【特集】

世界800万本超。チェコ発“社会現象”の大作「キングダムカム・デリバランス」ヒットの要因は?

続編「2」も300万本大ヒット。開発元Warhorse Studiosインタビュー

【キングダムカム・デリバランス II】
2月5日 発売
価格:8,090円~

 2月5日に発売したアクションRPG「キングダムカム・デリバランスII」(KCD2)は、チェコで“社会現象”となるヒットになっている。

 本作は15世紀のボヘミア王国(現在のチェコ)を舞台としたオープンワールドアクションRPG。プレーヤーは鍛冶屋の息子ヘンリーとなり、戦乱の大きな流れに巻き込まれていく。

 開発したのはチェコのWarhorse Studios。2018年に発売した前作「キングダムカム・デリバランス」でデビューし、売上は世界800万本超。続編となる「キングダムカム・デリバランスII」では4月までに世界売上300万本を超え、2作連続で大ヒットとなっている。

 本作はチェコの中世を歴史考証含めてリアルに再現しながら、冒険譚がドラマチックに展開していく。特に地元のチェコでは人気が爆発しており、ゲーマー以外の人も知っているほどの“社会現象”になっているという。売上のトップ3はアメリカ、中国、ドイツだが、チェコでの人口に対する購入率は各地の3~4倍あるそうだ。

 そんな「キングダムカム・デリバランス」シリーズはどのように生まれたのか。今回、チェコのWarhorse Studiosに赴いてPRマネージャーのトビアス・シュトルツ=ツヴィリング氏に話を聞くことができた。

 なお、同スタジオ所属の日本人コンセプトアーティスト、川谷久海氏による「キングダムカム・デリバランスII」に関するプレゼンテーションも別記事で掲載しているので、合わせてご覧いただきたい。

Warhorse Studios PRマネージャーのトビアス・シュトルツ=ツヴィリング氏
Warhorse Studios社内。ゲームショウ「gamescom」で2作連続Best PC Gameを獲得したトロフィーが飾られている
玄関のフォトスポットに自ら入るツヴィリング氏
社内の壁には名作映画&ゲームのポスターがずらり。Warhorse Studios共同設立社のダニエル・ヴァーヴラ氏のアイデアだそう。なお「KCD」=ダニエル氏のゲームという認識が一部あるが、ツヴィリング氏は重要なこととして、「彼は我々のボスではない」ということを語った。「彼はクリエイティブディレクターで、会社の重要なメンバーだが、彼のスタジオではない。アイデアは彼のオリジナルだが、多くの開発者の1人に過ぎない。それほど大きなプロジェクトになっており、彼のプロジェクトではない」そう

94%好評価の「キングダムカム・デリバランスII」

 ツヴィリング氏がWarhorse Studiosに入社したのは2014年のこと。まだ「キングダムカム・デリバランス」を開発はじめのころで、スタッフは30人ほどだったという。最初は作品が本当に成功するかまったくわからなかったそうだが、途中から「もしかしたらいけるかも」と自信が出てきたという。

 開発スタッフもどんどん増え続けており、第1作発売時には100人、第2作発売時には250人と大所帯のチームとなっている。作品は販売本数も多いが、「KCD2」ではプレーヤーの94%が好評価を示すという満足度の高さも特徴的だ。

Steam版では94%が好評をつけている

 好印象のフィードバックとしては、まず戦闘がリアルであること。またストーリーは暗いがインパクトの強いものであること。ほかに、少ないバグでスムーズに進行する点についての評価もあったとした。

 一方でツヴィリング氏が自信を持っているのは、RPGの部分。プレーヤーは行動や会話の選択など、常に能動的に判断していくこととなる。剣を振り続ければ筋力が上がったり、信じられないほど数多く登場する会話の選択でサイドクエストの流れや結末が変わったり、そうした手間のかかる分深みのあるロールプレイは「1」でも「2」でも変わらない部分だとした。

 ちなみに本作で出会う人々は、クエストに関わるNPCを含めてかなり悪意を感じることが多い。騙し、騙されることが日常茶飯事であり、実際にヘンリー本人が騙されたり、誰かを嵌めるために悪事を任されたりする。この常に油断ならない人との対話が、とても「KCD」シリーズらしいテイストとなっている。その背景にあるのは、ひとつが「ストーリーを面白くするため」。そしてもうひとつが、「騙されたら死ぬような時代感を表わしているから」という理由だ。

 当時はフス派戦争と呼ばれる戦争の少し前であり、目の前の人物がどちら側(フス派か、神聖ローマ帝国か。ヘンリーはフス派の人物と行動することが多い)に行くのか、どこまで信用できるかわからない、という時代だったそうだ。そんな時代感を反映しているからこそ、人々のやり取りに妙なリアルさが伴っているのかもしれない。

メニュー画面の多さ、会話の選択肢の多さが何よりの特徴。手間がかかる分、妙なリアルさがある

徹底的な歴史考証は「ゲームが楽しくなるから」やる

 時代感、という話で言うと、本作では徹底的な歴史考証によって、1403年という舞台をできる限り正確に描くという試みが行なわれている。「KCD2」では、何年間もかけ、ときに一軒一軒回って現地を調査したという。

 歴史家はWarhorse Studios社内に1人だが、外部の歴史家40人ほどと連絡を取り合い、30人ほどの社内アーティストと、建造物のガレキや石、その地の植物を触ったり、匂いを感じたりしながら、情報を蓄積していったとした。

 驚くのは、「一軒一軒回った」というのが誇張の表現ではない点だ。本作にはクッテンバーグ(現在のクトナー・ホラ)という都市が登場するが、現存する街のなかで15世紀のものがどこまで残っているのか、どこが新しく作られた部分なのか、最初はわからなかったという。そこでレンガや石など、昔の構造が残りやすい地下の壁に着目し、実際に「一軒一軒」回って調査を進めることとなった。

 当時は「KCD2」のプロジェクトについては明かすことができなかったため、「仕事の内容は言えないけど、地下を見せてほしい」というなんとも怪しいお願いをすることになったそうだが、その地道な調査が「KCD2」に確実に反映されている。

ゲーム内のクッテンバーグ
現在のクトナー・ホラの同じ場所

 こうした歴史考証は筋金入りで、「KCD」に登場する街ラッタイは「城壁がなかった」というのが当時の歴史家の見解だった。しかしWarhorse Studios独自の調査に基づいて、ゲーム内では城壁が登場している。歴史家とは見解が食い違う内容となったが、その後研究者がラッタイの土を掘ったところ、ゲーム内と同じ場所に城壁の存在が確認されたという。ときに最新の研究を上回る調査。「KCD」シリーズにおける歴史考証の徹底ぶりがよくわかるエピソードだ。

 なぜここまで歴史考証を徹底するのか。ツヴィリング氏は「ゲームが楽しくなるから」とあっさり答える。「私たちは、歴史を教えたいわけではありません。リアルで正しいものは、楽しいからなんです」。ちなみにそれでも間違う場合がもちろんあるため、プレーヤーのフィードバックなどで指摘を受けた場合は、作り直すこともあるのだそうだ。

オフィス内、アートチームの席に山積みされた資料と開発中の場面。現地調査を含め念入りに行なっているという

制作の根幹は「情熱」。他職種のアイデアでコラボレーションする

 歴史考証ひとつとっても並々ならぬ思い入れを感じるが、Warhorse Studiosのメンバー構成に関して、もともとゲーム開発を専門とするスタッフの比率はかなり低い。

 「KCD」では開発者100人のうち、ゲーム開発の専門スタッフは15人ほどだった。また「KCD2」では250人のメンバーのうち、続投した「KCD」開発メンバーは70~80人ほどで、あとは学校の卒業生やゲーム開発未経験の他職種のスタッフを雇い入れたのだという。前職の例は彫刻家や画家、IT関係、映画製作者などで、ツヴィリング氏自身も、もともとはジャーナリストだった。

 チェコではそもそもゲーム開発者が少ない、というのも要因のひとつだそうだが、しかし、こうした雇用でもっとも重視しているのは「情熱」だという。情熱があり、才能があれば、未経験であってもゲーム開発の知識は学ぶことができる。Warhorse Studiosではそうした知識は積極的に共有されるほか、実際の業務では前職の専門知識をベースとしたアイデアが各方面から持ち寄られる。スタッフ同士のコラボレーションでぐんぐんと練り上げられる開発。それがWarhorse Studiosの魂のようだ。

Warhorse Studiosの社屋。見た目上はかなり穏やかだったが、情熱がうずまいてるという

 Warhorse Studiosで働く日本人のコンセプトアーティスト、川谷久海氏もその一人だ。

 川谷氏は3年前、美術大学の卒業後でいきなりWarhorse Studiosに就職したという。社内での環境について「学生あがりでも一人前のアーティストとして扱ってくれる」とし、絵に関しても知識を教えてくれるというよりは情報をシェアしてくれるような優しさがあり、川谷氏としても働きやすいと感じているそうだ。

Warhorse Studiosコンセプトアーティストの川谷久海氏

 また制作物に対して、どの立場でも意見を言える、むしろ言うべきといった風土があるという。実際、川谷氏が採用された直後、映画業界出身の経験豊富な上司に意見を言った際も、もともと上司が持っていた意見をあっさり変えてくれるなど、スタッフそれぞれの関係性がフラットであることを感じたという。

 ツヴィリング氏は「こうしたアプローチは、今のビデオゲーム業界ではなかなかないと思います」と付け加えた。「開発の速度は遅くなりますが、作品のクオリティはよくなると信じてやっています」。

Warhorse Studiosの今後は?

 「KCD」「KDC2」と渾身の2作が立て続けにヒットしたWarhorse Studiosだが、今後はどうなるのか。まず「KCD」シリーズについては、現在は「KCD2」のDLC制作に注力しているものの、今作で一旦締めくくられるという。

 「KCD」制作時点ではマンパワーが足りなかったものの、「KCD2」では250人体制となり戦力は十分に。また制作開始時点で何を入れて何を入れないのかをきっちり決めたことで制作体制が整った。2014年当初に描いていたアイデア通りのものが、「KCD2」では実現できたという。その充足感も、区切るを付ける一端となっているのだろう。

 すると気になるのは、Warhorse Studiosの次作だ。ツヴィリング氏によれば、今後は300人規模になるチームで、複数タイトルを作っていくビジョンがあるとした。内容は明かせないものの、「シングルプレイのRPGで、シネマティックであり、ディープなストーリー体験」は芯の部分として変わらないだろうとした。

 「KCD2」はまず5月配信予定のDLC1を皮切りに、大型DLCの配信を順次実施していく予定だ。取材した日はちょうどカットシーンにおけるモーションキャプチャーの撮影が行なわれており、絶賛開発中という感じだった。業界を楔を打ち込むWarhorse Studiosの今後に、ぜひ期待したい。

モーションキャプチャーの撮影が行なわれていた
ヘンリー役のトム・マッケイ氏も現場で演じていた