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【特別企画】「ガルパン劇場版」のラスボス「センチュリオンMk.I」に会いに世界最大の戦車博物館に行ってきた
2016年6月6日 00:00
突然だがGAME Watch読者の皆さんは「アドバンスド大戦略」というシミュレーションゲームをご存じだろうか。セガが開発したドイツ第三帝国の興亡を主軸に据えたターンベースのウォーシミュレーションゲームで、1991年のメガドライブ版を皮切りに、セガサターンやメガドライブ、PCなどにプラットフォームを変えながら、2006年にリリースされた「アドバンスド大戦略5」まで10作以上が生み出されている。「ガールズ&パンツァー」ファンには、劇場版で大学選抜チームとの試合前にカバさんチームのメンバー達が遊んでいたドット絵のストラテジーゲームといったほうが理解が早いかもしれない。
「アドバンスド大戦略」の凄さは、「大戦略」シリーズのゲームシステムの上に、ドイツ国防軍(ナチスドイツ率いる陸軍、海軍、空軍の総称)の歴史をそのまま載せていることだ。1939年9月1日のポーランド侵攻から、1945年3月のベルリン陥落までを戦い抜く、つまり滅亡するためにゲームをするわけである。ポーランド/フランスへの電撃戦から、バトルオブブリテン、バルバロッサ、エルアラメイン、クルスク、ノルマンディ、バグラチオン、アルデンヌ、ベルリンと確実に滅亡に向かって突き進んでいく。
ゲームの難易度は史実通りで、序盤こそ破竹の大進撃だが、スターリングラード以降の独ソ戦、アメリカ参戦以降の北アフリカ戦線以降はどんどん辛くなり、後半は米軍やソ連軍の圧倒的な物量の前にいかに滅亡(ゲームオーバー)を防ぐかという無茶苦茶な難易度になっていく。どうしても何が何でも断じて絶対に敗北を認められないコアなファンたち(筆者含む)は、“年月が進むと自動的に新兵器が開発される”という本作の独自ルールを逆手に取り、序盤のマップで引き分けを繰り返して年代を進ませる、俗に言う“100年戦争”を行ない、対ソ戦の前にティーガーやパンター軍団を完成させたり、対英戦の前にH級戦艦(ビスマルク級の後継)やグラーフツェッペリンを配備するという遊び方で、ソ連や米英を相手に正面切って勝つという歴史のIFを存分に愉しんだ。
余談が長くなったが、何が言いたいかというと「アドバンスド大戦略」で戦車を学んだ世代からすると、2012年から現在までに渡って高い人気を持続している「ガールズ&パンツァー」は最高のアニメーションだということだ。女の子色が激烈に強いアニメであるため、なかなか表だって言い出せない“隠れ「ガルパン」ファン”も多いと思われるが、「アドバンスド大戦略」ファンは120%刺さるアニメーションだと思う。
たとえば、主人公西住みほの乗るIV号戦車が改良や進化を繰り返しながら活躍する姿は、「アドバンスド大戦略」におけるIV号戦車の活躍と被るところが非常に多い。というのもIV号戦車は、ゲーム内で航空支援を受けながら有利に戦車戦を展開できた最後の世代の戦車であり、アニメと同じように改良や進化を続けながら、序盤から後半に至るまでもっとも投入回数の多い戦車だったからだ。また、ティーガーやティーガーIIといった重戦車は、ゲーム内では移動力や燃料が低く、対戦車性能は最強でも、対空防御はそれほどないため、街や要塞での固定砲台としてしか使い道がなかったが、「ガルパン」では万全な整備状態で思う存分活躍しているところもドイツ戦車ファンとしてはたまらないものがある。
そんな「アドバンスド大戦略」ファンの筆者が、2015年11月に公開された「ガルパン劇場版」で衝撃を受けたのは英国の主力戦車センチュリオンである。劇場版のネタバレになるので、細かい記述は伏せるが、かのティーガーIIより長大な近代戦車が超信地旋回を繰り返しながら舞うように戦い、向かい来る戦車に対して縦横無尽に砲塔を旋回し、次々に撃破する無敵っぷりに深い衝撃を受けた。ちょっと待ってくれと。このアニメはティーガー最強、マウス最強、すなわちドイツ戦車最強で始まって終わるアニメじゃなかったのかと。なるほどこれはつまり、第二期でVII号戦車レーヴェや陸上戦艦ラーテ/モンスター、80cm列車砲ドーラを登場させる布石なのかと。
というような妄想話はともかくとして、センチュリオンは、初期モデルMk.Iを戦場へ輸送中に終戦を迎えるという、厳密には“間に合わなかった戦車”となるため、当然、「アドバンスド大戦略」で交戦した記憶がないし、暗記するほど読み込んだ「アドバンスド大戦略」同梱の兵器マニュアルにも記載がない。このため、正直に告白すると、名前以外の知識をほとんど持ち合わせていなかった。これほどまでに強い戦車について、いつか深く知る機会を得たいと思っていたところ、先月図らずも取材で英国を訪れる機会があり、そのついでに「戦車博物館(The Tank Museum)」に行く千載一遇のチャンスに恵まれた。これはもう日帰りだろうが何だろうが万難を排して行くしかないではないか。
このミュージアムは、かつて「ボービントン戦車博物館」と呼ばれ、300台以上の戦車を収蔵する世界最大規模の戦車博物館である。戦車ファン憧れのこのミュージアムには、英国が世界に誇るセンチュリオン専門のフロアがあり、センチュリオンシリーズの歴史、歴代モデルの変遷、そして「ガルパン劇場版」のラスボスとして君臨する、世界に2台しか存在しないといわれる最初期モデル センチュリオンMk.Iが展示されている。本稿では、「戦車博物館」吶喊(日帰り弾丸ツアー)によって得られた、まさに快挙であり大戦果をここにお届けしたい。
センチュリオンのみならず「ガルパン」登場戦車のほとんどを揃える「戦車博物館」
「戦車博物館」は、テーマ別に6つのフロアに分かれており、第一次世界大戦から現代までの戦車がテーマ別に展示されている。英国のミュージアムだけに、英国製の戦車がもっとも充実しているのは当然のこととしても、ドイツ、アメリカ、ソ連、イタリア、フランス、日本など、まさに世界中から満遍なく戦車を集められ、綺麗にレストアした上で展示されている。実際に訪れてみて驚いたのは、そのコレクションが半端ではないことで、西側の戦車、とりわけ英国とドイツの戦車はほぼほぼ完璧にコレクションされている。
たとえば、英国なら戦車の母国として、英国が誇りとする世界初の戦車「Mark」シリーズから、現役の主力戦車チャレンジャー2まで、100年に渡る主力戦車がラインナップされており、宿敵ドイツにおいてはI号戦車からVI(ティーガー、ティーガーII)までの歴代の主力戦車のほか、ドイツが好んだ駆逐戦車(ヤークトパンツァー)も、いわゆる“三突” の愛称で知られるIII号突撃砲から、ヘッツァー、ヤークトパンター、そしてティーガーIIを改良したヤークトティーガーやシュトルムティーガー(砲身のみ)まで一揃いある。旧軍施設に遺されていたものを展示しているというレベルではなく、世界中から積極的に買い集めており、まさに戦車専門の大英博物館のような施設だ。
ちなみにこの無敵の戦車博物館の唯一の弱点が、旧東側、つまりソ連の戦車はあまりないことだ。T34/85やKV-1はあるものの、T-34/76、IS-2、KV-2といった比較的ポピュラーな戦車が漏れている。ソ連戦車については、素直にモスクワのクビンカ戦車博物館や、本誌でもレポートしたポーランドの軍事博物館/軍事技術博物館に行った方が良さそうだ。
それにしても参ってしまったのは、この博物館の溢れるティーガー愛だ。この博物館は、世界で唯一可動するティーガーと、2台のティーガーIIを保有しており、ティーガーの走行イベントを目玉としたTIGERDAYも毎年開かれるなど、ティーガーを前面に押し出している。
博物館に到着したらまずは主目的のセンチュリオンへ真っ先に向かおうと思っていたら、ティーガーII 2輌の凄まじい抵抗に遭い、いきなり全面降伏してしまった。本博物館の目玉エリアである第二次世界大戦コーナーは入り口が2カ所あり、2輌のティーガーIIがそれぞれの主砲を入り口に向けているのだ。
1輌は、ポルシェが発注しクルップがデザインした、いわゆる“ポルシェ砲塔” が搭載された初期型のティーガーIIで、砲塔を100度ほど旋回し、奇しくも劇場版で逸見エリカ搭乗車の射撃シーンに近い、戦車のもっともセクシーなシルエットで鎮座している。
もう1輌は“ヘンシェル砲塔”を搭載した量産型のティーガーIIで、こちらは砲塔をほぼ正面に向けたオーソドックスなスタイル。こちらはいかにもあのティーガーの後継らしい直線を主体とした砲塔デザインで、まるで要塞が履帯と転輪を付けているような存在感で、終戦まで無敵を誇ったのも頷ける。また、ドイツ戦車の魅力であるツィンメリットコーティング(対吸着地雷コーティング)が施されているのもたまらないところで、その荒々しいデコボコはまるで怪獣の鱗のようだ。それでいて側面や後面装甲にはところどころ欠けがあり、70年以上前の戦闘の様子を今に伝えている。このヘンシェル砲塔のティーガーIIは第二次世界大戦フロアでもっとも人気の高い戦車で、記念撮影を求める来場者が列を成していた。
それらティーガーIIに挟まれるように置かれているのが、ドイツ伝統の駆逐戦車 ヘッツァーとヤークトパンター、そしてM26パーシングだ。ヘッツァーとヤークトパンターは、砲塔を持たずまるで親子亀のような容姿で、ヘッツァーの可愛らしさが際立っている。それにしてもヤークトパンターは巨大で、その隣にあるM26 パーシングですら小さく見えるほどだ。
M26パーシングは、M4シャーマンの後継モデルで、ずんぐりむっくりのM4シャーマンと比較して、さらに横にもでっぷりしており、全然強そうに見えない(ひいき目補正あり)が、実際にはセンチュリオン Mk.Iと違って第二次世界大戦に間に合い、ドイツ本土において数度交戦記録があり、パンターやティーガー、IV号戦車を撃破した、とされる。
結局、その後も、M24チャーフィーに、ヤークトティーガーに、II号戦戦車に、IV号戦車にと、「ガルパン」戦車が次から次に展示されており、全部舐めるように鑑賞してしまった。この博物館は本当に凄い!!