インタビュー

「ライダー変身!」、新1号と本郷猛はいかに最高のアクションフィギュアとなったか?

「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダー新1号」、「S.H.Figuarts 本郷猛」インタビュー

 “原型師”は、フィギュアやアクションフィギュアの製品原型となるものを作る人達である。企画側が出す様々な思い、仕様、ギミックなどを自分の中で“解釈”し、手に取れる実際のものを作りだしていく。そして何度か企画側とすりあわせを行なった後、完成した原型をもとに工場で生産されたものが我々ユーザーの元に届けられるのだ。

 どのような設計を行ない、どこにこだわり、どこが大変だったか、製品での想いは制作に携わった全ての人が様々なものを持っているが、原型師にはその商品の“元”を作った独特の想いがある。企画者の意図を汲みながら、自分の中でのキャラクター像や、こだわりを造形のみならずギミックにも活かしていく。今回はその原型担当者に話を聞いた。

 インタビューを行なったのは「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダー新1号」の原型を担当したGB2の長汐響氏、「S.H.Figuarts 本郷猛」を担当したエムアイシーの今野裕太氏、永尾達矢氏、木村修氏。2つの商品の魅力をたっぷり聞くことができた。

「原点である1号は、いつかはやることになるだろう」、経験を活かした昭和ライダーへの挑戦

 S.H.Figuarts 真骨彫製法(しんこっちょう製法)とは、「S.H.Figuarts」のカテゴリーの1つで、その名の通り“人物の骨格へのこだわり”が大きなセールスポイントとなっている。骨盤の位置、背骨、肩胛骨……人体の骨格を意識し、より自然な体型、そして自由度の高いポージング、劇中の特撮ヒーローそのままの実在感とカッコ良さを再現しようと注力するシリーズだ。

「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダー新1号」の原型を担当したGB2の長汐響氏
マスク表面の起伏やスーツの素材感も再現
「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダーアクセル」と並べると雰囲気の違いが良く出る

 長汐氏はシリーズ第1弾となる「仮面ライダーカブト ライダーフォーム」から全ての「S.H.Figuarts(真骨彫製法)」の商品を担当している。これまでシリーズでは「クウガ」からのいわゆる“平成仮面ライダー”が中心だったが、今回、“昭和ライダー”を手がけることとなる。もちろん「仮面ライダー1号」を手がけることになったのは企画側からの発案だが、原型師である長汐氏は、「原点である1号は、いつかはやることになるだろう」と自分なりのイメージは持っていたという。

 平成仮面ライダーから昭和仮面ライダーへモチーフを変える上で、気をつけたのが“頭身のバランス”だ。昭和仮面ライダーはスーツそのものが当時の造形技術もあって、全体的に頭が大きい。頭の大きさをどう表現し、そしてカッコ良く、リアルなバランスにしていくか、そこに長汐氏は注意したという。それは単体のバランスではなく、これまで出ている平成ライダーの真骨彫シリーズと並べたときの違和感のなさも気をつけた。

 骨格を感じられる、リアルさを求めたアクションフィギュア、という方向性そのものは変わらずに追求しているが、それは単純に人体を1/12にしたものではなく、1/12サイズに縮小した時により自然に見えるバランス、そしてヒーローフィギュアならではの“解釈”がある。

 真骨彫シリーズはそういった解釈や検証、当時の写真資料等の照らし合わせなどを行ない、改めて突き詰めたフィギュアシリーズであり、今回の仮面ライダー新1号は、そこからさらに昭和仮面ライダーという新たな“方向性”を打ち出す商品になると長汐氏は語った。

 一方、企画側からの要望としては「リアルな人体を感じさせる造形」という真骨彫が提示する方向性は昭和仮面ライダーの方向性に非常にマッチするのではないか、という期待感があったという。当時のスーツの雰囲気、“素材感”まで活かせる方向性を追求したくて、昭和仮面ライダーの挑戦を行なうこととなった。

 ただ、ファンの「仮面ライダー1号」というモチーフへの期待感の大きさは、かなりのプレッシャーになったという。「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダー1号」はイベントなどで先行して展示を行なった際も、評価の声が大きく、胸をなで下ろしてる部分もあるとのことだ。

 こういった様々な期待を受けて「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダー1号」は生まれることとなった。長汐氏は企画側の“素材感”という要望を受け、非常に細かく、リアルな「仮面ライダー新1号」を追求したという。当時は特撮用のスーツの制作技術そのものが初期といえるものであり、マスクが左右非対称だったり、細かな傷などがある。長汐氏は“使い込まれた道具のような雰囲気”と表現したが、そういった要素がファンの求める“味”となっている。商品ではその感じを再現することにも注力しているという。

 このため「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダー新1号」ではスーツのしわの表現や、コンバーターラングのデコボコなどまでもきちんと再現している。一方で平成仮面ライダーは“パワードスーツ”だったり、“超能力の一種”だったりと、設定的にもしわが生じないような解釈になっているものが多いので、しわなどの表現は起伏を抑えるモチーフが多いとのことだ。

 マスクに関してはメタリック塗装の新1号、その後の「仮面ライダー」シリーズに登場する1号をイメージした“最大公約数”を目指したものになっている。こだわりとしては、顔の横の留め金や、ブーツ、胸のコンバーターラング中央にファスナーが再現されているところ。当時の“スーツ感”をきちんと表現する方向性を持たせてあるという。

 今回は試作品ではあるが、「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダー新1号」と、長汐氏が手がけた「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダーアクセル」を並べてみた。頭身が違い、スーツの質感も大きく異なる。比べてみることで、「仮面ライダー新1号」が新しい挑戦であることをしっかり実感できた。

【S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダー新1号】
ファスナーなども再現されている
1号ならではの独特の存在感、雰囲気が再現されている

アクションフィギュアの最高峰を目指す真骨彫……力強さと素材感に注力

 実際に各部をチェックしていこう。「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダー新1号」の工夫の1つが股関節と腿の処理。スーツには下半身に分割線がないのが本来の姿だが、アクションフィギュアとして可動域を確保し、関節を表現するかはいつも悩むところだという。

股関節のデザインの変遷。左側が商品デザインとして採用された
試作品にポーズをつけてみる。力の入った感じがきちんと伝わってくる
原型の光造形のモデル。腹部パーツがスライドし、胸を反らせた時の隙間を隠せる

 今回は太ももに関節の回転軸を入れている。最初は太ももに関節は仕込まない方向性にしていたが、足の見え方や、太ももの太さを追求していく中で、今回はこの処理にしていった。腿の表現はアクションフィギュアとしての関節表現の“お約束”に近い処理だが、逆にここまで割り切ることで、スーツとしての表現の方に注力してこだわれたと長汐氏は語る。

 また、ポーズをとらせたときの力の入った雰囲気も非常に楽しい部分だ。原型制作に当たり、長汐氏は原作であるTV番組をくり返し見る中でイメージを固めていく。ここは骨格や原作の忠実な再現というだけでなく、原作への想いが原型に“雰囲気”を与えている部分だという。しわのモールドは強調している部分もあるが、あえて情報量を減らしてメリハリをつけることで、再現度を上げている。

 「TVの中の新1号は、ちょっとずんぐりしている感じもする体のバランスは、随所に出てくる隆起する筋肉がすごい。商品の力強さは、そういう印象が活かされています」と長汐氏は語った。

 マフラーはなびいたものと垂れ下がっているものの2種類が付属する。仮面ライダー1号の“動き”をもたらすのに欠かせないアイテムだが、今回は“付け根”にこだわりがあると長汐氏は語った。マフラーは輪を作り取り外しができるような商品もあるが、それだと首とマフラー部分に隙間ができてしまう。

 今回は首パーツにはめ込むようにパーツを設計し、そこから首パーツを挟み込むことで首に隙間なくマフラーを巻いた雰囲気を再現している。長汐氏のこだわりが詰まった部分だ。上半身に関しては腕のラインも注目点である。関節部分にまで塗装が入ってるため、腕に描かれているラインが極端に分割されないのだ。ここは商品仕様としてはコストのかかる部分であり、工場での作業が大変になる部分だ。

 通常の商品では関節部分にまで塗装はされない。「S.H.Figuarts(真骨彫製法)」は、このように通常のアクションフィギュア以上にコストを掛けている部分がある。腕のラインの仕上げはその1例だという。「S.H.Figuarts(真骨彫製法)」は、アクションフィギュアの最高峰を目指して作られており、パーツは他の商品との共有のない新規設計パーツとなっているからこそ、こういったこだわりを活かせるのだという。長汐氏は、原型師としても挑戦しがいのある豪華なシリーズだと語った。

 胸のコンバーターラングは当時の素材感が出るように注意を払っている。体の他のスーツ部分とは素材感をはっきりと差別化させ、さらに当時の少し粗い処理の雰囲気も再現。今回見ることができたのは“色つきの試作”は、原型に着色したものだが、工場出荷品である商品はこういった塗装や処理もさらにクオリティが上がると言うことで、期待したいところだ。

 コンバーターラングの面白い点は、腹部部分で分割されており、この腹部パーツが上下にスライドできるところ。胸を反らせてジャンプするライダーならではの姿勢を取らせると胸と腹の関節の隙間が目立ってしまう。腹部パーツがスライドすることでこの隙間を自然なラインにできる。さらにこの処理は、上半身をかがめたときなど、深く曲げる時にも効果的だ。

 ちなみに、ライダーの決め技である「ライダーキック」の場合、上半身をかがめがちだが、番組内のライダーは胸を反らせた形でのキックが多いという。「これは空手の跳び蹴りを意識しているんじゃないかと思います」と長汐氏は指摘したが、フィギュアを手に番組を見て様々なポーズを再現するのも楽しそうだ。

 「ライダーフィギュア、特に真骨彫でこだわっているのが“たたずまい”です。ライダーはアクションポーズも大事なんですが、すっと立っているイメージが私の中では強い。何もせず、すっと立っているだけで独特の雰囲気があって、カッコイイ。真骨彫シリーズ、そしてライダーのフィギュアでそこは私がこだわっているところだといえます」と長汐氏は語った。

 工場担当者との綿密な打ち合わせも行なっており、他商品と関わり合い方が異なるため、思い入れとしても強くなると長汐氏は言葉を重ねた。通常原型師は原型そのものと、デジタルデータを納品するところまでだが、工場担当者とも言葉を交わし、機構表現にも力を入れることで原型そのものの仕様もきちんと考えられるようになる。

 関節パーツの厚みなどは造形にこだわるあまり薄くしがちだが、耐久性や安全性で求められる仕様などを聞き、お互いがすりあわせることができる。関節部の塗装なども同様で、原型師が意図した商品に対して、工場担当の開発スタッフの意見も取り入れることで、より自分の原型に近い商品が生み出されるようになる。これはとても長汐氏にとってありがたいことだという。そしてそういった経験を継続することでさらに進化を重ねている。

 今後に関しては、長汐氏は「歴代ライダーを全て真骨彫で並べたい」という思いを持ち、アイディアを練っている。もちろん実際の商品に関してはバンダイの企画側との話し合いによって決まるが、それぞれのライダーに思い入れがあり、長汐氏ならではのアイディア、そして“解釈”がある。実は長汐氏は最新ライダーである「仮面ライダーエグゼイド」が個人的に大好きであり、こちらも挑戦したいと思っているとのことだ。

 真骨彫はユーザーの期待度も高い。しかも仮面ライダー1号は、シリーズとしては「いつかは挑戦する」素材だ。このため長汐氏もこれまで色々なことを考えていた。「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダー新1号」その長汐氏の想いがついに商品原型となって形となった。長汐氏は「やってみたら、できた」と語る。これまで積み上げてきたやり方と、長汐氏が持っていた“解釈”をきちんとはめ込むことで、ユーザーの大きな期待に応えられる原型ができた。これまでの経験をきちんと活かした上で、仮面ライダー1号の“真骨彫ならではのアクションフィギュア”を提示できたのではないか、と長汐氏は語った。

 ユーザーへのメッセージとして長汐氏は「やっぱりいっぱい遊んで欲しいです。色んなポーズをとらせて欲しいですし、楽しんで欲しい。写真を撮るのもアリですし、箱に入れたまま飾るというのも遊び方の1つです、楽しんで遊んでください」と語った。

 実際原型を前にすると、本当に素直にカッコイイ。昭和仮面ライダーならではの“実在感”もそうだが、ポーズにみなぎる“ちょっと泥臭い力のいれ具合”がきちんと再現できるところに、強く好感を持った。平成仮面ライダーのスマートさとは一味違う雰囲気を再現できている、その“原型師”の表現力には、改めて驚かされた。

【S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダー1号】
映画の1シーンのようなスチル
こだわりの詰まった変身ポーズ
1号ならではのポーズをきちんととれる。アクションフィギュアとしての優秀さが実感できる
※「S.H.Figuarts 本郷猛」、エフェクトシートは別売りとなる