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噂の真実が明らかに!本格リアルタイムレイトレースがゲーミングPCにやってくる
Nvidia“Turing”搭載GPU製品「Geforce RTX 20」シリーズを発表
2018年8月22日 00:00
現地時間の8月21日からのGamescom開催に合わせて、NVIDIAは「GEFORCE GAMING CELLEBRATION」イベントを開催した。本イベント最大のニュースは、既報の通り「GeForce」ブランドに“Turing”アーキテクチャGPUを搭載した「Geforce RTX 20」シリーズを新投入したことだ。
プレスや、関係者を集めた内覧イベントを行なった昨年とは打って変わって、同社の新製品に期待する熱狂的なファンが数多く詰めかけ、大きな興奮に包まれた会場の模様をレポートする。
さて、「Geforce RTX 20」シリーズの発表というビッグニュースとなった本イベント。実は、さまざまな憶測が飛び交い、事前の予想がなされていたことだ。登壇したNVIDIA CEO、Jensen Huang氏は冒頭で「ようこそ、Geforce GTX 1180の発表イベントへ!」と呼びかけると、すぐさまこれがジョークであると打ち消して、噂されているスペックなどは、すべて間違いで大きなサプライズを用意していると告げた。
果たして、一般向け“Turing”アーキテクチャGPU搭載製品「Geforce RTX 20」シリーズの発表となったのだが、確かにこれは驚くべき出来事だ。第1は発表のタイミングで、先週バンクーバーにてSIGGRAPHに合わせてプロフェッショナル向け製品「Quadro RTX」の発表を行なったばかり。これでNVIDIAはプロ用、一般用の両ラインナップを1度に次世代へ進めたことになる。いよいよハードウェアレイトレーサーの時代の幕が開けたわけだ。
2番目は、そのスペックで、最上位機種の「Geforce RTX 2080 Ti」は「Quadro RTX 6000/8000」に肉薄する。RTコアの性能は10Gレイ/秒と同等で、CUDAコア数は4,352基とやや少ないがその差は5%程度だ。メモリインターフェイス幅もCUDAコア数の差によると思われる違いしかない。さすがにメモリ量は大量のテクスチャをビデオ側に格納したいプロ機とは大きく異なるが、高速なDDR6に更新されたことから「GTX 1080 Ti」との比較で、25%以上もメモリ帯域幅が増加している。
中位の「Geforce RTX 2080」の場合は、CUDAコア数は2,944基と「Quadro RTX 5000」のスペックに肉薄し、RTコア性能では8Gレイ/秒と「Quadro RTX 5000」を凌駕する。さらにはCUDAコア数を前世代と比較すると「GTX 1080 Ti」と「GTX 1080」の中間程度に引き上げられたと考えられる。
再下位の「Geforce RTX 2070」では、さすがにCUDAコア数は2,304基と「Quadro RTX 5000」比で25%も少ないが、RTコア性能では6Gレイ/秒と「Quadro RTX 5000」と同等だ。CUDAコア数では、従来機の「Geforce GTX 1070」を15%以上も上回り、「GTX 1070 Ti」に肉薄する。DDR6への更新によるメモリ帯域幅の増加は大きいと考えられるから、「Geforce RTX 2070」は「Geforce GTX 1070 Ti」をリプレイスする製品だと言える。
総評すると、最上位の「Geforce RTX 2080 Ti」は現世代をはるかに凌ぐポジションにシフトし、プロ用に迫るスペックに引き上げられ、中位の「RTX 2080」と下位の「RTX 2070」が、それぞれ現行のTi機のポジションとの距離を詰めたことから、次世代はスペックアップに重点をおいた製品展開になったと言えるだろう。
というのも、一方の価格については、「GTX 10」シリーズから、それぞれ120ドル~300ドル引き上げられた499ドル、699ドル、999ドルとなっており、オーバークロックモデルのFounders Editionでは、さらに100ドル~200ドル高価な599ドル、799ドル、1,199ドルだ。スペックの向上に応じて、順当に高価格帯にシフトしている。
“Turing”アーキテクチャGPUのダイの構成や、グラフィックス描画の特性は、SIGGRAPHのレポートを参照してほしい。アーキテクチャを共有することから、基本的には「Quadro RTX」と同等で、レイトレースをアクセラレートするRTコアの追加が最大の特徴だ。レイトレース、つまり光線の追跡で、物体の色とその集合である物体の形が、より正確に求まるということだけ、ざっくりと頭の片隅に置いておけば良い。
多少細かく言うと、レイトレースは反射や屈折表現に優れていることから、結果として、ゲーム内の金属、ガラス、水面といった事象の反射、屈折、拡散が、非常に美しくなる。SFテイストやミリタリーもののゲームで、飛躍的に描画品質が向上する。
加えて、計算量の多い面光源からの均一でない他方向への光の照射や、複数回の反射を繰り返す間接光も、現実的な計算時間で対応可能になってくる。結果として、複数の光源色の入り混じるライティング環境や、ソフトシャドウ、開口部の限られた遮蔽空間のアンビエント光などがの表現力が向上する。
また、プリコンピュートによらないで、完全に動的なキューブマップの更新を前提とすれば、動的に移動するオブジェクトや、時間経過によって起こる天候の変化、爆発、炎上といった永続しない一時的な変化であっても、すべてリアルタイムに正しく画面に反映できる。
加えて、現在ゲームで主流の反射テクニックであるスクリーンスペースリフレクションでは、反射計算をスクリーンスペースに限定して行なうため、カメラを動かすことによって、画面外の出てしまった物体の鏡像を描画できないという弱点があるが、これもクリアされる。
本イベントで紹介された「BATTLEFIELD V」は、これらの要素がつまった非常に良いショーケースだ。空間内のキャラクターの瞳に映った爆発光、銃器にハイライトとして乗った鈍い反射、水たまりや車両のボディへの比較的強い鏡面反射など、どれを取っても空間内の物体の質感を高めてくれている。同作のオープンβは、9月4日からアーリーアクセスが始まり、6日からは一般に向けても解放される。リアルタイムレイトレーシングのゲームを体感する絶好の機会となるはずなので、ぜひプレイしてみてほしい。
一方で、ゲーマーの理解のために、ここでひとつ確認しておきたいのは、「Geforce RTX 20」シリーズのビデオカートを購入したからといって、すぐさまどんなゲームでもレイトレースによって、反射、屈折、拡散が美しくなるわけではないということだ。
ハードウェアの恩恵を受けるためには、NVIDIA自身がGameWorks SDKの一部として提供しているOptiX、NVIDIAのライブラリ拡張されたMicrosoft DXR、VulkanのレイトレーシングAPIといった、ハードと描画エンジンの中間に位置するAPIがゲームに使用されている必要がある。加えて、上位層にゲームエンジンが位置する場合、それぞれのゲームエンジンのAPI対応状況にも依存する。さらに、データ的にもRTXレイトレースに準拠したマテリアルやマップが正しく用意されていなければならない。アーティスティックにデータが製作されている場合や、正確なレイトレースを行なわない前提で、あえて正しくないデータを用いている場合には、プログラム側でレイトレーシングに対応しただけでは、好ましくないレンダリング結果になってしまうこともあるだろう。
要するに、今までのようにハードを交換するだけで、ゲーマーも開発者も、何もしなくても透過的にビジュアルが良くなる、とったことにはならないのだ。今までの常識では、新しいビデオカードに交換すれば、CUDAコアの数や速度、ビデオメモリ量や速度がたっぷり増えて、それだけフレームレートや解像度が上がったり、アンチエイリアス品質が上がったりといったことが、どんなゲームでも体感できたが、RTコアが担うレイトレースについては、この方程式は当てはまらない。
もっとも、「Geforce RTX 20」シリーズでは、CUDAコア数の引き上げやメモリの世代が進んだことによる、従来通りの性能向上も同時に行なわれているので、どんなゲームに対しても一定のパフォーマンスアップは見込まれる。ただ、レイトレースによるレンダリング品質の改善を期待して購入して、あてが外れたということにならないようにだけ、留意してほしい。
また、反対に、NVIDIAのRTXテクノロジは、その多くの部分をハードウェアによるレイトレースアクセラレーションが担っていることに間違いはないのだが、かといって必ずしもRTXと命名された“Turing”GPUビデオカードが必須だというわけでもない。
NVIDIAがプラットフォームと位置付ける「RTXテクノロジ」というハードとソフトの両方を含む概念は、“Volta”アーキテクチャのGPU、GV100が最速だったころから存在し、事実GDCのときまでは、すべてのレイトレースデモはGV100搭載のDGXワークステーションで行なわれていた。また、RTXテクノロジは“Volta”以降のGPUをサポートする、ということになっているが、歴史的に“Pascal”アーキテクチャのGPUに対しても、OptiX APIはCUDAコアによるレイトレースをサポートしているはずだ。
DXRやVulkanからRTXを触る場合に、“Pascal”アーキテクチャのGPUを使用していても、CUDAコアでレイトレースを行なうかどうかは未確認だが、最悪でもハードウェアアクセラレーションが効かないだけで、完全に動作しないということはないと思われる。
まとめると、ゲームがDXRやVulkan APIを使ってレイトレースしており、かつRTXと命名された“Turing”世代のGPU搭載ビデオカードであった場合、ハードウェアでアクセラレートされ、最大のパフォーマンスが発揮される。
一般向けの製品は存在しないが、“Volta”世代のGPU搭載ビデオカードの場合でも、CUDAコアとAI演算用のTensorがRTコアの代わりの役目を果たす。RTコアのあるRTXビデオカードには相当に劣るものの、やはりハードウェアアクセラレートされる。
“Pascal”アーキテクチャのGPUの場合、ハードウェアによるアクセラレーションはまったくないか、あってもCUDAコアだけで行なう限定的なものになる。
RTXテクノロジの対象外であるAMDやIntelのGPUの場合、当然のことながらハードウェアによるアクセラレーションもソフトウェアライブラリの恩恵も受けられないことになる。ただし、DXRやVulkan APIが提供するレイトレースインターフェイスは、特定のハードウェアに依存するものではないから、ソフトウェアによるレイトレース、つまりCPU側で演算して動作することになる。
CPUで演算してもらったほうが都合が良いIntelはともかく、現時点でAMDからは具体的な発表こそないが、NVIDIAと同様にDXRのレイトレースに対してハードウェアアクセラレーションを表明していることから、そう遠くない将来にAMDも追いついてくることになるだろう。
最後に、この「Geforce RTX 20」シリーズは、誰が買うべきかをまとめておきたい。本イベントで紹介された新作ゲームは、すべてRTXに対応することから、これらのゲームのファンで、間違いなくプレイするという人には積極的に勧められる。レイトレースは大変計算コストの高い処理であるため、対応ゲームを最高のグラフィックス品質で、快適にプレイしたいなら、必要な投資だと言える。
ただし、前述したとおり、DXRやVulkanのレイトレースAPI自体は、必ずしもRTXと命名されたビデオカードでなくても動作するため、現状の自分のプレイ環境で、ゲームコンフィグとして提供されるオプションの内容と、設定に応じたレイトレースによるレンダリング品質の変化を見極めながら、フレームレートがどの程度になるか確認してからでも遅くないだろう。
自分が良くプレイするゲームや、そのシリーズ作品のレイトレース対応が判然としない場合も、いったん様子見で構わないだろう。ただし、レイトレースによる次世代のレンダリング品質を体感するために、本イベントで紹介されたゲームを購入してもいいと思うなら、自分が本当にプレイしたいゲームの追従を見越して、先行導入に踏み切ってもいい。
というのも、グラフィックス品質に定評があり、ウリにしているゲームなら、遅かれ早かれDXRやVulkanのレイトレースAPI、つまりはRTXテクノロジに対応してくるのは間違いないからだ。CUDAコアとメモリの性能アップも行なわれているため、短期的には、その部分でも納得できる。
しばらくPCシステム全体やビデオカードを更新していない人にとっては、ゲーム用途が中心なら、難しい話は抜きに旧世代となってしまった“Pascal”アーキテクチャの「Geforce GTX 1080」より、最新世代の“Turing”製品がオススメだ。「Geforce RTX 20」シリーズは、どれも価格と性能のバランスが適切に取られているため、あとはお財布と相談でいいだろう。