インタビュー

【NASEF現地レポート】eスポーツ教育団体NASEF代表 ジェラルド・ソロモン氏インタビュー

「eスポーツは新たなカルチャーでありコミュニティである」 NASEF JAPANとも連携強化へ

11月19日収録

 NASEF(北米教育eスポーツ連盟)は、全世界でeスポーツ教育を普及させることを目的として活動するNPO団体だ。eスポーツ教育とはゲームを教材として子供たちにITの知識やコミュニケーション能力を身につけさせる取り組みの事で、いまその価値が世界中で認められつつある。

 NASEFは発足した2017年から今までの間に2500以上のeスポーツ部の立ち上げに関わっており、加えて生徒に向けたeスポーツの大会の開催、教員に向けたeスポーツについてのレクチャーの実施を行い、eスポーツ教育をリードしている。また2020年にはサードウェーブの後押しを受ける形で日本にもNASEF JAPANが発足されたことで、日本の教育現場への影響も強めつつある。

 筆者は今回NASEFに招かれてアメリカはジョージア州に出向き、NASEFがeスポーツ教育の支援を行う学校を見学することで、彼らがアメリカで推し進める施策を取材した。そこで目にしたNASEFの取り組みは実に素晴らしかったが、どうすれば日本の教育現場でも同じようなeスポーツ教育を実現することができるのか、NASEFの創設者でありエグゼクティブ・ディレクターであるジェラルド・ソロモン氏と、その日本支部であるNASEF JAPANの創設者であり、顧問を務めるサードウェーブ代表取締役社長尾崎健介氏にインタビューを行った。

NASEF現地レポート関連記事

ジェラルド・ソロモン氏(左) 尾崎健介氏(右)

――ソロモンさんがNASEFを立ち上げようと思ったきっかけは何ですか?

ソロモン氏: 私は以前とある財団のCEOとして活動していて、そこでの私の仕事は恵まれない人びとの生活を向上させることでした。その中にはもちろん教育水準の向上も含まれています。しかし財団のやり方は非常に古典的で、じきに私は、この方法では全ての生徒に働きかけることができない、とりわけ人種的マイノリティの子供たちの現状を変えることはできないと悟ったのです。

 その頃から私は、何か新しい方法で子供たちにリーチできる方法はないかと模索していて、そんなときに出会ったのがeスポーツでした。多くの子供が関心を寄せるeスポーツですが、ICT教育への活用の可能性や、ソーシャルスキルを育むツールとしての有用性があることに気づき、「eスポーツ教育」という考えに至ったのです。

――現在NASEFはどのような活動を行っているのですか?

ソロモン氏: 最も精力的に行っているのはeスポーツ部の創設支援です。eスポーツ部創設のためのマニュアルと、先生方に向けたレクチャー、機材調達のルートなども用意してあって、それをもって色々な学校へ働き掛けています。eスポーツ部のおかげで生徒の学業成績があがったり、精神状態が改善されたり、そういった報告を多数受けています。

――eスポーツ教育のいちばんの強みはなんですか?

ソロモン氏: 子供たちの自主性を育めることです。eスポーツは他のプレイヤーと一緒にプレイするものであり、また明確な目的が設定されています。そういった状況に置かれれば、子供たちは自分のアイデアを出そうとし、また他の子供たちを尊重して協力しようとし、その中でコミュニケーションスキルが育まれます。こうしてeスポーツを通じて育まれたものは、必ず実社会でも通用するものになります。

プレゼンをするソロモン氏

――今回NASEFは茨城県庁と群馬県庁から職員の方々、そして我々メディアをアメリカに招き、様々な学校を見学するツアーを実施しました。このツアーの目的はなんだったのでしょうか?

ソロモン氏: 日本の方々に我々の活動について深く知ってもらい、良好な関係を築くのが今回のツアーの目的でした。日本は我々のeスポーツ教育を普及させるミッションにとって大切な場所です。eスポーツ教育によって救われるであろう子供たちが沢山いますし、サードウェーブという信頼に足るパートナーがいますから。

――尾崎社長は今回のツアーに同行されていかがでしたか?

尾崎氏: 非常に感銘を受けました。以前からNASEFの理念には共感していましたが、実際に子供たちがeスポーツ教育に触れて生き生きとしている場面を見て、ますますeスポーツ教育の可能性を感じました。

ツアーで訪れた学校「ACE」のeスポーツ部員たち

――今回のツアーを経て、アメリカでeスポーツ教育が根付きつつあることを思い知りました。ここまでくるのには苦労もありましたか?

ソロモン氏: もちろんです。これまで2500以上の学校と関わってきましたが、試行錯誤の連続でした。いちばん難しいのはいつも、我々の理念に共感してくれる先生を見つけることです。

@@em|s|――先生方にeスポーツ教育の重要性を知ってもらうためには、どう説得するのがよいのでしょうか?

ソロモン氏: まず言っておきたいのは、人を説得するのは無理だということです。eスポーツ教育を懐疑的に見る人は大勢いますが、これらの人びとを説得している暇はありません。大事なのは我々の理念を理解してくれる人を見つけることで、我々はそのために先生方に向けたアンケートを幾度となく行ってきました。

 例えば「ビデオゲームは好きですか?」や「eスポーツについて知っていますか?」など、基本的な質問を投げかけて、eスポーツ教育に興味を持ってくれそうな人を探すのです。100人にアンケートを行えば、1人は興味を持ってくれる人がいます。そしてその人に対してeスポーツの教育的価値について説けば、きっとわかってもらえます。地道な作業ですが、我々はそうやって影響を広めてきました。

 日頃学校で子供たちを教えている先生方の中にも、何か新しいことをしたい、自分のプロジェクトを始めたいと思っている人は大勢います。そういう人にとって、NASEFの活動に参加することは大きなやりがいとなります。NASEFの活動は生徒たちにはもちろんのこと、教員の方々にとっても、新しい居場所を提供しているのです。

――居場所、ですか。

ソロモン氏: そうです。NASEFの一番の目的は、生徒と先生方に居場所を、新しいコミュニティーとカルチャーを提供することなのです。従来的な学業やスポーツといった分野では活躍できない子供たちに、eスポーツという新たなカルチャーによって、自分たちを解き放てる場所を作ってあげること。それができた時はじめて、NASEFの活動が実を結んだと言えるのです。

 今までの活動の中でも、沢山そういった事例を見てきました。それまで人と全く話せなかったような子が、eスポーツ部に入ってから人と自己表現をするようになったり、身体に何かしらの制限を抱えている子が、eスポーツを通じて他の子供たちと同じように動き回ったり。そういった現場の姿を見ていただければ、eスポーツ教育の可能性は一目瞭然でしょう。

――それでもやはりeスポーツ教育に反対する方もいらっしゃいますよね。

ソロモン氏: もちろんです。学校や教育委員会の中には、この20年で何も思考が変わっていないような、古典的な方が未だに多くいます。しかしアインシュタインの言ったとされる名言にこういうものがあります「同じことを繰り返しながら違う結果を求めるという行為は、狂気そのものである」。

 考えてみてください。今から20年前、誰が教育現場にPCやタブレットが浸透すると予想できていたでしょうか。それと同じなのです。eスポーツは新しいカルチャーであり、それが特定の人にとって受け入れられないことは仕方がないのです。しかし重要なのは、子供たちは必ずeスポーツ教育を必要としているということを認知することです。我々NASEFはそのために活動を続けています。

――日本でも徐々にeスポーツ教育の流れができてきていますが、日本ではどうも、そういった古典的な先生が多いような気がしてしまいます。

ソロモン氏: そうでしょうか? ここアメリカでも、古典的な人はいつまでたっても古典的なままです。そして彼らは彼らが正しいと信じ込んでいるからこそ、大きく主張することを恐れません。しかし我々が目を向けなくてはならないのは、その陰に隠れてしまっている先生方や生徒たちなのです。声に出していないだけで、日本にもきっと、eスポーツ教育に興味を持った先生方が大勢いるはずです。

 もちろん、我々がアメリカで行っている活動をそのまま日本でしては上手くいかないでしょう。日本には日本の社会にあったやり方がきっとあるはずですから、今回のツアーを見て学んだことを持ち帰って、たくさん議論をしてほしいと思います。しかし根本的には、アメリカも日本も、eスポーツ教育が必要とされているということは同じなはずです。

 それにゲームというものは、我々が一般的に思っているよりもずっと深く、我々の生活に浸透しています。大人か子供かにかかわらず、日常的にゲームをする人は世界中にいますし、その中には、ゲームから何かを学んだという経験を持っている人も大勢いるはずです。重要なのは、そうした個人的な体験をもとに、eスポーツ教育の重要性を説くことでしょう。

――NASEFの今後の目標はなんですか?

ソロモン氏: 今後は今まで以上に経済的に貧しい地域に集中して活動を行い、様々な制限を抱えて生きる子供たちにeスポーツで夢を与えることが、私たちの目標です。今回のツアーで「Little Mill Middle School」のeスポーツ部を見ていただきましたが、あの学校に通う多くの子供は困窮家庭に生まれ育っています。そんな彼らにとってeスポーツは心の支えであり、より広い世界へと飛び出していくための窓口になっているのです。彼らのような子供たちがもっと手軽にeスポーツに触れられるようになる環境づくりをしていきたいです。

「Little Mill Middle School」eスポーツ部員たち

――日本でも同じようにeスポーツ教育が広まって欲しいですね。

ソロモン氏: きっと広まると思います。NASEF JAPANを設立したサードウェーブは社会問題にも目を向ける素晴らしい会社ですから。もちろんサードウェーブも会社なので、ビジネスとして利益をあげることも重要ですが、それと社会貢献は完全に両立できるものであると、私は信じていますし、尾崎さんもそれを理解してくれています。サードウェーブがいてくれればきっと、徐々に日本社会にもeスポーツ教育が浸透していくでしょう。

尾崎氏: 私たちも全力でeスポーツ教育の普及を支援していくつもりです。

――この記事を読んでいる先生方に何かコメントはありますか?

ソロモン氏: ぜひNASEF JAPANに問い合わせてください。先生ひとりの個人的な興味が、きっと大きな変化をもたらしてくれます。先生方をサポートする体制は十分にありますから、まずは一度我々に話しかけてみてください。