レビュー

「The Last of Us Part II Remastered」レビュー

我々はいかに生きるか、社会に向き合うか、自分の中に問いが生まれる物語

 「The Last of Us Part II」のストーリーモードでは「過去」によっていなくなった人や想い出も描かれるところが切ないところだ。ジョエルとエリーは5年の間で気まずい関係になってしまった。それは何故なのか、2人が愛情で結びついているからこそ想い出は美しく、そして戻っては来ない。

 筆者が特に好きなのはジョエルが自然博物館にエリーを連れて行くところ。恐竜の化石の復元モデルなど、社会がしっかりしていた頃にあった施設をエリーは知らない。彼女が「宇宙」を好きなところも印象的だ。現代に生きる我々以上に宇宙開発の物語はエリーにとって絵本の中のおとぎ話なのだ。社会がパンデミックで失ったものの大きさ、現代社会との物語の中の距離を改めて知らされるところだ。

印象的に描かれるジョエルとエリーの博物館の思い出

 一方、アビーにとってはオーウェンとの水族館での思い出がかけがえのないものとなる。オーウェンが発見した彼の秘密基地。オーウェンはその場所を大事にして、力を込めて飾り立てる。その想いはやがて兵士である自分の立場を考えてしまうところまで彼自身を追い詰めてしまうのだが、「ここではないどこか遠くに」という想いは平和な社会に生きる我々はもちろん、極限状態を生き抜く彼等でも当たり前のように抱く夢であることが実感できる。

 「The Last of Us Part II」では「パンデミック後の世界」を前作以上に力を込めて書いているが、エリーやアビーは結局、そこに順応しきれない人間として描かれているのも興味深い。またセラファイトは確かに狂信的なカルトのように描写されているが、ある組織が他の価値観によって歪んだ像に描かれるのはよくあることだ。エリーにとってはWLFもセラファイトも"敵"であって組織の規模も大きさもわからないが、アビー視点では大きく変わる。こういう見せ方も注目したい。

見つけた水族館を熱心に飾り立てていくオーウェン。その原動力が何か、アビーは知ることとなる

 もう1つ、エリーが同性愛者だったり、アビーが筋肉質の女性というところなどで、昨今の欧米エンタメコンテンツに顕著な「ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)」の流れを感じさせる部分があり、本作の批判の1つになっている。確かに「The Last of Us Part II」にはそういった"現代性"を感じる部分はある。

 しかしエリーはディーナを愛しつつも、どこかにディーナの元カレであるジェシーにとられてしまうのではないかという、ディーナを信じ切れない微妙な想いを丁寧に描いている。同性愛への自分自身の価値観のせめぎ合いなど、独特の切り込み方をしていて、安易に流行に乗った付け足し要素ではなく、より幅広い価値観を深く考え、咀嚼しようとする姿勢も見ていきたいところだ。

ジェシーを気遣うディーナ。今の恋人は自分だが、ディーナの目線にエリーは嫉妬を覚える

 何よりも復讐が2人をどう変え、そしてそれはどんな結末へ繋がっていくのか、彼等の復讐の連鎖を見届けるプレーヤーの中に生まれる感情こそが開発者達が生み出したかったものだろう。開発者の問いかけに、自分の心がどう応えたか、「The Last of Us Part II」の物語は他の作品以上にその問いかけに力を込めた作品だと思う。ぜひラストまでプレイし、自分の中に生まれる想いに注目して欲しい。

ローグライクの「NO RETURN」や、ギター練習など追加要素もたっぷり

 「The Last of Us Part II Remastered」は、リマスター版ならではの要素が多く用意されており、PS4版をプレイした人も楽しめる内容となっている。最大の目玉となるのが「NO RETURN」という新たなゲームモードだ。

【『The Last of Us Part II Remastered』「NO RETURN」トレーラー】

 「NO RETURN」は本編に登場した敵と戦いながら、様々なステージを突破していくローグライクサバイバルモードとなっている。各ステージではウェーブが用意され、波状攻撃を行ってくる敵にどう立ち向かうかが鍵となる。プレーヤーキャラクターが死ぬとゲームオーバーとなり、復活することはできない。

 本編同様、プレーヤーはステージ内で資源を集め、即席で武器や物資を作成し、敵と戦っていく。序盤から3人の敵を相手にしなければならず、こちらの戦いの幅も限られている。しかし戦っていくことで能力の強化や武器の強化ができるようになってくる。また今後のことを考えて敵と戦うより素材収拾を優先、ということも必要となるだろう。

 面白いのは資源はもちろん、プレーヤーキャラクターの能力などもゲームオーバーになるとクリアされてしまうところだ。セーブはできない。どこまで強化し、どこまでステージを進められるか、本作のゲームメカニクスを抽出したエキサイティングなモードである。

一度死んだら終わり。ステージをクリアしながらキャラクターを強化していく「NO RETURN」

 このほか、ゲームでは採用されなかったシーンを歩き回り、解説者の思いを聞くことができる「新しい”未公開ステージ”とその解説」、クラシックギターだけでなく色々な楽器を演奏できる「“ギター演奏”モード」、音声ガイドと音声振動機能など多彩な追加コンテンツが用意されている。

 この中で筆者が得に好きなのが「新しい”未公開ステージ”とその解説」だ。なぜこのシーンを企画したのか、どういうものをプレーヤーに見せ、どんな感想を持たせたかったのか、オブジェクトや人物の配置にも細かい意図があり、表現したい物語がある。改めてコンテンツの緻密さ、ゲームに対する開発者の情念を垣間見ることができた。

ゲーム本編に収録されなかったシーンを解説、開発者のコメントも聞ける「新しい”未公開ステージ”とその解説」
クラシックギター以外も演奏できる「“ギター演奏”モード」

 「もういいんじゃないか」、筆者は「The Last of Us Part II」のPS4版をプレイしていたとき、あまりに陰惨な展開に思わずコントローラを離してしまったことがある。この動作がゲームに分岐を与えて、トゥルーエンドではなくても選択肢としてのエンディングが迎えられるのではないかと期待があった。しかしそんなものはなかった。「The Last of Us Part II」はたった1つのエンディングに向かって物語は進んでいくのだ。ゲームならではの物語の幅や、プレーヤーの選択をなくし、開発者のメッセージを叩きつける。本作はそういうゲームである。

 「The Last of Us Part II」は批判の声も大きかったゲームだ。本作のストーリーは物語やキャラクターへ想いを持っていた人が「裏切られた」という感情を抱いてしまう気持ちもわかるところがある。しかし開発者はそれでも人類の未来や人の想いを掘り下げたかった、描きたかった、ということも感じて欲しい。万人が好きな作品を目指すのではなく、批判は覚悟の上であえて作家性を突き詰めた作品だ。

 「The Last of Us Part II Remastered」は強化されたグラフィックスと演出でもう一度物語を楽しむことができる。また、“繰り返しプレイすることで気がつくことも多い”ということに気付かせてくれた。さらに進化したグラフィックスと演出で「The Last of Us Part III」をプレイしたい。そう実感させてくれた作品だった。ぜひ本作をプレイし、一緒に「その先」を期待しよう!