【特別企画】

【新春特別企画】GeForce RTX vs. RADEON VII! 最新GPUでゲーム体験はどう変わるのか。2019年のGPU勢力図はこう変化する!

1月6日~11日開催

会場:Las Vegas Convention Center他

NVIDIA、CEOのJensen Huang氏

 本年も例年通り、世界最大規模のエレクトロニクスショウ、CESが米ラスベガスで開催された。1月8日からの「CES 2019」エキシビション開催に先立って、6日と7日には、メディアディの名の下に多くのメーカーが発表会を開催している。

 メディアデイ初日の6日には、NVIDIAがプレスカンファレンスを開催し、新GPU製品「Geforce GeForce RTX 2060」の発表を行なった。カーエレクトロニクスにディープラーニングと、新しいマーケットを切り開く製品の話題が中心だった昨年と打って変わって、本年はGamescom 2018からの流れを受けてか、ゲーミングに回帰してGPU製品の発表を行なったことは、素直に喜ばしい。

 また、その3日後の9日には、AMDが基調講演の中で、こちらも最新GPU製品「RADEON VII」の発表を行なった。従前よりCES主催者サイドから、AMDが基調講演を行なうことが来場者に向けて大きく伝えられていたことから、会場にはゲーミングに関心を持つ層のみならず、幅広い層の聴衆が詰めかけていた。

 両社がひとつのイベント開催中に、ほぼ時を同じくして新製品を発表することは特段に珍しいことではないが、今般投入される製品のコンセプトは実に対照的だ。

 特定の機能に特化してアクセラレートするコアを追加して、新しい表現の実現に大きく踏み出したNVIDIAに対して、従来の方法論の延長線上でありながら、プロセッサに望まれる順当な進化をいち早く果たしたAMD。それぞれが注力する進化の方向性や、マーケットニーズの捉え方の違いが色濃く反映されたプロダクトが登場することとなった。

 本稿では、両社の新GPU製品の特性を紹介するとともに、2019年のゲーム体験に与えるインパクトと、ゲーマーがビデオカードをリプレイスするとすれば、どちらの製品を導入すべきか、一定の結論を出しておきたい。また、今後数年間の間に、PC向けGPUに訪れる変化について、今般の発表を含めて、すでに判明している情報をひとまとめにしたい。

NVIDIAは待望のミドルレンジ製品「GeForce RTX 2060」を早くも投入!

GeForce RTX 2060を掲げるJensen Huang氏

 まずは、先行して発表を行なったNVIDIAの製品から紹介しよう。既報の通り、今般発表されたのは「Geforce GeForce RTX 2060」だ。昨年Gamescom 2018で発表されたリアルタイムレイトレーシイングをアクセラレートするRTコア内蔵“Turing”アーキテクチャ製品「GeForce RTX 2080Ti/2080/2070」に、ミドルレンジ価格帯の製品が加わることになった。「GeForce RTX 2060」(FOUNDERS EDITION)の北米での価格は349USドル(約38,000円)で、「バトルフィールドV」または「アンセム」がバンドルされるプロモーションが実施される。北米での発売は1月15日で、日本での発売も同日となる模様。

 「GeForce RTX 2060」発売に際して、ゲームバンドルプロモーションは既存モデルに対しても行なわれる。「GeForce RTX 2070」では「GeForce RTX 2060」同様に、どちらかひとつのゲーム、「GeForce RTX 2080」または「GeForce RTX 2080Ti」には、ふたつともバンドルされる。このプロモーションは、ビデオカード単体、RTX搭載PCを問わず、日本でもNVIDIA側で実施されるため、どのベンダーの製品を購入してもゲームの入手は可能だ。

 日本マーケットでの価格は北米とは異なるものになると思われるが、ビデオカード単体製品が税別で4万円を超えるあたりの価格帯での販売が予想される。価格についでは、ビデオカードベンダー各社からの追加情報を待ちたい。

【GeForce GeForce RTX 2060】

GeForce RTX 2060の外観

 カンファレンスやNVIDIAのサイトで公開されているスペック情報を見るに、「GeForce RTX 2060」は、ゲーマーにとって非常に魅力的な製品だ。

 リアルタイムレイトレーサーの性能は5Gレイ/sで「GeForce RTX 2070」比で17%程度しか差はなく、機械学習の性能は52T Tensor FLOPSで、やはり13%程度の性能差しかない。対して価格は30%程度安価なことから、コストパフォーマンスに優れた製品で、勢い飛びつきたくなる。

 “Pascal”世代の「GeForce GTX 1070」との比較でもCUDAコアは1,920基と同数で、容量は6GBと少ないもののメモリの世代がGDDR6に進んだことから、RTコアを使わないグラフィックス描画でも、同等かそれ以上のパフォーマンスが期待できる。

【“Turing”アーキテクチャ概要】

 とはいえ、比較的安価だということだけに注目して、満足の得られないスペックのものを間に合わせに購入しても無駄遣いになるだけだ。コアゲーマーなら、自分の環境下に「GeForce RTX 2060」を導入するとして、プレイしたいゲームで十分納得のいくパフォーマンスが出るのか、あるいは「GeForce RTX 2070」や「GeForce RTX 2080」といった上位モデルが必要なのか、ベンチマークソフトや体験版等で慎重に見極める必要があるだろう。

 リアルタイムレイトレーシングそのものや、先行して発売されている上位モデルについては、昨年のSIGGRAPH2018の模様と、Gamescom2018の模様の記事を参考にしてほしい。

【バトルフィールドVのリフレクション】
RTXによる水面やガラス面の反射表現
上がRTXによるレイトレース反射、下が従来のSSR(スクリーンスペースリフレクション)。SSRには画面外で発生する変化を反射すべき鏡面に描画できない弱点がある

【Battlefied V RTX On/Off Demonstration - CES 2019】

 今回のHuang氏のプレゼンテーションによると、比較の前提として、「GeForce RTX 2060」は、リアルタイムレイトレース(RTX)対応ゲーム「バトルフィールドV」において、1440p(WQHD/2,560x1,440)解像度で、RTXオフにして従来通りのスキャンラインレンダリングを行なった場合、60FPSオーバーのフレームレートになるという。このフレームレートは、RTコアを使わないリアルタイムレイトレースの状態では、50FPS前後まで低下する。これをRTXオンにしてRTコアを使ってアクセラレートすると、RTXオフの状態と同様の60FPSオーバーまで復帰するという。

 このことはつまり、RTXによるリアルタイムレイトレースの機能を切っても切らなくても、「GeForce RTX 2060」を導入すれば、1440p環境下でフレームレートが変わることはなく、安心してRTXオンでゲームプレイできることを意味している。

 一方で、リアルタイムレイトレースのハードウェアアクセラレートがない「GeForce GTX 1080」等では、CUDAコアやCPU側でフォールバックしてレイトレースすることになるため、少なくとも17%程度はパフォーマンスが低下することを暗示している。60FPSをひとつの基準とすると、この値はGTX製品では達成不可能だ。もっとも「バトルフィールドV」の場合、そもそもGTX製品ではゲーム側の設定画面にDXR設定が表示されないため、RTコアのない“Pascal”コア搭載のビデオカードの場合、RTXオフによる従来のスキャンラインレンダリングによる描画にならざるを得ない。

 GTXユーザーは、従来のレンダリングテクニックによる描画だからといって、ビジュアル品質が著しく損なわれるわけでも、ゲームプレイが大幅に不利になるわけでもないことに安心してほしい。わかりやすいところでは、反射、屈折の正確さや、影品質に目立った違いが現われるため、「GeForce RTX 2060」は、このあたりのビジュアル表現を、より良い状態で楽しみたいという人にとって、比較的リーズナブルな投資で済む良い選択肢だと言えるだろう。

【RTX対応ゲーム「逆水寒(Justice)」】

BioWareの新作「アンセム」は2月15日からプレイ可能に

 ハイエンド製品のみだったGamescom 2018の段階から進んで、より安価な「GeForce RTX 2060」が投入されたことによって、2019年はいよいよ幅広い層のゲーマーにリアルタイムレイトレースが浸透していく期待がある。とは言え、ハードの普及には対応ソフトの拡充が必要不可欠だ。

 現状のRTX対応ゲームのほうはというと、NVIDIAサイトで紹介されているタイトルは「バトルフィールドV」、「シャドウ オブ ザ トゥームレイダー」、「メトロエクソダス」、「ファイナルファンタジーXV」(ベンチマーク)、「Atomic Heart」「Control」の6タイトルにとどまっている。

 Gamescom 2018で大きく紹介された「Assetto Corsa Competizione」と、カンファレンスで紹介された「アンセム」、「逆水寒(Justice)」の3タイトルを加えても9タイトルと、まだまださびしい状況ではあるが、これらのタイトルとあわせて少なくとも22タイトルは名前が挙がっていることから、2019年のうちには、ある程度まとまった数のタイトルがリリースされる期待はある。特に人気の衰える様子が見えない「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」あたりが対応してくると、RTX製品の普及は加速するだろう。

【新たに公開されたRTX対応ゲーム「アンセム」】

【「アンセム」のアンチエイリアス比較】
上がテンポラルAA、下がAIを活用したDLSSによるスムージング

 「Unreal Engine」や「Unity」といった汎用ゲームエンジンにしても、Electronic Artsの「FROSTBITE」のような内製エンジンにしても、フェイク技巧の介在する余地のより少ないシンプルなレンダリング技法であるレイトレーシングは、大きな方向性としては、かねてより歓迎の方向には違いない。

 にもかかわらず、対応ゲームが増えない最大の原因は、ハードウェアやゲームエンジンといった下位のレイヤーではなく、ゲームコンテンツそのものにある。

 ひとつは、動的に変化する、大量のオブジェクト、多数の光源、多様な質感を、何も考えずに十分なサンプル数、十分なレイトレース回数で、リアルタイムレイトレーシングするには、まだまだコンピューティングパワーが足りず、取捨選択が必要なことが挙げられる。

 もうひとつは、レイトレーシング過渡期である現在、グラフィックスリソースの製作において、従来のスキャンライン技法を前提に、フェイクや大胆な近似を駆使して処理負荷を低減することに最適化されたリソースと、レイトレーシング技法に必要な正攻法でシンプルなリソースの両方を用意する必要があることも大きいのだろう。

 物理ベースのシェーディングモデルの浸透によって、“正しいこと”の実践は、以前よりずっと進んでいると考えられるが、それでもゲームに要求されるパフォーマンスを維持しながら、“正しくない”例外を完全に排除することは不可能だ。また、リソースデータの不完全さや計算誤差、サンプリング不足に起因するアーティファクトやノイズを良好なレベルに抑え込むには、リアルタイムレイトレーシング固有のまた新たなプラクティスが必要になりそうだ。

 もっとも、このあたりの課題に対しては、妥当な“落とし所”で折り合いをつけるしかないから、それこそ時間が解決してくれる類の課題ではある。RTX製品をミドルレンジに投入した今、NVIDIAとしてもソフト不足の状態のままにしておけないだろうから、2019年もゲーム開発スタジオに対する技術的バックアップを精力的に行っていくと考えられる。

【RTX新作技術デモ】
以前公開されていた踊って終わるオチではなく、どこかの惑星に射出されてしまい、勢いで埋まってしまうオチ

【「プロジェクト Sol」第二弾 シネマティック (字幕付) - CES2019】

【Atomic Heart - CES 2019 RTX Tech Demo】

RTX搭載でMAX-Q規格ノートPCがスペックアップ

Jensen Huang氏が掲げるのはGeForce RTX 2080搭載のGIGABYTE「AERO 15-Y9」と思われる

 その他、RTXに関係するニュースで大きいのは、NVIDIAが主導する「MAX-Q」規格のノートPCに全世界で40以上のRTX搭載モデルが投入されることだろう。そのうち17機種は、1月29日にもリリースされるという。

 すでにRTXシリーズを導入済みのコアゲーマーにとっては、あまりピンとこない話かもしれないが、日本の住宅事情から、ゲーミングが主なPCの用途だという人でもノートPCの利用者は案外珍しくない。15インチサイズノートPCのGPUが順当にRTXにリプレイスされることで、ビジネスマンが求める、持ち運びができて仕事と遊びの両方に使える製品が充実する。

 建築や医療、教育といった分野では、相手の要望に応えながら次々と変化させてビジュアライズしてみせる、といったこともストレスなく行なえるようになるだろう。映像やゲームなどエンターテイメントの分野では、AR/VRデモや、打ち合わせの際に、その場でArnoldで再レンダリングしてみせるといった仕事での利用シーンが思い浮かぶ。

 仕事ではオフィスドキュメントの編集程度しかしない人でも、出張先でストレスなく夜な夜なPCゲームに興じることができる。モバイルゲームで我慢したり、据え置き型のコンソールゲーム機を持ち運ぶより、ずっといい選択肢だ。

RTX搭載ノートPCは40モデル以上発売される

 カンファレンスの場では、「GeForce RTX 2080」搭載のMSI「GS65 Stealth」と、「GeForce RTX 2060」搭載のAcer「Predator Triton 500」が壇上のHuang氏から紹介された。

 「GS65 Stealth」のほうは、従来の「GeForce GTX 1080」搭載モデルより15%軽く、10%小さく、2.5倍のバッテリー持続時間を持ち、LCDは144Hx駆動で狭ベゼルである上に、PS4 Proの2倍高速だという。比較的ロースペックの「Predator Triton 500」でも、PlayStation 4 Proの1.6倍高速で、「バトルフィールドV」が60FPS以上で動作するというのだから、どちらも必要十分なノートPCだと言える。

 ちなみにPS4 Pro比で1.6倍高速というのが、例によって何を根拠に言っているのか、いまひとつ判然としなかったり、「バトルフィールドV」の60FPS以上というのが、このときばかりは1440pではなく1080pだったりするのが若干ミスリードという感がしないでもないが、搭載LCDの解像度が1080p(1,920x1,080)であることから、冷静に考えれば合理的で妥当な表現と言えるだろう。

 CPUやGPUといった主要パーツの交換ができないノートPC、しかも冷却にも気を使うスリムタイプの場合、予算が許す限り高スペックのものを選んだ方が、故障なく長く使えることが多い。仕事などで持ち運んで使う場合には、サイズ感やバッテリー持続時間も重要なことから、競合製品が出揃った段階で、しっかりと比較検討して選択することをオススメしたい。

【RTX搭載ノートPC】

AMDの選択は順当な進化!!7nmプロセスルールに移行した「RADEON VII」

AMD、CEOのLisa Su氏

 NVIDIAが、リアルタイムレイトレースという見た目にわかりやすい切り口で訴求するのに対し、AMDは、過去から脈々と続くプロセッサ進化の方程式に則った、既存のゲーム体験という経験からも容易に想像しやすい順当な進化で訴求する。

 北米時間の2月7日に発売される「RADEON VII」(Vega 20)で訴求するポイントは「世界初の7nmプロセスルールGPU」この1点だ。7nmは、前モデル「Radeon RX Vega」(Vega10)シリーズまで採用されていた14nmの半分にまで微細化されたことになり、またNVIDIAのRTXシリーズが12nmに留まっていることと比較すると非常に大きな前進だ。

 プロセッサの進化にある程度理解がある人なら想像がつくように、プロセスルールの微細化は、高クロック化や電力消費量の低下をもたらす。「RADEON VII」では、「Radeon RX Vega 64」との比較で、ユニファイドシェーダーが256減の3,840、テクスチャマッピングユニットが16減の240、コンピュートユニットも4減の60となったが、ピークの動作クロックは16%引き上げられ1800MHzとなった。加えて、VRAM側もクロック数2000MT/s、4096Bit幅と2倍のバス幅になったHBM2が容量も2倍の16GB搭載され、メモリ帯域幅も1, 027GB/sと2倍以上に強化されている。これで北米での価格は、699ドル(約76,000円)だというのだから、NVIDIAの「GeForce RTX 2080」より100ドル(約11,000円)安いことになる。

 さらにメインボード、ひいてはCPUと接続するバスにPCIe 4.0×16を採用している。PCI-e4.0は3.0の2倍の63.02GB/sに強化されていることから、メインメモリとの間でテクスチャ転送が発生しても以前の倍の速度で転送が完了することになる。

【「REDION VII」の特徴】

 これらを総合すると、Lisa Su氏が主張する通り、同一消費電力あたり25%のパフォーマンスアップ、「バトルフィールドV」で35%、「FORTNITE」で25%、「STRANGE BRIGADE」で42%というのも決して大げさに喧伝しているわけではないように思える。「GeForce RTX 2080」とのフレームレート比較では、「バトルフィールドV」や「FAR CRY5」で互角かやや上回り、「STRANGE BRIGADE」では20%程度も上回るという。

 ただし、ここで注意しておきたいのは、AMDは現在のところDXRを始めとするリアルタイムレイトレーシングには、ソフトハードともに一切サポートしていないということだ。そのため「RADEON VII」では「GeForce GTX 1080」等と同様、「バトルフィールドV」のゲーム設定でDXRを有効にできない。

 また、仮にAMDがリアルタイムレイトレースをドライバやローレベルなライブラリに実装してフォールバックするようにしたとしても、「バトルフィールドV」やその他のリアルタイムレイトレーソング対応ゲームが「RADEON VII」では専用コアによるハードウェアアクセラレーションがなされることはない。

 NVIDIAは、「GeForce RTX 2060」でさえRTXオンの状態とオフの状態でフレームレートに変化はないとしていることから、「RADEON VII」と「GeForce RTX 2080」との比較において、「RADEON VII」ではリアルタイムレイトレースなし、「GeForce RTX 2080」はリアルタイムレイトレースありで互角のフレームレートということになる。

【「REDION VII」の特徴】

 独自のプロモーションもスタートする。AMDは3月15日から「RADEON VII」または第2世代「RYZEN」5または7CPUにUbi Softの「DIVISION 2」をバンドルするプロモーションを展開する。ゲームソフトのほうでも、EA「バトルフィールドV」vs. Ubi「DIVISION 2」で、さながらNVIDIA vs. AMDの代理戦争のような様相を呈していくわけだ。

 現在Ubiが公開している対応ハード情報によると、「DIVISION 2」はリアルタイムレイトレーシングに対応しない。これには、先述したようにRTXへの対応前提に開発してきたゲームではない場合、相応に対応コストがかかるということが主な原因だろう。もちろん、パートナーシップを結ぶAMDに配慮した、という可能性も否定できない。

第3世代「Ryzen」チップを掲げるLisa Su氏

 AMDの発表で、もう1点特筆しておきたいのは、第3世代「Ryzen」CPUの“プレビュー”発表だ。現行の12nmから「RADEON」同様に7nmに進む他、PCIe 4.0バスに対応する。「RADEON」同様にプロセスルールの微細化によって、クロックを引き上げてくることが考えられるほか、ビデオカード、マザーボードとともにシステム全体をPCIe 4.0にアップグレードすることで、ボトルネックになりがちなIOを一気に改善することができるだろう。

 講演中のデモでは、第3世代「Ryzen」CPUで、最高グラフィックス設定の「Forza Horizon 4」を、1080p(フルHD/1,920x1,080)解像度で実演していた。フレームレートが100FPSを切ることがなかったことから、第3世代「Ryzen」への期待が膨らむ。“プレビュー”ということで、具体的な製品ラインナップやスペック、発売時期や価格に関する発表はなかったが、NVIDIAとIntelを牽制する内容としては十分ということなのだろう。

【第3世代「Ryzen」】

“GeForce RTX vs. RADEON VII”買うならどっち?

「RADEON VII」を掲げるLisa Su氏

 さて、最後に筆者の私見を交えて、この「GeForce RTX 2060」と「RADEON VII」を検討していきたい。まず非常にわかりやすい対立軸として、リアルタイムレイトレースのサポート有無が挙げられるだろう。先述した対応予定ゲームや日常の仕事のシーンで、リアルタイムレイトレースの恩恵を受けることが確実な人は、NVIDIAのRTXシリーズから製品をチョイスして良さそうだ。

 どのグレードのものを選択するかは、お財布や自己のアプリケーション実行環境とご相談の部分ではあるが、高解像度、HDR、高リフレッシュレートのゲーミングモニタをすでに導入している人は、お財布が許す限り上位のグレードのものを選んだ方がいい。ノートPCを新規に購入したり、持っているモニタの性能がそれほど高くない人は「GeForce RTX 2060」でも、ゲーミング用途としては相応の実力を発揮するから、特に不満はないのではないかと思う。

 次に、レイトレースが必要ではない人にとって、「RADEON VII」が買いなのかというと、実はそうとも言い切れない。価格差が100ドルしかないことから、なんだかんだ言ってグラフィックス品質を求める人は「GeForce RTX 2080」を買ったほうが、将来的なリアルタイムレイトレースの普及で幸せになれる期待がある。

 「RADEON VII」の実勢価格がこなれて「GeForce RTX 2070」と競合するあたりまで下落すれば「RADEON VII」は魅力的になってくるが、さすがにそこまで大きく値を下げるとも思えない。先行した分だけ発売から時間が経っている「GeForce RTX 2070」搭載製品の価格下落も始まっており、やはり「RADEON VII」は「GeForce RTX 2080」比でどこまで割安感を出せるかに懸かっている。

 もっとも、AMDのVega20搭載シリーズは、「RADEON VII」のみということは考えられず、NVIDIA同様にVega20搭載の下位モデルを早々に投入してくる可能性もある。またはVega10搭載モデルや前世代のPolaris搭載モデルをリネームしてシリーズを構成し直す可能性も多分にあるだろう。そういった流れのなかで、「GeForce RTX 2060」や「GeForce RTX 2070」と競合する廉価な製品ラインナップから「RADEON」を検討してもいいだろう。

【「REDION VII」実機】

 では、「RADEON VII」がどういった人にオススメなのかというと、ビデオカードのリプレイスサイクルが5年程度と長く、レイトレースに対してまったく魅力を感じておらず、関心もない人だろう。従来からのスキャンラインで、可能な限り高解像度、高フレームレートでプレイしたいならV-RAM16GBのアドバンテージが活かせるはずだ。加えて7nm化による低消費電力化は、同時に発熱が抑えられることを意味する。オーバークロックに対する耐性も期待できるだろうし、たとえオーバークロックに興味がなくても、発熱が少ないということはGPUが熱によってダメージを受け故障してしまうリスクが比較的少ないということになる。

 また、PCIe 4.0への移行も、PCにおいてこれから2年3年をかけて進んでいくと考えられる。いち早くPCIe 4.0に対応した「RADEON VII」なら、CPUやマザーボードがPCIe 4.0への移行を果たした際、即座にPCIe 4.0のバス高速化の恩恵を受けることができる。

2020年に訪れるターニングポイント! Intelを交えてPC向けGPUは三つ巴の時代に

近年の動向を解説するLisa Su氏

 筆者は、今年生じたRTX vs. RADEON VIIの図式は、結局のところリアルタイムレイトレースと半導体製造プロセスルールの微細化が互いに前後しただけだと捉えている。

 長年AMD GPU技術の顔であったRaja Koduri氏がAMDを離脱し、まったく新しいGPUの設計が難航しているのか、AMDはレイトレースをアクセラレートするコアをチップ内に含めることに後れを取った一方で、CPUとも共通する高速化の方向性である7nm化はTSMCが順調に実用化にこぎつけた結果、いち早く実現することができた。

 他方のNVIDIAは、順調にリアルタイムレイトレースを実現した一方で、AMDとは反対にSAMSUNGの7nm化の遅れのために12nmに留まっているのではないかという噂がある。

 いずれにしても、両者それぞれの課題は、遅くとも今後2年の間には解決される問題だろうから、2020年ごろまでには、それぞれがお互いに足りない穴を埋めてくることに期待したい。その時までに、現状NVIDIA75%程度、AMD25%程度といわれるPCにおけるGPUビデオカードのシェアが、さらにNVIDIAに傾いてしまうと、AMDはNVIDIAとの競争を続けられなくなるかもしれない。

 IntelがPC用APU、NVIDIAがPC用GPUとデータセンター用GPGPU、AMDがコンソールゲーム機等の組み込み用APU、Qualcommがモバイル用APUと完全にデバイス別に棲み分ける構図ができあがってしまうと、公正な競争がなされず、市場原理が働かなくなるというのは良く言われる話だ。AMDのGPU製品自体のコンセプト、アーキテクチャともに良いものはあるわけだから、ここはひとつ大幅な価格訴求をしてでも、是非ともここで踏ん張ってもらいたい。

【AMDの近年の歩みと取り組み】

「Ryzen」ではPCIeの世代が4.0に進む

 他方、CPUとしての「Ryzen」が好調なAMDは、久方ぶりにCPUでIntelと対峙する姿勢を鮮明にしていると受け取れる。すでにVega11やVega8といったGPUコアをパッケージ内に収めAPU化した“Raven Ridge”「Ryzen」をリリースしているが、この製品カテゴリはそっくりそのまま次世代のコンソールAPUへと繋がっていくものだろう。

 受けて立つIntelの方も、Gen11で「Intel Iris Graphics」「Intel Iris Pro Graphics」の強化を明言するばかりではなく、2020年にもGPU単体製品「Xe」を製品化することを目指しており、AMDと競合を激化させる方向だ。

 AMDがIntelのCPUシェアを侵食する一方で、IntelがAMDのGPUシェアを侵食するという二つ巴の構図になるのはあまり好ましくないが、Intelの単体GPU「Xe」がNVIDIAのシェアを狙い撃ちするものだとすると俄然面白くなってくる。元AMDのRaja Koduri氏が率いるIntel「Xe」が、現行の「RADEON」の先でやりたかった構想を具現化したものになることは間違いないだろう。常に2番手だったAMDではできなかったことを1番手の一員となったKoduri氏がどのように実現していくのか興味は尽きない。すべてを総合すると、PC向けGPUのターニングポイントは、どうやら2020年ごろにやってくるようだ。