インタビュー

「龍が如く7 光と闇の行方」、名越総合監督インタビュー

仲間との信頼関係と愛情があったからこそできた主題歌「一番歌」。その誕生秘話を語る

2020年1月16日 発売予定

価格:8,390円(税別)

プレイ人数:1人

CEROレーティング:D(17才以上対象)

 新しい「龍が如く」が生まれる。これまでもゲームファンを驚かせる数多のチャレンジをしてきた「龍が如く」シリーズだが、そのシリーズの中でも新システム、新主人公、新舞台……とチャレンジ尽くしの最新作「龍が如く7 光と闇の行方(以下、龍が如く7)」がいよいよ1月16日に発売される。

 発売を目前にした今弊誌ではシリーズ総合監督を務める名越稔洋氏に発売直前インタビューを実施した。率直に今作の出来の自信から、中井貴一さん、堤真一さん、安田顕さんのキャスティングの理由とそのエピソード、そして本作のタイアップ楽曲「一番歌」の誕生のきっかけまで見所が満載のインタビューになっている。

 すべての関係者に対して真摯に接する名越氏、キャストにもアーティストにもそして読者にもその姿勢は変わらない。発売直前だからこそ伝えたいメッセージを語ってもらった。

今作は“新しい遊び”を作った自信作

――本日はよろしくおねがいします。発売を目前に控えた今の率直な感想をお教えください。

名越氏:これまでもシリーズをずっとリリースしてきているのですが、たくさんの人に触れてもらえるかどうか、という気持ちが一番ですね。率直に言うと心配ですよ、毎作発売するときは不安です。やるだけのことは全部やったという気持ちと、それをどう受け止めてもらえるかという気持ちです。

 どう受けてもらえるかということ自体が次に繋げられるかどうかの指針になるので、開発中は届ける気持ちで、言ってみれば発売直前は次の作品を作って良いかを審査されてるわけですよね。何事も審査とか試験とか不安じゃないですか、そういう気持ちに近いですね。

――なるほど、それでは本作の自信の程はいかがでしょうか。

名越氏:自信はありますし、スタッフもみんなそう言っています。「今作はRPGにする」と発表したときに受けた応援から拒否反応までのバラバラの混沌とした感じから、TGSでの試遊や体験版の配信などで反応は大きく変わってきています。ゲームは遊んでなんぼなので、遊んだことによってすべての評価は決まってくると思っています。

 シリーズの最初の作品の「龍が如く」も最初は全然ダメだったんですよね。それがクチコミでリピートがリピートを生んで、本数として成立するようになって、先程申し上げた「次を作ってよいか」という意味で言えば、クチコミによって次を作って良いということになって、それ以降の作品を作れたわけですから。今回もそれに近い形になるんだろうなと思っています。

 体験版をプレイしていただいて、イメージが良くなって予約しましたという人もいるし、体験会とかで「買うつもりなかったけど触ってみたら良かったので予約しました」という声を聞くとそういうものかな、と。

 なかには体験版自体も「RPGは『龍が如く』のイメージじゃない」とダウンロードしない人もいると思うんですね。そういう人もクチコミで「やってみたら面白かったよ」って言われたらプレイしてくれると思うんですよ。

 時代が変わってもクチコミ以上のセールスツールはないと思っています。もちろん面白いという前提があってからこそ成立することですが、僕らはそれを成立させられていると考えているので、そこは自信を持って結果を待ちたいなという気持ちです。

セガゲームスで「龍が如く」シリーズ総合監督を務める名越稔洋氏

――東京ゲームショウでの体験プレイ、店頭での体験会、そして体験版の配信ときましたが、ユーザーからのフィードバックはいかがでしたか。

名越氏:発表した当初はネガティブな意見が多かったですが、触っていただけると本当に180度変わりましたね。

 記事には「コマンドRPGになった」としか書きようがないし、僕らもそう表現するしかないんですよね。ただ“コマンドRPG”というと、古くなった、退化したという風にとられてしまう。ただ僕らとしては“コマンドRPG的な新しい遊び”を作っていて、それは新しいモノなんですよ。その新しさに触れた瞬間や、気がついた瞬間に評価が変わるんです。

 ただそれは説明が非常に難しくて、「かったるくないよ」とか「テンポ感がいいよ」とか、今回はこの面白さをどう伝えるかまでを計算に入れてなかったので。

――触ってもらえれば伝わるけど、文章化したり発表会で言うのは難しかったということですね。

名越氏:大変難しかったです。難しい理由がゲームにもちゃんと込められています。敵とエンカウントすると敵が散るのですが、この散り方一つとってもかなり高度なAIで計算してポジショニングしてるんですね。プレーヤーによって、それぞれどんな技を出すか、どのキャラクターに、どの技を、どのタイミングで出すか、それは千差万別じゃないですか。その千差万別な状況からAIが再計算していて、プレーヤーに少し都合の良いように……要するに面白く気持ちよく遊べるように、仕向けてくれてるんですね。

 今作でプログラマには、⼗数年続いたテンポが良いアクションゲームをコマンドRPGというシステムに取り替えた時に、テンポが良い、気持ちが良い、かったるくない、そして爽快だ、⾯⽩いと感じられるものにしてほしいと指示を出しました。テンポが良いといった⾔葉をキープするために何が必要で何が必要じゃないかを取捨選択し、トライアンドエラーを繰り返しました。それを重ねるのに相当な時間を要しましたし、今回のプロジェクトの肝はほとんどそれなんですよね。

 ただそれは表に出ないプログラムなので、ノウハウはすごいのですが言葉にするのは難しかったというところです。

――コマンドRPGという挑戦も非常に面白かったのですが、ストーリーについても見所が?

名越氏:伏線の回収をはっきりと答えがわかる形でキレイにやったつもりです。誰でも気づく納得できる美しい伏線の回収もあるし、「あ、言われてみればそういうことだったのか」というような、ある意味でプレーヤーを試すような伏線も散りばめています。そういうところも見所です。

 RPGというのは成長ドラマを描くものなんですね。成長しながら自分の過去を知り、過去を理解した上で、未来を向いていくという1つのドラマなので。そういうドラマは1人の主人公につき1回しかできないので、新主人公の「春日一番」という人間の、宿命と生い立ちを探る旅は相当気合を入れています。

 「桐生一馬」のときは割と出来上がった人格でしたし、スーパーマンだったんですよね。彼は強いし、愚痴らない、色んなことを引き受けるし、飲み込むし……。不器用という意味では桐生も春日も不器用なんですけど、春日は愚痴るし、「もうやってらんねぇ」って言うし(笑)。

 僕らに近いのは春日です。やっぱり人間が生きていくって「愚痴ってもいいよ」と、愚痴ったら愚痴ったなりに明日が来るわけで、明日のためにどうやって生きようかという前向きなドラマになっていると僕は思うんですよね。

――今回の見所はやはり春日の成長ドラマでしょうか。

名越氏:一番は春日の成長ドラマですね。彼は「荒川真澄」という親父さんに惚れ込んで裏社会に入るのですが、裏を返せば1人しか信用していないんですよね。

 自分は親もいないし、それ故に親と呼べる人にしかしっぽを振れないというか。それはそれで価値はあるんですが、一生を生きていくのはそれじゃダメだよねっていう。だからこそ仲間というものが足されていく。仲間との出会いも良いものばかりではないですし、出会いは違う人格同士のぶつかりあいだから、問題は起きるし、裏切られたりするし。そこをまた戦うことがあったり、一方で許すことがあったり。

 彼が神室町から横浜に行き、横浜の中で人として成長する。「龍が如く7」は春日が刑務所にいた時間を除くと、実は数週間くらいの短いドラマなんですね。その中でとんでもなく濃密な体験をするというドラマなので、そこが僕は今回はすごく好きですね。

 元々「龍が如く」というのは神室町という街を中心に展開し、RPGのジャンルでは世界で一番小さなマップだと思っていました。だけど世界で一番濃厚な体験をさせようと思っていたんです。それは多くの体験をさせるためにはマップの量が必要だという感覚を否定してみたかったというのがあって、面積は小さいんだけど濃く作り込む。濃く作り込む一つのファクターとして例えばタイアップをいっぱいとってきて、現実の街のようにしていくというのがその濃さを彩っていくためには重要だったりして、その繰り返しをずっとやってきた中で、今回は⼈間らしい⽣き⽅の1つの伝え⽅を新しい主⼈公でやってみたかったというか。

 また桐生でずっとやってると「桐生はこういう風にしか動かないよね」っていうのもあるじゃないですか。今回女性のキャラクターも仲間に増えましたが、桐生だったら絶対にできないんですよ。女性に「一緒に戦おうよ」なんて桐生は絶対に言わないので(笑)。言うとしたら「お前は見てろ」だと思うんですよ。守ってあげることはあっても一緒に戦うことはない、一緒にバトルに参加させる桐生は絶対にいないと思うから(笑)。

 これも春日という主人公で、パーティーというRPGのシステムだからできたことです。ゲームの主人公が変わって、システムが変わって、違和感なくできたという意味では、桐生から春日に変わったことによって得られたものはすごく大きいので、ドラマの膨らみも一風変わった、同じ「龍が如く」というIPでも違う色が出たというのはすごくいいと思いますね。

 また今回はあえてホームドラマっぽい要素も今回入れてるんですよ。例えばシリーズの有名キャラクターのハン・ジュンギというキャラクターが出てくるのですが、紗栄子というキャラクターは彼のことが嫌いなんですよ。イケメンでカッコいいと思っているけど、人間的には嫌いという。

 人としての好き嫌いを仲間になったから全部受け入れるっていうのは、「龍が如く」らしくないなと思っていて、「仲間としては認めるけど、人としては好きじゃないよ」みたいな関係性で話が続いていってもいいと思うんですよね。それでも仲間は仲間だから大事にしようよっていう。もちろんそこから関係性とかが変わってもいいんですけど、体よく人間関係がどんどんプラスに変わっていくというのはドラマとしては浅い気がしたので、そこは少しいじりましたね。

 仲間だから一心同体ってわけではない。その方が人間ドラマらしいと僕は思いました。「ひょっとしたらトラブルになってしまうんじゃないの?」っていうスレスレ感があったほうが僕は面白いと思っていて、時にはその悪い予感の方に行っちゃったりということがあってもいい。「どうなるのかな我々、俺どうなんのかな?」っていう気持ちが常にあるパーティってあんまりファンタジーを舞台にしたRPGの中では存在しないと思うので、そこは「龍が如く」らしいところだと思います。

――ドラマと言えば欠かせないのが登場人物ですが、今回3名の俳優さんを起用された理由を教えて下さい。

名越氏:今までの「龍が如く」でいうと大体5名くらいを起用していました。特に決めていたわけじゃないのですが大体5名で、今回も5名くらいかな、と。

 どの出演者さんにも直接説明に伺って「ぜひ出演をお願いしたいです。なぜあなたじゃないといけないか」というのを説明させていただいていました。今回は個人的にも中井貴一さんの芝居がすごく好きなので、一回お仕事したいなという気持ちがありつつ、同時に堤真一さんも頭の中にバーンとあったんですよね。

 そこでまず中井さんのところにいって、社長さんと話をしたのですが「今までにゲームの仕事なんてしたことがない」というところからのスタートなので、具体的にどういうことをお願いしたいのか、というところから説明しました。そこですごく興味を持っていただいて「じゃあやりましょう」と。

 「他はどなたが出演されるんですか?」と聞かれて、「次は堤真一さんのところに行かせていただこうと思っているんですよ」とお話したら、「私(中井貴一さん)があたってみましょうか」と言ってくださったので、ありがたくお願いをさせていただいたらすぐあたってくださいました。堤さんの⽅からも「中井貴⼀さんが出演されるんだったら話だけでも聞こうかな」と⾔ってくださって、説明に伺ったら「⾯⽩そう、ぜひやりたいやりたい」と⾔ってくださいました。

 先輩である中井さんの方からあたって後輩の堤さんを紹介してくださるというのは非常に良い流れでしたね。

 他にもパーティの中の「ナンバ」というキャラクターもキャスティングしたかった。潔癖症のホームレスという「それってどういうこと?」みたいな感じのキャラクターを背負ってくれるような芝居ができる人って考えた時に浮かんだのが安⽥顕さんでした。私自身安田顕さんが好きなので安田さんのところに伺って、安⽥さんも「僕はこの作品に呼んでもらえると思ってなかったです。やれるなら出たい」と。つまりどうしても出演していただきたかった⼈が上から3⼈決まってしまったんですよね。⼀番理想だったんですが、予想外でもあったんです。誰かは⽋ける、もしくは全員NGが出ると思っていたので。

 どうしても出演していただきたかった3人が決まり、じゃあ4⼈⽬となった時にお腹いっぱいになってしまったんですね。これまでのシリーズで出演して欲しい⽅を順番にあたっていって、順番どおりに決まったことが⼀度もなかったんですよ。それが今回できてしまったので、ここで「もう要らないよ」と。

 最初は女性俳優さんも検討していたのですが、今回はこの3人を輝かせたいので、3人が輝くようにゲームサイドで回ったほうがうまくいくだろうと頭を切り替えたのが、4人目にいかなかったすべての本音です。

 中井さんにはエピソードがあるんです。台本を最終章まで読んで頂いた後に、最後の春日一番の台詞についてお言葉をいただけたんですよ。中井さんは⾃分の役の台詞ではなくて、最後の春⽇⼀番の台詞がものすごく気に⼊ったと。「今の時代はこういう事が言いたいよねっていうことをちゃんと言ってあるよね」って褒めてくださったことが本当に嬉しかったんですね。

 自分の言葉ではないですし、役者さんですから役になりきっているはずなんですが、褒めたのは実は主人公の台詞で、しかも「今の時代一番必要な言葉だと僕は思う」って言ってくださったのは死ぬほど嬉しかったですね。あとは「どうして映画とかドラマのシナリオ書かないんですか?」って言われたのも同じくらい嬉しかったです。

――まずはキャラクターがいてキャスティングが決まる形でしょうか。

名越氏:そうですね。中井貴一さんもビートたけしさんもそうなんですけど、最初にキャラクターはあるのですが、契約の段階になったらその方の読み癖にあわせて直したりはします。

 例えばもう少し文字数削ったほうがこの人らしく決まるよねとか、「~なんだよな」を「~だぜ」みたいにキザっぽい方がこの人にはあうよね、のような形ですね。

 堤さんもそうで、堤さんの怖い役って声の響きの響く余韻に芝居があるというか。俳優さんのいいところって空気感の余韻があるところがとてもいいんですよ。最後に我々がCGで芝居を作るのですが、そのCGは3Dの空間なので、空間を仕上げるために声の響きの余韻ってものすごく画作りに影響を出すんですよね。本当に小さいところですけど。それが強く出る人は稀で、中井さんや堤さんはその代表格だと思っているので、すごく良かったですね。同じセリフを何回でも聞いてられるというか(笑)

 ナンバを演じる安⽥さんにも、⼈を喰ったような芝居なので受け⼊れてもらえるかなと不安がありました。さすがに本⼈も「このキャラクターの⼈格ってこのままで⼤丈夫なんですかね︖」って⼼配されました(笑)。

 もちろんちゃんと説明もしました。これが人を食ってやっているのか、要するに優しい人なのか、天然なのか、それをさらに演じているのかというのをわかりづらくしたかったんです。そのためには人格的な歩留まりはないくらいがちょうどいいんですよ、って言ったら「なるほど、わかりました。あとは僕の思った感じでやっちゃっていいですか」という飲み込みみたいなものは安田さんらしいというか。土台にコメディがあって、シリアスがあって、コメディがあるようなミルフィーユ感が気に入っているキャラクターなので、安田さんにお願いしてよかったなと思っています。

"違和感"に共感して生まれたタイアップ楽曲「一番歌」

――主題歌の方もお伺いさせてください。今回は中田ヤスタカさんと湘南乃風さんのタッグですがこのタッグを提案したのは名越さんからでしょうか。

名越氏:そうですね。実を言うと中田さんありきなところがあって、今回“ドラクエ”というキーワードを放り込んだこともあり、8bitのゲーム機の音源みたいなのを出したかったんですね、RPG的というか。

 ゲーム内の空間の街のクオリティを上げるために、色んな企業さんとコラボして街に看板を出すのと、あえてRPGと言わずに“ドラクエ”って例えるのって同じ価値観なんですよね。僕はどうしてもそう言いたかった。

 例えば映画とかでもメタ表現として映画を例えたりする場合もあったりするじゃないですか、でもゲームって割と同業を排除する傾向にあるので、この時代だから普段はライバルだけど物を作るという意思を持って何かをしているもの同士として、1つの良い意味で“遊び”として組ませてもらえませんか、とスクウェア・エニックスさんや堀井雄二さんに直接お話にいったら快諾してくれて嬉しかったですし、それをさらに活かせるって何だって思ったら「中田ヤスタカさんのサウンドが好きだな」ってなって。8bitサウンド的な部分ですね。

 ただ中田さんは歌手ではないので、最終的に仕上げるときにはきゃりーぱみゅぱみゅさんとかPerfumeの3人とかが歌っているわけで、誰かボーカリストを立てなければいけない。中田さんとは当然僕は初めてなんですよね。もう一方のボーカリストも初めての方だと「ちゃんと仕上げられるかな?」っていうのがあって、アーティストさんっていうのは一緒に仕事をやってみないとわからないところもありますし。

 面白いコラボって仕掛けるのはワクワクするんですけど、僕もプロなので仕掛けが複雑で面白ければ面白いほど、進捗がものすごく大変になるわけですよ(笑)。あと合わなかった場合どうするのっていうリスクもある。そこでボーカリストの方は僕と元々ある程度シンパシーのあう人がいいなと思った時に湘南乃風が浮かんで。まるでインドアとアウトドアのようなニュアンスだったりとか(笑)。普段引っ付かないような組み合わせだからいいよねと思って声かけて、お互い違和感に共感してくれて、それで実現したのは嬉しかったですね。

――2019年の夏頃に体調を崩されて病室で打ち合わせをしたというお話を伺いました。

名越氏:そうですね、その絵を描いて、本人同士に快諾していただいて、ラッキーって思った本当に矢先に、体調不良になり即入院となって……。気になることって山ほどあるんですけど、キャスティングや収録は終わっていたので、真っ先に気になったのが楽曲でした。

 「龍が如く」の楽曲をやるときは、キチンと「どうしてあなた達とやりたいのか」、「どんなものにしたいか」という説明を怠ったことは一回もないんですよ。それはこれまでも全員そうしてきたので、今回そういう説明がない状況で進めるのは嫌だなという思って、「わがままなんですがそれぞれの事務所に連絡して、今回こちらでお願いしたんですけど、状況が状況なので契約直前なのですがキャンセルをお願いできないですか」と。開発現場にも今回は楽曲はオリジナルでやるよって言ってたんですよ。

 そうしたらお互いの事務所から連絡があって、「名越さん、待ちますよ。手術終わって元気に出てきてください」と。ただ手術終わったら1カ月くらい出てこれないと言われているので、もうスケジュール的に間に合わないからできませんよ、と話したら、「今打ち合わせすればいいんですよね」と(笑)

 手術終わったばっかりで全身麻酔も切れてないんだけどって言ったら、「明日行ってもいいですか」と言われて.いいけどなにもないよ、パイプ椅子もあるかどうか……みたいな。病院でパイプ椅子を7、8個貸してくださいって言ったら、何をするんですかと言われて「打ち合わせを……」みたいな(笑)。

 むしろ看護師さんがびっくりしたんですよ、湘南乃風と中田さんがぞろぞろ来るんですから。ただ僕も全身麻酔で滑舌もうまく回らない状況で、こうしたい、こうはしてほしくない、こんな雰囲気にしたい、お祭り男なのでお祭りサウンドにしたいんです、と。

 実は手術の前にも来てくれていて、今から行ってもいいですか、と。体のことって怖かったですけど、「名越さんは絶対治るわけだから、たまたま今病院にいるだけで、これからも一緒に仕事をする仲間なんだし」と、今後も出てきて仕事を続けられる前提で当たり前のように病院にきて、当たり前のように話をしてくれるのは愛情だったと思うので元気づけられましたし、それこそ仲間っていいなぁと思いましたね。

――今回公開されたミュージックビデオはセガが完全監修でゲームと同じドラゴンエンジンを使ったものだと伺いました。

名越氏:湘南乃風も最近ソロ活動が多くて、揃っての活動がひさしぶりなんですね。かつレーベルを移籍しての第1弾になると。一方の我々も今回は新しい主人公、新しい舞台、新しいゲームシステムというリニューアル感を大切にしたかったし、彼らも湘南乃風第2期みたいな感じで特別なことをしたかった。

 音楽を商売にするのは僕らの領域じゃないから、「新しいことしたいんですけど思いつかなくて……、例えばセガさんで作るとか」って言われて、病院のときの話じゃないですけど、お互いの共感と友情と愛情と色んなものがあってゴールになったというストーリーが裏であるわけで、僕らも、僕自身も、僕らの会社も色んなエネルギーをもらえた恩返しも含めて、僕らで良ければ……というのも1つありかなと思って。

 あとはドラゴンエンジンはゲームのために作ったものですけど、ゲーム以外のことに使ったことがないので、こういうこともできるんだぜ、っていうスタッフの実力を見せるためにやってみた感じですね。

 内容は見ていただければと思うのですが、中田さんや、湘南乃風のメンバーにオリジナルのモーションを付けた部分もあれば、春⽇や他のキャラクターたちのモーションにそれぞれのメンバーを置き換えた部分もあります。

【湘南乃風&中田ヤスタカ「一番歌」Music Video(Short Ver.)】

――最後にこれだけは伝えておきたいということがあれば教えて下さい。

名越氏:僕らがなぜアクションゲームの選択をしなかったかということをもう一度言うと、アクションというジャンルでもできたと思うんですよ。前のアクションを100点とするなら、今作は120点くらいにする自信は確かにあったんです。だけどそれだとユーザーの期待を越えたことにならないなと思ったんですね。

 面白さの担保はできると思うんですけど、僕らは驚いてほしいと思っていて。驚きって「これくらいはやってくるだろう」っていう範囲内のものは驚きにならないので。ただ今回RPGがもし良い形で完成したら、ゲームシステムはジャンルが違うから単純点数的な比較にはならないんですけど、別軸の100点が出来上がると思ってるので。そっちの方に僕らは賭けようと思ったんですね。あくまでもチャレンジを選んだので、僕らの選んだチャレンジを見届けてもらえたら何より幸せだなぁと思います。ぜひチャレンジを応援してくれたら嬉しいです。

――本日はありがとうございました。