インタビュー
エディア×講談社「マップラス+カノジョ」クリエイターインタビュー
仕掛け人の元カプコン/ダレットの波多氏と、講談社千葉氏に、全体構想から“カノジョ”とのデートまで全部聞いてきた
2018年6月29日 13:00
- 6月27日より事前登録受付中
- 9月サービス開始予定
- 利用料金:無料(アイテム課金制)
エディアが2017年5月に発表し、イラストに「けいおん!」や「らき☆すた」で知られる堀口悠紀子氏を起用したことで話題を集めたスマートフォン向け位置情報恋愛シミュレーションゲーム「マップラス+カノジョ(まっぷらすぷらすかのじょ)」。同社の主力製品であるカーナビアプリ「マップラス」の位置情報技術をベースに、スマートフォンゲームの開発ノウハウと、講談社が持つストーリー制作のノウハウをミックスさせ、新時代の恋愛シミュレーションゲームとして注目されているタイトルだ。
ただ、筆者がもっとも注目したのはそのいずれでもなく、「マップラス+カノジョ」のプロデューサーが波多紘幸氏だということだ。波多氏は、当時存在していたカプコン第6開発部に所属し、当時としては珍しいPC専門部隊として、日本に海外の洋ゲーを持ち込み、かつカプコンタイトルのPC化を担当していた。2001年頃の話だ。当時、PCゲーム担当だった筆者(そう、当時はPCとコンソールは別の世界のものだったため、“PCゲーム担当”というポジションが存在したのである)は、イベントや取材で波多氏と顔を合わせ、15年以上に渡ってお付き合いを続け、現在に至っている。
ちなみに当時のカプコン第6開発部は、波多氏のほかに、部長の中里英一郎氏(現、CRI・ミドルウェア グローバル事業推進室室長)をはじめ、牧谷洋志氏(現あまたビジネス開発部ゼネラルプロデューサー)、高橋徹氏(現ゼニマックスアジア ゼネラルマネージャー)、久永智之氏(現マーベラス マネージャー)など人材の宝庫、一騎当千の猛者ばかりで、梁山泊のような様相を呈していたのは懐かしい記憶だ。
カプコン第6開発部はその後解体されたものの、PCゲーム、そしてPCオンラインゲームの遺伝子は現在まで受け継がれており、各スタッフも多くが現役でゲーム業界で活動している。
本企画はその波多氏に「中村さん、インタビューやってくれない?」とダイレクトに依頼が来たことがきっかけとなっている。波多氏にインタビューするのは2008年、波多氏がダレットに在籍していた時代に収録した「ストリートファイターオンライン」のインタビュー以来、実に10年振りだ。
インタビューは、波多氏の自己紹介にはじまり、プロジェクトに関わった経緯、延期にまつわるストーリー、リノベーションの内容、実際のゲームの中身、そして正式サービス後のアップデート計画まで、実に3時間近くに及んだ。
我々2人が近しい間柄ということもあるが、基本的に波多氏は、喋りすぎる傾向があり、掲載したインタビューはかなりトーンを落としたものになっている点は、“大人の事情”によりご了承いただきたい。また、新作タイトルのインタビューとしては信じられないほど長いものとなっているが、この長さから波多氏がこの作品に賭ける意気込み、そしてその波多氏の熱意にほだされて共同プロジェクトに参画した講談社の千葉氏の、物語作りに関する揺るぎのない信念のようなものを感じ取って貰えればと思う。
エディア&講談社のコラボレーション経緯について
――私は波多さんとは10年以上のお付き合いですが、エディアの波多紘幸といっても、「誰?」というゲームファンも多いと思います。まずは“波多さんって何者?”というところから始めましょうか。
波多氏:ナムコに10年、カプコンに10年、稲船(敬二氏、元カプコン開発統括)さんのcomceptに6年ほどいました。ナムコ時代はアーケードゲームを開発したり、テーマアミューズメントや新規業態の企画開発にも励んでいました。アーケードだと、主に体感ゲームを開発していました。僕が開発チームと一緒に作った卓球ゲームは今も人気のゲームのようでシリーズ3まで開発されているようです。
カプコンに入ったときにPCの部隊に入りました。中村さんとはそのときからのお付き合いですよね。当時、東京の田園調布と自由が丘にあったカプコンの第6開発部では主に北米の人気PCゲーム、オンラインゲームのローカライズ、カルチャライズを行っていました。岡本(吉起氏、元カプコン専務取締役)さんがカプコンを辞められた後、稲船さんが開発統括になって、カプコンの体制がガラッと変わりました。東京開発の人たちの多くは岡本さんが起業された会社に移りましたが、僕は相変わらずPCゲームの開発にたずさわっていました。
PCゲームの開発と並行して、オンラインゲームのイベントなども企画しました。確か、その頃ですね。中村さんと知り合ったのは。記事にしていただいたこともありました。今では、eスポーツが全盛なので、オンラインゲームのイベントは日常的に行われていますが、当時は画期的でした。
そこでやっていたのが、北米の有名PCゲーム、オンラインゲームのローカライズですが、ローカライズだけで済まないんですよ。結局カルチャライズしないといけなくて、ソースの中身を全部見ないといけないんですよ。今と違って通信が遅かったので、FTPにデータあげると、 夜通し待って朝の4時くらいにやっと、ビルドがダウンロードできるような時代だったんで、泊まり込みでローカライズ作業をしてました。
そこで学べたのは、最先端のPCゲームのフレームワークのロジックとかですね。「ああ、こういう風にしてフレーム切ってるんだ」とか。ここの仕様はこういう風にタスク切ってやってるんだ、なるほどだからここに干渉してるんだ」みたいな。特にオンライン系の部分ですよね、サーバーのエンジニアリングの部分とクライアントの部分。その知識はかなり学ぶことができました。
コンシューマーゲームをPC化するときは大変でした。もとのソースをいただいても言語も違うし、C++に変換することがスムーズにできないんですよ。プレイステーションの開発ツールからはじき出してきた仕組みなんで、それをC++の言語に、PC用に変換する作業の中で、フレームワークが全然違うんですよ。UnityをHTMLファイルにコンバートするというレベルの話じゃなくて、もう発狂寸前なんですよ(笑)。
それなので、ひとつひとつソースを解析して丁寧に自分たちでC++で組み上げていこうって言ったのがPCゲームを作っていった経緯なんです。
――それ簡単に言ってますけど、自分たちでPC版を一から組み上げるって凄いことですよね(笑)。
波多氏:あの時は大変でしたよ。ただ、そういう修羅場をくぐらせていただいたので、まあ、ある程度ゲームの成り立ちとか構成っていうのは良く理解できる良い勉強になりました。
その中で「ダレットワールド」を作ろうとか、「モンスターハンターフロンティア」を作ろうとか「ストリートファイター」のカジュアルゲームを作ろうとか、ダレットプロジェクトの中でガリガリとやらせていただきました。
ただ、残念ながらダレットプロジェクトは様々な理由で中止することになりまして、それでカプコンに戻って、その時にガラケーのゲームが流行ったり、ブラウザゲームが流行ったり、牧場系のゲームが流行った時期に、そういうプロジェクトを立ち上げようと言っていたら、稲船さんがカプコンを退職されるという話になり、彼が起業した、comceptについていったという感じですね。
――そのcomceptでは何をされてたんですか?
波多氏:肩書き的には、取締役でしたので、いろいろなことをしていました。経営的なことにも首を突っ込んだりしていました。あとはいろいろの数値管理。 SとかDとかGとかの頭文字のゲーム会社やソーシャルゲーム会社に企画のプレゼンをして、スマートフォンゲームのプロジェクトに入らせてもらって、ああでもないこうでもないと言うこともやってました。そこでネイティブゲームの知見を得ることができたのも貴重な経験でした。
――そういう意味では、表方として自らプロデュースを担当するのは久々ですか?
波多氏:カプコンでPCゲームのプロデューサーをやっていた以来ですね。comceptの時も、色んなタイトルに関わっていましたけど、でもプロデューサーは全部稲船さんがやっていたので、そういうことになりますね。
――というわけで波多さんのプロデュース作品である「マップラス+カノジョ」とはどのようなゲームなのか紹介していただいてもいいですか?
波多氏:読み方は、「マップラスプラスカノジョ」と言うタイトルです。「マップラス」自体は、エディアのブランドとして古くからあります。「マップラス」とは何かというと、位置情報システムをベースにナビゲーションサービスに有名IPや声優を乗せて楽しんでもらうものです。今のエディアの人気のアプリです。
要は位置情報的な機能であるとか、AI的な機能も含めたりして、最先端の技術を使って“くだらないもの”を作るという思想が、僕が管掌してるライフエンターテインメントサービス事業部門自体にあります。その中で、せっかくだから声優を使って位置情報、ナビゲーションやった流れを踏襲して、“ヴァーチャルカノジョ”みたいなゲームを作ったらもっと面白いんじゃないかというのが、そもそもの発想です。僕がエディアにジョインする前から、その潮流というのは脈々と企画段階からあって、積み重ねられてきたのが「マップラス+カノジョ」です。僕が去年の9月にジョインしたときにはすでに、「マップラス+カノジョ」の原型となるものはあったんです。
――ということは「マップラス+カノジョ」は、波多さんのアイデアじゃないんですか?
波多氏:違います。もともと2017年の12月にローンチする予定だったんですよ。僕はその数か月前にジョインして、11月の前半ぐらいに社長の方から、「このプロジェクトも見てくれ」という話になったときに、見てみたら、12月にローンチするのはもったいないなと思ったんです。
もったいないというのは、もっともっと面白く作り上げていくことができるということです。ですので、12月ローンチからの延期を延ばさせていただいたというのが「マップラス+カノジョ」の第2期の始まりだと思っています。そこから、企画案とか世界観とかを全部練り直してきた感じですね。
――波多さんが延期を決めた当時の「マップラス+カノジョ」とはどのようなゲームだったんですか?
波多氏:普通のネイティブゲームによくある、継続率の問題、高ARPPを取ると言う思想に課題が残っているという感じはありました。ただ、気軽に楽しんでもらいたいという元からのコンセプトも大切だな、という部分もありました。
堀口さん(アニメーター堀口悠紀子氏)に描いてもらったイラストが世に出るようになって、世間の期待値が大きくなってきた中で、プレーヤーに楽しんでいただきながらゲームサイクルが回るのだろうか、すぐ飽きられちゃうんじゃないかということがありました。「マップラス+カノジョ」のためにエディアの株を買ってくれた株主の方たちもいて、皆さんに失望させたくないっていう思いもありました。
せっかく作るんだったらしっかりした状態で世に出して、「これ面白いね!」って思われるようなものにした方がいい。僕が介入することでさらにもっと良くなるかもしれないなって言うのは肌で感じたので、アドオンでもうちょっと面白いことをしていこうよっていう発想で発売を延期させていただきました。
――それでどこから手を着けていったんでしょうか?
波多氏:まずは、世界観ですね。このゲーム、この「マップラス+カノジョ」の1番のおもしろみって、僕は世界観だと思ってるんです。まず、僕らが今まで作ってきたゲーム、クリエイターが作ってきたゲームというのは、基本的にどんなゲームでもマップというか箱庭がなくてはいけないんですよ。なければ成り立たないんです。仮想の箱庭とか、マップとか背景があって初めて成り立つんですよ。なので極端な話、リッチなゲームに作ろうと思えば思うほど、そこの部分を豪華に作らなければいけなくて、リソースも使うし、コストもかかる。しかし、今回マップはリアルワールドなんですよ。
――位置情報を使ったゲームですから、それはそうですよね。
波多氏:何か特別なファンタジーの世界観に基づいた箱庭を作る必要がないんですよ。これは言ってしまえば、今までのゲームの作り方を根本的に、考え方を変えるものだと思っているんです。無意識的にみんな感じてたんですよ。「位置情報ゲームっていいよね」って。でも、ずっとゲームを作ってきた僕からしてみると、マップがない、箱庭がない、「それはどうなの?」って思うわけですよ。
しかし、僕はそのことはデメリットになるかもしれないですけど、むしろ逆にそれは「新しいゲームの可能性を持つものになるな」っていう風に思ったわけです。今まで、箱庭を作らなくてはいけない、マップの中でキャラクターを動かさなくてはいけないというのは、ある意味束縛だったわけですよ、ある意味制限が全くなくなったというのは、いい意味で解釈すると、これはまた違う遊びができるかもしれないなというのがあったんですね。
ただ、あくまでもリアルワールドを使っている以上はリアリティがないといけないと思っていて、“現代に戦国武将がタイムトリップしてきました”っていうのは、あまりリアリティがないんですよ。もっとリアリティのあるものの日常の延長として感じてもらえる世界観の方がいいなって思った時に、やっぱり“カノジョ”っていいなと思ったんです。
戦国武将とかヒーローモノ以上に、カノジョっていうのは普遍的なIPですよね。人間に男と女しかいないのであれば、カノジョというIPを使えば人間の半分は対象になるわけですよ。中には女性でもカノジョにシンパシーを持つ人がいるかもしれない。リアルワールドのマップを使って、IPカノジョで作るゲームだと思った瞬間にものすごく世界が広がって見えたんですよ。
「ダレットワールド」で「セカンドライフ」みたいなゲームを作ったじゃないですか。あの時も確かに感じたのですが、あれは結局箱庭を延々と作り続けないといけないというある意味制約がありました。自由に作れます、オープンワールドで作れます、色々なことがそこで繰り広げられます、プレーヤー間でコミュニケーションが繰り広げられますという中で、無限の可能性があるように見えた「セカンドライフ」のようなバーチャルワールドは、実は作り続けないといけないという制約がある。それはゲームを作る側にとってはすごく負担だし重荷だし、ストレスなんですよ。
でも、「マップラス+カノジョ」はそういうことがないんです。日本中、もっといえば世界中をフィールドにできるゲームになるんです。しかもカノジョという普遍的な対象物を使って。そこからいろんなアイデアが生まれてきましたね。そういう意味では、初期の「マップラス+カノジョ」からは今回のものはある意味ずいぶん飛躍した考え方のものになりました。
それでは、僕の隣でずっと退屈そうにしている千葉さんにそろそろ登場していただきましょう(笑)。「マップラス+カノジョ」は、講談社さんとの共同プロジェクトで、「マップラス+カノジョ」にはエディアの位置情報ゲームの知見に加えて、講談社のこれまで様々な物語を作ってきた経験値が投入されます。
――エディアと講談社がタッグを組むというのが「マップラス+カノジョ」のおもしろいところですが、これはどちらから声を掛けたんですか?
講談社 千葉素久氏: 我々からですね。今、本を読む人がどんどん減っている中で、出版社としても様々なエンターテイメントの届け方が必要になってきています。それはアニメでもゲームでもいいと思っています。でも出版社にはゲーム化のノウハウがほとんどありませんでした。
そんな中で昨今、ストーリーを開放していくという面白さのあるゲームが世の中にどんどん出てきて、これなら関わる余地があるかもしれない……と思いました。それで、一緒に組んでいただける相手を色々探してはいたんです。そのときに会社同士のお付き合いの中で、エディアさんと出会いました。その時、エディアさんも出版社のようにIPをいっぱい持っている企業を探していて、お互いに話があったという経緯があります。昨年の10月くらいだったと思いますが、色々話をしていく中で波多さんから、この男性向けのゲームアプリ「マップラス+カノジョ」という企画について伺いました。僕は男性向けの漫画編集者としての経歴が長かったので、波多さんはいろいろと話してくれたんだと思います。
――千葉さんは漫画家と膨大な数のコネクションがあるんですね。
千葉氏:膨大ではないですが、長年にわたり多くの漫画家さんとはお付き合いさせて頂きました。青年漫画や少年漫画の文化の中には長い期間いたと思います。このイラストを描かれた堀口先生は「けいおん」で青少年から絶大な支持を受け続けている本当にすごい作家だと思います。その方のイラストで、エディアさんが強みの位置情報使ってゲームにしようとしているという話には、とても興味を持ちました。
――4月の発表では「共同開発」という形でしたけど、それぞれの役割分担はどうなっているんですか?
波多氏:本質的には千葉さんは講談社側のフロントに立ってもらって、講談社としてのいろんな経験値や千葉さんの経験を加味して、世界観の構築に協力して頂く。それが1番デカいと思います。
――では、「マップラス+カノジョ」に、講談社の何か具体的なIPが入ってくるという話ではないんですか?
千葉氏:そういうことができたら面白いとは思います。今回の共同企画は、エディアさんが作家さんだとすると、我々が編集者という立場に近い気がします。エディアさんがもともとこういう風に作っていた。でも編集者という観点から見ると、こうしたほうがいいんじゃないですかということを提案しながら、一緒に話し合いながら作っていく。こちらとしてはそういう感覚はあります。
――「マップラス+カノジョ」は、リアル世界にストーリーを埋め込んでいくわけですが、1番大事な世界観の構築というのはどなたがやられるんですか?
千葉氏:ゲームの出だしや全体の世界観に関しては、こちらから提案をしました。
――千葉さんのほうでディテールまで設定されたのですか? それとも細かいところはライターを立ててやっているわけですか?
波多氏:もちろん、細かい部分はライターを立ててこちらでやっています。千葉さんにはさらにこうすると良い、的なアドバイス部分をお願いしました。
――なるほど。千葉さんは「これなら少年少女にウケるよ」という大枠の枠組みを波多さんに伝えたわけですね。
千葉氏:何がウケるかなんてわかりませんが、例えば堀口先生のイラストが好きな方が共感していただける設定を心がけようとか、ファンタジーの要素が多くなると何でもアリになってしまうので、そこは限定してください……とかそういう話はしました。
波多氏:「マップラス+カノジョ」って位置情報ゲームというくくりでくくってしまうと確かに位置情報ゲームなんですが、今までの位置情報ゲームとは本質的に違うんですよ。確かに位置情報は使うけれど、使ったうえで何ができるゲームなのかというところが、このゲームの1番のキモなんです。
既存の位置情報ゲームの場合は、キャラクターを強くしていくというシンプルなものがありますよね。有名なIPものだったらコレクションして楽しむというものもあります。「マップラス+カノジョ」では、“カノジョ”をリアルワールドのなかで体験をしてもらうゲームなんです。例えばそこで仲良くなったカノジョがいた時に、そのカノジョとの関係をどう成長させるかというのは、プレーヤーにとっては継続の理由になるわけです。
逆に言うとそういう風にしていかなくてはいけないんですね。ゲームを作る僕らからしてみたら、このゲームには箱庭はないですけれど、1つのゲーム世界観がこうやって作ったときに、この世界を鳥瞰してみる神目線で観なければいけないんです。1人のプレーヤーはそのカノジョに本当に恋愛をしてしまうかもしれない。さらにそのカノジョがどんどん成長していったときに、そのカノジョと本当に交際をしたいと思うかもしれないし、最終的には結婚したいと思うかもしれない。俗にいう“バーチャル婚”みたいな。
そういうところまで考えた時に、世界観をそうやって拡大したときに、やはりそこにはコミックやアニメの領域でキャラクターを作り育ててきた講談社さんのノウハウであるとか、知見とか、少年漫画においてキャラクターをこういう風に成長させていったんだというところを、僕としてはアドバイスが欲しくて仕方がないわけです。
――なるほど。では波多さんが9月にジョインした時点で存在していたのは、堀口さんのイラスト以外に、何が作られていたのですか?
波多氏:位置情報でタップして場所を占拠していくみたいな。カノジョとのシナリオもありましたが、基本のゲーム思想は場所を制覇・占拠するという考えのゲームで進んでいました。
――占拠ですか、初期案は「Ingress」みたいなゲームだったわけですね。
波多氏:それに近いですね。一定の場所を区切って、そこにカノジョを付けて、カノジョに占拠させる時間が長いとその分カノジョからのシナリオが来ると。僕はそれだともったいないと思ったんです。このゲームはもっとプレーヤーに感情移入させられて、極端な話、プレーヤーが、存在しないかもしれないカノジョに対して恋をするくらいの世界観として落とし込まないと、たぶんこのゲームの価値を無限大にできないと思ったんです。
例えば、他社で展開されていたコンシューマー系の恋愛ゲームのファンの付き方がそうですよね。そういったゲームを僕は好きで結構やっているんですが、あそこについているファンってたぶんアクションゲームをやるファンや陣地争奪戦をやるファンとは全く層が違うと思うんですよ。
――そうでしょうね。「ラブプラス」は純粋な恋愛シミュレーションゲームですものね。「ときめきメモリアル」の延長線上ですね。
波多氏:そうです。そこの人達の抱いた期待感はここにもある程度はいれないといけないんだけれど、あそこはあくまでも箱庭の世界観なんですよ。作られた世界。でもここはリアルワールドを使って、歩き回ったりする世界なので。
――「ラブプラス」もAR的な機能がありましたよね。熱海に行って写真を撮って、ヒロインのとっておきの写真が撮れたり、これってまさに今で言うARゲーム的な遊び方ですよね。そこはインスパイアされているんですか?
波多氏:しています。もっと成長過程を見せたいですね。例えばカノジョとずっと過ごした結果、俺にとってカノジョはなんだったという。これは千葉さんともよく議論するんですが、例えば、講談社さんのものではありませんが、「人気漫画のタッチ」。読み手が、漫画の主人公のパーソナリティと真逆の性格の悪いいけ好かない男だとしても、読み終わった瞬間にみんな達也になれちゃうんですよ。あれはある種あの漫画の催眠術がなせる業です。あのエバーグリーンの世界観の中で、ぜんぜん達也と違う人間ですらも読み終わったときに自分が達也になったような感慨、共感を僕らも、このゲームを通してプレーヤーの方に持っていただけたらと思います。
――「めぞん一刻」で、誰もが音無響子さんが好きになるような感じですね。
波多氏:あの感覚って僕はすごく大事で、だから絶対、この「マップラス+カノジョ」の中では、まあ若干変わった形になるかもしれないけれど、あれを体感してもらいたいし、体現してもらいたいというのがあって、そういう意味では講談社や千葉さんの知見は絶対に必要だなと。
千葉氏:能力のある漫画家は、読者を主人公に共感させる力がありますが、この「マップラス+カノジョ」は、当たり前ですけど自分が主人公としてプレイするわけで、それが漫画編集経験者にとっては新しい経験ですね。要はユーザーは誰かが作家が主人公に思いを寄せるではなく、自分自身がキャラクターになる。それが漫画にはできないゲームのすごさだと思うんです。プレーヤーが好むその素晴らしい世界に一人称として入り込むことができれば、漫画とは別の面白い体験ができるだろうなと思ったんです。だからこそあえて青少年漫画を意識して、波多さんやシナリオライターの方と話をしました。
基本的なゲームデザインについて
――「マップラス+カノジョ」の魅力が少しずつわかってきましたが、ゲームの基本的なシステムはどうなっているんですか?
波多氏:ゲームの基本的なシステムは「シナリオ解放」です。そのシナリオを解放させる中で、今言ったようにキャラクターと一緒にプレーヤーが成長していくみたいなところを、いかに盛り込めるかというところですね。例えば最近の女子向けゲームで、男の子同士の人間模様を見て萌え萌えするだけではなくて、そこに、昭和的な言い方でいえば、ちょっとした希望のような共感できるものを作らなくちゃいけない。そもそも12月からローンチを伸ばしたときに、最初に考えたのはプレーヤーの気持ちの到達点はシンプルにした方がいいということなんです。
――複雑すぎたということですか?
波多氏:分かりやすく、と言っても良いです。このゲームのストーリーは、眠り姫のお話をベースにしていて、眠りつづけている女の子を、プレーヤーの手で夢の世界から現実の世界に連れ戻して来て、現実の世界で一緒に夢を見つける、というものです。眠ってしまう女の子は、みな繊細で優しくて、現代のインターネットによって流通拡散される情報の氾濫にオーバーフローして眠っちゃうのです。
「なんで?」と言ったときに、これは千葉さんにもよく話すんですけど、17、8の女の子ってそれまでって圧倒的に親の影響が強いんですよ。高校まではスマホは持たせないという親もいる中で、生活のすべては親と家庭、近所の友達レベルなんですね。それがPCにアクセスする瞬間に、いろんな世界を知るわけですよ。そこはエグいものも見てしまうだろうし、その中でそういうものだと悟る人もいれば、そういうのが耐えられない人もいる。耐えられない人は、「もうこんな状況いらない!」とか。ある意味純粋で、本当はそこで人間形成がされていくと思うんですが、その前段階で若干拒否してしまうような、そういう繊細な女の子がパタッと倒れちゃうところから始まるわけですよ。
千葉氏:つまり世界観の中で、何がファンタジーかというと、情報が整理しきれなくなって眠ってしまう病気が発生したということです。今って情報の洪水にみんな大変な思いをしていると思うんですね。僕もそうです。おそらくスマホを持ちながら毎日会社に通っている人もそうだと思うんですよね。特に子供から大人になるときに情報が一気に入ってくるじゃないですか。そんなときに、波多さんがいう“優しい女の子”が、あまりの情報の洪水に脳が整理しきれなくなってショートしてしまって眠ってしまう。眠ってしまうというアイデアは波多さんからいただいたんですが、とにかく眠ってしまう病気が発生したと。
波多さんからはカノジョというIPを使うと聞いていて、ではカノジョって何だろうと思ったときに、人は運命を感じたことはあるけど今は会っていない人って絶対にいると思うんです。あの時、運命を感じたけど今どうしているんだろうと。例えば幼馴染。あとは電車の中で毎日一緒で、向こうも確実にこっちを知っている。いつも意識していた。ちょっと接触もあったあの人。子供の頃、親の関係でよくあって、お互いを意識した存在だった。その人ととある成長過程で高校とかですごく密接に関わった。なんか縁がある人その人ってそんなにたくさんいないと思うんですね。数人ですよね。そういう人たちが、謎の奇病で眠ってしまったところを助けてあげてる……初期的にはそういう感じでしょうか。
――運命を感じたカノジョが眠ってしまう、そこがゲームの起点なんですね。
波多氏:ゲームクリエイターからすると感情移入させるための古典的な手法なんですよ。「スペースインベーダー」も初期の「バイオハザード」もそうです。すべて極限的な状態なところから始まるじゃないですか。
――「スペースインベーダー」ってどういうところから始まるんでしたっけ?
波多氏:だって、ゲーム始まった瞬間インベーダーが攻めてくるんですよ。もう逃げられないんですよ。
――ああ(笑)。そういうことですね。攻められてるんですよね。悠長な攻め方だからそういう感じがしないですが(笑)。
波多氏:悠長な攻め方だけど、逃げることはできないじゃないですか。出口があるわけでもないから戦わなければいけない。あのロジックって「バイオハザード」もまったく同じなんですよね。ドットが3Dになっただけで。初期の「バイオハザード」もいきなりゾンビが襲ってきて、逃げられないんですよ。だから撃ってやっつけないといけない。
これってゲームの世界観を作ったり、感情移入させるうえではある意味王道だし、ゲームとは関係ない、現実の世界でも極限的な危機に陥った時のほうが、人間の感情は集中するし、感情移入が促進すると思います。その中で、吊り橋効果というのも大きく影響します。そこでかかわる人間って終生の友になったり、結婚してしまう確率が高かったり、例えば遭難してビバークしているときに生まれた関係ってずっと続くから、もの凄く深い絆が生まれたりするのと同じですね。このゲームでも同様に、世界観を一気に分からせるためには、こういった手法は必要ですね。
――整理すると、「マップラス+カノジョ」は、運命の人に出会って、その出会った女の子が、突然眠って眠り姫になってしまう。主人公はリアルワールドを駆使して、まずは眠ってしまって夢の中にいる運命の女の子を起こす、そして起きたあとに、今度は、現実の世界で一緒に夢を見ていくゲーム、という理解で合ってますか?
波多氏:合ってます。プレーヤーは、眠っている女の子の夢の中に入るんです。女の子にとっては自分の中の懐を見せる感覚とちょっと近いというか、そういうような世界観を作らないと行けないんですが、結局そこで共有体験があるわけです。
――夢の中に入るんですか。でもその人はずっと寝ているわけですよね。
波多氏:起こすんです。夢の中に入って起こすのがミッションなんです。夢の中でカノジョといろいろな話をして、現実の世界に戻ってこなくちゃって。
――なるほど、ゲームの多くは夢の中の物語なんですか?
波多氏:違います。それはあくまでもプロローグです。夢の中に入るためには、“カケラ”というものが必要で、それは位置情報を使って集める必要があります。
千葉氏:カノジョが眠ってしまう。それを夢の中に入ってカノジョを起こす。そこがファンタジーの要素です。
――夢の中ではカノジョが起きていて、カノジョとコミュニケーションするためにリアルワールドを闊歩すると。
波多氏:初期が夢の中ですね。夢から醒めて、ただ、また眠っちゃうかもしれないので、若干リハビリが必要なんです。それはカノジョと会話しなくちゃいけない。いろんな話をして、もう眠らないようにしていかなくちゃいけない。要は傾聴、受容、共感をしていかなくちゃいけないんです。カノジョの心に寄り添って、現実でもこんなに楽しいことがあるよと。カノジョの進路であるとか、カノジョが将来やりたいこととか、カノジョが思っていることとかで、カノジョの将来的な方向性を決めていくフェーズがここにあるわけです。そこも何回もカノジョとの会話とシナリオが開放されて、主人公としたらカノジョはこういう風に思ってるんだということが分かってくる。
――ほー、なんだか思っていたよりも複雑なゲームですね。
波多氏:複雑でもなんでもないですよ。
千葉氏:カノジョとの付き合いって、こちらが何を与えられる、カノジョから何を与えてもらえる、それで一緒にいたいとなりますよね。それをこのゲームでできたらそれは素晴らしいだろうなと思いますね。
波多氏:最終的にそのカノジョが何か現実の夢を見つけたとしましょう。例えば歌手になるとか、小説家になるとか。というところでまた講談社さんが出てきます。実際そのキャラクターで小説を書くこともできるわけです。実際そのキャラクターでCDを出すこともできるわけです。
――それはゲーム内のイベントではなくて、本当にリアルなものをリリースするということですか?
波多氏:そうです。
千葉氏:そういう風にやれたらいいねと言う話をしているところです。
――ゲームをスタートさせたらまずは寝た子を起こす。
波多氏:そうです。まずはカノジョを眠りから覚ますことがミッションですね。
――起こした後は、リアルワールドでなデートを楽しめる?
波多氏:そうです。ただ、カノジョが起きた後、一緒に色々楽しむんですが、そこはどちらかと言うと恋愛感情に近いんだけど、まだ恋愛感情として熟成はしていない期間かもしれないですね。
いろんなやり取りをやるわけですよ。カノジョってどういう人間だったんだろうと。幼馴染だといっても、今のカノジョは何を考えているんだろうとか。カノジョはどういうことを今1番大事に思っているんだろうみたいなことは、そのシナリオフェーズでちゃんと共有していかないといけない。
講談社さんの前で他社コンテンツで恐縮ですが、漫画の「タッチ」を参考にすると、甲子園に行く前に南と達也がお互いの気持ちを感じるシーンが最後にあるわけじゃないですか。でもその前には、双子の弟である和也が亡くなっちゃったりする中で、お互いの気持ちって幼馴染なので、たっちゃんは心の優しい男の子だ。南はすごくいい子だというのは分かっているけど、それって赤裸々に言わないです。いろんなイベントがあって、どんどんその感情が熟成されていくわけです。
あれは最終的に達也と南がある意味、ものすごくハッピーエンドじゃないかもしれないけれど、日常の生活の中で2人が寄りそうというのがゴールで、そこまでの長いプロセスを淡々と描き続けている物語だと思います。女の子が人生の夢を見つけるためのプロセス。その夢を見つける過程で主人公がパートナーでいてくれないといけないと思う感覚って、どうしても必要なんです。そこまでのプロセスをちゃんとシナリオで展開して、プレーヤーに感情移入してもらわないといけないかなと。
――聞いてるだけでワクワクしますね。そういった週刊少年マガジン的なストーリーがずっと展開されるわけですか?
千葉氏:そうしたいと思っています。要はこの中に、いろんな女の子の人生があるわけですよね。どの子と寄り添うかはプレーヤーが決めることです。非常におとなしくて、どうしていいか分からない子もいるけれど、おそらくは自分の道を突き進んでいくだろうという子もいる。その子に対して自分が何をしてあげられるだろう。例えばミュージシャンを目指す子がいるとしたら、その子からどういう情報がもらえるだろう。
――主人公とのコミュニケーションの内容によってカノジョの嗜好は変わっていくんですか?
波多氏:メインシナリオ自体はもう決まっています。ただ、デートシナリオみたいなミッションがあるんですが、その中で色々変わりますね。カノジョにどういうアクションを取ったかによって、カノジョとの関係に変化があるようにしていきたいですね。
――例えば「ときメモ」の藤崎詩織みたいな正統派の美少女っていますよね。そういうカノジョを武闘家に育てることはできないということですか?
波多氏:それはできないです。パーソナリティはあらかじめ決まっている、そもそも主人公というのは眠り病を直そうとして悪戦苦闘している天才科学者の響(ひびき)という女医の従弟という設定です。響から「ちょっとあんた暇してるならあたしの助手をやって。実は今私はこういう研究をしてて、観てよこれ」って眠っている女の子がいっぱいいるわけですよ。「あんたは私が研究したカケラというツールを使って、夢の中に入ってカノジョを起こさせてくれない?」という形で始まります。
――女の子って何人いるんですか?
波多氏:今のところ12人で、サブキャラ含めると40人弱くらいいますね。
――すべてフルボイスですか?
波多氏:フルボイスで考えたいんですが、そこはまだ最終決定ではありません。
――フルボイスにはこだわっていない感じですね。
波多氏:最終的にはテキストのクオリティの方が大事だと思うので。だからボイスが入るところと、テキストだけのところがもしかしたら出てくるかもしれません。やっぱ気になるなここはちょっとこれではな、というところは差し替えるかもしれない。そんなに急にボイスは録れませんというところはテキストになるかも。でもそれでもいいと思ってます。その話の方が大事かなと。話から生まれる空気感が大事かなと。
――恋愛シミュレーションゲームは伝統的に、最終的には総当たりしますよね。たとえば、「ときメモ」を遊んだ人は、だいたい全員推しの子を変えながら全員のキャラクターと仲良くなったと思うんです。そういう遊び方は可能なんですか?
千葉氏:そこのリアリティは大事だと思っているんです。1人の人とずっと添い遂げたい人もいるじゃないですか。そういう人にはそういう遊び方ができるようにしたいと思うんですね。だけど、どうしてももう1人、2人いっちゃう人。そういう人はそうすればいいと思うんです。2人に対して、あるいは3人に対して深くいくこともある。ただ、そうなると、ある時点で「いい加減やっていくのがつらい……」というようなゲームになったらいいと思うんです。「他の人が気になるけど、大事な人がいる……」というゲームは楽しい気がします。
――例えば「ラブプラス」で言えば、3人と同レベルで仲良くなることはできませんよね。1人と仲良くなると、もう1人がその現場に居合わせて拗ねたり、怒ったりと、必ず誰かが上がると誰かが下がるという、自分にとってだけ都合の良い世界にはなかなかなってくれない、その辺がリアリティがあってよくできてたなと思っています。だから熱心なファンは、3パッケージ買って3つの世界を別々に持っていたわけですよね。このゲームでは、キャラクター間で恋愛パラメータの上げ下げの相互干渉はあるんですか?
波多氏:上げ下げはありません。分かりやすく言うとプラスとマイナス理論と、当たりと外れ理論ってあるじゃないですか。僕はネイティブゲームの中で、当たりと外れ理論をするのは逆におかしいなと思っていて、だからこのゲームでは「基本全部当たり」です。さらに「大当たりもあります」というパターンです。だから基本全員と付き合えます。でももっと深く付き合いたかったら、深く付き合いための色々なシナリオとか、深く付き合ったことのメリットを用意しようと思っています。
コンシューマゲームの場合は、パッケージで買うので上げ下げでいいと思うんですよ。もっと言うと、コンシューマゲームの場合は勝ち負けでいいと思うんです。ただここはいやらしい考えですが、ネイティブゲームの場合は負けとかダメという烙印を推した場合離脱の要因になってしまうので、基本的には全部付き合えますよと。いろんな女の子と付き合っていけばいいけど、大変ですよと。いろんなミッションがそれぞれの女の子から飛んでくるから、「ねえねえ、今日ファミマにいってファミチキ買ってきて」みたいなミッションが飛んできて、こちらからは吉牛いきたいんだけどと言ってきて、もう大変なんですよ。でもそれでもこなす人はいるかもしれない。そのミッションをこなすために位置情報を使って色々なものを拾い集めてということをやっていく人もいるかもしれない。あとはゲームのバランスの問題だと思います。
千葉氏:僕自身は誰かを好きになると誰かが拗ねるというのは、そんなにリアルじゃないと思いますね。突然興味を持たれなくなるか、逆にもっと強い興味を持たれる方がリアルな気がします。
波多氏:やっぱり関わっておいた方がよかったなと思わせる何かは付けないといけないですね。ただそれが、もう会えなくなるとか、もうバイバイみたいにはしたくないです。
基本的なゲーム展開について。歩かなくていい「仮想チェックイン」とは?
――夢の中のフェーズについて、もう少し掘り下げて頂いてもいいですか?
波多氏:響から言われて、女の子の夢の中に入ります。その子が小説が好きだったり、音楽が好きだったり、プラモデルが好きだったりと、それぞれの女の子に属性があるわけです。それはこちら側が設定するんですが、その属性に対してそれに夢中になっている女の子の夢です。
――それはカノジョ本人になってフラッシュバックするようなイメージなんですか?
波多氏:カノジョの夢の中に主人公が乱入して、カノジョと会うんです。主人公はそれに対して、「これは夢だよ」と言わなくちゃいけないんです。だから夢から覚醒させる1番クライマックスのシーンは「これはあくまで夢なんだ。現実に行こう、一緒に」と言うところです。
――なるほど。そういう夢の中のストーリーに、1人のキャラクターに何十もあって、遊び手によって違ってくるわけですか? それとも夢は1つであっさり終わるんですか?
波多氏:あっさり終わりたいなと思っています。初期キャラはちゃんと夢パートを付けるけれど、それ以降のサブキャラは逆に夢以外のところから始まって、後で夢のシナリオをもう一回見るみたいな仕様でもいいかなと。全員夢から始まったら、それはそれでプレーヤーとしたら面倒というか、ヘイトが出てしまうなと。
主人公は幼馴染であったり、過去に電車であっていたりという設定をされているけれど、プレーヤーにはそれはないわけじゃないですか。その過去の関係の情報を共有していかないといけない。そういうフェーズ。私たちは過去でこういう風に出会ってましたよね。幼馴染でしたよねというのを、そういう共感をまずはプレーヤーにしてもらわないといけないので。カノジョの夢の中から入り、我々の関係は実は幼馴染だったんだというのを把握して進んでいく。その初期段階が夢だと思います。
――そういうシーンってすごく大事ですよね。そのカノジョを我々が気に入るかどうかのファーストコンタクトとなるシーンですが、そのワンシーンというのは、どのくらいのボリュームなんですか?
波多氏:今考えているのは、だいたいシナリオ一話分ですね。ではシナリオ一話はどのくらいの分量なのかというと、基本的には50タップ程度を考えています。
――リアルな時間軸だと、夢から醒めるまでにどのくらいかかるものなんですか? プレイをして。10時間とか20時間とかかかるものなんですか? それともチュートリアル敵に5分10分で到達できてしまうものなのですか?
千葉氏:ごめんなさい。そこはちょっと調整中ですね。
波多氏:どういうのがいいのかということを今試行錯誤していて、今朝もそれでもめたんですが(笑)。
――「ラブプラス」でいえば、3人と交流しながら、この子がいいかな、やっぱりこっちがいいかなという前半戦があって、1人の推しを決めてからはその子とデートを繰り返すという完全に2部制じゃないですか。いわば夢の部分ってその1部の部分ですよね。
波多氏:まず最初は1人の女の子から始まりますけど、その1人の女の子のカケラを集めてシナリオを解放していくフェーズがあります。そしてゲームのシステムの話になりますが、遊び方としたらすごくシンプルなんです。今はまだちゃんと描かれてないけど、マップ画面があります。
――はい、リアルなマップなんですね。
波多氏:若干デフォルメされたリアルマップです。そのマップの中に円が書かれていて、この中にいろいろ対象となるオブジェクトが載ります。それをプレーヤーが一筆書きをするようにタップ&スワイプして、この対象とされているオブジェクトをなぞった瞬間にミッション達成なんですよ。そして、カケラとコインを獲得できる。
――そういうミッションなんですね。AとBとCを通ってくださいという。
波多氏:通るのではなくその場所にチェックインして、なぞるだけです。
――実際にそこまで行かないといけないんですよね?
波多氏:行かなくてもいいんです。仮想チェックインできます。
――マップのスケールはどのくらいなんですか?
波多氏:現在最終調整中です。基本は中村さんと一緒にゲームをやったとしますよね。立ち上げてみたら、この神保町周辺に円がでるわけです。有名なキャラクターを模した位置情報ゲームならここにコンビニが合って、ここがコインがもらえるポイントだったらここまで行かなくちゃいけないですが、このゲームは行かなくてもいいんです。仮想チェックインで行ったことになるんです。これがこのゲームの大きな特徴になります。
――リアルで歩きまくる必要はないんですね。
千葉氏:今見えているマップ内なら仮想チェックインできるという話で、もっとたくさんアイテムが欲しいなら常に移動してマップを切り替えていきます。ただ、僕もゲーム開発の素人なりに波多さんにお願いしたのは、人は毎日忙しいと思うんです。ゲームを遊ぶ人だって。でも、毎日外出してどこかにいってどこかから帰ってくるんだと思うんです。だから移動さえすれば、わざわざ歩かなくても基本的なことはできるようにして欲しいと言うことです。
もちろんどこかに行くイベントがあってもいいと思うんです。毎日の生活では単調な生活をする人って僕を含めて多いと思うんです。そういう人が楽しめるように開発しています。
――こうしたアクティビティは、リアルの情報に則ったものなんですか? それとも勝手に設定したものですか?
波多氏:リアルなものもありますし、こちらが設定したアクティビティもあります。
――同じ場所なら誰が遊んでも見えている情報は同じですか?
波多氏:基本、同じです。
――ではそのシステムを使えば、世界中どこにいったってこのゲームができるということですね。
波多氏:理屈的にはできます。緯度経度を計算してそこにコンビニがあるというところに、コンビニのオブジェクトを発生させるということです。ただ、実際は世界中と言うのは、いろいろな面で今は現実的ではありません。世界中とした場合のサーバの負荷がどのくらいなのか、そんなことも一から検証していかないといけないし、各国のマップを使う際の様々な制約と、それを使用することのコストも考えないといけないので。
――それ以外にオブジェクトを自動発生させることもありますか?
波多氏:あります。「足場」と僕らは言ってますが、自分たちで設定した足場を作る。それはなぜかというと、地方の人で自分の家の周りにコンビニがない人にも遊んでもらうためです。
――地方では「ポケモンGO」や「Ingress」がかなり遊びにくくなりますものね。ではこのゲームではアクティビティの密度は常に一定で、世界のどこに居ても変わらず遊ぶことができるのですか?
波多氏:正確にいうと親密度によって変わります。親密度が高ければ高いほど、効果的なアクティビティになっていきますので遊びやすくなります。結局ここでやるミッションってタップで一筆書きして、どんどん、カケラとコインを貯めて、コインがたまるとガチャが使えたりします。ガチャから、本当にカノジョが出てくるわけですよ。
――その見えているマップ内のオブジェクトの一筆書きにゲーム性はあるのですか?
波多氏:例えば、自分が見た時にマップ内にコンビニと駅と郵便局があったとします。コンビニと駅と郵便局を一筆書きしてくださいと言ったときに、その組み合わせでどういうカケラとかコインが獲得できるのか決まります。組み合わせによっては少ない成果かもしれないし、組み合わせによってはものすごいものすごい成果が獲得できるかもしれないというのがこのゲームのロジックです。
――なるほど、組み合わせ方を楽しむ感じですか。でも、わざわざ歩かなくてもいいのであれば、タップするだけだと数秒終わってしまう。それってゲームとして退屈過ぎませんか?
波多氏:まず一筆書きをしてカケラとコインを獲得する。もう一回ちょっとやってみたいなと思ったら、今度は違う一筆書きで、先ほどとは違う成果のカケラとコインを獲得する。何回やってもこれ以上の現われ方がないなと思ったら、ちょっと動いてみる。
カケラとコインが貯まれば、カノジョとデートができたり、ガチャを回せたりできます。ガチャを回して他のカノジョとも会えたり、アイテムを獲得してすでに会えて仲良くなりつつある彼女にプレゼントができます。そういう一連のアクションを繰り返すことで親密度を上げて行きます。また、デートを重ねるとプレーヤーレベルが上がります。レベルが上がると様々な上限解放が成されて、さらに有利なカケラとコインを手に入れることができます。
そういうゲームサイクルの中でポイントポイントでシナリオが解放されてカノジョとのストーリーを楽める、そんな感じのゲームです。
――なるほど、遊び込もうと思えばやはり街歩きはある程度必要になってきて、歩けば歩くほど女の子とのコミュニケーションが深まるわけですね。
波多氏:面白そうでしょう? 基本的にネイティブゲームの考え方って、落差を成長させていくということでしかないと思うんです。もっと言うと上限解放です。どんどん解放されていけば、選択肢は広がるし大きな成果が見込めるという仕組みを助長させていくのがプレーヤーレベルやパラメーター設定の1番大きな要因で、例えばそれは、最近の女子向けゲームなんかもそうですよね。シナリオを解放させたいがために舞台をやってみたりちょっとした出稼ぎをやる。そういったミニゲームって基本ポチポチだけなんですよ。
例えば音ゲーは、簡単なリズムゲームをしてぽんぽんぽんと押すだけでミッション達成になって何かがもらえて、その何かを使えばガチャが回せて、何か新しいものが手に入る。その手に入ったものを誰かに渡したり上げたりすることで親密度が上がることでプレーヤーレベルが上がる。プレーヤーレベルが上がることでさらにポチポチできるミッションが増えて、更にやるともっとプレーヤーレベルが上がる。ある一定上のプレーヤーレベルになるとシナリオが解放されていくという。
だから、中村さんが、コンシューマ的に考えているような“インゲームで何か自分で操作をして勝敗を決めて、それでステージクリア”というゲームではないんですよ。基本的にある意味、“自分を成長させていく”、すなわちレベルを上げていくためのプロセスを、一本道ではなく、あれもして、ここのレベルも上げて、編成を組ませて、ということをしながら、ゲームを楽しんでいただき、ストーリーを解放していく流れです。
――なるほど、よく理解できました。「マップラス」と付くのでどうしても位置情報的、AR的なゲームだと思ってしまいますが、このゲームのコアはあくまでもストーリー、そしてカノジョとのインタラクション。ここなんですね。
波多氏:ただ、位置情報ゲームとしての新しい要素はいっぱい入れてます。先ほどのような仮想チェックイン、行かなくても行ったことになる仕組みであるとか、足場を作ってどこでもオブジェクトを設定できるような仕組みであるとかをゲームシステムに組み入れています。アクティブじゃなくてもどんどんポイントがたまっていく仕組みも検討中で、サービスイン後のアップデートでいろいろ機能を追加していく予定です。
――例えば「ポケモンGO」が大流行しているときは、目黒川の特定の地点に水棲の何々が出るという話で、そこに何百人も集まっていたみたいなことがありました。そういったARゲームらしさというのは、あまり主張するゲームではないものの、街歩きの楽しさはあるゲームなんですね。
波多氏:主張するゲームではないですが、ただガチャを回したいとか、どんどんアイテムをゲットしてカノジョにプレゼントしたいという時には、結局はこういう作業をしてコインを貯めるか、アクティブじゃない時でも歩き回って、どこかで貯まっていくポイントでガチャを回すみたいな機能もアップデートで組み込んでいけば、より必然的に歩き回る。必然的に歩き回る人は出てくるでしょうね。
――先ほど初期プランだと「マップ占領型」だと言うことでしたが、でも今の「一筆書き」のほうが、ストーリードリブンのゲームとしては自然ですよね。
波多氏:そうなんですよ。このゲームの中で1番特徴的なのは、バトルの要素が全くないんですよ。バトルの要素って基本的にこの世界観に入れた時に、絶対に興ざめするんですよ。「なぜ戦わなくてはいけないの?」という話になる。でもゲーム的な論法でいうと、バトルをさせるのが1番楽なんです。で、バトルをさせないでこの世界観を楽しんでもらうために、日々ルーチンでさせるものは何なんだと突き詰めて考えたのがこれなんです。体力は消費しますよ。これ一回一筆書きするごとに体力を消費するので。体力を消費して、コインをゲットする。例えば連続で数回以上行なうと、体力がなくなって、時間回復で体力が戻るまでは一筆書きができなくなるような流れを考えています。
――そこにマネタイズ要素が発生するということなんですね。
波多氏:そうですね。無理のないバランス設計で考えています。ゲームとしてやることと、世界観に酔ってもらうこととは、これが、作品ではなく商品である以上、ある意味、割り切って考える必要もあります。それは今ある人気の女子向けゲームなんかの方法論と同じ考え方でもあります。
千葉氏:イベントでどこかに行きたいとカノジョが言う。一緒に行けば何かがもらえる。現実でも、彼女に「どこか行きたい」と言われてデートに行くことってありますよね。で、行ったら良いことがある。それと同じ事ができるのは、位置情報ゲームのとてもいいところだと思うので、そういうイベント的な事は行っていきたいと考えています。
カノジョとのデートについて
――そのカノジョとのインタラクション。カノジョとのデートってどういった要素があるんですか?
波多氏:デートミッションというニュアンスに近いです。なので、色々なことが考えられます。例えば音楽が好きなカノジョとのデートなら、CDショップに行く、みたいなことが考えられます。そして、実際にマップ上に表示されているCDショップに行くと、そこでしか得られないデートシナリオが解放されたりします。そうすると、カノジョのプレーヤーレベルが上がります。それがメインシナリオを解放するための1つのポイントになっていきます。
――それはいわゆる「マップラス」のシステムを使って実際のCDショップの情報を埋め込むんですか?
波多氏:そうです。実際のCDショップとのイベント連動などができたら、さらに楽しいですね。
――CDショップなんて近くにないよという場合は?
波多氏:その場合は先にお話しした、足場を使って、リアルではないCDショップをマップ上に出現させることも可能と言えば可能です。
――江ノ島に行きたいとか、お台場に行きたいとかそういう話をするわけですか。
波多氏:そうですね。どこそこに行きたいとか。何が見たいとか。
――そこで問題になるのが、住んでいる場所によってゲーム性が変わってしまうことですよね。
波多氏:そこは月イチの特別イベントみたいな形にして事前にちゃんと告知する必要があるし、「来週は江ノ島イベントだから、江ノ島に行く準備をしなくちゃ」と言う心の準備もさせないといけないので、別扱いです。
そういう意味では通常行きたいとお願いされるスポットは、駅やコンビニ、郵便局、バス停、交差点など、日本国内である程度平準化される場所にするつもりです。とはいっても格差は出ちゃいます。
――では江ノ島みたいな具体的な世界に1つしかない場所を指定する場合は、スペシャルイベントにするということですが、これはどのくらいの頻度で発生する予定ですか?
波多氏:これはもう運営フェーズの話になりますが、運営ディレクターとは月イチとか月2くらいで、そういうイベントの山を起こしたいねと言ってます。そのイベントを起こすためには、そのイベントを成功させるための準備をゲーム内でプレーヤーにさせないといけないわけです。例えば、「江ノ島に行きたい!」となったら、そもそも江ノ島で何をするのか?海に行きたいというのであれば、ビーチを歩くため水着も必要だし、ビーチサンダルも必要だし。プレーヤーとしたら一生懸命コインを稼いでガチャを回して、カノジョにサンダルをプレゼントしたりとかしないといけない。
千葉氏:行った先でプレーヤーに良いことがあって欲しいんです。でなければ、わざわざ行く必要なんかないわけで。
波多氏:そうです。平常時以外の行動を起こすというのは、プレーヤーの休みの期間を取るというのは凄いことなので、それをやってくれた人にはそれだけカノジョが好きになっているという状態なので、そのカノジョに対して、プレーヤーが素晴らしいことができるというゲームでありたいと考えています。
――今考えている、例えば江ノ島イベントで実際に江ノ島に行くと、どういったメリットがプレーヤーにあるんですか?
波多氏:レアグッズとか貰えるでしょうし、デートシナリオも解放します。これはメインシナリオではなく、イベントシナリオです。
――このゲームに終わり、クリア、エンディングといったものはないんですか?
波多氏:ないです。
――オンラインゲームとしてアップデートが永続し、カノジョとの関係も続いていくということですか?
千葉氏:今、その先をどうしていくのかという話をしているんです。複数カノジョになれていいのかとか、その先に結婚があるのかとか。結婚するには、絶対にカノジョは1人じゃなきゃだめとか。2人とは付き合えるけど、結婚は1人じゃないと絶対にできないとか、3人以上付き合うともう本当にゲームとしてはぼろぼろな状態になるとか。なんとなくそういうことがあったらおもしろいねというシチュエーションの話をしているんです。
好きなカノジョに対して色んなことをしてあげたいですよね。カノジョも自分のことが好きだから、例えば、本が好きなカノジョだったら、オールアバウト本に関する情報をくれたりとか、新しい本を勧めてくれるかもしれない。こちらもカノジョがしたいと思うようなことをしてあげる。言わば当たり前のカノジョとの付き合い方で、カノジョはそれによってシナリオを開放し、カノジョも成長していく。シナリオさんにはそういったストーリーを頑張って作って欲しいし、僕も漫画編集の経験を活して関わっていけたらと思います。
波多氏:そうですね。ただ、ゲームプレーヤーによってはシナリオは興味ないといって、ストーリーは全部スキップするお客さんもいると思うので、そうしたプレーヤー向けに着せ替えだけでも楽しめるという遊び方は用意しておくつもりなので、女の子をいろいろと着せ替えるだけでも楽しいと思いますよ。
――気になるのはマネタイズです。体力の回復やガチャに使うというお話でしたが、それ以外に何に対してお金が発生するのか、そこについて教えて下さい。
波多氏:基本的にプレーヤーがやることは、一筆書きをして「カケラ」を集めるということです。一筆書きを繰り返していくことでカケラを集めることができます。
――カノジョを起こすためにカケラを集めるという話でしたが、起きてデートし始めてからもその行動は続けていくわけですか?
千葉氏:はい、当分はリハビリってことです。
波多氏:リハビリっていうことですし、細かく言うと、集めるカケラが違います。プレーヤーのレベルや状況によって変わります。ただし、カケラを集めるという絶対的なミッションは、このゲームの1番の目的です。
重要なのは、カケラを集めることで何が起きますかという話なんです。そうすることでプレーヤーが成長します。プレーヤーの成長って何ですかというと、プレーヤーのレベルが上がります。プレーヤーのレベルがより効果的なカケラやコインが集まります。更にいろんなことができるようになり、プレーヤーに対して上限が解放されるので、もっともっとカケラを集めて、もっとカノジョに何かしないといけないねという話になる。そういった過程の中でデートがあったり、シナリオ解放があったりというご褒美が用意されています。
――売り上げのメインは課金ガチャということになるのですか?
波多氏:もちろん課金ガチャです。
正式サービス後の展開について
――サービス開始後のアップデートについてはどのような計画を立てているのですか?
波多氏:ジオフェンシングの機能を強化したいなと考えています。
――ジオフェンシングについて解説して頂いていいですか。
波多氏:例えばミッションみたいなものって、基本的にはGPSで緯度経度を観察してそこからのローカルプッシュみたいなものがあるわけです。例えば緯度経度がここですといったときに、ここに来た時にメッセージを投げるということが今の機能ならできるんですね。特定の場所を何か通過したときに、そこに対してやり取りができるみたいな機能は、この場所にビーコン的なものがないと感知ができないじゃないですか。それがジオフェンシングですが、その機能を充実させていきたいなということです。
あとはチャットボットみたいな仕組みをマイルームの中に入れる予定です。カノジョとの会話ですね。例えば「チキンが食べたい」というカノジョからのメッセージが入ったときに、コンビニに行ってチキンをゲットしてプレゼントしてあげたら、カノジョのマイルームの中のチャットの中に、「チキンをプレゼントしてくれてありがとう」とか、さっき千葉さんが言ったように、音楽好きの女の子だったら、「こういうアーティストが来日しているの知ってる?」みたいな会話があったり、そこの会話は、AI化もしていきたいと考えています。会話AIみたいなものは今後のアップデートで入れていきたいです。
――ストーリーのアップデートはどうなりますか?
波多氏:ストーリーのアップデートは常にやっていきます。その都度主要キャラクターのボイスも採りながら。
――今回、かなりゲームデザインやその中に秘めた想いまで語って頂きましたが、このゲームの魅力を一言で言うと、何になりますか?
波多氏:カタカナの“カノジョ”ですよね。そのカノジョをめぐる日常ですよね。
――ここまで本気で作っている恋愛シミュレーションゲームというのは久々な気がします。リアルとのリンクについて、例えば事前に名前を登録して、8時になったら「せいじくん起きろー」と起こしてくれるとか、そういうリアルとのリンクは何かあるんですか?
波多氏:そういったものも仕様を検討していきたいですね。初期実装はできないですが。
千葉氏:それは、ぜひやっていきたいと考えています。カノジョがいることによってプレーヤーの何かが変わる。例えばライフエンターテイメントという点でいえば、プレーヤーの生活に影響を及ぼす、それが良い方向に行く。カノジョに「早く起きろ」と言われることで、早く起きなきゃいけなくなるとか。早く寝なきゃいけなくなるとか、ご飯を定期的にちゃんと食べなければいけなくなるとか、栄養の事を考えられるようになるとか、ということがカノジョを通してできたらいいなという理想はありますね。
波多氏:名前は仕様ではありますよ。あるんですが、それをいろんな機能に反映させようとすると認証させるサーバーの負荷がもの凄いんです。ですから、現実的には、サービス時には難しいかも知れません。
――最初に決め打ちで指定しておくことができないんですか? 恋愛シミュレーションゲームのスタート時の名前設定のように、データは最初にダウンロードしてオフラインで持っておいて呼び出すだけにしておく。
波多氏:箱庭の中だったらそれでできますけど、どうしても位置情報が絡んでいるので、どこそこを通った瞬間という設定にしておくと、全部そこで読み込みが始まるんです。だから「いってらっしゃい」だけだったら、そこを通過した時点で不特定多数に「いってらっしゃい」を配信するだけなので、インタラクティブなサーバーの交信はないんですよ。でも、このゲームでは、この名前のこの人がここを通過したという情報に全部認証をかけなければいけない。10ターン程度のやりとりがあるので、その10ターンを×100人が通過したときにどうなるんだ? サーバーが持ちますか? みたいな話になってしまうので、よくよく考えて要件定義していく必要があります。サーバーが落ちてしまったら大変なので。そういう意味では、初期実装では外していろいろと検証を重ねた上で、ということになりそうです。
――私の質問はそこまでややこしい話ではなくて、カノジョとなった女の子が、ゲームの外で、スマートフォンや他のアプリやツールなどとリンクして、リアルに干渉してくるような機能がないかというお話で、一言で言えば、ゲーム外で「せいじくん、何々」って言ってくれないんですか、という(笑)。
波多氏:経度位置を読み込まなくて、時間だけでメッセージを出すという形でよければできるでしょうね。ただそれが本当に、ゲームとリンクして楽しいのか、ということはちゃんと考えてから仕様に反映したいですね。
――ふーむ、実現可能性より実現不可能性が先に来るということは、波多さん自身が実装にあまり積極的ではなさそうですね。
波多氏:積極的ではないというか、やりたいんですが、各プレーヤーのDBを読み込んで認証をかけなければならない仕様というのは、通常のネイティブゲームのインゲームの中の仕様と違って、位置情報を使ってやるからにはどうしてもそこで普通のゲーム開発の感覚とは違うサーバ設計、というか考慮もしないといけないのです。だからたぶん、細かいところで名前の認証をかけていくというのは、今の仕様に落とした時、ここでも名前の認証でインタラクトさせないといけないとかいろんなポイントで出てくると思うんですよね。むしろそれを今時点で入れるための工数をかけるんだったら、もっと、遊び方的におもしろいことに工数をかけたいねというが正直なところです。
――6月27日の事前登録開始からサービスインまでのスケジュールについて教えてもらえますか?
波多氏:事前登録のタイミングが6月27日。一般的な事前登録からローンチまでのタイミングは、メーカーによってまちまちだと思いますが、一般的には事前登録してからだいたい2、3カ月後くらいというイメージだと思うんですよ。
――正式サービス開始に合わせて声優さんなどを呼んだイベントを実施する予定はありますか?
波多氏:やりたいと思っています。発表会になるかどうかはわからないですが、プレーヤー体験イベントみたいなものは、新しいシステムのゲームなので、やったほうがいいし、やりたいと思っています。
――βテストについては?
波多氏:もちろん内部ではやりますが、外向けにCBTみたいな感じでやるかどうかは、ちょっと検討しています。
――ではβなしでそのまま正式サービスに入ることもあるわけですか。
波多氏:まだ、ちゃんとは言えないですけど、開発側としてはいろんなことをやって検証したうえでやりたいんですが、社内的な事情もあるので、なんとも言えないですね。
――念のため再確認させてください。講談社さんのIPとのコラボはこのゲームにはないんですね?
波多氏:主人公とカノジョのキャラクターが巡る世界の話なので、例えば女の子がその作家の作品が好きとかいう設定はできますよ。
千葉氏:他のIPとコラボをして、色んな層のプレーヤーに対してアピールできればと思っているんですけど、それが講談社のものに偏るとものすごく宣伝っぽくなりますよね。だからプレーヤーの事を本気で考えた時にはそういうことにはならないようにしたいと考えています。もちろん弊社には自信のある作品がたくさんありますけれど、他社だっていいものを出しているわけで、とにかくプレーヤーの事を第一に考えたいです。コラボをやろうと思えば、当然弊社のものは使えるし、他社のものもやらせて頂きたい。
――なるほど、どういう形になるにせよ、コラボの実施自体には積極的なんですね。
波多氏:やりますよ!
千葉氏:ソーシャルのIPコラボって最近凄くいっぱい見ていますけど、ああいうのに向くって感じじゃないと思うんですね。
波多氏:まあリアル店舗とのコラボみたいなのはやりたいなと思っているんです。大手コンビニチェーンとか、例えば大手ゲームグッズ会社さんとかと何かをやるというのはありだと思うんですね。
千葉氏:なるほど。でも何かやり方があれば、やっていきたいですよね。
――4月の発表では、ゲーム単体だけではなくさらにクロスメディア展開を考えているということでしたが、どういった計画がありますか? 先ほどCDを出すとかいっておられましたが。
波多氏:構想、妄想レベルでいえば、やはりキャラクターがどんどん自分の人生を見つけていく中で、そのキャラクターを推すファンが増えるのであれば、そのキャラクターの声を担っている声優さんによるそのキャラクター名義でのCDを出してもらうみたいなことはクロスメディア展開としてやっていきたいです。
千葉氏:例えば弊社はたくさん漫画も小説も出ているので、やれることは積極的にやりたいと思っています。
――募集を開始して、その反応に応じてやることを決めようという感じですか?
千葉氏:仮に来なくても色々仕掛けると思いますよ。
――それはコミック、アニメ?
千葉氏:どちらもやりたいです。このゲームはエディアと講談社のIPですから、エディアさんと講談社がそれがいけると思えばそれを出せるので柔軟な出し方が可能だと思うんです。コミックにはコミックのアニメにはアニメのベストの出し方がたぶんあると思うんですね。それを縛られず柔軟に出せるのは強みなんじゃないかと思っています。
――エディアさんにも「マップラス」という柱となるIPがありますが、「マップラス」シリーズとの連携ありますか? 「マップラス」プレーヤーが会員登録すれば、何かちょっとしたベネフィットがあるとか、連携して何かできるとか?
波多氏:うーん、未定ですが、例えば今後「マップラス+カノジョ」に出てきたキャラクターがエディアのカーナビのナビゲーションアプリのキャラになることは大いにありうると思います。それは多分確率としては非常に高いし、やったほうがいいんだろうなと。双方のプロモーションになりますから。
――ああ、なるほど、そっちのパターンですか。
波多氏:そうですね。
――夢があって最終的にどういう広がりを見せてくれるのか非常に楽しみですね。最後にゲームファンに向けてのメッセージを。
波多氏:このゲームを期待してくれている人達に対しては、本当にお待たせしてて申し訳ないと思っています。色々紆余曲折ありながらも、このゲームが本当に世界観を損なうことなく楽しんでもらえるように、本当に開発の現場は本当に一生懸命作っているので、期待して待っていてください。
千葉氏:講談社としては、すごく新しいチャレンジになると思います。とはいえ、今までの知見を活かして、面白くて人のためになるようなエンターテイメントをプレーヤー第一で作って行きたいです。
――ありがとうございました。