦車博物館とロシアのクビンカ戦車博物館にそれぞれ1輌ずつ現存している。

【シュトルムティーガーギャラリー】
2017年にクビンカ戦車博物館に取材に行った際に撮ってきたシュトルムティーガーの勇姿

 このシュトルムティーガーは、第二次世界大戦期をコアに、戦車戦をモチーフにしたゲーム「World of Tanks」において、幾度となく実装が議論された。“議論された”と断定的に書いているのは、我々メディアも実際にそういう話を関係者から直接聞いてきたからだ。
開発チームもシュトルムティーガーの実装についてあえて打ち消さず、諦めていないことを語りたがった。それはあたかも江戸時代の毛利家で正月に毎年行なわれていたと言われる“倒幕の儀式”、「殿、今年はいかが?」、「いや、まだ早い」のように、「シュトルムティーガーはそろそろ実装されるのか?」、「いや、検討はしているが、まだ解決すべき課題が残っている」というやりとりが繰り返されたのだ。

 今回の発表を目にして、「World of Tanks」担当時代のそういう比較的どうでもいいやりとりをすっかり思い出した。逆に言えば完全に忘れていたのだ。というのも、当時から「World of Tanks」においてシュトルムティーガーが実装されるかどうかは“本当にどうでもいい話”だったからだ。

 シュトルムティーガーの実装について真顔で質問をしているのは、そのほとんど、あるいは全員が「World of Tanks」をプレイしていないユーザーだと言い切れる。「World of Tanks」をプレイしているユーザーは、シュトルムティーガーをTierいくつに入れようが、まったく使い物にならないポンコツになることがわかっているからだ。Wargaming.netが「WoT」に実装してくれなくても、シュトルムティーガーは我々戦車ファンの心の中で、元気いっぱい無限軌道を回し、秋山殿の身長にほど近い1.5メートルものロケット弾を装填しつつある。別にまったく困ってないのだ。

【ティーガー(左)とシュトルムティーガー(右)比較】
いずれもクビンカ戦車博物館のもの。直接比較するとボディが共通であることがわかると同時に、シュトルムティーガーの可愛らしさが際立つ

 予断だが、筆者がことある度に引き合いに出す魂のゲーム「アドバンスド大戦略」(関連記事参考リンク)でも、シュトルムティーガーはまぎれもなくポンコツだった。「S.ティーガー」という名前で、戦車「ティーガーI」からの派生となる自走重歩兵砲として登場していたが、自慢の「380mmロケット砲」は、威力こそ対甲100、対人150となかなかだったが、射程2の間接攻撃扱いで命中50(射程距離が2ヘックスで、命中率50%)、しかも弾数はわずか2というどうしようもない性能だった(だが、そこが良いのだが、それはまた別の話)。

 シュトルムティーガーをゲームに実装するタイミングは過去に星の数ほど存在したが、筆者が直接遭遇したのは2回だ。1回は、2017年、最後のWargaming.net League Grand Finalとなったモスクワ大会で、Wargaming.net主催のクビンカ戦車博物館ツアーに参加したとき。もう1回は、同じく2017年にWargaming.net主催のメディアツアーで、ボービントン戦車博物館に行った時だ。

 クビンカの時は、世界に2輌しか存在しないシュトルムティーガーの実機を見ることができ、ボービントンの時は、ツアーの目的だったWargaming.net謹製の「シュトルムティーガーAR」を体験することができた。しかし、メディアにここまでこの車輌を注目させておいてなお、Wargaming.netはシュトルムティーガーをゲームに実装しなかった。このとき、Wargaming.netのスタッフから直接話を聞いた情報も踏まえて、「シュトルムティーガーが実装されることは未来永劫ないだろう」と思ったものだ。

【セヴェロゴルスクに死蔵されていたシュトルムティーガー】
「WoT」運営チームによればシュトルムティーガーは、パッチ0.9.5の時代から実は実装されていたという

 万が一、ありもしない声に押される形でWargaming.netがシュトルムティーガーの実装を決め、なおかつガッツリビジネスに繋げようとして、自走砲の仕様改編前の「Bat.-Châtillon 155 58」(Tier X自走砲の中で唯一自動装填装置を持つフランスの自走砲)のように夢のある“使える車両”にした場合、今度は虎の子のゲームバランスが滅茶苦茶になるか、多くの戦車ファンがシュトルムティーガーを使いたがった結果、マッチングが成立しなくなるといった異常事態になるだろう。「可能性は匂わせつつ、実装しない」、そこが落とし所なのだろうなと思っていた。

【様々なシュトルムティーガー】
シュトルムティーガー(クビンカ戦車博物館))
シュトルムティーガー(砲身のみ、ボービントン戦車博物館)
AR版シュトルムティーガー
「WoT」版シュトルムティーガー(旧テクスチャ)
「WoT」版シュトルムティーガー(6月17日実装版)

 それだけに今回の発表は驚きだった。疑問に思ったのは、「どうやって実装したのか?」ではなく「どのような実装にしたのか?」だった。Wargaming.netがシュトルムティーガーのプロトタイプをすでに作成済みなのは、シュトルムティーガーARの際に聞いていたし、難物であるロケット砲についてもそのギミックはゲーム内に存在していた。具体的には「WoT」において戦車の砲弾は、ゲーム的な演出として、射撃手(プレーヤー)が視認できるレベルで放物線を描いて飛翔する。あとはロケット弾風の演出を付ければいい。実際公開されたトレーラーでは、綺麗な放物線を描いてロケット弾が飛翔している。

【シュトルムティーガー参戦!】

【シュトルムティーガー射撃シーン】

 実装についてはトレーラーを見て貰った方が早い。性能の再現やゲームバランスの問題を綺麗に解決する「なるほど!」と思わせる実装になっている。

 シュトルムティーガーは、カール自走臼砲や、80cm列車砲グスタフ/ドーラ、はたまた現代戦車レオパルトIIなどと並んで、“未実装の人気車輌”だっただけに、同作の10周年を祝う存在として格好と言える。これがオンラインゲームの至上命題である“新規ユーザー獲得”にどれだけ響くかというと微妙な気がしなくもないが、Wargaming.netがようやく重い腰を挙げ、純粋に戦車ファンを愉しませる企画として頭をひねり、実装までこぎ着けたことを素直に喜びたい。冒頭でも触れたように、シュトルムティーガーに乗って戦車戦を楽しむイベントは、誰でも無料で楽しめるため、戦車に興味のある方、「ガルパン」で名前だけは知っているという方は、一度プレイしてみては如何だろうか?

【ん? まだ見たりない!? シュトルムティーガーギャラリー第2弾】
戦車がもっともセクシーな角度
どの角度から見ても可愛い
38cm臼砲。主砲外周の小さな穴から発射煙を排気する仕組み
主砲は頭がすっぽり入るぐらいデカい
エンジン上部。状態が相当良い
特徴的なティーガーと共通の排気管カバー