インタビュー
「ぷよぷよ」細山田Pも飛び入り参加! 「SEGA AGES ぷよぷよ通」インタビュー
壮大な「ぷよぷよ」の歴史がいま語られる。あのアーケードの傑作がさらに手軽に遊びやすく!
2020年1月15日 00:00
- 【SEGA AGES ぷよぷよ通】
- 1月16日配信開始
- 価格:999円(税込)
- CEROレーティング:A(全年齢対象)
- プレイ人数:1~2人
セガの名作を“こだわり満載”で復刻する「SEGA AGES」。Nintendo Switch用ソフトとして配信するシリーズ第15弾は、1994年にアーケードゲームとして登場した落ち物パズルゲームを移植した「SEGA AGES ぷよぷよ通」(以下、「ぷよぷよ通」)だ。
改めて説明する必要はないかもしれないが、本作は1991年に登場した元祖「ぷよぷよ」に続くシリーズ第2弾で、同じ色の「ぷよ」を上下左右に4つ以上そろえて消していく、いわゆる落ち物パズルゲーム。まとめて多くの「ぷよ」を消す連鎖を組み、対戦相手に大量の「おじゃまぷよ」を降らせた時の爽快感は格別だ。相手プレイヤーが送り込んだ「おじゃまぷよ」を打ち消すことができる「相殺」や、「クイックターン」「固ぷよ」など、より対戦プレイが面白くなる数々のアイデアを新たに導入するなど、その完成度の高さは群を抜き、今なお対戦プレイに興じるファンがいるほどの人気を誇る、現在まで続く「ぷよぷよ」シリーズの人気を不動のものとした作品と言えるだろう。
すでにNintendo Switch版では、初代「ぷよぷよ」が配信されているが、このタイミングでその続編の配信を決めたのはなぜなのか? そして、これまでのSEGA AGESシリーズ作品と同様に、本作にはどのような追加要素や便利機能を搭載されているのだろうか?
今回もGAME Watchでは、配信に先駆けて恒例の開発スタッフインタビューを敢行。ご参加いただいたのは、セガゲームスの小玉理恵子氏、奥成洋輔氏、開発を担当したエムツーの堀井直樹氏の3名に加え、「ぷよぷよ」シリーズの総合プロデューサーであるセガゲームスの細山田水紀氏にもご参加いただいた。ぜひ最後までご一読を!
四半世紀の紆余曲折を経てもなお、今も底知れぬ人気を誇る「ぷよぷよ通」
――本日もよろしくお願いいたします。今回のSEGA AGESシリーズでは、すでに初代「ぷよぷよ」が配信されていますが、シリーズ第2弾の「ぷよぷよ通」もラインナップに加えたのはなぜでしょうか?
奥成氏: 以前から、細山田のほうからもアーケード版を、特に「ぷよぷよ通」は「ぜひ世に出したい」とずっと言われていました。それはなぜかと言いますと、「ぷよぷよ」の上級プレーヤーにとってはアーケード版の「ぷよぷよ通」が、特に人気のある「ぷよぷよ通」のなかでも特別な存在だからです。普通の人から見れば、アーケード版とメガドライブ版の区別はほぼつかないと思いますが、実際は違っているらしいんですね。もう10年以上も前から、「だからこそアーケード版なんだ!」と、細山田が「ぷよぷよ」のコミュニティに参加するたびにファンの皆さんから言われていたんです。
そこで、何とかできないかということで、エムツーさんにWiiのバーチャルコンソール版で、オンライン対戦ができるアーケード版を移植した「ぷよぷよ通」を作っていただきました。無事にリリースされた当時、「細山田さん、ありがとう!」とファンの方からお礼の言葉をたくさん頂戴してましたね。
細山田氏: でも、私はその時は何もしていなかったんですけどね(笑)。
奥成氏: で、Wii版を出したことで、ひとまずは「めでたしめでたし」となったわけですが、ハードには寿命というものがあり、やがてオンライン対応が終了し、今ではソフトウェアの配信も完全に終了してしまいました。そこで、一度は終わったはずのアーケード版を、「また遊びたい。また、違うハードに移植してください」という要望が再燃しましたので、まずは3DS版の「セガ 3D復刻アーカイブス2」のオマケ要素として出しまして、後に単独でも配信をしました。ただ、3DSではジョイスティックを使って遊ぶことができず、オンライン対戦には対応していなかったんですね。その後、去年の12月に開催した「ぷよぷよチャンピオンシップ」の会場で、ようやく今回の移植の発表をすることができたのですが、気が付いたらもう1年が過ぎてしまいました。
――発売から25年も経っていますが、いまだにアーケード版の元祖「ぷよぷよ通」が人気なのは驚きですね。
細山田氏: ゲームセンターのほうでは、「ぷよぷよeスポーツ」のアーケード版を遊んでいる人ももちろんいますが、今でも筐体があるお店で対戦イベントを開催する時は「ぷよぷよ通」を使うんです。よく私も皆さんからは、「移植版を早く出せ」ってずっと言われていました。初代「ぷよぷよ」を配信して、さらにNintendo Switch Onlineでは「すーぱーぷよぷよ通」も遊べるようになってからも、 「『ぷよぷよ通』のアーケード版を早く出してくれ」 ってよく怒られましたね……。
堀井氏: それはよくわからない怒られ方ですね(笑)!
奥成氏: ずっと前に「出す」って告知をしていたから怒られちゃうんですよ(笑)。
細山田氏: 「ぷよぷよ」を支えるファンやコミュニティの皆さんは、最初にアーケード版が出た1990年代から、「ぷよぷよ」は栄枯盛衰あったと思うのですが、ずっと遊び続けている方々なんです。後にリリースされたPC版「ぷよぷよフィーバー」ではオンライン対戦が遊べるようにはなったのですが、彼らはみんなで同じ場所に集まって対戦しながら切磋琢磨していったんですね。
昔はネット上に動画をアップすることができなかったので、その場でほかの人のプレイを見て、対戦しながら学びながら腕を上げていくという形で、全国各地のゲームセンターで局所的にコミュニティが出来上がった所のプレーヤーが強くなっていったんですね。例えば、名古屋、静岡、千葉の津田沼、東京ですと立川とか八王子、高田馬場などですね。皆さんに「ぷよぷよeスポーツ」ももちろん遊んでいただいているのですが、対戦大会を開催する時は「ぷよぷよeスポーツ」と「ぷよぷよ通」を分けて開催されていると認識しています。
奥成氏: そこは、「スマブラ」のファンと通じるところがあるかもしれませんね。ゲームの内容はシリーズの最新作が一番充実しているハズなのに、ファンのなかには「対戦するならゲームキューブ版」みたいなものがあったりして。「バーチャファイター」でもそうですよね、「対戦するなら『バーチャファイター2』かなあ」とか。
堀井氏: なるほど! 確かにそうかもしれませんね。
奥成氏: ですから、「ぷよぷよ」ファンの皆さんに対して、どうやって納得していただけるものを出そうかとずっと考えていたら、配信まで1年掛かってしまったというのが、ずっとお待たせしてしまった理由なんですかね。
堀井氏: ええ、結局1年経ってしまいましたね。でも、時間が掛かった理由はそれだけではないですけど!(苦笑)
細山田氏: 私が聞いたところでは、アーケード版が出た当時は対戦格闘ゲームがブームになっていましたが、初代「ぷよぷよ」も「ストリートファイターII」とかの横に置かれたりして人気があったそうです。それを見たアーケード担当のスタッフが、「2人並んで、対戦ができるようにすればいいんじゃないか?」というコメントをコンパイルさんにフィードバックして、「ぷよぷよ」が対戦型となり、その対戦型が最終的にシステムとして完成して仕上がったのが「ぷよぷよ通」でした。当時は「テトリス」もありましたが、こちらは1人でストイックにスコアを稼いだりするものでしたから、「それなら、『ぷよぷよ』で対戦ができるようにすればいいだろう」と。つまり、対戦格闘ゲームの影響を受けていたんですね。
奥成氏: 先日配信した「コラムスII」も、最初は「『コラムス』にも対戦を」ということで開発されたものですね。セガでは「コラムス」のほかにも、 「ブロクシード」(※1) などを90年代前半に出しましたが、「ぷよぷよ通」はこれらのタイトルよりもずっと後に出しましたので、CPU戦も含めて対戦格闘ゲーム的な要素が強く出ていると思います。
※1……「ブロクシード」: 1990年に発売され、画面下部が一定時間経過するごとにせり上がってくるシステムを導入した、アーケード用落ち物パズルゲーム。2人対戦プレイも可能。
細山田氏: 家庭用のほうでも、正確な販売本数はわからないのですが、「すーぱーぷよぷよ」が爆発的に売れましたので、アーケード以外でも全国的に有名になりました。家庭用で「ぷよぷよ通」の存在を知って、それからゲームセンターに遊びに来るという流れもできたことで、さらにプレーヤー間での交流が進んだのではないかと思います。
――セガにとって、「ぷよぷよ」は当然ながら重要なIPだと思いますが、どのような経緯を経てセガが開発や販売を手掛けるようになり、やがて権利そのものを取得することになったのでしょうか? 今までにお尋ねをしてきたSEGA AGESシリーズのタイトルとは違って、本シリーズは元々コンパイルの作品だったわけですが。
奥成氏: 「ぷよぷよ」の歴史をお話しますと、まず1991年に発売された ディスク版の「ぷよぷよ」(※2) が発売されましたが、こちらが発売された頃は多分ほとんど知られていないと思います。その1年後に出たアーケード版は、セガ発売ということもあり、「コラムス」のソースを提供したりですとか、セガからいろいろな協力をして、CPU対戦の要素も加わり、コンパイルさんが完成させたのが初代「ぷよぷよ」だったと聞いています。これがセガとコンパイルが組んだ形で作った最初の「ぷよぷよ」で、皆さんが実質的に「ぷよぷよ」の存在を知るようになったのは、このアーケード版とメガドライブ版だったと思います。
約1年後の1993年にはスーパーファミコン版が発売されて、ここでブームは本格的になり、1994年にアーケードとメガドライブ版の「ぷよぷよ通」が出たわけです。この時には、もうコンパイルさんが独自に「ぷよぷよ」を開発されていて、セガでは基板の提供をする形で協力するようになりましたね。
※2……ディスク版の「ぷよぷよ」: 1991年に徳間書店から発売された、ファミリーコンピュータのディスクシステム用ソフトして発売された「ぷよぷよ」のこと。同年にMSX2版も発売されていた。
奥成氏: 一方セガとしては、メガドライブ版から少しだけ遅れてゲームギア版の「ぷよぷよ」も発売しまして、本体同梱で発売した「なぞぷよ」などと併せて、「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」とともにメガドライブやゲームギアといったハードを牽引するタイトルになりました。
細山田氏: ゲームギアはカラー画面でしたから、「ぷよぷよ」との相性がとても良かったんです。ですから、ハードの進化の恩恵も受けていたのではないでしょうか。後にゲームボーイ版も出たのですが、こちらは白黒画面でしたので、やっぱりゲームギア版のほうが遊びやすかったですね。それと、これは余談になりますが、アーケード版の「ぷよぷよ通」が、その当時の対戦システムにおける最適解だとみなされたことによって、ここからコンパイルさんの「ぷよぷよ」開発メンバーが後々苦しむきっかけになったという、有名なお話があるんです。
奥成氏: 確か「ぷよぷよSUN」を作ったのは当時コンパイルにいらっしゃった、現エムツーの松岡(毅氏)さんでしたよね?
堀井氏: ええ。松岡が自分で言ってましたからね。「『通』を超える評価を得られなかった」って(笑)。あの当時は、接客用にちょうどよかったので、「ぷよぷよ通」を置いておけばひと晩みんなで遊んでくれたので、本当にいいタイトルでしたね。当時借りていた一軒家の中で、「ぷよぷよ通」大会をずっとやり続けていたこともありましたので。
――そんな裏話があったとは(笑)。
奥成氏: おそらくコンパイルさんでは、「ぷよぷよ通」の頃がいろいろな展開をしていたピークの時期だったのではないでしょうか。浅草とかでは、シルバー向けの大会を開催していたこともありまして、私も当時現地で見たことがあります。で、先日浅草でぷよぷよの大会をやったんですよね。二十数年ぶりでなんか感慨深いなあと(笑)。
堀井氏: 当時から、 仁井谷さん(※3) は今で言うところのeスポーツ展開を狙っていらっしゃいましたよね。
※3……仁井谷さん: 当時のコンパイルの社長で、現コンパイル○(まる)社長の仁井谷正充氏のこと。
――当時のコンパイルは「全日本ぷよマスターズ大会」を開催したり、「ぷよまん」などのグッズ展開も盛んにやっていましたよね。
奥成氏: コンパイルさんとは、「ぷよぷよ」以前のSG-1000の時代からお付き合いがありましたので、「ぷよぷよ」シリーズに関してもセガのハードをまず第一に考えて作っていただいておりましたし、ずっと以前から助けていただいていたと私も聞いております。
――その後、コンパイルが経営難に陥ったのを機に、セガが「ぷよぷよ」の権利を取得して現在に至るそうですね。
奥成氏: セガとしてはあらゆる方法を使って最後までコンパイルの復活を応援してきていたので、コンパイルがなくなることが決まったときは本当に残念でした。
――色々あったんですね……。
奥成氏: その後、今度はセガ社内で開発会社の分社化を行なったことがありまして、分社化により、それぞれのカラーを出そうということになった時に、「『ぷよぷよ』はどこの会社で取り扱うんだろう?」という話題が挙がりました。「ぷよぷよ~ん」が出た後に、しばらく新作の話題がなくなった頃がありましたので、それならばということで中(裕司氏)さんのソニックチームが立候補をしたんですよ。その後、ソニックチームで最初に開発したタイトルが「みんなでぷよぷよ」というゲームボーイアドバンス用ソフトで、さらに満を持して完全新作として新たに生まれたのが「ぷよぷよフィーバー」でした。大まかな流れは今お話したような形です。
細山田氏: 「みんなでぷよぷよ」は、実は元コンパイルのスタッフの皆さんにお願いしまして、外注という形で作っていただいたものです。
奥成氏: 世間的には、落ち物パズルのブームはもう終わっていて、シリーズとしてはもう頭打ちであると思われていたなかで、ソニックチームでは「『ぷよぷよ』にはまだまだ魅力があるんだ」という理解と期待が一番深かったんですね。この判断がなければ今の「ぷよぷよ」はなかったかもしれないです。やがて「ぷよぷよフィーバー」の開発が始まったころに、細山田もソニックチームに入社しておりました。
細山田氏: ええ。私がちょうど入社した頃に、隣の席で当時のプロデューサーが「大変だー」と言いながらお仕事しておりました。当時のソニックチームでは、iモード対応携帯用のアプリを配信していた「ソニックカフェ」に「ぷよぷよ」の移植をしていました。当時は開発本部長だった中さんが「ぷよぷよ」のゲーム性やシステムを高く評価していましたので、今思うと「ぷよぷよ」シリーズにとっては大変良かったのではないかと思います。また、当時のソニックチームでは全世界に向けてマルチプラットフォーム展開するという流れがあり、特に子供から大人まで全世代に向けたゲームを作ろうという方針がありましたので、「ソニック」シリーズのほかにも、ちょうど私が入った頃にゲームキューブ用の「ジャイアントエッグ」というゲームを出したりして、任天堂さんなど他社のハード向けにも垣根なく開発を始めた時期でした。
ほかにも、ネオジオや N-Gage(※4) 向けだったり、昔ガストさんなどのファミリーレストランに設置されていたタッチパネル筐体用にも「ぷよぷよ」を出したりですとか、いろいろな所にマルチプラットフォーム展開をしよう、「ぷよぷよ」を出しちゃおうということで進めていました。コンパイルさんのほうでも、元々マルチプラットフォーム展開をしようという考えがあったようで、ちょうどこの時期に方針転換をしたセガの方向性とうまく合っていたのかもしれませんね。
※4……N-Gage: ノキアが2003年に発売した携帯端末。通話ができるだけでなく、動画再生やFMラジオの視聴や、ゲームが遊べる機能も搭載していた。
奥成氏: と、いうことで、マルチプラットフォーム展開を最初に始めたタイトルが「ぷよぷよフィーバー」で、これがドリームキャスト用ソフトとしては最後のセガ発売ソフトでもありました。幸いにも、セガブランドの「ぷよぷよ」として一定のご評価をいただけましたので、後に続編の「ぷよぷよフィーバー2【チュー!】」を出すこともできました。
細山田氏: 「ぷよぷよフィーバー2【チュー!】」は、私と同期で入社したスタッフが作っていまして、そのすぐ横で大変そうだなあって思いながら見ていました。私のほうは、まだその時は「ジャイアントエッグ」の欧米版の開発や「ソニックバトル」の開発サポートをしていましたね。
――では、細山田さんが最初に開発を担当された「ぷよぷよ」シリーズのタイトルは何だったのでしょうか?
細山田氏: 私が関わるようになったのは、「ぷよぷよ」15周年記念ソフトの 「ぷよぷよ!」(※5) からですね。「ぷよぷよフィーバー2【チュー!】」は、内容自体は凄くこだわって作っている部分があり、「ぷよぷよフィーバー」のファンにはすごくウケたのですが、宣伝をあまりしなかったので世間的にはそれほど知られず、セールスが芳しくなかったんです。そこで、15周年の記念の年にもう一度盛り上げようということで、「ぷよぷよ!」を作ることになり、そこにヘルプという形で入ったのが最初のきっかけでした。ちなみにその当時の開発チームでも元コンパイルの方が開発に関わっています。そこから「ぷよぷよ」シリーズに関わるようになりまして、今年で14年目になりますね。
※5……「ぷよぷよ!」: 2006年にニンテンドーDS用ソフトとして発売された、文字どおりシリーズ15周年を記念して開発された作品。ニンテンドーDS版では最大8人まで同時に対戦できるのが特徴で、後にPS2やPSP、Wiiなどでも発売された。
奥成氏: じゃあ、あと1年で細山田Pも「ぷよぷよ」に関わって15周年になるんですね。
細山田氏: ええ。入社してから、キャリアの半分以上は「ぷよぷよ」関連ですよ(笑)。で、お話を「ぷよぷよ通」に戻しますと、コアなファンの皆さんからはアーケード版の「ぷよぷよ通」のゲームシステムを最も高く評価していただいておりまして、PC版の「ぷよぷよフィーバー」も遊んでいただいてはいたのですが、ルールとしては「ぷよぷよフィーバー」よりも「ぷよぷよ通」をずっと遊び続けるという流れがありました。PC版の「ぷよぷよフィーバー」でも「ぷよぷよ通」ルールで遊べるようにはなっていますが、「ぷよぷよ」はそれぞれのゲームで細かく調整を入れたりするので、アーケード版とは細かい部分で違っているところがありますので、「PC版や、アーケード版をオンラインでも遊びたい」というご要望があったことが、後のWiiバーチャルコンソール版の配信につながるという歴史があるんです。
――シリーズが誕生して以来、本当にいろいろなことがあったんですね。このまま「『ぷよぷよ』ヒストリー」のお話をずっとお聞きしたい気もしますが、トンデモなく長くなりそうなので、また別の機会にお話をいただくことにしましょう(笑)。
「時間戻し」、様々なプレーヤーに対応した色調整など、画期的な新機能を搭載
――エムツーで「ぷよぷよ」シリーズの移植を担当するようになったのは、先程もお話をされていた、Wiiバーチャルコンソール版からということになりますか?
奥成氏: そうですね。メガドライブ用ソフトのバーチャルコンソール版を出していくなかに、初代「ぷよぷよ」と「ぷよぷよ通」があったので、それが最初ですね。その後、アーケード版の配信展開が始まったので、これら2本のアーケード版の移植もお願いしました。特にエムツーさんに頑張っていただいたのは、「ぷよぷよ通」のアーケード版をずっと遊んでいる皆さんに対しても喜んでいただけるよう、オンラインでもオフライン対戦であっても、エミュレーションをしっかりやってどれだけ再現できるかどうかでした。これに関しては、エムツーさんの遅延撲滅主義のこだわりにも合致しているだろうと思いました。とりわけ「ぷよぷよ」は、熱心なファンの皆さんから目に見える形で反応がありますので、そこをいかに頑張るかというのがWiiのバーチャルコンソール版のキモになりました。今回の移植では、エムツーさんのほうで何か特殊なことをやりましたか?
堀井氏: 我々としてはいつもどおりにやりましたが、そのいつもどおりが特殊と言えば特殊ですね(笑)。
奥成氏: 初代「ぷよぷよ」と「ぷよぷよ通」とでは、ネットワーク対戦用のプログラムは同じなんですか?
堀井氏: 1年さらに研究を重ねまして、「ぷよぷよ」のものからさらに遅延低減と安定性が向上しています。移植元のプログラムが違うのでわかりづらいかもしれませんが。
――ゲームのメインプログラム自体が違うから、遅延に対する操作の影響などもそれぞれ違っちゃうんですね。
堀井氏: そうですそうです。なかには、もの凄く細かい部分にこだわる方がおりまして、「『ぷよぷよ通』の操作性で初代『ぷよぷよ』を遊びたい」などと言ってくる方もいるんですよ。我々のほうでは、それに対してどういう仕事をすれば対応できるのかはわかりますけど、それで何が変わるのかまではわからないですが……。
奥成氏: 作る難易度がなかなか高いので、その要望はさすがに当面は実現できなさそうですね。ファンの皆さんから細かいご要望があることについては、細山田のほうが長年実感をされていますよね。
細山田氏: そうですね。「よくわからないけど、何かが違う」とかって言われても、「じゃあそれってどこが違うんですか」って(笑)。
堀井氏: 実は、それと同じことを元コンパイルで「ぷよぷよ通」のプログラマーだった広野(隆行氏)さんも仰っていたんですよ。「手触り的には、ちょっと違うんだよね」って言ってましたね。
奥成氏: 「ぷよぷよ通」に関して言えば、メガドライブと C2ボード(※6) という、非常に似たハードでの開発を担当したのがどちらも広野さんでしたから、ほぼ同じコードを使用して作っていたハズなんですよ。違っているのは多分、CPUの構成の違いとかしかないと思います。
堀井氏: そうですね。音源の構成が違っていて、処理が速い68000で絵を動かしているかどうかという程度のことだと思いますけどね。
※6……C2ボード: セガ製のアーケードゲーム用基板の一種で、CボードにPCM音源を追加し、静電気対策などを施した改良版にあたる。「ぷよぷよ」、「ぷよぷよ通」をはじめ、「タントアール」「イチダントアール」などにもこの基板が使用されている。
奥成氏: それでも、「メガドライブ版とアーケード版とでは違う」と言われてしまうという、すごく細かいお話なんですね。ですから、もし同じ人が作ったとしても、今の「ぷよぷよeスポーツ」でアーケード版の「ぷよぷよ通」と同じ操作性にしようと思っても、たとえ同じプログラムを使ったとしても完璧には再現できないんです。それは今回のSEGA AGES版でも同様なので、アーケード版と同じ操作感覚を再現するには、最終的にはエミュレーションの精度をいかに高めていくかというお話になり、そこでエムツーさんの真骨頂となるわけですね。
堀井氏: なので我々のほうでは、自分たちが理解できていない部分も含めて、全部同じになるように頑張って移植して、皆さんに触っていただいて「大丈夫ですか?」と、お尋ねすることしかできないんです。
奥成氏: 最初にWiiのバーチャルコンソールでアーケード版を配信した時は、正直かなりドキドキしましたが、当時の腕の立つ方々に遊んでいただいても、かなり納得していただけたのは幸いでしたね。
堀井氏: その時代も遅延の問題などがあったのですが、我々のほうでもプログラミングをいろいろと頑張りまして、対処をしていきましたね。
奥成氏: Wiiはコントローラーが完全にワイヤレスでしたし、オンライン関連の部分でもいろいろと課題はありましたが、何とかなりましたね。今回のNintendo Switch版も、同じようにできているといいなあ、と……。
堀井氏: はい、同じようにできていると思ってくださいね(笑)!
――つまり、コアなファンが遊んでも納得できる、より完成度の高いものを目指したことによって、発表から配信まで1年近くを要してしまったというわけですね。
堀井氏: いいえ、特に何か大きな問題があったというわけではなくて、ほかのタイトルも並行しながら、どんな機能を入れていくかをいろいろ考えながら作っていたからですね。
――ちなみに、エムツーが移植を担当した「ぷよぷよ」シリーズ作品も、細山田さんが監修などを担当されているのでしょうか?
細山田氏: 発売前にプレイするようにはしていますが、エムツーさん案件に関しては、基本的に全部お任せしています。逆に、私のほうから「ここまでやるんですか?」とツッコミたくなるぐらいのものを毎回作っていただいておりますので、こちらで新作を作る時のハードルが上がっちゃうんですよ(笑)。
堀井氏: よ~し、もっと頑張って作っちゃうぞ!
(一同爆笑)
――それでは、今回のNintendo Switch版には、どんなモードや機能を搭載したのかを教えていただけますか?
堀井氏: 3DS版の時に実装した機能は、今回もほぼそのまま使えるようになっています。
奥成氏: 以前に出した「ゲイングランド」や「SHINOBI 忍」と同様に、途中でミスをしてもなかったことにできる「時間戻し」が使えるようになっていますが、今回はさらに「ぷよぷよ」向けに特化した機能にしました。
堀井氏: そうなんです。1手ずつ「時間戻し」ができて、最大60手前まで戻せるようになりました。
――1手ずつ戻せるということは、連鎖の練習にもすごく役に立ちそうですね。3DS版にあったものは今回もほぼ実装したということは、全キャラクターと対戦する「かちぬきモード」も遊べるようになっているのでしょうか?
奥成氏: はい。「かちぬきモード」は、「セガ 3D復刻アーカイブス2」になかったのですが、「ぷよぷよ通」を単体で配信した「3Dぷよぷよ通」で追加したモードですね。それから、2人対戦に特化した「ふたりでぷよぷよモード」や、「ネットワーク対戦」も引き続き遊べます。
――ほかにも、ルール設定などのシステム面で工夫されたところはありますか?
奥成氏: 「ぷよぷよ通」では、出てくるぷよの色数が固定されていたのですが、今回は4色から3色に減らせるようになりました。
堀井氏: それから、難易度設定で「ベリーイージー」が選べるようになりました。
奥成氏: 「ベリーイージー」は、アーケード版の「イージー」よりも難易度を低くしてありますので、「ぷよぷよ通」は難し過ぎると思われていた方でも、かなり遊びやすくなったのではないかと思います。画面表示についても、今までのSEGA AGESシリーズと同じように、 「キャビネット」や「ヴィンテージ」(※7) などが選べるようになっています。それから、「キャビネット」を選んだ時に流れる環境音は、「SHINOBI 忍」の時の音とは違ったものにしてあります。なぜかと言いますと、アーケード版の「ぷよぷよ通」が出た当時は、「SHINOBI 忍」が出てから7年近く経っていましたから、その周りで動いているゲームも違うだろうと思ったからです。
――いつものことですが、そんな細かい部分までこだわっていらっしゃるとは! 私も含め、ひょっとしたら言われないと気付かない人もいたかもしれませんので、今回お話が聞けて本当によかったです……。
※7……「キャビネット」や「ヴィンテージ」: 「キャビネット」は、ゲームセンターをイメージした背景と、アップライト型筐体のグラフィックスを表示しながらゲームが遊べる設定のこと。「ヴィンテージ」は、ブラウン管モニターに表示した画面を擬似的に再現した設定を指す。
――ビジュアル面では、何かこだわった部分はありますか?
奥成氏: 特に今回、すごく時間が掛かったのが、「ぷよの色設定モード」ですね。実は、初代「ぷよぷよ」と「ぷよぷよ通」では、ぷよの色が微妙に違っていて、初代の5色のぷよは、「ぷよぷよ通」のぷよよりも明るい色を使っているんですよ。
堀井氏: 画面をよ~く見るとわかるのですが、初代のぷよのほうが白っぽいんです。
奥成氏: そこで、視認性をとにかく上げようということで、皆さんが一番見やすいぷよの色を自由に選べるようにしました。この機能が、今回のSEGA AGES版で、最もこだわって作ったところですね。特に、色の見え方に特性のある方がプレイする際は、ぷよのデザインをアーケード版のままにしてしまうと区別がしにくいんです。そこで、色覚に特性のある数名の社員にチェックをしてもらって、このカラーや形状なら見やすい、見にくいというプリセットを選んでもらったうえで、どんな方でも「ぷよぷよ通」がお楽しみいただけるような設定を用意しました。
――素晴らしいアイデアですね! これを最初に考案されたのはどなたですか?
小玉氏: 最初はエムツーさんからご提案をいただきました。
堀井氏: 今はどこのメーカーでも、色使いに配慮することが必須条件になってきていますので、そのなかから出てきたアイデアですね。確か、弊社の松岡(毅氏)が考案したとは思いますが、実は本作のディレクションを担当したのは山本という、大卒で今年入社したセガマニアにしてレトロゲームマニアの新人です。
――新卒でレトロゲームマニアの方が入社されて、いきなり往年の名作のディレクションを任されるとは、いかにもエムツーらしいお仕事ぶりですね(笑)。
堀井氏: ええ。何かおかしいですよね(笑)。
奥成氏: それから、背景の明度だけを下げて、より画面を見やすくする機能も入っていますよ。
小玉氏: カラーユニバーサルデザインと言いまして、色だけではなくて形も含めたデザインそのものを、色覚に特性のある方にもわかりやすくしようという動きが、今は世界的にあるんです。弊社内でも、勉強会を開きながら取り組んでおりまして、今回のところはエムツーさんのほうから、ぜひやってみたいというお話がありましたので、弊社の勉強会のスタッフからもアドバイスを受けながら作りました。
――カラーユニバーサルデザインと言うデザイン手法や考え方があるんですね、勉強になりました。
小玉氏: ただですね、今回のところはレトロゲームの復刻なので、パレットという大きな問題があったんです。例えば、赤が見えづらいので違う色に置き換えたくとも、他の色がその絵を構成するパレットに含まれていない色だったりするのですよ。
奥成氏: 今回は、C2ボードやメガドライブよりもパレット数が多いハードで再現したからこそ、これだけの色が調整できるようになったということですね。
堀井氏: こちらのほうでも、やれるところまではやりました。もうあと1年ぐらい、もし我々に時間をいただければ、内部のほうはC2ボードで動かして、表示部分をC2とは別の場所で動かす仕組みを作りますよ(笑)!
小玉氏: 2人で対戦する場合は、本当はそれぞれのプレーヤーに合ったデザインが選べるようになればベストだと思いますが、今回のところはそこまではできませんでした。ここはいずれ、細山田のほうで対処をするかと思いますので、ぜひよろしくお願いしますね(笑)。
細山田氏: そうですね。現段階では、別々にデザインを選んで遊ぶためにはネットワーク対戦でプレイするしか方法はありませんが、今はもうカラーユニバーサルデザインが必須になっていますので、検討させていただきます。
奥成氏: 設定モードでカスタムを選ぶと、すべてのぷよを全部同じ色にすることもできますので、もしかしたら今までとはまた違った対戦が楽しめるかもしれませんよ。
――本作をきっかけに、色の見え方に特性のある人でもゲームがさらに楽しめるようになるといいですね。
小玉氏: SEGA AGESシリーズでは、実際にオンラインマニュアルを見ていただくとわかりますが、マニュアル自体もカラーユニバーサルデザインに対応していますので、強調色の使い方など極力注意しながら、なるべく見やすいものを目指して作っています。
――ちなみに、今回もスタッフクレジットの演出は、エムツーさんが独自に制作されたのでしょうか?
奥成氏: はい。登場キャラクターが歩いてる姿を見ることができます。そう言えば堀井さん、元々キャラクターが歩くモーションは存在していたのでしょうか?
堀井氏: いいえ、ないですね。デモ画面にも歩く場面は存在しません。
奥成氏: じゃあ、どうやって入れたんですか?
堀井氏: 元コンパイルの弊社スタッフがドット絵を担当していますので、まさにその本人が新たに作ったんだと思います。実は、私もまだちゃんと見たことがなかったんですけど、確かにキャラが歩いてますね(苦笑)。
奥成氏: どう見ても歩いています(笑)。
――本作でも、これまでのSEGA AGESシリーズと同様に、プレイ動画を自動で保存したり、オンラインで上位にランクインしたプレーヤーの動画をダウンロードできる機能も搭載されているのでしょうか?
堀井氏: はい。ランキング周りの機能は、今回もいつもどおりの実装をしています。
――ネットワーク対戦時の遅延対策はうまくできましたか? 熱心な「ぷよぷよ通」ファンの皆さんが、特に気になる点ではないかと思いますが。
奥成氏: 今、資料を読み返していたら、初代「ぷよぷよ」のネットワーク対戦よりも、さらに遅延の低減と安定性の向上を実現できたと書いてありましたね。
堀井氏: 遅延に関しては、「バーチャレーシング」の開発が終わってから出したタイトルについては、ずっとやり続けていますね。
小玉氏: 「ぷよぷよ通」でも、いろいろとエムツーさんのほうで続けていただいておりまして、今でも日増しにどんどん向上していますよ。
――本日は細山田さんにもご参加をいただいておりますので、今後の「ぷよぷよ通」の展開案についてズバリお尋ねします。いまだに対戦プレイを渇望するファンが多い本作を、例えばeスポーツとして競技大会を開催するですとか、現時点で計画中のイベントなどはありますか? お話できる範囲で結構ですので、ぜひお聞かせください。
細山田氏: 今のところは特にありません。「ぷよぷよ」シリーズについては、「ぷよぷよeスポーツ」や「ぷよぷよクロニクル」「ぷよぷよテトリス」などで使用規約を定めているのですが、かなり緩めに設定させていただいております。また、現在は一般大会とプロ大会を行なっている「ぷよぷよ」シリーズですが、「ぷよぷよ」プレーヤーランキングポイントと呼ばれる一定数以上の人数を集めた大会について、その大会を公式としてポイントを付与してOKというタイトルの中に「ぷよぷよ通」(アーケード)も含まれているので、本作も含まれることになると思います。ユーザーの皆さんが独自に大会などを開いて遊ばれるようになることを期待しています。言い方は悪いですが、弊社で大会を無理に開かなくても日本全国みなさんのほうでどんどんプレイして頂き、PRにつながることを、きっとやっていただけるのかなあと(笑)。
――それでは最後に、皆さんからGAME Watch読者へのメッセージをお願いします。
奥成氏: 発表から配信までかなり時間が掛かってしまったのは、エムツーさんではいろいろなチャレンジをして、作り込みたいものが多いタイトルほど配信のタイミングが後になるから、つまり「ぷよぷよ通」をそれだけこだわって作ったからなんです。ファンの皆さんが、具体的にどんなところに期待しているのかをきちんと考えたうえで作った「ぷよぷよ通」を、満を持して出させていただきますので、ぜひ楽しんでいただければと思います。
堀井氏: 「ぷよぷよ通」は、シリーズの競技性という点でも起点になった作品ではないかと思いましたので、そこはきっちりと作ったつもりです。Wiiバーチャルコンソール版の時には、オンライン対応が終了する直前まで皆さんがプレイされているのを見ていましたので、またネットワーク対戦が楽しめる場を作れたことは、私自身も本当にうれしいですね。ぜひ遊んでみてください。
小玉氏: SEGA AGESのタイトル候補に「ぷよぷよ通」を発表してからずいぶん時間が掛かってしまいました。期待して待っていて下さった皆様には本当にお待たせしましたという気持ちです。より多くのユーザー様に遊んで頂けるような工夫を施せたと思っています。是非、「ぷよぷよ通」アーケード版を楽しんでいただけたら、大変嬉しいです。
細山田氏: Wiiバーチャルコンソールで、アーケード版の「ぷよぷよ通」を配信した時にも大きな反響がありまして、これを遊ぶためにWii本体を買う人が続出したこともあってかなり売れたんですね。そのバーチャルコンソール版のネットワーク対応が終了して以来ずっと寄せられていた、最新のハードでまた遊びたいというご要望に、今回ついにお応えすることができました。ファンの皆さんにとっては当然うれしいことだと思いますし、またIPを持つ我々としても、現行機種で過去作が遊べる環境を作るのはすごく重要なポイントですので、今ここにいるお三方には頭が上がらないですね(笑)。
過去作を忠実に再現することと、旧作の良いところを取り入れつつ最新作もきちんと作ることで、これからも旧作と最新作を相互に盛り上げていきたいと思います。「ぷよぷよeスポーツ」や「ぷよぷよ!!クエスト」などをきっかけに始めた皆さんにも、ぜひ久々の配信となった「ぷよぷよ通」をプレイしていただきたいですね。おそらく、本作SEGA AGES「ぷよぷよ通」(アーケード版)も使用OKタイトルに追加されると思いますので、ぜひみなさんのほうでも大会などを開いて遊んでいただいて、2021年にはシリーズ30周年を迎える「ぷよぷよ」を、これからも皆さんと一緒に盛り上げていけたらいいなと思っております。
――ありがとうございました。
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