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「GeForce」だけじゃない!! 全方位に最新技術を大量投下するNVIDIA

NVIDIAが目指すものを谷川ハジメが解説

12月7日開催

Wynn Las Vegasホテル内NVIDIA内覧会場

コンベンションセンターノースホールのNVIDIAブース

 米ラスベガスで開催された「CES 2017」の3日目からは、GPUベンダーの雄NVIDIAの発表内容についてまとめてご紹介したい。「CES 2017」における発表を見るに、2017年のNVIDIAの展開は実に多彩で積極的だ。ノートPC向けのGPUの新製品に始まり、ゲームのストリーム配信環境「NVIDIA GeForce NOW」のPC/Mac向けサービスの開始、ゲーミングモニタのダイナミックレンジを広げる「G-SYNC HDR」テクノロジの発表と多くの話題を提供してくれている。加えて内覧会では、「NVIDIA VRWorks」の取り組みが結実したVRゲーム6タイトルをプレイアブル展示していた。本稿では、この内覧会の内容を中心に、NVIDIAのブース展示の模様をお伝えしていきたい。

「GeForce NOW for PC and Mac」はPCゲーマーの裾野を広げるか!?

ブース内の「GeForce NOW for PC and Mac」展示

 既報の通り、GPUの新製品がノートPC向け2種(厳密には、1種プラスαと言うべきか)という寂しい内容であった。その代わりに、NVIDIAは「GeForce」GPU以外の目玉を3つ持ってきている。どの目玉要素も、近年積極的に取り組んでいるビジネス領域の周辺にあるものの、その幅を大きく広げるものだ。

 目玉のひとつ目は、NVIDIAのセットトップボックス「NVIDIA SHIELD」向けに行なってきたゲームのストリーム配信サービス「GeForce NOW」の別バージョンを「GeForce NOW for PC and Mac」と銘打って、PCとMac向けにも展開すると発表したことだ。

 サービス名に「GeForce」が含まれるため誤解されやすいが、このストリーミングサービスは「GeForce」の名を冠したGPUが必須ではない。実際、従来からサービスの対象であった「SHIELD」デバイスのGPUは、同社の「Tegra」だし、MacのGPUは、IntelのCPUに内蔵された「Iris」だ。また、「GeForce NOW」という同一名称を冠していることから、こちらもややこしいが、「SHIELD」向けのサービスと「PC/Mac」向けのサービスはまったくの別物だ。同一タイトルが提供されたからといって、「SHIELD」版のストアで購入しておいたゲームをPCやMacでプレイすることはできない。

 「GeForce NOW for PC and Mac」環境でゲームをプレイするためには、専用のクライアントアプリをPCやMacにインストールするだけで良い。このクライアントアプリが、仮想ゲームマシンとなって、「GTX 1080」を搭載したゲーミングPC“相当”として動作する。NVIDIAが提供している機能はシンプルで、ただこれだけのことなのだ。ユーザーは、この仮想ゲーミングPCのレンタル料をNVIDIAに対して時間単位で支払うことになる。つまり、ユーザーが実際にゲームをプレイするためには、NVIDIAから環境を買った上で、別途「Steam」、「Origin」、「Uplay」、「GOG」、「Battle.net」といったゲームサービスプロバイダからゲームを購入しなければならない。この点が「SHIELD」版の「GeForce NOW」とは大きく異なっている。逆に言えば、「Steam」などですでにゲームを購入していて、外出先のノートPCでもプレイしたい場合には、有力な選択肢となるだろう。自宅はWindows PC、出先はMacBookといった環境の場合、今までは外出先でのお気に入りのゲームプレイはほぼ絶望的だったわけだから、こういった人にとっては福音と言えるだろう。

 軽く触ってみたところ、「GeForce NOW for PC and Mac」環境下でのゲームプレイは非常に快適だと思われた。担当者の話によると、「GeForce NOW for PC and Mac」環境でのフレームレートは60FPS固定でレイテンシはないとのことだった。ただし、“ない”を実現するためには、ネットワーク回線のゲーム用の帯域幅を25Mbps以上に保つ必要があるのだろう。また、たとえネットワーク環境に問題がなくとも、経路の影響で遅延がゼロにはならないと思われる。

 とはいえ、内覧会のデモ機では、カメラを大きく動かしてみても、特に大きなひっかかりは感じられず、60FPS固定のフレームレートが出ているのだと実感できた。ネットワーク帯域幅を25Mbps確保し続けている前提なら、1フレームのレンダリングイメージが、フルHD解像度の24bitベタデータで、5.9MB強あったとしても1/120に可逆圧縮できれば品質を損なわずに転送できていることを意味しており、4K UHDなら1/460程度に圧縮できれば可能になる計算だ。「GeForce NOW for PC and Mac」で使われているテクノロジがレンダリングイメージを可逆圧縮したものなのかは分からないが、特に目立った圧縮ノイズも見られなかったことから、圧縮していたとしても画質的には十分期待できるものだ。

「GeForce NOW for PC and Mac」で動作するPCとMac

 アテンドしていた担当者は、完全にストリームによって、ネットワーク越しのサーバーでレンダリングしていることを盛んにアピールしていた。その証拠に「GeForce NOW for PC and Mac」を実行しているノートPCのパームレスト部分を触ってみろと促された。実際にそうしてみると、GPUからの放熱で熱を帯びている様子は感じられない。通常ゲームを実行すると、GPUが最大駆動するため、パームレスト部分であって熱を帯びてしまう。ノートPCのGPUがイメージを更新するだけの“楽な仕事”をしていることがわかる。

 ただ、「GeForce NOW for PC and Mac」は、ここまで技術的な基盤を自社で確立できており、「SHIELD」版「GeForce NOW」の販売基盤があるのだから、もっと積極的に競合してシェアを取っていっても良さそうなものだが、すでに乱立しているPCゲームのプラットフォームビジネスに分け入るより、協力関係にあるゲームサービスプロバイダと共存するビジネスモデルを選んでいる。また、「SHIELD TV」全体のビジネスではすでに競合してしまっているからか、CBSやNBCといった大手TVメディアやケーブルTV、「Netflix」や「Hulu」といったネット配信ビジネスを行なう企業とパートナーシップを結んで、これらの事業者に高品質なゲーム配信テクノロジを提供してネットゲーム配信事業を一気に加速するといった計画もないとのことだった。

 現時点では、北米以外の地域では「GeForce NOW for PC and Mac」の展開は決まっていない。唯一決まっている北米では、3月より無料の早期アクセス期間が開始される予定となっている。早期アクセス期間を経て、サービスレベルに問題がないと判断された後には、先述の通り、仮想ゲーミングPCのレンタル料を時間単位に支払う形式で課金が開始される。課金は、25USドルで20時間分のクレジットのまとまった単位で行ない、基本的に、“GeForceゲーミングPC”を20時間オンデマンド利用した料金に相当する。

 発表会での同社CEO、Jen-Hsun Huang氏の 発言では“GeForceゲーミングPC”の定義は明確ではなかったが、NVIDIAからのリリースによると、この25USドル分のクレジットで20時間というのは「GeForce GTX 1060」搭載マシン相当で仮装ゲーミングPCを実行した場合とのことだ。よって、より高いパフォーマンスが発揮される「GeForce GTX 1080」相当の仮想ゲーミングPCとしてクライアントを実行すると、25USドル分のクレジットでは、その半分の10時間しか利用できないということになり、発表会でのJen-Hsun Huangの「よりフォーマンスを発揮するGeForceゲーミングPCになるほど利用時間は減少する」とした発言と一致する。

 なお、この料金体系で実際に課金される前に、「GeForce NOW for PC and Mac」の初回アカウント登録時には8時間分の無料クレジットが付与されるから、ユーザーはこの無料クレジットの範囲内で、すでに所有しているゲームをプレイして「GeForce NOW for PC and Mac」のサービスに課金するかどうか判断することができる。

 「SHIELD TV」の事業と事情が違って、「Steam」ユーザーが多数おり、相応の需要が見込める日本市場で展開することに対して、特に大きな障壁はないと考えられることから、「GeForce NOW for PC and Mac」については、日本からも利用できる可能性はあると推測される。「GeForce NOW for PC and Mac」については続報に期待したい。

2017年はNVIDIA GPUに最適化されたVRゲームが続々登場!!

内覧会で筆者がプレイしたのは「Wilson's Heart」

 ふたつ目の目玉は、数々のVRゲームタイトルを出展していたことだ。今回体験可能だったのは、「Robo Recall」、「Rockband VR」、「Wilson's Heart」、「Knockout League」、「NVIDIA VR Fun House」、「Sports Bar VR」の6タイトルで、ゲームに特化したイベント以外で、ゲームタイトルばかりを集めてアピールしているのは珍しい。

 この中で筆者は、「Wilson's Heart」を初体験した。「Wilson's Heart」は、VRと親和性が良いと言われているホラーゲームで、今回体験できたデモ版はその内容を20分程度にダイジェストしたものだ。この「Wilson's Heart」は、わかりやすいゲームが多いVRゲームにしては珍しく、ナレティブ、つまりストーリーテリングに重きを置いたホラーゲームだ。プレイヤーは、病院内になかば監禁されている患者となり、自身が入院に至った経緯や、目の前で謎の死を遂げた医師の死の秘密を追って、院内を探索する。

 プレイフィールは独特で、VR世界の印象からは、ちゃんと作り手の感じさせたい陰鬱な雰囲気が伝わって来る。薄ら寒さを感じながら、ひとつひとつ詰まりつつ進展させるゲームプレイは、どこか昔懐かしのアドベンチャーゲームを思わせた。デモ版のクライマックスは、目の前で惨殺される看護師の“びっくり箱”的なショッキング描写と、看護師が襲われている間に、鍵束から鍵をひとつずつ鍵穴に差し込んでいき、正解が出れば逃げおおせるという、焦りで額に汗がにじみ出るようなシチュエーションだ。この危機を乗り越えた後に出会った別の看護師に対して、懸命に別の看護師や医師が惨殺されている事実を説明するが、信じてもらえないうちに彼女も惨殺されることに……。といったところで、ゲームオーバーになってしまい体験プレイを終了することになった。

VR体験コーナーでプレイできた6タイトル。HMDは2環境とも「Rift」

 体験プレイの後に、アテンドしていた担当者に対して、来場者にはどのタイトルが人気か聞いてみたところ、やはりダントツで「Rockband VR」が1番人気とのことだった。やっていることに大差はないと思うのだが、エアギターのような微妙感が漂わないためか、人気が高いようだ。DELLのイベントでは国民性の違いかと思ったが、VR空間に没入してギターパフォーマンスを行うというのは、シャイな人でも人目を気にせずできるため、カラオケボックスでカラオケを歌うように、案外日本人にも受けるかもしれない。

 また、「Robo Recall」も、最新のVRコンテンツということからか、同様に人気が高いという話だった。実は、この「Robo Recall」を、筆者はすでに昨年12月の「SIGGRAPH ASIA 2016」の展示でプレイしている。単純に3DのシューターをVRに置き換えただけにとどまらないヒーロー感を演出する数々の仕掛けと、Epic Games自社タイトルならではのゲームデザイン的にやりたいことがあるなら、ゲームエンジンに機能を追加すればいいだけじゃない、という「Unreal Engine4」のライセンシーから見れば反則とも言える下周りの開発手法を取っていることから、あと2~3カ月のうちに迫る「Robo Recall」の正式リリースが本当に楽しみだ。

「Rockband VR」の入力はTouchコントローラをギターのネックに引っ掛けてジャイロで検出している

 今回の内覧会で体験可能だったゲームタイトルのうち、実に半数がOculus Riftに独占的に供給されるタイトルで、体験機としてもRiftのみが用意されていた。NVIDIAとOculusの関係が良好なためか、それとも前回「CES 2016」はリリース直前という重要な節目であったため出展していたOculusが今回の「CES 2017」に出展を見送ったせいかは分からないが、従来は、スペック的に優れているHTC VIVEも用意して、Oculus版しか存在しないもの以外は「Vive」で体験できることが多かったように思うが、今回は合理的にすべてのタイトルを「Rift」版で体験させていた。単なる思い過ごしであれば良いが、これをNVIDIAのOculusシフトの予兆とみなせば良いものか判断が難しいところだ。

液晶モニタ環境が劇的に変化する今年は“HDR元年”となるか!?

「G-SYNC HDR」はASUSモニタで従来機と比較してプレゼン

 最後の目玉は、「G-SYNC HDR」テクノロジの解説と実際に同テクノロジを採用した製品の展示だ。NVIDIAの「G-SYNC」テクノロジ自体は、以前からあったもので、モニタ側のリフレッシュレートをGPUから出力されるフレームレートに応じて、0Hzからモニタの最大リフレッシュレートまでダイナミックに可変させる機能だ。

 この「G-SYNC」の機能を、GPUから送出するイメージデータの品質を4K解像度で144Hzのフレームレート、さらにHDRの色深度を持つデータに引き上げた状態で、モニタ側が対応するように定義したのが、この新しい「G-SYNC HDR」ということになる。

 「G-SYNC HDR」では、384個のLEDアレイによる高輝度、つまりダイナミックレンジの高い表示をサポートするとともに、PC用に限らず、SAMSUNGの最新液晶テレビにも搭載されているQuantum Dotテクノロジにも対応する。

 従来品と物理的に異なった性能を持つ部材を使用した製品が前提なのだから、当たり前といえば当たり前なのだが、内覧会で見たASUS製の「G-SYNC HDR」対応製品のダイナミックレンジの広さは一目瞭然だ。従来品と「G-SYNC HDR」対応製品を比較すると、従来品は「G-SYNC HDR」対応製品より低い輝度にもかかわらず、色が白として飽和しており、ピークに張り付いてしまっているのがわかる。

 「G-SYNC HDR」が定義するHDRイメージを実際に見るためには、「GeForce」によるHDR色空間を持つレンダリングイメージデータ、そのイメージを伝送するのに十分な帯域を持ったDisplayPort1.4規格を満たす伝送路、そして高輝度LEDアレイを搭載したモニタの3要素がすべて揃わないと実現できない。これらの足並みは、本年2017年に完全にそろいつつあり、本年の第2四半期には前述したASUSだけでなくAcerも「G-SYNC HDR」対応モニタ製品を発売することを表明している。

 「G-SYNC HDR」対応の新しいモニタを導入すれば今までとは明らかに違うリッチなゲーム体験が得られるかと思うと、素直に心が躍ってしまう。解像度、リフレッシュレート、ダイナミックレンジと3拍子そろった「G-SYNC HDR」には、それほどの魅力が感じられるのだ。

左が従来モニタで右が「G-SYNC HDR」対応モニタ。筆者のデジカメや読者がご覧になっているモニタの色深度の絡みもあるため、この写真でHDRの迫力が伝わるだろうか

「SHIELD TV」のパッケージを内覧会にて

 上記に加えて、既報の通り、NVIDIAは既存のAndroidセットトップ「SHIELD/Pro」を新製品の「SHIELD TV/Pro」に置き換えている。スペック、価格共に従来モデルと代わり映えしないが、筐体サイズが小型化されたほか、コントローラが最新のものに置き換わっている。サービスとしての「SHIELD TV」や「GeForce NOW」も、従来機も含めてサービスが提供される。

 「SHIELD TV」は、Amazonの「Fire TV Gaming Edition」やRazerの「Forge TV」などといった製品と競合している。日本においては、コンソールゲームの人気が根強いことから、この手のセットトップ型Androidデバイスを投入しているベンダーはAMAZONだけで、NVIDIAは日本市場に参入していない。一方で、北米や欧州では、たとえ競争の激しい市場であったとしても、PCにインストールされるGPUが低迷する今、月額課金サービス“旨味”を前提としているセットトップゲーム機の市場を無視できない。そこで2年を経た今、モデルチェンジを行ってテコ入れを行ったということだろう。なお、こちらの新しい「SHIELD TV」でも、従来と変わらず日本での展開は未定となっており、前述した理由で、おそらく日本には上陸しないだろう。

「SHIELD TV」と「SPOT」の実機をブースにて。「SPOT」はホームエレクトロニクスコントローラだ
「SHIELD TV」版「GeForce NOW」の実機を使ったプレイ風景をブースにて。リビングカウチでリラックスしてプレイできる

 さて、最後に簡単にエキシビジョン会場のNVIDIAブースの展示にも触れておこう。NVIDIAのブースは、自動車関連企業がひしめく一角にブースを設けての展示を行っていた。BtoBイベントということもあってか、ゲームや映像関連のショウ展示とは異なり、ブース自体はかなりゆったりとしたもので、自動運転技術をアピールするための実車とロジックボードの展示も行なわれていた。

 その他の展示内容は、内覧会と同じもので特にブースのみに展示されているものはなかったが、大型テレビとゆったりとしたソファが設えられたリビングを模したコーナーを2つも用意して、「SHIELD TV」のあるリビングの風景を演出しながら、来場者に「SHIELD TV」でのゲーム体験をアピールしていたのは印象に残った。

ブースには自動車用のオートパイロット用ロジックボードも展示

 初代「GeForce」である「NV10」のリリースから17年以上もの間、NVIDIAは、コンシューマ向け市場において、高い技術力でGPU市場を常に大きくリードしてきた。昨今、ハイエンドでは、GPGPUの高速演算性能を活用した学術分野への応用、ビッグデータの解析、リアルタイム360映像ステッチングとった分野に拡大している。また、その一方で、日本では未発売モデルが多いため馴染みがないが、「SHIELD」を旗印にセットトップやタブレットデバイスに対して、積極的に“完成品”を投入してきた。

 実のところ、NVIDIAはそのブランドイメージからか、“安くてそこそこ速い”GPUが求められる市場では、成功しているとは言えない。「CES 2017」で前面に打ち出した施策の数々は、PC市場そのものがシュリンクし、ミドル以下のPCではオンダイGPUがシェアを伸ばした結果、NVIDIAのGPUは、かつての勢いを維持することができず、踊り場に差し掛かっている。組み込み市場では、「Nintendo Switch」に「Tegra」が採用されたものの、現世代のコンソール機への採用がなくなり、モバイルではQualcommが市場を席巻している。現在のNVIDIAの姿は、奪われたGPU市場全体での“失地回復”に躍起になっている所作だと言えるだろう。かつてPC市場で勃興が激しく繰り広げられたGPUのシェア争いが、GPU市場全体で再燃していくのだろうか。PCの枠を超えた争いに興味は尽きない。