【特集】

歴史考証をゲームの“リアル”にするために。「キングダムカム・デリバランスII」のアプローチ

「資料・想像・経験」三原則を日本人コンセプトアーティストが明かす

【キングダムカム・デリバランス II】
2月5日 発売
価格:8,090円~

 1403年の中世ボヘミア王国を舞台とし、世界で累計1,100万本を超える販売数を記録している「キングダムカム・デリバランス」(KCD)シリーズ。前回はチェコの開発元Warhorse Studios PRマネージャーのトビアス・シュトルツ=ツヴィリング氏に、同スタジオの開発哲学や「KCD」シリーズのヒットの理由を聞いた。

 本稿では、最新作「キングダムカム・デリバランスII」のDLC1「Brushes with Death」に関する話題をお届けしたい。

 今回はスクリーンショットなどゲーム画面は提供不可とのことだったが、実際に触れてその一部を体験できたほか、Warhorse Studios所属の日本人コンセプトアーティスト、川谷久海氏のプレゼンテーションが興味深かったので、合わせてご紹介したい。

木に縛られた画家と出会う「Brushes with Death」

 まず、「Brushes with Death」についてはナラティブデザイナーのヴラディミール・マレチェク氏より説明があった。

Warhorse Studiosナラティブデザイナーのヴラディミール・マレチェク氏

 「Brushes with Death」は、木に縛られた男との出会いがきっかけにストーリーが展開するDLC。5月配信予定で、そのほかの無料アップデートと合わせて実装予定となっている。

 木に縛られた男はあからさまに不審者だが、話してみるとトロスキー城(本作における重要な場所のひとつ)で暮らす歴とした画家だという。この画家との会話をきっかけとして、盗まれたという画家の所持品探しや頼みごとをこなしていくこととなる。

謎の画家との会話によって、様々なクエストが進行していく

 ストーリーそのものは実装を楽しみにしていただくとして、ほかにトロスキー城内のアトリエにいる画家に話しかけることで、盾のデザインをカスタマイズできるようになるなどの要素が追加となる。

 盾のデザインは当時流行りのイラストを再現したもののほか、作中印象的な「ウサギ」のマーク(敵や周囲のNPCの状態を表わす)を用いたもの、またイースターエッグ的なものも含めて、多様なものが用意される。デザインは最初は数種類からしか選べないが、各地のミッションをクリアすることで、種類を増やすことができる。

盾に描けるデザインは様々。クエストをこなすことで種類を増やしていける

コンセプトアート「資料・想像・経験」の三原則

 続いてコンセプトアーティストの川谷久海氏より、「キングダムカム・デリバランスII」におけるアート制作の考え方について話があった。

Warhorse Studiosコンセプトアーティストの川谷久海氏

 本作において、コンセプトアーティストが手がけるのはゲームのキャラクターや小道具のデザイン、そしてDLC1で登場するような盾のデザインなど。ゲーム内に登場する、あらゆるアートワークに携わっている。

 川谷氏はこれらをデザインするにあたり大事にしていることとして、「資料・想像・経験」の3つの要素を挙げた。

 「資料」は、制作の元にする資料のこと。前回のインタビューでもお伝えしたように、特に「キングダムカム・デリバランスII」では徹底的な歴史考証によって1403年当時のボヘミア王国をまるこど再現しようとする企画となっている。とにかく資料にあたることが、すべてのデザインのベースとなる。

川谷氏がデザインしたマリア像。画家のアトリエ内に登場する

 しかし、集まる資料は完璧ではないことがある。必要な箇所が欠けていたり、手に入るものが当時よりも後の時代のものだったり、いくら「資料がベース」といっても限界がある。

 そこで必要になるのが、「想像」だ。たとえば1403年よりも後の時代の絵画や彫像の資料しかない場合は、同じようなものであっても、1403年当時の技術だけを使ってどこまで再現できるかを考えながら作ることもある。

 また当時の資料であっても、使用用途のはっきりしない道具などが出てきた場合は、今なら何に使うか、当時ならどう使っていたのか、欠けている部分を補うように、想像しながらゲーム内に落とし込んでいくとした。

 そしてこれらの試行錯誤を最終的に決定づけるのが、「経験」だという。

 たとえばDLC1において、画家のアトリエでは絵の具や道具が散乱している様子を見られるが、これは美術大学油絵科卒の川谷氏が「自分のアトリエを中世につくったらどうなるか」と、経験と想像を交えた形で表現したものだという。

画家のアトリエは、川谷氏自身の経験をもとにデザインされた

 この「経験」がどれほど大事かについて、川谷氏は「日本人であるがゆえに苦労したこと」を例に話してくれた。

 川谷氏が明かしたのは、ある村人の家をデザインした時のエピソードだ。川谷氏は資料をもとにしっかりとつくったそうだが、チェコ人のスタッフに「なんとなく、それっぽくないよね」と言われたという。聞くと、大体合ってるけど、「なんか違う」のだそうだ。言葉では説明できない感覚的なものだったため、川谷氏は最初は困惑したという。

 しかしこの感覚的な部分を紐解いていくと、チェコの一部では「14世紀とリンクする」当時の家の雰囲気が残っており、おばあちゃんの家などで少しずつ「それっぽい」部分を感じ取っていることがわかったそうだ。「私にはこの経験がないので、ギャップを埋めるところに時間がかかりました」と川谷氏は語る。

現在のチェコの風景(場所はクトナー・ホラ)。14世紀当時の面影がそこかしこに残っており、その地に住んでいる経験こそが「それっぽさ」を形づくるという

 ではどうしたかというと、川谷氏はチェコの友人の里帰りに付いていったり、写真を見せてもらったり、とにかくいろいろなところに出かけてみたり、少しずつだが時間をかけて「経験」していったことで、「なんとなくだが感覚が身についていった」そうだ。

 川谷氏は「キングダムカム・デリバランスII」について、「チェコでつくっているチェコのゲームは他にはありません」と話す。その点では資料も想像も経験も、感覚的な細部の部分まで含めて、三拍子が高いレベルで揃ったゲームだと言えるだろう。川谷氏は最後に、「本作は、リアリティの部分がとても楽しめると思います。ぜひ、信用して遊んでみてください」と締めくくった。

川谷氏の仕事ではないが、同僚の元建築家アーティストがデザインしたというクトナー・ホラのセドレツ納骨堂。上が現地の写真で、下がゲーム内のもの。よく見ると違う箇所がいくつもあるが、そのプロセスに「資料・想像・経験」が盛り込まれた結果だろうことが推察される