インタビュー

「HAGANE WORKS マジンカイザー」開発者・田中宏明氏インタビュー

金属の重さとクリアパーツの輝き、本能に訴える魅力を持つ新世代フィギュアを!

8月発売予定

価格:17,500円(税込)

 グッドスマイルカンパニーは、8月にアクションフィギュア「HAGANE WORKS マジンカイザー」を発売する。価格は17,500円(税込)。その名の通り金属パーツを使った"合金フィギュア"となる。グッドスマイルカンパニーのページから予約受付中だ

 この商品を手がけるのはグッドスマイルカンパニーの田中宏明氏。プラモデルシリーズ「MODEROID」では「マジンカイザー」を皮切りに、「シンカリオン」をプロポーション重視にしたり、1980年代の人気小説のロボット「ARIEL」や、同時代のPCゲーム「ブラスティー」を商品化したりと、ユニークな挑戦を行なっている人物だ。

 その田中氏が手がける合金フィギュア「HAGANE WORKS マジンカイザー」とはどのようなものか? 田中氏はかつて超合金も手がけていた人物である。田中氏は本商品で「2020年代の合金フィギュアのスタンダード」を指し示したいという。それはどのようなもので、田中氏はどのような想いを込めたのか? 今回インタビューで、その想いを語って貰った。

 現在外出自粛のため、インタビューはネット会議システムを使って行なった。このため現場で「HAGANE WORKS マジンカイザー」を触って話すことができなかった。機会があればぜひその感触もレポートしたいところだ。

「HAGANE WORKS マジンカイザー」を発売する。価格は17,500円(税込)
本商品を企画したグッドスマイルカンパニーの田中宏明氏

巨大な玉座と、カイザーパイルダーの合体ギミック、大きな2つのセールスポイント

 「HAGANE WORKS マジンカイザー」の大きさは約全高17cm、アクションフィギュアとしては大型のサイズとなる。ガンプラで言うとMG(マスターグレード)サイズ、高級アクションフィギュアの標準サイズと言える。本商品はダイキャストを使用した"合金フィギュア"というのが大きなポイントだと田中氏は語った。

 「HAGANE WORKS」は合金フィギュアのブランドで、今回が2作目。シリーズ第一弾は「HAGANE WORKS デモンベイン」となる。アダルトPCゲーム「斬魔大聖デモンベイン」の"主役ロボット"を合金フィギュア化し、さらに「HAGANE WORKS デモンベイン オプションセット」により凄まじいボリュームを実現した商品は大きな話題を集めた。

 そうした中で、第2弾を「マジンカイザー」にするという所は、田中氏なりの様々な戦略があってのことだ。「マジンカイザー」は初出はバンダイナムコエンターテインメントの「スーパーロボット大戦」シリーズ。そこからOVA作品が作られる展開もあった。マジンカイザーはマジンガーZ、グレートマジンガーを原作者の永井豪氏自身が発展させたデザインが元となっており、その人気は高い。

 田中氏はマジンカイザーにおいて、プラモデルブランド「MODEROID(モデロイド)」にてとてもユニークなアプローチをしている。マジンカイザーをプラモデル化した「MODEROID マジンカイザー」を皮切りに、「MODEROID マジンカイザーSKL」、永井豪氏原作の他の作品をもチーフに取り入れた「MODEROID アームドマジンカイザー ゴウヴァリアン」、「MODEROID マジンカイザーライガ」などファンの予想を超えるラインナップ展開をしている。「MODEROID マジンカイザー」は全長が14.5cm、「HAGANE WORKS マジンカイザー」は一回り以上大きなサイズとなる。

「MODEROID マジンカイザー」(左)との比較。「HAGANE WORKS マジンカイザー」は一回り以上大きなサイズとなる

 大きさ、ディテール、そして合金と様々なセールスポイントがある「HAGANE WORKS マジンカイザー」だが、田中氏が最大に推したいポイントは「玉座」。本商品には巨大な"椅子"が付属し、マジンカイザーはここにどっかりと腰を下ろすことができる。腰を深く礼儀正しく座るのではなく、腹と下半身を突き出し気味に、膝を大きく前に出して座るちょっと物憂げで、傲慢さを感じさせる座り方をしたポーズなのだ。

 この玉座は3本の巨大な剣も収納できる。玉座に座るマジンカイザーは、威圧感があり、見方によっては「悪のボス」のようにも見える。元々のマジンガーZのコンセプトが「操縦者は神にも悪魔にもなれる」というものであり、デザイン自体も悪者のようにも見える。マジンカイザーはマジンガーZをさらにパフフルに、そして凶暴にしたようなデザインであり、その機体が玉座に座る姿は凄まじい迫力だ。

玉座に座るマジンカイザー。見ようによっては"封印"されているようにも見える。イマジネーションを広げてくれるアイテムだ

 「マジンカイザーはその名の通り"皇帝"です。玉座はその皇帝の呼び名にふさわしい要素となりました。玉座に座っているのは人間くさい姿でもありますが、マジンカイザーは格納庫ではこのようになっているのではないか? という想像もふくらみます。一転して、『実は封印され、この玉座に縛り付けられている、拘束されている』という解釈も可能です。この姿そのものが、イマジネーションを大きく刺激してくれるのです」と田中氏は語った。

 「HAGANE WORKS マジンカイザー」は3本の大剣が付属しており、これを玉座に配置することもできる。3本を立てたり、広げるようにも配置でき、これでも雰囲気が変わる。物語性を生み出すオブジェクトであり、遊びの幅が広がりそうである。

剣や紅の翼「カイザースクランダー」の配置で、雰囲気が大きく変わる

 田中氏がもう1つのセールスポイントとして語るのが、飛行機となる分離型コクピット「カイザーパイルダー」のギミックである。カイザーパイルダーはグレートマジンガーの「ブレーンコンドル」を発展させたデザインで、かなり長い機首を持つ。見た目ではカイザーパイルダーがドッキングする頭部を超え、首を突き抜けるほどの長さなのだが、「HAGANE WORKS マジンカイザー」は、これがそのまま刺さる形で合体するのだ。

 写真で確認したが、本当に長い。これが合体すると頭部は可動域は全くなさそうだ。しかし田中氏は「動く」という。きちんと飛行状態で上を見上げるような可動もできる。この設計は開発時に設計担当者に「それはできないでしょう」といわれたのをコンセプトを理解した上できちんと実現させたギミックだという。ここは試行錯誤を繰り返し実現したギミックとのこと。「この首の設計の面白さはぜひ実際の商品で触ってみてもらいたいです」と田中氏は語った。

頭より長い「カイザーパイルダー」がきちんと収納される。このギミックはぜひこの目で見たい

人間の本能に訴えかけるマテリアル感で、潜在ユーザーを掘り起こしたい

 「HAGANE WORKS マジンカイザー」そのものを見ていこう。本商品は、"合金フィギュア"である。足の側面、太もも、腹部に金属パーツが使われている。ずしりと重みがあり、大きなパーツとなる足を支える膝関節は、ギアを噛ませることで強度を確保する「クリック関節」が使われている。金属パーツは"手触り"を大事にしていて、フィギュアを掴んだときに指の腹で金属の感触が楽しめるようになっている。

 田中氏は過去にも合金ロボット商品を手がけており、「HAGANE WORKS マジンカイザー」には合金玩具としてのノウハウを盛り込んでいる。「指で触れるところに金属パーツを配置する」、「下半身を重くすることで、ユーザーに一層の重量感を感じさせる」といった知見が活かされているという。クリック関節も「動かす面白さ」を意識した要素だと田中氏は語った。

金属の使用部分がわかる試作品。銀色の部分が金属パーツだ

 これまでも合金フィギュアを手がけている田中氏が「HAGANE WORKS マジンカイザー」に何を託すのか、それは「2020年の合金フィギュアのスタンダードを見せたい」という想いだという。デモンベインはかなり"攻めた"モチーフだったが、今回は"原点回帰"を意識しているとのことだ。

 変形や合体をギミックの中心に置くのではなく、良く動き、重く、動かして楽しい、持って楽しい合金フィギュアを目指す。マジンガーZといえば「超合金」であるが、そのマジンガーZの延長線上にあるマジンカイザーで合金フィギュアを出す、というのは、合金フィギュアの楽しさの原点を提示することだと田中氏は語った。

 なぜ「新しいスタンダード」という所を目指したのか? それは「これまで合金フィギュアを買っていない人にも手に取ってもらいたい」という想いが田中氏にはあり、これを提示したいと思っているからだという。合金フィギュアは高価格でもあり、固定ファンがいる一方で新しいファンを得るのが難しい一面がある。高価格なためギミック満載だったり、シリーズでの凝ったモチーフだったり、若い人が手に取りにくい一面がある。

 田中氏が本商品を企画した理由の1つに、"「MODEROID マジンカイザー」の購入層ほ60%が30代以下だったということだ。20代以下でも25%を越える。プラモデルは40代、50代のユーザーも多いが、若いファンを獲得したマジンカイザーだからこそ、「初めての合金フィギュア」として「HAGANE WORKS マジンカイザー」を手に取って欲しいと田中氏は語った。本商品は日本のみならず、アジア圏、欧米での人気も期待しているとのことだ。

 「HAGANE WORKS マジンカイザー」ではクリアパーツもたっぷり使われている。カイザースクランダーは巨大な羽の外装全てがクリアパーツで構成されている。内側には内部メカを思わせるパーツが組み込まれており、それが透けることで情報量を増している。そして胸のファイヤーブラスターを放つための放熱板と、中心の丸い玉状のパーツもクリアパーツでその鮮やかな赤がグッと目を引く。

 クリアパーツの仕様は「MODEROID マジンカイザー」でも大きなセールスポイントだったが、翼の裏側には使われていなかった。「HAGANE WORKS マジンカイザー」では翼が全面クリアパーツとなり、田中氏曰く「どこから見ても隙のない仕上がり」になったとのことだ。

特に翼のクリアパーツはボリュームもあって圧倒的だ
玉座にもクリアパーツが使われている

 何よりも田中氏は「HAGANE WORKS マジンカイザー」の"マテリアル感"が、合金フィギュアで楽しんでもらいたいポイントだという。「人間は本能的に、重たいものや、光ってるものに魅力を感じると思っています。商品では"素材感"は常に取り込んでいきたいと考えています。金属はロボットを表現するのに重要なファクターだと私は思っています。それは本能を震わせる魅力がある。そしてクリアパーツ。複合的なマテリアルが組み合わさっているからこそ、合金玩具は楽しいんだと思います。こういった要素は玩具に限らず、スマホや車、アクセサリーなど様々なものにも取り入れられている要素だと思うんです」と田中氏は語った。様々な要素が組み合わさったものは人間の本能に訴える魅力がある。「その魅力をホビーでどう活かすか?」というのは、田中氏の仕事のテーマの1つであるという。

 この「本能に訴えかける魅力」はホビーの突破口になるのではないかと、田中氏は考えている。合金フィギュアはこれまでやはり年配のユーザーが多かった。しかしそのマテリアル感は世代を超えた"潜在的ユーザー"に刺さる力がある。だからこそ田中氏は若い世代のユーザーも手に取ったマジンカイザーをモチーフに、「2020年代だからできる合金フィギュア」を提示すべく、「HAGANE WORKS マジンカイザー」を手がけたのだという。

良く動き、重く、カッコイイ。2020年代の合金フィギュアの出発点

 さらに田中氏は合金フィギュアとしてのマテリアル感の面白さと共に、「アクションフィギュアとしての楽しさ」も十二分に追求した商品だと語る。膝裏や肘の内側のパーツの可動により、膝と肘は180度近くまで曲げられポーズの幅を広げてくれる。手首の可動範囲も広めで、微妙な表情付けも可能だ。ポーズに勢いがあるだけでなく、玉座に座るときもこの手首の動きがキャラクター性を強めている。

 玉座にも飾れる3本のカイザーブレードは、両肩から2本、胸の中心から巨大な「ファイナルカイザーブレード」が出現するという設定だが、2本のカイザーブレードは柄を連結させることができる。このギミックもポーズの幅を広げさせるアイディアだ。思いっきりガシガシ動かして遊んで欲しい、という想いを託しているという。

 玉座や2本の剣の連結は「HAGANE WORKS マジンカイザー」のオリジナルと言える要素だ。田中氏は「マジンカイザーはゲームやOVAで活躍しますがその設定はあえて幅が持たされている、自由度の高いロボットだと言えます。だからこそ自由に設定を考えて様々なポーズをとらせて欲しいです」と語った。

各関節の可動域は非常に広い
膝にはクリック関節機構が仕込まれ、重量感のある本体をしっかり支える
各部のディテール表現は力が入っている

 設定的には自由度が高いが、キャラクターとしての作り込みには力が入っている。元々マジンカイザーは、シンプルなマジンガーZ、グレートマジンガーに比べとても線が多いデザインだが、「HAGANE WORKS マジンカイザー」はそこから細かくディテール表現を入れている。顔の造形や胸パーツは特に情報量が濃いが、手足や肩にも細かくスジ彫りが入り、目を近づけてみることでそれらを確認して楽しむことができる。いつまで見ても見飽きないディテールは、ポーズをつけた後飾って楽しむ楽しさを、何倍にもふくらませてくれる。それは前述した"素材感"との相乗効果も生み出す。

カイザーブレードは連結状態にできる
動かして楽しい、飾って楽しい合金フィギュアだ

 「HAGANE WORKS マジンカイザー」は新しい始まりだ。触って楽しいマテリアル感、動かして楽しい凝った関節可動、ポーズをつけて眺めて楽しい緻密な情報量、これらの魅力を「2020年の合金フィギュア」として提示したのが「HAGANE WORKS マジンカイザー」だ。もちろんこの先も考えている。より広い世代にアピールするために近年のロボット作品の機体もやってみたい、と田中氏は語った。

 デモンベインを経て、マジンカイザーで合金フィギュアのスタンダードは指し示した。次は合体や変形などのギミックを盛り込んだ、さらなるプレイバリューを目指した商品に向かいたいと田中氏は言う。合金フィギュア、完成品だからこそ"遊びごたえ"にこだわりたいとのことだ。

 「HAGANE WORKS」の次なる作品としてワンフェスでは、ゾイドの「ブレードライガー」を展示した。どこに金属部品を配置するか、どんなアクションが楽しめるのか、とても楽しみだ。

 「HAGANE WORKS マジンカイザー」のポテンシャルを見せるためにはイベントなどで紹介するのがこれまでのマーケティングだが、現状それが難しい。今後動画配信などでも魅力を紹介したいとのことだ。

ワンフェスで展示されていた次回作。金属がどう使用されるか、とても楽しみだ

 最後に田中氏はファンへのメッセージとして、「『HAGANE WORKS マジンカイザー』は日本に限らず、世界のロボット好きの方々に手に取ってもらいたい合金フィギュアです。"鋼のボディを持ったスーパーロボット"の魅力を、直球で再現した商品です。ぜひ手に取って楽しんでください」と語りかけた。

 「2020年代の合金フィギュアのスタンダード」というテーマはとても興味深い。独特のアプローチを続ける田中氏が、「直球」とする「HAGANE WORKS マジンカイザー」はどのような商品になるのだろうか。今回はネットを介したインタビューだったため、やはり手に取って確認できなかったのが寂しかった。ぜひ手に取って田中氏の言葉を噛みしめたい。