レビュー
「The Last of Us Part II Remastered」レビュー
進化したグラフィックスと、臨場感を増した演出で描かれる復讐の連鎖
2024年1月17日 00:00
- 【The Last of Us Part II Remastered】
- 発売元:ソニー・インタラクティブエンタテインメント
- 開発元:ノーティードッグ
- 1月19日 発売予定
- 価格 5,480円
- 1,190円(PS4版からのアップグレード)
- CEROレーティング:Z(18才以上のみ対象)
- プレイ人数:1人
「The Last of Us Part II Remastered」がいよいよ1月19日に発売となる。本作は、2020年6月にPS4向けに発売された「The Last of Us Part II」のリマスター版だ。本作では様々な新コンテンツも追加されている。
誤解を恐れず言うならば「The Last of Us Part II」は、プレーヤー間で賛否両論を巻き起こした作品である。前作「The Last of Us」とは物語のテイストが異なり、中心となるテーマは「復讐の連鎖」という暗いもので、前作の「ジョエルとエリーが助け合って苦難の道を進む」という物語から大きく変わったところがファンの議論を呼んだ。
今作の主人公は前作からたくましく成長した「エリー」に加え、元ファイアフライの「アビー」が登場する。エリーはアビーを復讐の相手として追い求め、エリーの行動がさらなる戦いと悲劇を生んでいく。そのやりきれない復讐の連鎖がどうなっていくか、物語から伝わってくる開発者の生々しいメッセージ性は強烈だ。だからこそ「好き/嫌い」を生んでしまった面は、間違いなくある。
この強いメッセージ性を持った物語が、PS5のグラフィックスとPS5標準コントローラー「DualSense」の豊かな表現力で楽しめるのだ。本作は激しい戦いも魅力だ。その臨場感ある戦いの感触をリマスター版はさらにのめり込んで楽しめる。特にリマスター版では「NO RETURN」という戦いに特化した新たなゲームモードを収録。よりエキサイティングな戦いを実感できる。また開発者の解説もパワーアップ、より深く世界とキャラクターへの想いを知ることができるのだ。
今回、SIEから発売前にコードを受領し「The Last of Us Part II Remastered」をプレイした。筆者にとってはPS4版以来の2度目のプレイで、プレイをしていて忘れてしまっていたことを思い出したり、新しく発見したことも多かった。「The Last of Us Part II Remastered」はその物語、ゲーム性において優れたゲームであり、多くの人に注目して欲しい作品である。その魅力を紹介していきたい。
より美しく、リアルな感触を伴って描かれる「The Last of Us Part II」
「The Last of Us Part II」は人間の負の部分、戦いと対立、そして血なまぐさい復讐を描く物語だ。しかしそれはただ"悪"を書くのではない。人を愛し、大切に思い、未来を思い描くからこそ、それを奪った人々、立ちはだかる人に人は残酷になれる、そういう"人間"への鋭い視点が感じられる。
そして世界は美しい。人の手が届かなくなったことでたくましい生命力で廃墟を覆う植物、高いビルや荘厳な建物などかつての文明の勢いを感じさせながら、近づくとボロボロになって崩れそうになっている建造物。うち捨てられた建物の中の生活の痕跡……。
さらに「寄生菌」によって一変した世界がある。人の死体を苗床に醜い腫瘍のように壁や床を覆うキノコのような寄生菌。その胞子は人間が吸い込めばたちまち感染させられる。そして人を襲うグロテスクな姿に変わった「感染者」の身の毛もよだつ恐ろしさ。世界が何故変わってしまったのか、見ただけで納得し激しい嫌悪を起こさせる寄生菌の世界もまた、独特の迫力がある。「The Last of Us Part II Remastered」ではPS5のパワーで、美しく、強烈にこの世界を描き出すのだ。
リマスター版最大の魅力はそのグラフィックスだ。プラットフォームがPS5になったことで、解像度モード選択時にネイティブ4Kとなったほか、フレームレートの向上、可変リフレッシュレートがサポートされ、グラフィックスが最新仕様へと進化している。「The Last of Us Part II」の過酷かつ美しい世界をぜひリマスター版でも目にして欲しい。
加えてPS5用コントローラー「DualSense」へのフル対応も魅力だ。弓の引き絞りや、各種武器の引き金の感触はトリガーの抵抗感が変わる「アダプティブトリガー」でより臨場感を持って表現される。「ハプティックフィードバック」による振動での銃の反動や、敵を壁に押しつけるときの衝撃など、本作ならではの緊張と興奮が向上している。
敵との激しいもみ合いの時のコントローラの振動、殺到してくる敵にパニックを起こさないように自分を言い聞かせながら引く銃のトリガー。敵に見つからないように祈りながら引く弓の弦など、リマスター版ならではの感触がゲームをよりエキサイティングにしてくれる。
筆者はPS4版に続き、今回が2度目の「The Last of Us Part II」となる。プレイしてみることで改めてプレーヤーにキャラクターを印象づけるエピソードのうまさや、世界観の細かい描写、ロケーションのリアリティなどより細かくゲームの魅力に気がつくことができたと思う。最初のプレイでは強烈な主人公の想いや、復讐の陰惨さに圧倒されて見過ごしていた部分が多かったのがわかった。
「The Last of Us Part II Remastered」はゲームの再評価と共に、追加コンテンツによりゲームが持つポテンシャルをさらに引き出した作品となっている。世界の美しさ、戦いの臨場感、開発者の想いを実感できるコンテンツや、システムを使った拡張要素などこの世界に没入できる要素が詰まっている。「The Last of Us Part II」をはじめてプレイする人はもちろん、PS4版をプレイした人も、改めて本作に触れて欲しい。
復讐の連鎖の果てにあるものは? 人間の業と社会を鋭く描く衝撃作
ここからはストーリー要素を掘り下げていきたい。「The Last of Us」シリーズは現代文明が崩壊した世界の物語だ。謎の寄生菌により感染した人々が凶暴化、彼等に襲われ傷を負ったり殺されれば同じように感染者となってしまう。菌はキノコのような特性を持ち、胞子をばらまくとその胞子を吸い込んだ人も感染する。感染した人はより怪物じみた存在へ進化し、このパンデミックにより現代社会は崩壊した。
前作「The Last of Us」はパンデミックから20年、かつてパンデミックによるパニックで娘を亡くした男・ジョエルが、菌に対して"抗体"を持つ子供・エリーを、社会が崩壊した今でも寄生菌を研究する組織ファイアフライへ届けるため、感染者や秩序を失い凶暴な盗賊と化した人々のいる荒野を旅することになる。しかしその旅は失敗に終わった。エリーとジョエルはジョエルの弟・トミーのいる集落「ジャクソン」で生活を営むようになる。
「The Last of Us Part II」はジョエルとエリーがジャクソンで暮らし始めて5年後から始まる。ジャクソンに現れた襲撃者にエリーは復讐を誓い、彼等の足取りを追う。得た手がかりはシアトル。襲撃者はシアトルで「WLF(ワシントン解放戦線)」に所属しているようだった。エリーは恋人であるディーナと共に襲撃者グループを追い求めていく。
もう1人の主人公アビーは元ファイアフライだ。ファイアフライはパンデミック後の市民を管理する米陸軍に抵抗していた組織。抵抗活動だけでなく寄生菌の対処や研究なども進めていたが、前作においてリーダーや中心人物を失ってしまい、組織は離散してしまっている。アビーもファイアフライの拠点から離れWLFに身を寄せている。彼女がジャクソンを襲ったのは寄生菌研究の中心人物だった父・ジェリーを殺されたからである。帰還したアビーはシアトルの領土を守るため「セラファイト」という一団との戦いに復帰している。
ゲーム前半は、プレーヤーはエリーとして復讐を遂げていくこととなる。狙うのは仇であるアビーだが、彼女の仲間もターゲットだ。エリーはディーナの助けを得て復讐を進めていくが、WLFとセラファイト、感染者の三つ巴の戦いに巻き込まれていく。前作で子供であったエリーは今作では冷酷な復讐者だ。感染者はもちろん、WLFやセラファイトにも刃を振り下ろす。彼女の戦いは冷酷そのものだ。
その復讐をディーナは支えていく。援護射撃や困ったときのヒントなどゲーム的な視点でもディーナは頼りになる存在だ。しかしディーナは体調を崩し戦線から離れなければならなくなる。それでもエリーは復讐をやめない。たった一人で戦場に赴いていくのだ。
中盤からはアビーの物語が描かれる。筆者が強く印象に残ったのは、アビーのストーリー冒頭のWLFでの生活。WLFは装備が充実したきちんとした軍隊なのだ。そしてアビーは偶然からセラファイトの子供達と知り合う。彼等は戒律を破って同じセラファイトから追われる身であった。敵であるセラファイトであるが、アビーは子供達に手を差し伸べる。
エリーの立場ではただ単に"敵"であった存在が、アビーの立場では彼等も生きた人間、様々な想いや願いを抱えた人間であることをプレーヤーは知るのだ。それはエリーのターゲットとなるジャクソンを襲った仲間達に特に重い。
戦いの意味に悩むオーウェンや、医師としてしっかりした責任感を持つメル、女好きのお調子者だが仲間を思いやる優しさを持っているマニーなど、アビーの立場だからこそ彼等の人間性が見えてくる。しかしそれをプレーヤーが知っても、エリーの立場では彼女の復讐のブレーキにはなり得ない。
筆者はアビーの仲間の1人、オーウェンが言った「クソほど興味もない土地を巡っていがみ合うのはもう嫌だ」というセリフに衝撃を受けた。所属する組織の一員として、兵士として口に出してはいけない言葉。しかしそれは多くの兵士が抱えてる心情の吐露だろう。国が崩壊しても、世界が変わっても、彼等は争い続けなければならないのだ。それは何故なのだろう?
「復讐は何も生まない」、「戦争は悪だ」、そういった言葉は正しい。しかし人間が本当にその正しさを信じ実現できるのか? 「The Last of Us Part II」の物語は前作のファンにはあまりに重く、きつい問いかけをしてくる。しかし今作において開発者は前作以上に「世界」と向き合っていると感じた。作家性が強く、エンターテイメント作品としては人を選ぶ作品であるが、現実の戦争が激化する現代こそ響く物語だと思う。登場人物達にどんな運命が待っているのか、彼等がどんな答えにたどり着くのか、見届けて欲しい。
深いゲーム性がもたらすステルスサバイバルアクション
深く考えさせられる物語と共に、練りに練られたゲーム性を持っているところが「The Last of Us」の魅力だ。本作は「サバイバルステルスアクション」である。手に入る物資は極めて限られていて、弾薬や回復薬など油断するとすぐ底をついてしまう。できるだけ消費を抑えて、兵士や感染者のいるフィールドを突破していかねばならない。
エリーもアビーも優れた兵士だ。彼女達は巧妙に姿を隠し、わずかな物音で敵を探る術を身につけている。物陰に隠れ敵をやり過ごし、忍び寄って背後から襲う。ステルス戦法が戦いの基本だ。特に感染者は菌に視覚を奪われているので物音を立てなければ近づくこともできる。
感染者はその特性による行動の予測もしやすい。特にレンガや瓶を投げ敵を集めたところで火炎瓶でまとめて攻撃するのが有効だ。本作の面白いところは火炎瓶と治療キットで、使う資源が同じところだ。攻撃を重視するか、回復を重視するかでプレイスタイルに個性が出る。難しすぎると感じる人は難易度が下げられるし、難易度を上げて寄りエキサイティングな戦いも可能だ。ノーマルならばリソースも比較的潤沢に集めることができる。
対して人間はやっかいだ。もしこちらが見つかってしまうと連携してこちらを追い詰めようとしてくる。特にセラファイトは口笛で情報交換し、連携を密にしてくる強敵だ。彼等が使う矢は引き抜かなければ継続ダメージを与えてくる恐ろしいもので、プレーヤーをさらに追い詰める。
感染者も進化した個体は強力だ。耐久力が高く、胞子を投げてくる「ブローター」に加え、Part IIでは新種「シャンブラー」が登場。自分の周囲に強酸性のガスを放出する上、2体が同時に出現することが多い。またこちらの隙をうかがってくるストーカーもいやらしい敵だ。
場面によっては敵を全滅させずにゴールまで突き進んだ方が効率的な場合もあるし、時には溜めていた資源を使い切る勢いで火力を投入して突破口を見つける場合もある。また壁や窓枠に相手を叩きつけるなど立ち位置を考えることでより優位に戦える。筆者の場合まだ余裕はないが、極めていくことで"魅せるプレイ"といえるカッコイイ戦い方もできそうである。
部品を使って武器のパワーアップをさせたり、サプリを使うことでプレーヤーキャラクターの能力を上げられるシステムも用意されている。特に武器のパワーアップに関しては、かなり銃器に詳しい開発者がいるようで、その説得力のある描写に注目して欲しい。銃の安定性を上げるため発射ガスによって銃口の跳ね上がりを抑える「マズルブレーキ」を取り付けたり、グリップの感触を個人に合わせるためヤスリでけずったり、リアリティたっぷりの銃の改造を見ることができる。
そして、資源を集めるため本作では探索も重要だ。先に進むために道を急ぐだけでなく、建物の窓ガラスを割って中に入るなどの寄り道をすることで多くの資源を手にできる。特に金庫の鍵は近くにヒントが隠されていることが多いのでしっかり探索したいところ。様々な資源を入手できるので逃さないようにしたい。
次ページではさらにストーリー要素を掘り下げると共に、「NO RETURN」といった新モードなど「The Last of Us Part II Remastered」ならではの要素を紹介していこう。
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