インタビュー
フィギュアが苦手とする布の表現に、「真骨彫製法」はいかにチャレンジしたか?
「仮面ライダーウィザード」のローブを1/12で表現する挑戦
2018年7月2日 12:00
ヒーローのアクションフィギュアにおいて、“マント”は鬼門である。我々はモヤモヤを繰り返してきた。ただのビニール製の1枚布だったり、全く曲がらない固定パーツだったり、質感の違うフェルトだったり……。はためき、動き、そしてポーズでベストの位置で固定化するような“魔法の布”をユーザーは求め続けてきた。
そのまさに“魔法”とも言える難題に果敢に挑んだのが、「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダーウィザード フレイムスタイル」である。ウィザードは下半身にローブがあり、アクションの際に効果的にはためき、独特の動きを加える。このカッコイイ布の動きをフィギュアに活かそう、という難題にチャレンジした商品なのだ。
「S.H.Figuarts(真骨彫製法)」は、アクションフィギュアシリーズ「S.H.Figuarts」の中での“上位ブランド”ともいえるシリーズであり、変身した人間を表現すべく、まるでテレビ画面の中で活躍しているキャラクターをそのまま縮小したような、リアルさが求められる。
今回は「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダーウィザード フレイムスタイル」を題材に、原型師がどこまでその再現にこだわり、工場担当者がいかにそれを生産するために努力を重ねているか、そのブランドへのこだわり、キャラクター再現への力の入れ込みを「S.H.Figuarts 特撮」シリーズの統括プロデューサーの寺野彰氏と、「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダーウィザード フレイムスタイル」の企画担当プロデューサーの岡本圭介氏に聞いた。
「これを量産するのがいかに大変か、本当にわかっているのか?」と工場側に怒られるほど突き詰めた岡本氏のこだわり、そしてユーザーのために試行錯誤を繰り返し理想に近づける工場の熱意を感じて欲しい。
「どれだけきついかわかってるのか?」、工場から怒られたローブへのこだわり
弊誌では「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダー新1号」のインタビューにおいて、原型を担当したGB2の長汐響氏に「真骨彫製法」というブランドだからこそできる原作キャラクターの再現への注力、こだわりの部分を聞いた。
改めて「真骨彫製法」の概要を説明しよう。「真骨彫製法」は、アクションフィギュアとしての楽しさを追求する「S.H.Figuarts」から、さらにキャラクター性にフォーカス、実写のヒーローが目の前に立っているかのような臨場感を目指したブランドである。骨格、手足のバランスにこだわるだけでなく、原型師と企画者が何度も番組を見直してチェックし、とことんまでこだわる。
原作キャラクターの魅力、劇中の質感、実写キャラクターならではの実在感……こういった様々な要素を突き詰め、フィギュアを前にしたユーザーが実際の、番組の中そのままのヒーローと対峙しているかのような気持ちにさせるにはどういった所に注力するか、長汐氏の話は改めてそのこだわりとテクニックに圧倒された。
今回は寺野氏と岡本氏によって、「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダーウィザード フレイムスタイル」でのこだわりが語られた。岡本氏は「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダー新1号」も含め、様々な商品を手がけている。企画の岡本氏と、原型師の情熱がファンの満足をもたらすこだわりの商品を生み出しているのだ。
寺野氏はこれまでは主に超合金シリーズやMETAL BUILDなど、ロボット系の商品を手がけていたが、今期からはヒーロー系商品プロデュースを行なって。岡本氏など各企画担当者と話し、どういった商品を出していくか、部門全体としての戦略や方針などを話し合っていく。そして今回のインタビューに関しては、「改めて『S.H.Figuarts(真骨彫製法)』はどういった想いを込めて作られているか」をアピールする機会としたいという。そのアピールが強くできる商品として、「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダーウィザード フレイムスタイル」を選択したとのことだ。
まず最初に寺野氏、岡本氏がユーザーに訴えかけたいのが、本商品が生み出されるにあたっての「工場側の努力」である。これまでも何度も取り上げているが、商品は原型師が作り上げた「原型」を工場が“生産”することでユーザーの手に届けられる。原型師が手がける原型は言わばオンリーワンの“作品”であり、どこまでもこだわり、突き詰めたものとなる。
しかしユーザーが商品として遊ぶための量産品には強度、品質、生産性、安全性などが求められる。工場側は可能な限り企画担当者と原型師が生み出すこだわりの原型に近づけるべく努力していく。その工場の努力の1つが、「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダーウィザード フレイムスタイル」の“ローブ”にある。今回の大きなチャレンジはヒーローフィギュアに求められる「新しい布の表現」であると、寺野氏は語った。
仮面ライダーウィザードは2012年に放映された同名番組の主役ライダーであり、その名の通り“魔法使い”をイメージしている。大きな特徴として、下半身に布製のローブをまとっている。この布がアクションにアクセントを与え、他のライダーとは一味違う動きをもたらしている。しかし布というのは、S.H.Figuartsサイズのアクションフィギュアにおいて非常に難しい素材の1つなのだ。
布には“厚み”が存在する。このためできるだけ薄い布を使っても、小さなフィギュアに使うとテレビのヒーローと大きく印象が変わり、もっさりしてしまう。“しわ”も、実物大の豊かなしわの表現をS.H.Figuartsサイズで再現するのはとても難しい。しかもユーザーは印象的な劇中のシーンを再現したい。はためいたり、体に巻き付いたりする自由度と、その姿で固定したい、という無茶な希望に応えなくてはいけないのだ。ある意味、現実の布以上に難しい課題に挑まなくてはならないのである。
ヒーローと布、マントは「スーパーマン」の時代から切り離せないものであり、様々なチャレンジが行なわれている。本シリーズでは、「S.H.Figuarts(真骨彫製法) 仮面ライダーエターナル」で1つの大きな指針が得られたという。このヒーローは大きなマントをまとっているのだが、縁に軟質素材でコーティングしたワイヤー針金をを仕込み、大胆なしわの表現、はためく形で固定することに成功した。フレキシブルに動き、ポーズを固定するこの技術を応用すれば、「仮面ライダーウィザード」を、「S.H.Figuarts(真骨彫製法)」の手法で表現できる、そういう可能性が見えてきたのだと岡本氏は語った。
仮面ライダーウィザードに関しては「S.H.Figuarts 仮面ライダーウィザード フレイムスタイル」を2013年に発売している。この時は布ではなく軟質素材でローブを再現、はためいた形の「ストライクウィザード用ローブ」を差し替えで用意することでキックなどのシーンにも対応するようにした。そして今回、「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダーウィザード フレイムスタイル」では新たに布を使う事を岡本氏は選んだ。
原型師による原型はローブの作りが非常に細かく、繊細なしわの表現ができる。撮影用のスーツをそのまま縮小したような薄さを実現し、縁部分にワイヤーが仕込まれ様々な形に固定できる。しかしこの原型は量産を考えたものではなく、作業工程は非常に複雑で素材も異なる。工場側は量産でこの原型に極めて近く、大量生産が可能な品質で実現しなくてはならないのだ。
この数カ月、ローブをどう表現するかで岡本氏は工場側と何度もやりとりをしている。企画担当と原型師で試作品は実現できたのだが、それを“商品”にするのには大きな壁が存在するのだ。「TAMASHI NATION 2017で試作品を出したんですが、工場側からすごく怒られまして、量産できる目処が立ってないのにお客様に試作品を見せてしまうとは何事かと。マントとしては『エターナル』であれだけのことができたのだから可能でしょう、と思ったんですが、実際はそういう簡単な話じゃありませんでした」と岡本氏は語った。
実は、仮面ライダーウィザードのローブは非常に難しい課題をいくつも抱えていたという。仮面ライダーエターナルのマントは黒一色の1枚布で実現できたが、仮面ライダーウィザード フレイムスタイルのローブは外が黒、内側が赤色で、縁に銀色が使われている。2枚の布を貼り合わせるか……布だと内側を塗装で再現することもできない。量産化への技術的な課題が山盛りだった。
「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダーウィザード フレイムスタイル」のローブの工程がいかに難しく、生産が困難なものか、岡本氏にそれを説明するために工場担当者が“エターナルのマントを作る動画”を見せたという。その動画ではマントを折り返してワイヤーを織り込み接着する、その全てを手作業で行なっていることが語られていた。
ウィザードではさらに裏地が赤のマントを実現するために黒と赤の2枚の布を貼り合わせねばならない。この工程はエターナル同様手作業で行なわなくてはならない上に、失敗する可能性も高い。「企画担当側はそういう極めて大変なものを提示しているんだぞ、それを本当に自覚しているのか?」というメッセージと共に渡されたという。工場担当者の苦労がとても伝わってくるエピソードだ。
しかし、それでも工場担当者、そして現場の職人達は企画・原型師の想いに応えるため試行錯誤を繰り返していく。「2枚の布を縫い合わせたもの」、「赤い布に黒、銀を印刷したもの」……失敗を重ねながら改善されて、工場から送られてくる試作品は日々レベルアップしている。
「ユーザーの皆さんは工場の生産というと、食品工場のような自動化された工程を想像するかもしれませんが、私達の商品は、1つ1つのパーツを職人さんが手で磨き上げたり、組み立てる商品も多い。彼らの技術は熟練し、ものすごく高度になっているのですが、これまで“布”はあまり手がけていない。これはかなり難しいと思います」と寺野氏は語った。
そのやりとりしていく試作品も見ることができた。赤と黒を縫い合わせると、袋のようになってしまい、縫うと厚さが出るので、到底望むべきローブの薄さにならない。次に行なったのが、赤い布に黒と銀のラインを片面印刷する方法。これでは薄さが出るが、品質がキープできない。そして最新の方法が貼り合わせる方式だ。この方式が理想に近く、ここからさらにブラッシュアップがされていく予定だという。
筆者は話を聞いて、改めて1つの商品に対する開発の大変さを実感でき、圧倒された。この時間とコストのかけ方は、やはり今後の他のヒーローのフィギュアを生み出すための試行錯誤であり、「マントの表現」という今後に繋がるテーマだからこそ、ここまでやるものなのだろうか? 寺野氏は「それは違う」と答えた。今回のローブの試行錯誤、布という素材へのチャレンジは、あくまで仮面ライダーウィザードというキャラクターを、「真骨彫製法」という最上位ブランドで表現するためのチャレンジであるというのだ。
「確かに結果的に、これからのフィギュアに繋がるノウハウを生み出すことになると思います。しかし、真骨彫製法というのは今後のためにとか、次を出すために、というのを考えているのではなく、『そのキャラクターを表現するために』集中しています。今回、ウィザードは真骨彫製法で生産できる目処が立ったからこその発表なのですが、お客様から要望が多い他のキャラクターも存在するのですが、そちらは商品化まで落とし込むのに超えなくてはいけない課題を抱えている。『真骨彫として出ないのには訳がある』というところも、今後お伝えしていきたいところです」寺野氏は、こうコメントした。
「他の商品はマントを固定パーツで表現することも多いです。しかし、ウィザードの真骨彫製法では布で行くことにしました。それは真骨彫製法は実際にスーツをまとったヒーローを目の前にしたような本来の“存在感”を追求するシリーズであること。そして真骨彫製法で表現するライダーに関しては、お客様に驚きを感じてもらいたいと企画担当である私や、原型師も考えているからです。ウィザードは他の表現はもちろん、ローブで驚いてもらいたいそう考え、商品の仕様を決定しています」と岡本氏は語った。またこれだけの作業工程を要する本商品は再販も簡単にはできないので、ぜひ今回購入して欲しい、とのことだ。
(C)石森プロ・東映
※写真は試作品のため、実際の商品とは異なります