インタビュー
「MODEROID クルーズチェイサー ブラスティー」インタビュー
田中氏だから実現した“1980年代SFをこじらせた人のための1980年代メカ”立体化
2020年1月14日 00:00
「クルーズチェイサー ブラスティー」という名前を持つゲーム、そして主役ロボット「ブラスティー」は筆者の中で特別な意味を持つ。1987年、筆者は高校生の時にパソコン(X1 TurboII)で「クルーズチェイサー ブラスティー」をプレイし、その世界感とロボのカッコ良さ、ビジュアルに衝撃を受けた。パソコンは筆者にとって初めての“ゲーム機”であり、1本1本のゲームをしっかりとやりこんでいた。その中でもブラスティーは強く印象に残るゲームだったのだ。
そのブラスティーが、「MODEROID クルーズチェイサー ブラスティー」として、まさかのプラモデル化である。ワンフェスで試作原型を見たとき大きな驚きと喜びがわき上がった。「まさか、今の時代に、出るのか!」という衝撃は今でも忘れられない。そして今回、本商品の企画担当者グッドスマイルカンパニーの田中宏明氏に話を聞くことができた。
田中氏は以前「スーパーミニプラ 戦闘メカ ザブングル」でインタビューを行なっている。今回はまず「MODEROID クルーズチェイサー ブラスティー」の詳細、組み立てや変形ギミックを取り上げていく。そしてなぜ今の時代に「MODEROID クルーズチェイサー ブラスティー」を出すのか、そして本商品が販売される意義などを掘り下げていきたい。
ゲームという新しいメディアだからこそ実現した、とがったデザインに注目!
「クルーズチェイサー」とは、宇宙空間を飛び回り敵を追跡するロボットを指す。ゲーム「クルーズチェイサー ブラスティー」の世界は、半物質に囲まれた“閉鎖宇宙”が舞台となる。この世界で人類は「コミューン」という中枢統括局によって統治され、いくつかの宇宙ステーションで生活をしているが、体勢に反抗する「インバース」と激しい戦いを繰り広げていた。
コミューンに所属する人々の一部は成人になるとインバースを倒すための賞金稼ぎ「インカーマース」となる。主人公はインカーマースとなり、ロボット形態のガンナーと宇宙戦闘機形態のシューターに変形する最新のクルーズチェイサー「ブラスティー」を与えられ、敵を求めて宇宙に旅立つのだ。
ゲーム「クルーズチェイサー ブラスティー」は、当時からビジュアルに力を入れていたスクウェア(現・スクウェア・エニックス)と、日本サンライズ(現・サンライズ)がタッグを組んだ画期的なゲームだった。最大の特徴は「アニメーション」である。戦闘シーンではブラスティーや敵メカが攻撃などのアクションの度にアニメーションで動くのだ。
アニメは画面の1/4程度、解像度も荒いが、日本サンライズが原画を担当し非常に見応えのある戦闘シーンを描き出していた。当時のゲームとしては練られた世界観とメカ設定は大きな魅力だった。ゲームとしての出来そのものはオーソドックスな部分と、3DダンジョンのRPGなのに、壁にぶつからないと壁が見えないといったところなどプレイしづらい部分もあり、RPG黎明期ならではの作品であるが、当時のゲームとしてはとても衝撃的だったのだ。
インタビューを開始してからしばらくは筆者と田中氏で当時のパソコンゲームの話で盛り上がった。「X1の『ゼビウス』は最高だった」、「クラスにパソコンを持っていたのは1人くらいしかいなかった」など当時の“パソコン少年”ならではの思い出話を語っていたが、田中氏が持っていたのはX1C、フロッピーディスクではなく、テープ版だったので、当時「クルーズチェイサー ブラスティー」はプレイしていないという。設定画や雑誌情報で知っており、そのビジュアルに強く惹かれたとのことだ。
そういった中でなぜブラスティーをプラモデルにするという企画を立ち上げたのだろうか? 田中氏は「当時、しっかりした設定画が用意されているロボットだったから」だと答えた。この時代のゲームロボットは、「テグザー」や「ヴォルガード」といったものもある。これらはプレーヤー数的にはブラスティー以上に知名度があるものもあるが、「立体化しやすい」というところではブラスティーに軍配が上がる。
「そして改めて1980年代中期のサンライズメカであり、明貴美加さんがデザインしたメカとして、立体化したらとても面白いと思ったんです。“形にしてみたい”という思いがありました。足のラインなどにZZガンダムっぽいデザインもあり、細かく見ていくと色々面白いんですよ」と田中氏は語った。
ここで商品を見ていこう。ブラスティーはかなりエッジの効いたデザインをしている。大きな特徴は巨大なビーム砲と、背中の丸いスラスターユニット。ビーム砲についた巨大なセンサーも特徴的だ。足は足裏のスラスターが目立ち、腰回りは装甲などがなくシンプルだ。右肩はビーム砲が直接接続されており、左肩はコクピットとなっている。コクピットユニットは脱出ポッドとなる設定だ。左右非対称のデザインである。
「MODEROID クルーズチェイサー ブラスティー」の設計は、ランペイジという原型師による合同会社のガレージキットがベースとなっている。このガレージキットをブラッシュアップし、プラモデルとして設計したのが本商品というわけだ。
関節にはポリキャップが使われている。ポリキャップの使用は「MODEROID」全体の仕様ではないのだが、「もしゲーム発売時の1986年にブラスティーのプラモデルが出ていたとすれば、関節にはポリキャップを使っていただろう」という想いも込められているという。足の長いブラスティーはダイナミックなポーズが似合う。武器としてはシールドの展開と、ビームサーベルが付属している。
ブラスティーは宇宙空間で戦うロボットだ。通常は巡航形態であるシューターで宇宙空間を駆け、敵と遭遇するとガンナーに変形し各種武器を使う。上半身に大型のビーム砲とスラスターユニットがあるため重心も高く、基本はスタンドを使って浮いているようなイメージで飾る。プラモデルもスタンドの使用が前提となっている。
立体化することで田中氏自身様々なことに気がついたという。背中の球形のバーニアユニットの形や、変形したときの部品の移動法、シールドが展開するギミックなどゲーム内のアニメや設定画では得られなかった情報が立体化することで実感できる。
そして田中氏が気に入っているのは「機械的な雰囲気」。非人間的なフォルムは、TVアニメのロボットとは違うからこそのとがった部分ではないかという。キャラクター化、擬人化されていないメカニカルなデザインの中に、主役メカなだけにヒーロー性もあるという独特のバランスが気に入っているとのことだ。
巨大なレーザー砲に、背中には丸く大きなスラスターユニット。立たせるためには台座の使用が前提になるようなトップヘビーで左右非対称なデザインは、玩具にも、アニメの作画にも難点のある特徴と言える。設地性の悪い、バーニアむき出しの足も特徴的だ。
「OVAやコミックなど今は色々なメディアがありますが、当時ロボットと言えばは玩具化、アニメ化が前提のものがほとんどでした。その中で『ブラスティー』はゲームという新しいメディアに向け、従来以上に自由にデザインしたのでないかと思います。ゲームというところでこれまでから一歩踏み出したデザインになっていると思っています」と田中氏は語った。
肩のケーブルやスラスターのモールドなどディテール表現はこの時点で力が入っているが、「MODEROID クルーズチェイサー ブラスティー」は、基本は設定画のままで細かいパネルライン程度のブラッシュアップしかしてないとのこと。アニメの作画や、当時の立体化では省略されかねない細かい表現は、確かにメカデザイナーの気合いを感じさせられる。
デザインに関してオリジナルに忠実にしたところは、「MODEROID クルーズチェイサー ブラスティー」を手にするユーザーは“自分で自由にブラッシュアップする”ことを前提にしているという。販売側がアレンジをするより、ユーザーが自由に手を入れて欲しい。本商品を手にする人はある程度プラモデル製作に慣れた人でないか、というのが田中氏の思いだ。素組で満足するも良し、とことんまで手を加えるのもありだという。
こだわりのユーザーに向けてのブラッシュアップとしては、ブラスティーをデザインした明貴美加氏が本商品に向け新たにデザインした“新デザインマーキング水転写デカール”がある。こちらを使用することで、さらに情報量の増したブラスティーが楽しめる。こちらもモデラー向けの楽しい要素だ。「このプラモデルは“素材”として楽しんで欲しいと思っています。モデラーさん達はぜひ色々手を加えてください」と田中氏は語った。
シューター形態へ変形! 今後も1980年代のSFメカに挑戦する「MODEROID」
そして変形である。「MODEROID クルーズチェイサー ブラスティー」は、シューターへの変形は部品を差し替える“差し替え変形”となる。設定上のブラスティーは胴体の下半身が左右に開き、肩の基部が背中方向に動くなどかなり複雑で、変形のためだけの可動関節が存在する。商品はこれらのギミックを取り入れず、専用の胴体パーツを用意することで変形に対応させている。
このため変形の最初の手順は胴体からパーツを取り外すこととなる。足、腕、ビーム砲に、左胸のコクピット、丸いスラスターユニットは背中のバックパックごと取り外す。頭部はボディに収納される設定なので、シューター時には使用しない。また、シューター時には膝部分からミサイルを発射する長い砲身が出てくる。こちらも専用パーツが用意されており、取り付けていく。
外したパーツをシューター用の胴体に取り付けていく。シューター形態では左右に大きく広がった足が、背中に回った球形のスラスターユニットを膝とふくらはぎで押さえ込むような形になる。膝から伸びたミサイル発射用の砲身と、右肩のビーム砲で、まるで三つ叉の槍のような形になるのがブラスティーのシューターの特徴だ。
「立体化することで気づきがある」と田中氏は語ったが、筆者にとってシューター形態は持っていたイメージが大きく変わった。思ったよりずっと横に広く、そして全体的に細い。ゲームでは、アニメならではの“調整”が入っていたかもしれないが、立体物でのシューターを見ると色々思うところがあり、楽しい。やっぱり立体物として目にするとブラスティーに対する思い入れがもう一段深くなると実感できた。
筆者はシューター形態を撮影しているときに思わず「ブラスティーのマスプロダクトの立体物が目にできる、まさかそんな時代が来るとは!」と口走ってしまったが、田中氏は「時代ではないと思います。僕が出したいから実現した。時代が求めたんじゃなくて、僕がやりたかったんですよ」と答えた。その言葉はとても納得する響きがあった。そう、まさに田中氏だからこそできた「ブラスティーの立体化」なのだ。
「MODEROID」というブランドは非常に挑戦的なプラモデルブランドだ。「ゴッドマーズ」、「マジンカイザー」といったヒーローロボットでも幅を見せ、さらには「シンカリオン」をプラモデルユーザー、アクションフィギュアユーザーに強く訴えるスタイリング重視の姿で立体化している。さらに「ARIEL(エリアル)」だ。
「ARIEL」は朝日ソノラマ文庫で笹本祐一氏が1986年から執筆したSF小説で、主役メカ・エリアルは全長40mの巨大なロボットだが、その姿は長い髪とグラマラスなボディの女性そのまま、「美少女ロボ」ともいえる存在だ。「ARIEL」はOVA化されるほどに人気を集めたが、立体化は少なかった。「MODEROID エリアル」は2019年5月に「MODEROID エリアル C装備」が、9月に「MODEROID エリアル 飛行ユニット装備」が発売され、いずれも好評だった。田中氏は「この時代のロボットはいける!」と手応えを掴んだという。
「ブラスティー」をアクションフィギュアではなくプラモデルにするのも、「当時の文化では、立体物はプラモデルだったから」だという。当時少年だったユーザー達が夢見た立体物、それを実現するというのも「MODEROID」の面白さの1つだという。「当時のゲームに思い入れのある人が『ブラスティー』の立体化を喜んでくれるというのは、当時やはり『このロボットのプラモデルが欲しい』と思っていたんだと思います。そこに需要があるんじゃないかと思うんです」と田中氏は語った。
さらに「1980年代はOVAや小説、ゲームなどで独特のSFブームがありました。そのときに“SFをこじらせている”、特別な思いを持っている人が、ホビーや出版、映像といった業界には多いな、そういう実感があります。エリアルやブラスティーをやるときも色んな人が興味を持って話を聞きに来た。僕もそうですけど、引きずっている思いがあります」と言葉を重ねた。
「MODEROID エリアル」に関しては、現在の成型技術があってこその繊細な表現が商品化を実現している。さらに昨今の「美少女フィギュアブーム」、「美少女メカアクションフィギュアブーム」という下地があってこその戦略もあったとのこと。完成品ではなく、プラモデルで出せた、というところにも田中氏のこだわりがある。
気になるのは次なる展開だが、まだ現時点で明らかにできるものはないという。「ブラスティー」では敵メカや、さらにはメカデザインや設定を一新した「小説版 クルーズチェイサー ブラスティー」もある。これらが検討されるのは、まず「MODEROID クルーズチェイサー ブラスティー」の反響をみてから、とのことだ。
田中氏はSilverFoxというメーカーから「1/144 MIG-31 Fire Fox」というプラモデルが発売されたというニュースを聞いたとき、とても共感したという。「Fire Fox」は、1982年のクリント・イーストウッド主演の映画「ファイヤーフォックス」に登場する、脳はコントロールで動く架空の戦闘機だ。今の時代にこのプラモデルを出す、その気持ちはとてもよくわかるという。1980年代のSFメカ、ここを求める人は少なくないのではないか、と田中氏は思っている。
「ブラスティーに関しては『本気で出すのか』とも言われましたが、僕の中では必然として答えを出したもので、ちゃんとロジカルに考えた上でのラインナップです。これでちゃんと手応えが得られれば、次に繋げることができます。考え方のスケールとしては少し大きい、『1980年代のSFメカ』というところで期待していただければと思っています。小説、ゲームとのSFメカを取り上げてきましたが、まだメディアとしても広げられる。色々想像して期待していただければと思います」と田中氏は語った。
最後に「MODEROID クルーズチェイサー ブラスティー」の立体化を喜んでいるファンに向かってのメッセージをお願いした。田中氏は「あのとき、クラスでブラスティーを知っている人がいなかったけど、インターネットのある今ならば知っている人と出会えます。このプラモデル情報を喜んでくれる“同志”がこんなにもいる。『MODEROID クルーズチェイサー ブラスティー』そんな同志のための商品です。ぜひ手に取ってください」とファンに向かってメッセージを送った。
田中氏の話を聞いて、「MODEROID クルーズチェイサー ブラスティー」の発売の喜びがさらに大きくなった。それと共に、筆者自身「あのメカや、あのメカも出て欲しい」と想像がふくらんでしまった。まさに田中氏しかできないアプローチであると思う。そして田中氏が切り開いた道に気づいたホビー業界が、1980年代のコミックス、小説のメカやキャラクターの立体化にチャレンジして欲しいと思った。
(C)サンライズ