ニュース
【CES2018】NVIDIA「G-SYNC」4KHDRゲーミングモニターに大型65インチ仕様を投入
2018年1月10日 15:21
1月9日(火)からの「CES 2018」開幕に先立ち、米国ラスベガスでは、メディアディと称して、プレス向けの発表会が次々と開催されている。
ゲームにおける最大規模のイベントとしてはE3が挙げられるが、ことハードウェアに関しては、CESが製品の初披露の場となることも少なくない。近年では、2016年にHTCが「Vive」のプレバージョンを大々的にアピールしている。
ゲーム関連ハードにおいては、1月7日(日)に、GPUベンダーの雄NVIDIAが先陣を切ってプレスカンファレンスを開催した。また、翌日8日(月)には、PCゲーミングに特化した内覧会を行なっている。本稿では、CES2018の第一報として、このプレスカンファレンスと内覧会の模様を通じて、NVIDIAの動向をお伝えしたい。
大きくポジションを後退させたゲーミング
初日のプレスカンファレンスでは、同社CEOのJensen Huang氏が、ゲーミングに関する2017年の展開を、冒頭でごく簡単にまとめに留まった。ゲームプレイの基盤となるコンシューマGPU製品の新しい話題はなく、ソフトウェアに関しても同様であった。
昨年は、「GeForce NOW for PC and Mac」や「SHIELD TV/Pro」が、しっかりとプレスカンファレンスのトピックとして位置付けられていたのに対して、今年の話題の中心はカーエレクトロニクスと、それに関連させたディープラーニングによるAIの話題が中心で、完全に事業の舵をそちらに切ったことがうかがえる。ゲーミング市場が1000億ドル、AI市場が3兆ドル、自動車市場が10兆ドルと列挙されてしまうと、ゲーミングの本カンファレンスにおける位置付けは、単なる呼び水でしかないことが分かる。
ゲーミングに関して唯一といっていいほどの話題は、NVIDIAが主導するゲーミングノートPC規格「MAX-Q」デザインに基づくGIGABYTEの新製品をHuang氏が手にとって披露したことだ。このノートPCは、厚さ20ミリ、重さ約2.27Kgと軽量スリムながら、Mac Book Proの4倍、ハイエンドコンソール機の2倍のパフォーマンスだという。何をもって4倍、2倍のパフォーマンスなのか、具体的に示されることはなかったが、ゲーミングPCであることから、いくつかのゲームタイトルをサンプルに実行した結果、良好なパフォーマンスを発揮しているのだろうと予想される。
本機に関しては、撮影した写真からGIGABYTEの製品だと分かるものの、具体的な型番が示されることはなかった。写真から推測するに、外観は「Aero 15X」に酷似している。これが「Aero 15X」だとするなら、2017年11月には北米市場に投入されているため、これも必ずしも最新の情報とは言い切れないことになってしまう。もちろん、共通の外観を持つ「Aero」シリーズの未発表機種の可能性もある。
さて、このカンファレンスをゲーマーはどう捉えれば良いのだろうか。PC向けのCPU、GPU市場が縮小していくなかでの時代の趨勢と言ってしまえばそれまでだが、もはやゲーミングだけがGPU性能の向上を牽引する時代は終わったのではないか、ということだけは心に留めておく必要があるだろう。
NVIDIAの基本的な技術革新モデルは変わっていない。計算コストの高い事象に対して、NVIDIAのGPUを使えば、CPUや競合GPUで計算するより、こんなにも短時間で同じことができますよ、というのが訴求のポイントだ。
かつては、それが3Dグラフィクスの計算処理であり、ゲームに内在するリアルタイム指向もあいまって、より高速な演算性能を有するGPUを開発する意義のすべてと言って良かっただろう。ところが、近年注目を集めている自動車の運転アシストの方が、この高速演算に対する要求レベルが格段に大きい。
ゲームでは、出力イメージのソースを、すべてあらかじめデータとして用意されているのに対し、自動車の場合は、カメラからの撮像素材が入力ソースとなる。静的で変化しない道路や標識のみならず、人や他の自動車といった動的な物体の存在、移動方向、速度をリアルタイムで解析し、この先起こりうる危機を確実に予測しなければならない。リアルタイム処理では間に合わない事項については、機械学習によるAIも活用される。最終的なゴールである自動運転に至っては、完全に人間の命を預かることにもなり、要求精度は計り知れない。
もちろん、今なおNVIDIAを支えるのは、依然としてコンシューマGPU製品であることに間違いはないのだが、もはや高速演算要求の度合いを急速に引き上げるものでもないのだろう。今後は、ある程度価格が高くても許容される組み込みパーツとして、自動車に対して優先的に供給することで性能向上を図り、そこで枯れた技術となったものが、コンシューマ製品に落ちてくる、という流れになるのではないだろうか。
大きな市場規模を持つ他業界への製品投入が先行すれば、今後はコンシューマ向けハイエンド製品でも、最初からこなれた価格でリリースされるようになる可能性もあるだろう。現状、事業転換の過渡期にあることもあり、近い将来のNVIDIAの製品投入を、あれこれ想像させた一幕であった。
ゲーミングモニタに新しい方向性を打ち出したBFGDs
一方、翌日の内覧会のほうは、ゲーミングにフォーカスした場ということもあって、前日にニュースリリースが流れた話題を、実際にこの目で確認することができた。
今回CESに合わせてゲーミングに関して発表された事項のうち、本内覧会で確認できたものは3つ。ひとつは、プレスカンファレンスでも紹介された「MAX-Q」デザイン準拠のノートPCだ。展示されていたのはASUS、ACER、そしてGIGABYTEの製品で、やはりGIGABYTEの製品がもっとも薄型スリム、しかも静音性に優れた設計になっている。もっとも、ゲーミングノートPCに関しては、ゲームのプレイフィールもあって、かならずしも薄型でスリムなことが是ではないため、このあたりは「MAX-Q」のレギュレーションが許す範囲で、各社それぞれの個性に基づいて設計しているということだろう。
ふたつ目は、NVIDIAがドライバとともに配布しているゲーム環境設定ツール「GeForce Experience」の最新版が1月9日にリリースされるという話題だ。「Gamescom」時点のものからの差分でいうと、「Ansel」の機能の一部であるフィルタと同様のものが「Freestyle」と命名された別の機能として追加された。「Ansel」とは異なり、ドライバレベルで取得した最終レンダリング結果をフレームバッファから取得してポストフィルタを適用するため、ゲーム側での特別な対応が必要ないのが登頂だ。現在100タイトルあまりの対応ゲームがリストアップされているが、ツールの仕様から、特に対応、非対応という区別はないはずなので、このリストは動作確認済のタイトルということなのだろう。実際には、もっと多くのタイトルで問題なく動作するはずだ。導入時点の「Freestyle」には、15種類のフィルタと38種類のプリセットが用意される。
対応ゲームと密接に連携して、ゲームカメラを任意の位置に動かしたり、フィルタを適用したりして、ゲームプレイ中では実現し得ないスクリーンショットを合成できる「Ansel」には、あらたに8種類のフィルタが追加された。また、複数のフィルタを組み合わせて適用できるようになり、表現の幅が増えている。
加えて、「ShadowPlay」のハイライト機能そのものには変更はないが、「Fortnite Battle Royale」、「Crossout」、「Elex」の3タイトルが新たに本機能をサポートする。
最後に、今回ゲーミングに関連した一番大きな話題として、BFGDs(ビッグフォーマットゲーミングディスプレイ)の登場がアナウンスされた。65インチの大画面でありながら、4K解像度、1000NITS輝度のHDR、さらにGPUとモニタが連携してフレームレートを可変させる「G-SYNC」を120Hzまでのリフレッシュレートでサポートする。レイテンシも具体的な数値は非公開であるものの、ごくわずかであるとしている。
加えてゲームコンソール「SHIELD」を内蔵していることから、「Hulu」、「Netflix」、「Youtube」、「Amazon Video」といったオンライン映像配信サービスに加え、ゲームストリーミングサービス「GeForce NOW」に加入することもできる。
ただし、日本市場では、「GeForce NOW」のサービスは行なわれていないため、たとえBFGDsに対応したモニタを、HP、Acer、ASUSといったパートナー各社が、日本市場に製品を投入したとしても、本サービスが受けられるかどうかは、また別の話になってくる。BFGDs対応モニタが日本で発売されるかは、それぞれのパートナー次第、「GeForce NOW」でゲームプレイできるかはNVIDIA次第で、しかもいずれも日本市場での製品展開は、現時点では未定となっている。
日本のユーザーにとって、このBFGDs、既存の「G-SYNC」対応モニタとの違いは何かと問われれば、画面サイズが違う、ということになるだろう。「SHIELD」がビルドインされていることも大きな違いだが、「GeForce NOW」のゲームストリーミングサービスが未定である以上、モニタに対してPCやBDプレイヤー等の機器から映像ソースを入力してやれば、あらゆる映像が視聴できるため、「SHIELD」内蔵だからといって、できることは特に増えないということになってしまう。逆に、既存の「G-SYNC」対応モニタの中には、240Hzの高リフレッシュレートをサポートするモニタも多数存在するため、難しい判断を迫られそうだ。現状では、大画面を優先させるのか、リフレッシュレートを優先させるのかが選択のポイントとなるため、自室のモニタ設置スペースとも相談しながら、自分がどちらを求めるのかで決めることになるだろう。
さらに、自室のPC用モニタではなくリビング用テレビとして、あるいはワンルーム暮らしの単身者などが、すべての機器からの出力を兼用するディスプレイを求める場合には、また違った判断になってくるだろう。大手家電メーカー各社から発売されているリビングテレビには、50インチ前後で、4K~8K解像度、1000~10000NITS輝度、24/30/60/120Hz対応のテレビが相当数含まれている。これらのテレビには「G-SYNC」によるGPU側と連携してフレームレートを可変させる仕組みはなく、一般的に絵作りを優先してレイテンシを犠牲にする傾向があるものの、最大リフレッシュレート120Hzを許容できるのなら、解像度やHDR輝度でBFGDsをを上回るものもある。FPSをプレイしている時間よりも、地デジ放送やネット配信動画を見ている時間のほうが長い場合、リビングテレビを選択したほうが満足度が高いこともあるだろう。
ご予算との兼ね合いの部分もあるため、BFGDsの価格が未定の段階では何とも言えないところではあるが、解像度、リフレッシュレート、HDR輝度、レイテンシ、GPU連携機能の有無、放送波チューナーの有無といった選択のポイントに優先順位をしっかりつけておくことが大切だろう。
近年のNVIDIAが打ち出しているゲーミング関連のテクノロジは、GPUの高速化、APIやSDKの整備といったゲームそのもののプレイ体験に直結するものばかりではなく、ソーシャルコミュニケーションやモニタといった周辺のゲーミング環境を含めて、幅広い領域に渡って新機軸を打ち出す反面、それぞれがアップデートされるペースは鈍化するか小粒になっている印象を受ける。今年のCESに至っては、それがかなり顕著だ。
それだけNVIDIAの既存の事業領域が拡大し、フォーカスしている事業が変化していることの表れでもあるのだろうが、ソフト、ハード共に、NVIDIAの製品に絶大な信頼を寄せるゲーマーにとって、引き続き、分かりやすい頻度、粒度でのアップデートを期待したい。