インタビュー
フィギュアが苦手とする布の表現に、「真骨彫製法」はいかにチャレンジしたか?
2018年7月2日 12:00
“現実”を超えなくて生まれない、フィギュアの“実在感”
もちろん「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダーウィザード フレイムスタイル」の優れた点はローブの表現だけではない。より細かく原型を見て、岡本氏のこだわりポイントをピックアップしていきたい。
まず非常に細かいところが“指輪”である。仮面ライダーウィザードは指輪を交換することでフォームチェンジを行なうライダーで、本商品は腰のホルスターから指輪パーツを取り外し、手首パーツにはめるギミックを搭載している。大きめの指輪は仮面ライダーウィザードの特徴であるが、S.H.Figuartsサイズとなると非常に細かい。交換ギミックを再現しているところはとても楽しいが、なくさないように注意したい。
寺野氏は「作品放映終了後だからこそのより劇中に近い再現度」を見てもらいたいと語った。2013年に発売された「S.H.Figuarts仮面ライダーウィザード フレイムスタイル」も設定通りクリアパーツをふんだんに使った見応えのある商品だったが、試作品は早い段階で作らなくてはならないため、2013年版のウィザードは番組中の雰囲気や細かい部分まで再現できなかったところもある。真骨彫製法では時間をおいたからこそ、番組を細かくチェックし、商品に要素を盛り込めている。
実は今回の原型はTAMASHI NATION 2017に参考出品したものから、上半身をまるまる作り直している。襟とマスクの距離、お腹とベルトの位置などのバランスを改良しているのだという。原型師の強い要望によるもので、岡本氏がその熱意を汲んだものである。mmの単位ではなく、数ミクロンのバランスにこだわった原型なのである。
マスクと襟の距離感は、番組内のアクションで印象が大きく変わる。スーツのデザイン上、腕を上げると肩パーツが胸パーツを押し、襟とマスクの位置が動く、このため設定画と違うバランスになるという。この「番組内の雰囲気」に近づけるため、肩の分割や、マスクと襟の距離感は特にこだわって調整したとのことだ。
岡本氏は「アクションフィギュアとしての可動域にこだわり形状にアレンジを効かせすぎてしまうと通常のS.H.Figuartsになってしまう。スーツ感にこだわり、目の前に画面から出てきたヒーローがいるような実在感を感じさせる真骨彫製法は、バランスの難しさが一層強くなります。『スーツのバランスが正しいんだ』という真骨彫製法ならではの判断も、お客様には感じていただきたいところです」と語った。
実際の番組では雑誌撮影やアップの撮影などで使用する「アップ用スーツ」と、動きやすさ重視の「アクション用スーツ」など、スーツは複数存在する。真骨彫製法はもちろんアップ用スーツのクオリティを再現する事を目指しているが、実はアップ用のスーツは重く、動きも制限されるため、アクションができない場合もある。真骨彫製法はそういった問題にも切り込みつつ、見栄えとアクション性をとことんまで追求しているのである。非常に難しい問題に原型師と企画担当者は挑んでいるのだ。
「スーツは柔らかい素材を使っている部分もあるし、大きさによる伸縮性もある。しかし我々はそれをアクションフィギュアとして、S.H.Figuartsサイズで再現しなくてはならない。改めて考えると難しい問題だと思いますが、お客様に満足していただけるクオリティ、バランスを目指したいです」と寺野氏は語った。
また、「S.H.Figuartsサイズだからこそのベストなバランス」というのは、スーツとは異なるところも難しく、そして面白いところだという。「このフィギュアのサイズで感じる“スーツの本物感”を大きく拡大したらスーツそのものになるかというと、それは違うんです。フィギュアにはフィギュアサイズ特有の、実在感がある。デフォルメというと間違って伝わるか心配ですが、強調や、省略などをすることでフィギュアならではの実在感が生まれるんです」と岡本氏は語った。
もう1つ、これは筆者の感覚なのだが、写真と実物を手にしたときもはっきりと感覚が異なる。写真を見ただけでの判断は必ずしも実物を手に取ったときの感覚とイコールではない。フィギュアのレビューなどで筆者も写真を撮るのだが、自分の満足感や興奮が写真に載せられない。プロが撮影した写真はまた違うと思うのだが、実物を見て感じる存在感や、所有したときの満足感でも大きく気持ちは異なる。商品の真の評価はやはり実物を手に取ったときだ、ということもあるだろう。
しかし、改めて各部をチェックするとその細かさに本当に驚かされる。肩や顔の側面にある文字のような書き込みは、フィギュアでも単純な線ではなく文字が書かれているように見えるし、胸の装甲や顔のクリアパーツは非常に美しい。ベルトは設定通り手の部分を回転させるだけでなく、左右の部分も可動する。
武器の「ウィザーソードガン」は、設定通り手のひらを広げて必殺技のためのシェイクハンド(握手)のアクションが可能、差し替えで剣モード、ガンモードが再現でき、様々なシーンを再現可能だ。今回のものは試作品であり、ここからさらに改良が加えられていくという。
今回撮影させて貰うため岡本氏にポーズをつけてもらったのだが、「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダーウィザード フレイムスタイル」はやはりローブが良い。ポーズをとらせてからローブを調整することでポーズに“勢い”が生まれるのだ。立体化するのに難易度が高い「仮面ライダーウィザード」だが、このローブは他のライダーにはない魅力を与えているのが実感できた。「自分達で言うのも何なんですが、今回も本当にカッコイイものになったと思います」。ポーズをとらせながら、岡本氏はしみじみとコメントした。
「仮面ライダーウィザードは、映像としてとてもアクションシーンがカッコイイ作品です。ウィザードはパンチで戦うのではなく、蹴り技中心で、個人的には映画『マトリックス』みたいなシャープでスタイリッシュな動きが多くて印象的で、かっこいいなあと思いました。ローブはその動きにとても似合うんですよね」と岡本氏は語った。スマホの普及によるフィギュア撮影の広まり、ユーザー達の写真へのこだわりも感心する部分が多いとのことだ。
もちろん本商品はBANDAI SPIRITSが販売するフィギュアスタンド「魂ステージ」に対応しているので浮かせて飾ることもできる。ローブをはためかせキックを放つウィザードの姿は最高だ。岡本氏は企画担当者だけにポージングが非常に巧みだ。ユーザーも試行錯誤して、どうすればカッコイイかを追求して欲しいと岡本氏は語った。
平成仮面ライダーと言えば「フォームチェンジ」である。ウィザードもウォータースタイル、ハリケーンスタイルなどいくつかのスタイルを持ち、さらに強化スタイルもある。今後こういったラインナップも期待されるが、実はスタイルが異なるとかなりの部分が新規造形となる。「仮面ライダーW」シリーズでは、様々なフォームが真骨彫製法で発売されているが、そちらも共有するパーツは想定ほど多くなく、スタイリングも異なっているという。簡単にラインナップを増やせないブランドなのだという。
「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダーウィザード フレイムスタイル」で岡本氏が1番アピールしたいのはやはりローブであるという。豊かな表情をつけさせるため、フレキシブルに曲げられ、かつ細いワイヤーを工場担当者と共に探しており、ここに特に期待して欲しいと語った。
「真骨彫製法シリーズはお客様にお待たせする時間が長いです。お待たせしているのは申し訳なくも思うのですが、その時間に見合った良い商品を生み出すべく努力を重ねています。良いものをお届けできるようにがんばりますので、よろしくお願いします」と岡本氏は語った。
今回、改めて真骨彫製法の話を聞くことで、その突き詰める想い、方向性には圧倒された。筆者は正直「仮面ライダーウィザード」への想いは熱心なファンには叶わないが、今回話を聞き、ローブ、指輪、そしてスタイルの格好良さに圧倒され、そして込められた想いに感心させられた。
何より工場側の話が聞けたのが良かった。企画企画者、原型師のお話はこれまでも聞いていたが、彼らの繊細で複雑な原型をいかに商品で再現するか、それには現場しかわからない苦労がある。今回2人の話を聞くことでその大変さがわかった。機会があれば、ぜひ工場側も取材してみたい。
(C)石森プロ・東映
※写真は試作品のため、実際の商品とは異なります