インタビュー

【NASEF現地レポート】「日本でしかできないようなものを」ESL Shahin Zarrabi氏が語るDreamHack Japanへの意気込み

【DreamHack Atlanta 2022】

11月18日収録

会場:ジョージア世界会議センター

 11月18日、米国ジョージア州アトランタにて、世界一の規模を誇るLANパーティイベント「DreamHack Atlanta 2022」が開催された。ゲーマーなら知らぬ者はいない当イベントだが、昨年はコロナ禍の世情に阻まれてオフライン開催が叶わなかったため、首を長くして待っていたファンも多いことだろう。

 DreamHackはゲーマーたちが自分のマシンを持ち込んでゲーム漬けになれるBYOCに加え、eスポーツ大会やコスプレコンテストなど、様々なプログラムが複合的に開催されるイベントだ。また来年2023年には日本にて開催されることが決まっており、今後日本でも耳にする機会が増えてくるはずだ。

 そんな世界的イベントDreamHackの戦略を手がける、いわばブレーンともいうべき人物が、ESL FACIETグループの成長戦略部長Shahin Zarrabi氏だ。同氏はこの5年ほどDreamHackに携わっており、その手腕でもってコロナ禍を乗り越え、DreamHackを再びアトランタの地に返り咲かせた。そんなZarrabi氏に、DreamHackの成功のカギと、DreamHack Japanに期待することを伺った。

【DreamHack Atlanta 2022】

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すべてのコミュニティに居場所を提供するイベント

――はじめに、Zarrabiさんの仕事内容について簡単に教えてください

Zarrabi氏: わたしの仕事はDreamHackが来場者にとってどんなイベントであるかを管理し、またどの国、どの都市で開催するかを決めることです。

――今回はアトランタで4回目のDreamHack開催になります。なぜアトランタを選ぶのでしょうか

Zarrabi氏: アトランタには他にないゲーマーのコミュニティがあります。規模は大きいながら、草の根的なつながりが非常に強いんです。草の根コミュニティを支えるというのがDreamHackの一番の目的ですから、アトランタはそれにぴったりな都市なんです。加えてアトランタは「Atlanta eSports Alliance」を設立するなどして、ゲーミングイベントを積極的にサポートしていますから、そういう意味でもイベントが開催しやすいんです。

アトランタ市の様子

――DreamHackはパンデミック以降オフラインで開催されておりませんでしたが、どのようにコロナ禍を乗り越えたのでしょうか

Zarrabi氏: 大きなイベントが開催できなくなった直後から、我々は常にDreamHackを再始動させる準備をしていました。いつ規制が変わるか分かりませんでしたから、どんな変化にも対応できるような態勢をとっていたんです。そのおかげもあって、イベントの開催や渡航の制限が緩和されてすぐ、今回のDreamHackを開催することができました。

 また我々はコロナ禍の休眠期間をつかって、Dramhackの在り方を見直し、イベントの再構築をしていました。中でも特に力を入れたのは、DreamHackにオンラインイベントを組み込むことです。例えば昨年、「DreamHack Beyond」というインタラクティブなオンラインイベントを開発しました。このイベントでは2ヶ月にわたって、ネット配信やオンライン対戦会などを我々がホストし、それらに参加することで専用のアプリ上でポイントがたまり、景品と交換できる仕組みになっています。今後はオフラインイベント開催の前にこのDreamHack Beyondを開催し、イベントをさらに盛り上げていくつもりです。

――DreamHackはどのようにして始まったのでしょうか?

Zarrabi氏: 1回目のDreamHackは1994年に、スウェーデンのとある学校のカフェテリアで開催されました。参加したのは100人程度のプログラマーたちで、はじめは自作のゲームやプログラムを披露するだけの場でした。それからどんどんゲームの要素が増していって、現在のようなLANパーティーになり、1万人規模のイベントに成長していきました。

 ここまで成長した理由は、すべてのコミュニティに居場所を提供したからでしょう。草の根コミュニティはもちろん、eスポーツの競技コミュニティ、コスプレイヤーのコミュニティ……DreamHackにはそのすべてが居場所をもっています。そしてこれだけ多様性のあるイベントになると、Monsterやintelのように、スポンサーは自ずとついてくるのです。わたしはゲームとは、ロックンロール以来の一大トレンドだと思っています。それを理解している企業であれば、DreamHackのスポンサーにつくことは難しい決断ではないはずです。

DreamHack Atlanta会場内の様子

――今回のDreamHackで一番楽しみなことはなんですか?

Zarrabi氏: Fortniteの大会ですね。10万ドルの賞金が出ます。Fortniteの面白いところは、トッププロのプレイヤーと、あるいはそのプロプレイヤーのファンであるような小学生の子が、同じ土俵で戦えるというところです。例えばサッカーでは、ロナウドやメッシが小学生と同じ大会に出場するなんてことはありえないですが、Fortniteはそれを可能にしてくれます。そしてこの小学生の子が、未来のトッププロになるかもしれないのです。

――今後DreamHackのような大型イベントがもっと発展していくにはどんな取り組みが必要だとお考えですか?

Zarrabi氏: イベントにかぎらず、ゲーム業界が今後もっと発展していくには、ただのエンタメで終わるのではなく、社会問題に取り組むことが不可欠です。何かスキルを身につけたり、新しい出会いを提供したり、ゲームが持つそういった社会的な価値に目を向けることが非常に重要になってきます。例えばゲームはクリエイティビティを育むのに長けています。ゲームをプレイすることからものづくりへの興味につながり、ゲーム業界だけでなく映画業界やデザイン業界など、様々な業界への道が開けます。DreamHackは物販ブースやインディーゲームブースを設けることによって若いクリエイターを支援し、社会貢献に繋げています。

物販ブースの様子

 それから、BYOCエリアに行けばわかりますが、DreamHackはオンラインゲームで知り合った人びとが初めて出会う場所でもあるんです。その中には、ゲームがなければ友達がいなかったかもしれない人もいます。ゲームのおかげで孤独を抜け出せたり、ゲームのおかげで新しい仲間ができたり、参加者がそうやって人間関係を育む場を提供するのも、DreamHackの社会的ミッションのひとつです。

BYOCエリアにて。こちらの若者たちは12人でひと組、初めて顔を合わせる人がほとんどとのことだ

日本ならではのDreamHackを見てみたい

――DreamHackを日本で開催しようと決断したのはなぜですか?

Zarrabi氏: 欧米のエンタメ業界にとって、日本のマーケットはとても異質で、その分新しいニーズが潜んでいると思っています。日本のゲーム文化は世界にも知られていますが、その陰で草の根的に育まれたニッチなコミュニティもたくさんあるはずです。そういうコミュニティが輝ける場を提供したいというのが、日本でDreamHackを開催する理由です。スポンサーのソニー・ミュージックエンタテインメントも、我々のそういった理念に共感してくれています。

【DreamHack Japan 2023】

――日本は欧米とは異なったゲーム文化を持っていますが、それでも成功するでしょうか

Zarrabi氏: もちろんDreamHackは欧米発のイベントですが、欧米式のDreamHackを成立させる必要は全くありません。DreamHackはあくまでも枠組みであり、地元のコミュニティに寄り添って形を変えていきます。次回のDreamHackでは、今までのファンが驚くような、日本ならではのDreamHackが開催されるべきなのです。そしてその結果、既存のコミュニティがもっと大きく成長し、広く認知されることがわたしの望みです。

――DreamHack Japanで最も楽しみなことはなんですか?

Zarrabi氏: わたしは日本に行ったことがないので、行くこと自体がまず楽しみです。その上でやはり、日本独自のゲーム文化を目の当たりにするのが何よりも楽しみですね。格闘ゲームやモバイルゲームなど、日本独自のかたちで発展していったコミュニティが多くありますから、それらを欧米のオーディエンスに紹介することで、どんな化学反応が生まれるかを見るのが楽しみです。

――日本のeスポーツシーンはコロナ禍で大きな打撃を受け、成長すると同時に縮小しているような側面もあります。この状況を打破するにはどうするのがよいとお考えですか?

Zarrabi氏: これはどこの国でもいえることですが、イベントオーガナイザーが目先の利益だけを追究しているからこそ、このような状況に陥ってしまうのです。シーンを育むために本当に重要なのは環境づくりです。若い人たちが安心してゲームに打ち込むことができ、またそこから学ぶことができる、そんな環境を作る。そうすれば、新たなプレイヤーはもちろんのこと、若い人たちの中から新たなオーガナイザーが出てくるはずで、そうなった時はじめて、シーンは真の意味で成長したといえるのです。

 たとえばここアトランタでは、eスポーツを学校のカリキュラムに取り入れようという動きが盛んにあります。そういった制度があれば、子供たちは学業と両立して安心してゲームをプレイすることができ、また目先の楽しさだけでなく、そこから実践的な学びを得て、クリエイティブな人材へと成長することができるのです。目先の利益を追究するのではなく、次世代を育むという意識が最も重要だと考えます。

――DreamHack Japanに参加するファンの皆さんにメッセージはありますか

Zarrabi氏: 参加者のみなさんには、自分のオリジナルなアイデアを持ってきてほしいです。DreamHackはこれまでも参加者が持ち込んだアイデアを取り込んで成長してきました。例えばコスプレコンテストも、とあるDreamHackでコスプレをした誰かが壇上にあがったのがきっかけで、それをコンテストにしてしまおうということで出来上がったんです。日本の皆さんには我々には無い発想があるはずですから、是非自分のクリエイティビティを爆発させて、DreamHackに新たな刺激を与えてほしいです。

Zarrabi氏