【特別企画】

【新春特別企画】ゲーミングモニターは近い将来リビングテレビを置き換える存在になるか!?

“コードカット”時代に最適なディスプレイへのアプローチ

1月6日~11日開催

会場:Las Vegas Convention Center他

 新春特別企画3本目のテーマはPC向けモニターだ。CES2019では、先の記事でお伝えした通り、リビングテレビが次世代に対応するマルチエンターテイメント環境として、いよいよ完成形を見せ始める一方、PC用モニターも、ハイエンドのゲーミングモニターを拡張する形で、リビングの定位置を狙えそうなところまできている。

【ゲーミングモニターは大型化へ】
DELLブースでは55インチOLEDで「LoL」対応をアピール

 ご家庭によっては、リビングテレビに表示されているコンテンツのうち、コンソールゲーム機からの出力がテレビ放送とそう変わりない時間を占めていることだろう。コンソールゲーム機がPCに近いアーキテクチャを採用するようになったことからも、この際PCとの接続も含めて、リビングテレビをゲーミングモニターでまかなってしまうアプローチも考えられるのではないだろうか。

 本稿ではCES2019レポートの締めくくりとして、ゲーミングモニターの今をお届けしたい。大型ゲーミングモニターは、はたしてリビングテレビをリプレイスできる実力を持っているのか。この記事を読んで現況をキャッチアップする足がかりにしてほしい。

VoDの浸透でテレビの要件を再検討する時がきた

 皆さんは“コードカット”や“コードネバー”というキーワードを耳にしたことがあるだろうか。全米、特に都市部で広がる、ケーブルテレビの(そして衛星放送の)契約をやめて、NetflixなどのVoDのみを視聴する動きのことだ。国土の広いアメリカでは、テレビ視聴をカバーするために、地域のケーブルテレビや衛星放送がテレビ放送波の伝送を担ってきた。日本になぞらえると、いわば全土が離島や山間部のような扱いで、テレビが安い娯楽の中心的地位を占めていた時代は、たとえ高額な視聴料金だったとしても、こればかりは仕方のないことだと受け止められていた。ところが時代が変わり、VoDを利用することで、より安価で豊富なTVコンテンツを視聴できるようになったのだ。

【Netflix対応をアピール】
画像処理エンジンの機能でNetflixの映像を最適化できることをアピール

 筆者の自宅では、この“コードカット”を、昨年の夏に断行した。いや、何もアメリカに住んでいるわけでなく、筆者の自宅のあるエリアが、かつて東京タワーから送波されていた時代に難視聴地域だったという経緯から、筆者の自宅にはアンテナがなく、ケービルテレビ局に決して安くない料金を月々支払って、地上波放送も含めてケーブルで受信していたのだ。解約時に改めて聞いてみると、スカイツリーからの送波開始以降、東京には難視聴地域はない、という扱いなのだという。以前は難視聴解消を目的として、地上波放送の再送信のみをごく安い料金で受信するプランがあったように思うが、それも現在は用意されていない。

 そこで思い切って、地上波も含めて“コードカット”することにした。この機に、4K8Kに対応する最新の左旋CS衛星放送アンテナを含めて受信環境を整備しても良かったのだが、実際そこまでしてテレビ放送を見たいかというとそうでもない。背景にはAmazon Prime TVやNetflix、HuluといったVoDサービスへの加入があり、これらVoDでは、ハリウッドムービーのみならず、日本の映画や人気ドラマ、アニメも相当数カバーされている。画質も地上波放送と比較して遜色なく、録画予約の手間もない。それなりの料金負担は発生するが、ケーブルテレビに支払っていた料金よりはるかに安い。複数のVoDと契約しても月々支払う料金は1/3以下になった。

 日本の一般的な家庭では、地上波放送がテレビ視聴の中心を占めており、アンテナ等受信設備の維持管理コストを別にすると、テレビ視聴は無料が基準になることから、VoDへの移行というより、VoDを追加するという認識が一般的だろう。無料の地上波を受信するアンテナ配線を、わざわざ“コードカット”する必要はないが、かといって地上波放送に熱中するわけでもなく、テレビ放送離れが進んでいる状況に変わりはないだろう。

 VoDでの4Kコンテンツ視聴に必要な帯域幅は、約16Mbps程度とされており、33Mbpsの4KBS/CS放送と比較してビットレートで劣るものの、放送波のように割り当てられた周波数帯から絶対に越えられない上限が規定されているものとは違い、ビットレートやコーデックが回線品質やソフトウェア技術の進歩に応じて適宜見直される期待がある。また、リアルタイムが前提の放送とは異なり、VoDならバッファを大きめに取ることも可能で、ビデオストリームを再生する条件としては放送波より有利な一面もある。なによりオンデマンドであること、つまり観たい時に観たいだけ、観たいように観るということがあまりにも便利で、番組予約やレコーダー内のコンテンツ管理からも完全に解放される。

 反面、VoDに不向きなコンテンツも存在する。スポーツやレースなどのLive中継などがそれで、リアルタイム視聴することに価値のあるコンテンツでは、たとえ数秒のバッファリングによるラグでさえも、熱狂的な視聴者にとっては大問題だ。時間をかけて最適なエンコードをすることもできないから、安定的な伝送のためにビットレートの上限を上げられないとすると圧縮率を上げて画質を犠牲にするしかない。インターネットの特性上、帯域が保証されているわけではないから、一番盛り上がる場面でストリームが途切れて、いいところが台無しになってしまうことだってある。こういった分野は、やはりテレビ放送の領分だ。

【Sony 4K OLED】
現在劇場公開中のCGアニメ「SPIDER-MAN: INTO THE SPIDER-VERSE」のプロモ映像

 さて、少々の不満はあるものの、コストダウンとのトレードオフに十分満足のいった“コードカット”から数カ月後、ふと気がついたことがる。めったに使うことのないテレビやBDレコーダーに無駄に多数内蔵されたチューナーの存在だ。ほんの少し前までは、多チャンネル同時録画できるマルチチューナーはありがたい機能だったのに、人間というものは現金なもので、不要となれば今後2度とこれらにコストをかけたくない気分になる。

 販売されている旬のリビングテレビに目を向けてみると、4K、8K放送への過渡期である現在、4K8Kチューナーが分離されて別売りになっている状況だ。これは筆者にとって好都合だが、従来のBS/CS衛星放送や地上波デジタル放送を受信するチューナーはしっかりと内蔵されている。その他、スマート家電として組み込まれているAndroidデバイスや、絵作りのための映像処理エンジン、どれをとってもオールインワンのテレビだけを求める層に向けたもので、筆者には必要のない付加価値だ。必要なものは外部から入力するので、シンプルで安くしてほしい、これが筆者がテレビに求めるものだ。

 となると、伝統的にチューナーのないシンプルなディスプレイ装置といえば、PCのモニターということになる。そこで現在のリビングテレビを置き換えるディスプレイ装置として目をつけているのがゲーミングモニターだ。最近のゲーミングモニターは、テレビ放送を受信するチューナーを持たないことのほか、120Hz以上のリフレッシュレート、液晶でも1ms程度の応答速度、16:9を超えるワイドアスペクト比の選択肢、HDR対応といった特徴を持つ。付加価値で差別化するために、多少の絵作りを行なう機能を持ってはいるが、画面のリフレッシュを遅延させてまで行なうようなことはない。

 そもそも現在のリビングテレビは、機能的にやや冗長だと言える。映像コンテンツでもゲームでも、絵作りはマシンパワーにゆとりがあるソース側でやってしまっているのに、テレビ側でわざわざ改めて絵作りを行なっているため、機能が重複してしまっている。ソース側ではディスプレイ側の特性を考慮していないから、というのは絵作りをやり直す根拠となり得るが、それがはたしてより良い結果をもたらしているのか、実のところ良くわからない。

 より良い結果が出ているのであればそれはそれでいいことなのだが、ごく一般的に言えば不必要な加工を繰り返さない方が、良い結果をもたらすことが多い。PC向けのモニターは、このあたりがシンプルにできあがっているから、絵作りがコストに影響する程度は圧倒的に少ない。

【LG UltraGear】
G-SYNC対応モデルをアピール

 絵作りに関心を持たない代わりというわけではないが、PC向けモニターのうちゲーミングモニターの多くはGPU側の事情を考慮する。G-SYNCやFreesyncといったGPU側でリフレッシュレートを制御するテクノロジに対応するモニターがそれで、GPUとディスプレイとが協調して動作するように策定された仕様に基づいて設計され、テストを経ているから、単純な映像シグナルの送受信より複雑だといっても、謎の相性問題が出るようなことは少ない。

 常にフレームレートが変動するのは、何もPCのGPUに限ったことではない。テレビに接続する前提のコンソールゲームでは、伝統的な固定のフレームレートを採用する例が今でもなくはないが、大多数はフレームレートを変化させて、GPUが精一杯絵を描いている。フレームレートが可変なら、可変リフレッシュレートのほうが、本質的に都合がいいのはPCとまったく同じだ。リビングテレビの記事で触れたように、「Xbox One X/S」で始まった可変リフレッシュレートの流れは、今後他のコンソールハードにも波及していくことが予想される。

徐々に増えつつある大型ゲーミングモニター

 さて、こういったことを背景に、CES2019で出展されていたゲーミングモニターを見ていきたい。2019年の最新モデルでは、いったいどういった機種に注目すればいいのだろうか。

 筆者がまず注目するのは、G-SYNC対応ではBFGDs(ビッグフォーマットゲーミングディスプレイ)とNVIDIAが呼称している大画面ゲーミングモニターだ。

 該当する2019年モデルは、HPの「OMEN X 65 Emperium」で、65インチの大画面、4K(2160p/3,840x2,160)で、BFGDsのレギュレーションを超える最大144Hzをサポートする。パネルはMVA方式のものを採用して視野角178度を確保する。応答速度4msのものだが、HDRの平均輝度は750NITS、最大輝度は1,000NITSと優秀だ。

 反面、HDMI2.1端子の搭載はなく、2.0にとどまっており、G-SYNCに対応することからFreesyncに対応しないことが弱点だろう。付加機能として、NVIDIA SHIELD TVを内蔵するのも微妙なところだ。気になるお値段はなんとアメリカで5,000ドル(約54万5,000円)で、日本での発売は未定。

 120Hz駆動に対応する4K 65インチのリビングテレビが20万円程度で買えることから、144Hzへの対応、1,000NITSに達するダイナミックレンジ、G-SYNC対応あたりをどう評価するかで「OMEN X 65 Emperium」の価値が変わってくるだろう。日本での販売に関しては、NVIDIA SHIELD TVを内蔵しているのにもかかわらず、SHIELD TVのゲーミングサービスが日本で行なわれていないことも関係して、ちょっと難しいのかもしれない。

【HP OMEN X 65 Emperium】

 NVIDIAの内覧会で、昨年、今年と実際に「OMEN X 65 Emperium」を使用してPCゲームプレイをするデモを見てきたが、「OMEN X 65 Emperium」は画面サイズや解像度より、やはりダイナミックレンジの広さが感動的だ。HDRの良さはどうしてもSDRな既存メディアでは伝わらないので、是非お近くの量販店で確認してほしい。その際、それぞれのテレビについて最大輝度の値を質問してみると、参考になるだろう。

 いまだ製品の登場は見えないが、この65インチサイズのBFGDsには、Asus「ROG Swift PG65」とAcer「Predator」の65インチモデルも計画の上では存在する。両社のモニターはBFGDsのレギュレーション通りの120Hzで、パネルにはIPS方式のものが予定されている。話題が出てから、すでに1年が経過しているわけだが、HPがようやく発売にこぎつけてきたことから、残る2社の製品にも本年中に何かしらの動きがあると予想される。AsusやAcerは、日本市場にもゲーミングモニターを多数投入してきた実績があるため、HPものより日本で発売される期待が持てる。

【G-SYNC対応モニター比較】
左がテスト済の互換モニター、右がG_SYNCプロセッサを内蔵する対応モニター

 HPの「OMEN X 65 Emperium」に対抗できるゲーミングモニターのプロトタイプを突然発表してきたのがDELLだ。DELLの「Alienware」ゲーミングモニターはサイズこそ55インチとやや小形だが、4K 120Hz OLEDでHDRをサポートする。HDMIには2.1を搭載していることから、Game Mode VRRにも対応する。FresyncとG-SYNCに対する対応は未定だが、Freesyncがサポートされる可能性は高いだろう。

 担当者の話では、このゲーミングモニターの発表は当初の計画になかったものなのだという。HPやその他競合するベンダーに対抗するためか、急遽このタイミングで発表したようだ。製品としては、なかなか良い差別化ができていて、画面サイズより、色再現性や応答速度に勝るOLEDを採用して、美しさではIPS LCDは定番のゲーミングモニターのなかで差別化を図っていくようだ。インターフェイスも2019年発表モデルらしくDP1.4にHDMI2.1と、しっかりと将来を見据えたものを搭載してきている。気になる発売時期や値段のほうはまったくの未定ながら、パネルがLG製のリビングテレビと同等のものであることから、20万~30万程度の価格帯で販売される可能性もあるだろう。

【DELL 55インチ4K OLED】
プロトタイプにつき名称、発売日、価格未定

 2019年新春の今現在、大型ゲーミングモニターで先手を打ったNVIDIAだが、1年が経過しても製品化にこぎつけたのはわずか1機種という状況で、なかなかゆるりとした立ち上がりになってしまっている。ことの背景には60インチを超えるクラスだと、パネルの価格が高くなってしまい、なかなか価格が下げられないことと、競合相手がもはやリビングテレビとなってしまい、商品の差別化が難しいこととが挙げられるだろう。

 最大輝度1,00NITSを実現し、144Hz駆動するHPの大型ゲーミングモニター「OMEN X 65 Emperium」のインパクトは相当なものの、個人的には価格が高すぎて購入に至らないだろう。その一方でDELLの製品はなかなかニクイところを狙ってきている。55インチであれば、ぎりぎり自室向けに検討する層もいるだろうし、昨今のリビング向けとしてはやや小さいが、それでも十分な大きさである。画面の応答がよく、画面内の暗い影色部分の色再現性に優れたOLEDを採用しているのもポイントが高い。ピーク輝度の表現はOLEDの特性上苦手ではあるが、最新のパネルであれば1,000NITS程度を達成してくる期待は十分にある。

 リビングテレビの価格動向とともに、予定されているゲーミングモニターの発売時期、価格動向をも見据えて、リビングテレビのリプレイスを虎視眈々と狙っていきたい。当初は漠然と2020年東京オリンピック直後が狙い目かな、と思っていたが、このペースで行くと、本年中に値ごろ感のある魅力的な商品がリリースされそうだ。