レビュー
ゲーミングヘッドセット「PRO X 2 LIGHTSPEED」レビュー
「ティアキン」妖精のかすかな羽音まで拾うグラフェンドライバーの衝撃!
2023年7月19日 00:00
- 【PRO X 2 LIGHTSPEED】
- 7月20日発売予定
- 価格:オープン
- ロジクールオンラインストア価格:34,650円
7月20日にリリースされるロジクールのハイエンドゲーミングヘッドセット「PRO X 2 LIGHTSPEED」は、プロゲーマー向けにチューニングされたゲーミングデバイス「PRO」シリーズの最新モデルだ。
上位モデルに採用してきたPRO-G 50mm ドライバーをついに更新し、今回の目玉となる「PRO-G 50mm グラフェンドライバー」を新たに採用。有線「PRO X」、無線「PRO X ワイヤレス」の2ラインで展開してきたラインナップも1本に統合。独自のワイヤレステクノロジーLIGHTSPEEDはもちろんのこと、PROシリーズ初となるBluetooth接続にも対応するほか、3.5mm有線接続にも対応、さらにワイヤレスレシーバーの3.5mmポートを活用することで多彩なミックス再生にも対応するなど、クオリティと機能性を両立させた新世代のハイエンドゲーミングヘッドセットとなっている。高品質、高機能を求めるゲーマーに向けた1台をさっそくご紹介していこう。
プロ向けがゆえにかゆいところに手が届かなかった「PRO」シリーズ
ゲーマーならご存じの通り、ロジクールのゲーミングシリーズは「G」シリーズと「PRO」シリーズで構成されている。オーディオについてはASTRO、UE、Blueといった子会社のオーディオブランドから直接的、間接的なサポートを受けながら、「G」はゲーマー向け、「PRO」はプロゲーマーを筆頭としたeスポーツアスリート向けにそれぞれチューンナップされており、「PRO X」はその最上位モデルとなる。
今回最新モデルが登場した「PRO」シリーズは、もともと非常に野心的なブランドで、プロやeスポーツアスリートだけが求める機能“だけ”を入れて行くというコンセプトで、「G」シリーズから機能をそぎ落とし、一点突破を図ったモデルだ。ただ、それだけに普通のゲーマーの視点から見ると、若干とっつきにくいところがあった。
2019年に登場した「PRO X」は、当時、ゲーミングヘッドセットにはまだLIGHTSPEEDは導入されていなかったため、無線ではプロが求める低遅延を実現できないため、あえて有線接続のみという割り切った仕様になっていた。その翌年、2020年に登場した待望の無線モデル「PRO X ワイヤレス」は、逆にLIGHTSPEED接続のみという振り切った仕様にとなった。
ゲーミングデバイスというのはおもしろくて、ゲーマーが欲しい機能全部載っければ最強かというとそういう話にはならない。機能を付ければ付けるほど、重量は増し、バッテリー持続時間は短くなる。当然価格にも跳ね返るわけだ。プロにとって、ゲーミングデバイスは消耗品であり、必要な機能だけに絞って安価で提供してくれるのが一番ありがたい。「PRO」シリーズはまさにそういうブランドであり、プロに満足して貰うためだけに存在していたブランドと言って良い。
ただ、「プロゲーマーにはBluetooth接続やミックス再生は不要」というのは、それはそうかもしれないが、筆者のような全プラットフォームでゲームを遊びたいゲーマー的には、甚だとっつきにくいブランドであったことは確かだ。
「PRO X 2 LIGHTSPEED」は、3年振りの新モデルということで、前述したようにラインナップも1つに統合され、待望のフルモデルチェンジということで、かゆいところに手が届くモデルとなっている。価格は34,650円とロジクール史上最高額を更新しているが、その価格に見合う音質と機能にこだわったとしている。果たしてどうなのか。外観、音質、そして機能について、順番に見ていこう。
あらゆる点で使い勝手が向上した外観
【PRO X 2 LIGHTSPEED】
本体サイズ:95×176×189mm(幅×奥行×高さ)
本体重量:345g
本体デザインは「PRO X」シリーズを踏襲しており、ぱっと見では違いはわからない。ただし、実際に比べてみると、サイズ、重量、そしてボタン類まで、すべてリニューアルしている。
サイズについてはPRO Xと比較して、ミリ単位でわずかに大きくなっているが、重量は25gほど軽くなっている。サイズ感はほぼ同じだが重量が変わっているのは、本体の素材がスチールからアルミ(フォーク部分のみ、ヘッドバンド部はスチールのまま)に変化しているためで、PRO Xはスチールならではの剛性が特徴で、ガッチリ包み込むタイプだったが、アルミ素材が取り入れられたPRO X 2はやや剛性が大人しくなり、圧迫感が減った印象だ。重量については正直違いは感じられず、重量感はある。とりわけ、「G」シリーズは小型軽量でありながら多機能なモデルが増えており、過去に筆者が満点を出したG735の165gと比較すると、余裕で倍以上の重量がある。軽さを求めるなら「G」シリーズの他のモデルが良いだろう。
外観面の大きな変化は、イヤーカップが回転式(スイーベル)になったことだ。これにより格段に装着しやすくなっており、少し片耳だけ外たり、両耳から外して一時的に肩に掛けるといった操作が格段にし易くなった。地味だが便利な機能だ。
イヤーパッドは、デフォルトの合皮イヤーパッドに加えて、ソフトタッチのクロスイヤーパッドが同梱されている。汗っかきの筆者は、べたついてしまう合皮パッドより、優しい肌触りのクロスパッドが好みで、PROの時代から使っている。今回のすぐ切り替えたが、この装着感はロジクールGシリーズの中では指折りの快適さ、ハイエンドらしい装着感だ。
そして忘れてはならないのがカラバリだ。「PRO X 2」には、標準色の黒に加えて白も用意されている。筆者はAURORAコレクションを試してから、白の楽しさに気付き、意識的に白をどんどん取り入れている。G502 Xの白や、AURORAコレクション マウスパッドの白とも馴染みとても良い感じだ。好みに応じて選択したいところだ。
PROシリーズ史上最高の多機能モデル
続いて機能面を見ていく。「PRO X 2」は、先述したように過去のPROシリーズを知るユーザーはビックリしてしまうほど多機能なモデルだ。まずはスペックを確認してほしい。
【ヘッドホン部】
ドライバーユニット:グラフェン 50mm ドライバー
感度:87.8db SPL@1mW & 1cm
周波数特性:20Hz-20kHz
インピーダンス:38Ω
【マイク部】
集音特性:カーディオイド(単一指向性)
周波数特性:100Hz-10kHz
マイク:着脱式 大口径6mm マイク
【接続方式】
・LIGHTSPEED接続:USB 2.0 ポート(USB-A/USB-C ポート)
・Bluetooth 接続:Bluetooth オーディオ対応デバイス
・3.5mm 有線接続
※Bluetooth 5.3搭載
バッテリー駆動時間:最長50時間
ワイヤレス通信範囲:最長30m
過去のPROシリーズは、有線のみ、LIGHTSPEEDのみといった、“突く”ことのみに機能を集約させた槍のようなシリーズだったが、今回の「PRO X 2」は接続だけ見ても、有線、LIGHTSPEED、Bluetoothに対応しており、斬って良し、払って良し、突いて良し、受けて良しの日本刀のような総合力の高さがある。
ポイントは4点ほど。1点目は、新開発されたドライバー「グラフェン 50mm ドライバー」を初めて採用したことだ。詳細は音質のパートで解説するが、これによりロジクールGシリーズ最高クラスの高精細オーディオ環境を実現している。
2点は、多彩な接続方式だ。有線、LIGHTSPEED、Bluetoothの3点で、残念ながらG735のようにこれらを組み合わせる形でのミックス再生には対応していない。ただし、LIGHTSPEEDのレシーバーに3.5mmポートが別途用意されており、同梱のオーディオケーブル経由で、LIGHTSPEED+3.5mmのミックス再生には対応している。
筆者はPCとコンソールでスピーカー環境も用意しているが、モニターとスピーカーを繋ぐオーディオケーブルをLIGHTSPEEDレシーバーに繋いだところ、SwitchやPS5と、PCのサウンドを同時に聴くことができた。PCでLINEやDiscord等を繋げば、ゲーム外でボイスチャットしながらゲームを楽しむことも可能で、確かにLIGHTSPEEDとBluetoothの完全ワイヤレスミックス再生と比較すると利便性の点で一歩劣るが、3.5mmポートがあれば何でも引っ張ってこれるのはおもしろい。色々可能性がある機能だ。
そして3点目は、バッテリー持続時間の長さ。なんと50時間も持続してしまう。前モデルのPRO Xが20時間、筆者が満点を出したG435が18時間、ミックス再生にも対応したGシリーズ最高峰モデルのG735が16時間と数字を出していくと、PRO X 2のバッテリー駆動時間の長さがいかに突出しているかがわかるだろう。
ゲーミングヘッドセットでもっともイヤな瞬間はバッテリー切れだ。マウスやキーボードと違って、ヘッドセット利用時は常に相手が居る。ビデオ会議中のバッテリー切れは非常に困る瞬間だ。しかし、ゲーミングヘッドセットの多くは、なぜか自分が見えもしないLEDを装備し、わざわざバッテリー駆動時間を短くしている。PRO X 2がPROシリーズから踏襲し続けているのは「LEDがない」ということで、これは正しい選択だと思う。いずれにしてもPRO X 2は50時間も持つため、週に1度の充電で充分だ。今回「グラフェン 50mm ドライバー」の検証のために、かなりの長期間PRO X 2を使ったが一度もバッテリー切れを起こさなかった。
そして4点目はワイヤレス通信可能範囲が30mもあることだ。ワイヤレス通信可能範囲は、あまり聞き慣れない項目だと思う。メーカーによっても出したり出さなかったりで、意識しているゲーマーもあまりいないかもしれない。ロジクールで言うと、毎回出しており、10mから15mの範囲。PRO X 2は倍以上の数字を実現していることになる。
それでこれがどういう意味があるかというと、LANパーティーや、大きなプロジェクターを使うなど広大な空間でのゲームプレイがし易くなるというのが模範的な回答だが、そういう機会が頻繁にあるというゲーマーはほとんどいないだろう。
現実的なところでいうと、ゲームプレイ中にこっそりトイレに行ったり、冷蔵庫に飲み物を取りに行ったり、急な雨でベランダの洗濯物を取りに行ったりなど、ゲーマーあるある的な行動を取る際にヘッドセットを付けたままでもまったく支障が無いというのがこれまた地味だが非常に便利だった。筆者が言う“かゆいところに手が届く”とはこういった部分も含めての評価だと思ってほしい。
ゲーム世界の隅々までの音を拾う「PRO-G 50mm グラフェンドライバー」
この「PRO X 2」で一番気になっているのは音質はどうか、だろう。PRO Xユーザーにとってはわざわざ3万円以上出して新たに買い換える価値があるのか、G435やG735ユーザーからすれば、わざわざそのハイエンドの高みにチャレンジする価値はあるのか。あるとすればそれは音が良いかどうか、その1点だろう。
「PRO X 2」の音質の鍵を握るコアテクノロジーが「PRO-G 50mm グラフェンドライバー」である。このグラフェンドライバーとは何かというと、ヘッドセットの心臓部といえるオーディオドライバーの振動板に、グラフェン素材を全面を採用したもので、ロジクールによれば、世にあるグラフェンドライバーのほとんどは、表層をグラフェンでコーティングしただけであり、グラフェンで振動板を構築した、真の意味で初のグラフェンドライバーだとしている。
果たしてその実力はどうなのか。そこで筆者は今回、1カ月以上に渡ってあらゆるゲームで聴き倒した。「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム(ティアキン)」から「ストリートファイター6」、「ファイナルファンタジーXVI」、「ディアブロIV」などなど。この春夏シーズンは新作ゲームが大豊作であり遊ぶゲームに困らない。あらゆるゲームでPRO X 2を試してみた。
比較対象は、前モデルである「PRO X ワイヤレス」と、ソニーハイエンドゲーミングヘッドセット「INZONE H9」と同グレードを揃えた。普段使いで、ゲーミングイヤホンのG FITSやゲーミングスピーカーG560、Sound Blaster Katana v2なども使っているが、セグメントが異なる製品なので評価から除外している。
結論から書くと、PRO X 2の「PRO-G 50mm グラフェンドライバー」は、明らかに耳に届く音が違う。それは音質とは別軸のもので、ひとつひとつの音の解像度の高さ、同時に音が発生した際の鳴らし分け、主旋律に対する各サウンドエフェクトや環境音の鳴りっぷり、そのトータルとしての音場の構築。これらが他と比較して圧倒的に優れている。
もう少し言葉を重ねると、たとえば、INZONE H9は、オーディオメーカーとしてのソニーらしい高音、中音、低音のバランスの良さ、指向性の高さ、一方、PRO Xは、まさにゲーミングらしい、輪廓のクッキリとしたデジタル音が特徴的で、ゲームプレイを阻害しかねない低音は意図的に弱めている。それらは言わばメーカーの味付けの部分であり、主旋律や環境音をしっかりゲーマーに届けるという意味ではいずれも役目は果たされている。
ではPRO X 2はどうかというと、これだけが他で聞こえない音をガンガン拾ってくる。正確に言うと、すべてのスピーカーやヘッドセットでもその音は平等に鳴っているのだが、PRO X 2だけ、その主旋律や環境音、サウンドエフェクトのその奥にある“かすかな音”に気付かせてくれる。トータルとして他とは比べものに鳴らないほど豊かな音場を構築してくれる。
具体例を挙げると「ティアキン」のウマナリ楽団。4人の全メンバーを揃えると、馬宿で賑やかな四重奏を奏でてくれるが、「ティアキン」はオープンワールドのゲームであり、楽団が四重奏を奏でている間も、刻一刻状況は変わっていく。草木がざわめく音、人びとの足音、風の音、虫の鳴き声、小鳥のさえずり。夜になればフクロウが鳴り、雷が近づけば雷音、轟音が近づいてくる。つまり、賑やかな四重奏に合わせて、5つも6つも同時に音が鳴っているわけだが、PRO X 2だけが、これらを綺麗に聞き分けることができる。
あるいは妖精やシズカホタル、ルミーといった小さな存在。これらも固有のサウンドエフェクトを備えている。妖精が放つキラキラとした羽音、ルミーが動く度に放つ鈴の音のようなリズミカルな動作音、シズカホタル遭遇時に鳴る透き通るような音、あるいは離脱時の羽音。プレイ中、これらの音にどれだけ気付いただろうか? 筆者は「PRO X 2」で、これらの細やかなサウンドエフェクトの存在に気付くことができた。
繰り返しになるが、他の環境でも実際には同じように鳴っているのだが、小さすぎたり、他の音とのバランスが悪すぎてかき消されている。「PRO X 2」のみがクッキリハッキリ、綺麗にすべての音を出している。
「PRO X 2」については「Counter-Strike: Global Offensive」界のスターであるG2のNikoが「もはやゲームをするのに欠かせない必需品」と絶賛しているが、筆者も、このゲーム世界の隅々の音までしっかり届けてくれる「PRO-G 50mm グラフェンドライバー」は素晴らしいとしか言いようがない。とりわけ、好みの分かれる音質で勝負しているのではなく、解像度の高さ、総合的な音響性能が高いのが気に入った。「これは買い」と言い切って良いゲーミングヘッドセットだ。
やっと全ゲーマーにお勧めできるプログレードのゲーミングヘッドセットが登場
筆者はロジクール担当として、数々のGシリーズやPROシリーズのゲーミングヘッドセットに触れてきて、音が変わらないことが不満だった。エントリーからミドルは40mmドライバー、上位モデルは50mm PRO Gドライバー。原則この2種類しかないのだから当然だ。
直近では「G FITS」のような変化球も来るようになってきたが、G/PROシリーズはオーディオデバイスなのに、肝心の音にほとんど変化がないため、デザインと機能メインで評価せざるを得ないというのが担当として残念だった。しかし今回は新兵器「PRO-G 50mm グラフェンドライバー」を引っさげ、真の意味でフルモデルチェンジを果たした。その試みは成功しているように思う。
オーディオの世界は果てしなく、“原音を忠実に再現する”、この理想の実現のために日夜新しいデバイスが生まれ続けている。ただ、ゲーミングオーディオの世界は、その“原音”がない。ゲームの状況に応じて変化するインタラクティブオーディオが主流だし、そこに無数のサウンドエフェクトがのっかってくる。だから、その中で重要な音だけをピックアップしてブーストして聞こえやすくする。これがゲーミングオーディオの基本的な考え方だ。
それはプロを含めたeスポーツシーンでは効果的に作用し、大きなマーケットを構築することに成功したが、逆に言えば“原音を忠実に再現する”というオーディオの原理原則を忘れてしまった側面もあると思う。「PRO X 2」は、そのことに気付かせてくれる良い機会になったし、ゲーム内の音が全部綺麗に耳に届くことの感動を改めて教えてくれた。是非全ゲーマーに試して貰いたいゲーミングヘッドセットだ。