インタビュー
サイエンスは素晴らしい! 「ハースストーン 博士のメカメカ大作戦」クリエイターインタビュー
なぜドクター・ブームはウォリアーのヒーローになってしまったのか!?
2018年7月20日 12:01
Blizzard Entertainmentは、オンラインカードゲーム「ハースストーン」の最新拡張パック「博士のメカメカ大作戦(英題:The Doomsday Project)」を8月8日にリリースする。7月20日からは拡張パック恒例となっている世界中のメディア/コミュニティを通じて1枚ずつ新カードを公開していくキャンペーンがスタートする。「ハースストーン」ファンにとってはアレコレ期待が膨らむ今が1番楽しい時期だ。
こうしたタイミングで、日本のメディア向けに「ハースストーン」開発メンバーに直接質問する機会が用意された。筆者も酷暑の中、渋谷にあるBlizzard日本法人のオフィスを訪ね、合同インタビューに参加して、いくつか質問をすることができた。インタビューに応じてくれたのは、「ハースストーン」開発チームでデザイナーを務めるPeter Whalen氏とPat Nagle氏の2人。
実のところ、今のタイミングでのインタビューは、若干メディア泣かせなところがある。というのも、「超電磁」、「オメガ」、レジェンド呪文といった新要素は発表されているものの、肝心のカード自体の発表が中途半端で、不十分な情報で不十分な質問をしなければならないからだ。ましてやBlizzardは社員教育が行き届いており、未発表ネタは絶対に明らかにしてくれない。
というわけで不十分なインタビューにならざるを得なかった点はご了承いただきたいが、いくつか不明瞭だった点について深く掘り下げることができたので、項目毎に区切ってお届けしたい。
開発チームの新体制について
筆者が1番聞きたかった質問だ。「ハースストーン」の開発チームは、世界大会終了後にベン・ブロード氏とハミルトン・チュウ氏という、コアメンバーであり、ビジョナリーを失った。「博士のメカメカ大作戦」は、2人が不在の中でリリースされる最初の拡張パックとなる。新体制ではどのようにして開発が進められているのだろうか?
「ハースストーン」リードデザイナー ベン・ブロード氏インタビュー
45枚の新カードがもたらすゲームバランスの変化について聞いた
https://game.watch.impress.co.jp/docs/interview/1013035.html
「ハースストーン」エグゼクティブプロデューサーHamilton Chu氏インタビュー
キューブロックデッキは「大きなイノベーション」。10クラス目の追加は今後もなし
https://game.watch.impress.co.jp/docs/interview/1102202.html
2人は開発を仕切る立場ではないため、「すべて把握しているわけでないが」と前置きした上で、今回「超電磁」のメカニクスを考えたスティーブン・チャン氏をはじめ、開発チームには優秀なスタッフがたくさんいて、新しいアイデアが生まれ続けているためベン/ハミルトンの両氏がいなくても問題ないと考えているという。
超電磁のメカニクスについて
「超電磁」も謎の多いギミックだ。上に掲載したスティーブン・チャン氏の炉端談話でかなり語られているが、より細かく聞いてきたのでまとめておきたい。
まず、超電磁の対象となるのは「メカ」カテゴリのみで、その他のカテゴリとは合体できない。合体のさせ方は、合体したいミニオンの“左側”に配置するだけで、合体すると攻撃力、体力、能力がすべて合算され、1つになる。合体させたくない場合は場にあるミニオンの“右側”に置く。「Diablo」シリーズのような任意の組み合わせによるセットボーナスなどは計画していないということで、ハンターの「バ獣」と同じ単純な足し算となる。
超電磁は、トランスフォーマーのような感覚で、何度でも合体を繰り返すことができ、1度合体させたら分離はできない。「沈黙」は有効で、合体で手に入れたすべての能力が1度に無効化される。
オメガについて
新カテゴリとなるオメガカードは、マナ10/10を条件に、フィニッシャーに相応しい追加能力を得るというものだ。現時点では中立ミニオン「オメガ・ディフェンダー」のみが公開されており、通常4マナで2/6+挑発のところを、4マナで12/6+挑発というヤバい性能になってしまう。
メディアからの質問は「オメガの追加能力の発動条件がマナ10であるなら、マナ加速のあるドルイドが有利ではないのか?」というもっともな内容だった。現在もドルイドは、オンリーワンのマナ加速能力を活かして序盤、中盤をすっ飛ばして、9マナのハドロノックスを主軸とした挑発ドルイドや、9マナのマリゴスを駆使してガンガンフェイスを攻めるマリゴスドルイドで暴れ回っている。“オメガドルイド”時代が来るのではないかと誰しも思うのではないだろうか。
回答は「心配する必要はない」というシンプルなものだった。理由は、1つはまだオメガカードは極々一部しか公開されておらず、全体で見れば「オメガ・ディフェンダー」がオーバーパワー(OP)だとは言えないという。社内でテストを繰り返しながら、オメガカードの使えるクラスを限定することで全体としてバランスを取っているという。
「博士のメカメカ大作戦」の企画コンセプトについて
今回のテーマは「サイエンス」。初めてサイエンスをテーマにした拡張パックとなる「ゴブリンvsノーム」では、主に“爆発”のサイエンスを扱っていたが、今回はレーザーやバイオテクノロジー、化学、天文学など、様々なサイエンスにフォーカスしているという。各ヒーローが研究所を担当しており、ドルイドなら生物学、パラディンだとホーリーライトとクリスタルを組み合わせてレーザーの研究と言った具合で、それが今回初登場となる「レジェンド呪文」に結びついているという。
世界観のバックグラウンドは、今回も「ハースストーン」のベースになっているMMORPG「World of Warcraft」から、ドクター・ブームのいるNetherstormが舞台になっている。紫がかった雷が明滅する不気味な空間で、謎の研究所が点在しており、同地の世界観を様々な形でカードとして再現しているという。
主役であるドクター・ブームについて
ドクター・ブームは、「ゴブリンvsノーム」で中立のレジェンドミニオンとして登場し、余りの強さにあらゆるデッキに採用されたOPカードだ。今回ドクター・ブームが復活することがトレーラーでさりげなく明らかにされたが、なぜかウォリアーのヒーローカードになっていた。その理由について突っ込んでみた。
2人は2つの理由を挙げてくれた。1つはキャラクター設定。今回、ドクター・ブームは、自身が開発したジャイアントロボに搭乗し、かつ大きな銃を手に持っている。「これはまさにウォリアーヒーローの雰囲気ではないか?」ということでそうなったという。
もう1つは、「ゴブリンvsノーム」でのドクター・ブームは明らかにOPで、強烈な性能を持っているにも関わらず中立レジェンドにしたことによって全体のメタが崩れてしまったため、同じ失敗を避けるために今回はウォリアー限定にしたという。今回も複数枚のレジェンドカードが各ヒーローに用意されるが、ウォリアーはそのうちの1つが、ヒーローカード「Dr. Boom Mad Genius(悪の天才ドクターブーム、邦訳未定)」になる。トレーラーでは意図的に隠されていたが、ヒーローパワーが極めてユニークな内容だという。ウォリアーユーザーにとっては朗報と言えるだろう。
ちなみに「ゴブリンvsノーム」から復活するカードはドクターブーム以外ないということだが、「ゴブリンvsノーム」に搭乗したカードを参考にして、似たような性能を備えたミニオンは登場するかもしれないという。
メタの変化について
メタの変化は、全「ハースストーン」ユーザーにとって気になる話題だ。2人はどう変化するかは「想像できない」と正直に告白しつつ、超電磁について、メカ同士を合体することによって挑発や生命吸収、聖なる盾といった特性が当たり前のように付与されていく環境でどういう風に使われていくのか。また、ドルイドのコモンカード「生物学プロジェクト」は、自分だけでなく相手にもアドバンテージを与える効果を持つが、それを踏まえてどう巧く使いこなしていくか。あるいはオメガについては、10マナで大型ミニオンになる点ばかりが強調されがちだが、ある程度のスタッツは持っているため、「実は序盤でも後半でも使える汎用性の高さが特徴」と助言してくれた。
2人が好きなカード
Pat氏は「ドクター・ブームだ」と即答。先述したように、ドクター・ブームは今回、ウォリアーのヒーローカードとして登場するが、ヒーローパワーが非常にユニークなものになっているからだという。
Peter氏は、実はまだ公開前のカードにお気に入りがあるということだが、公開済みのカードの中では「マイラの不安定元素」を上げてくれた。初のレジェンド呪文カードであり、その他のレジェンド呪文も含めて、どのような作品が生まれるのか楽しみにしているという。
新規ユーザーや復帰ユーザーに向けたアピールポイント
カードゲームにおける新規ユーザーの獲得は至上命題といえるが、拡張パックでそれを実現するのはなかなか至難の業と言える。なぜなら、拡張パックは基本的に、既存ユーザーに対して新たなメタを提供し、新鮮な遊び応えを提供するためのものだからだ。
この難易度の高い質問に対して2人は「サイエンス!」と口を揃えた。中でも主人公のドクター・ブームは、コミュニティの間でも人気の高いキャラクターで、アクの強いキャラクター性で、新しいプレーヤーにアピールできる存在だと確信している、とコメント。サイエンスは誰でも理解できるため、入りやすいのではないかと考えているようだ。
また、サービス開始から2週間後に追加される「パズル研究所」と呼ばれる1人プレイモードにも期待を寄せている。パズルゲームを通じて色んな研究を行なっていくようになっており、比較的ビギナーでも遊びやすいようだ。
日本の「ハースストーン」コミュニティに対するメッセージ
サイエンス、研究ということで、日本のみならず、世界のコミュニティでどのようなプレイ、メタが出てくるのか、どういうリアクションが出るのか楽しみにしている。特に日本では日本人しか考えつかないような作戦が出てくるのでそれも楽しみにしている。