レビュー

ワイヤレスゲーミングイヤホン「G FITS」レビュー

長時間使用でも耳が痛くならない! ゲーマーに最適なLIGHTSPEEDイヤホン

【G FITS】

4月27日発売予定

価格:35,750円

カラー:ホワイト、ブラック

 ゲーミングオーディオの世界は、間口は広いものの、その奥は長く、深い。マウスやキーボードのように何か1つ手に入れれば、とりあえずそれで賄えるというものではなく、状況に応じて使い分ける必要がある。

 もっともポピュラーな存在はゲーミングヘッドセットだろう。大ボリュームでも安心。大型ドライバーで迫力のサラウンド環境、付属のマイクも高性能なものが増えている。まさに王道だ。

 対抗馬としてはゲーミングスピーカー。音が外に漏れるためボリュームに注意で、マイクも別途必要になるが、サウンドを体で感じとることができ、真の意味でのサラウンドが堪能できる。最近は吸音・防音ソリューションも充実してきて一気に実用圏内に入りつつある。

 そして最近急速に戦線を拡大しつつあるのがゲーミングイヤホンの分野だ。元々スマホに標準装備されている親和性の高さ、小型軽量の取り回しの良さから支持者の多いカテゴリだが、逆に言えばわざわざ買い換えさせるだけの明確な差別化が難しいため、大手メーカーからも長らく有力商品が出て来なかった分野でもある。この春、ロジクールから、待望のゲーミングイヤホンの新作「G FITS」がいよいよリリースされる。発売に先駆けて体験することができたのでレビューをお届けしたい。

【G FITS】
カラーはブラックとホワイトの2色展開

ゲーミングイヤホン最後発のロジクールの秘密兵器「G FITS」

 ゲーミングオーディオの分野でも存在感を発揮するロジクールだが、ゲーミングイヤホンに参入したのはわずか2年前だ。「League of Legends」とのコラボゲーミングイヤホン「G333 LoL K/DA」を2021年にリリースした後、その普及モデルとして無印「G333」を2022年にリリース。そしていよいよ2023年4月に、大本命と言えるLIGHTSPEEDに対応したワイヤレスゲーミングイヤホン「G FITS」を発売する。

 この「G FITS」は、親会社Logitechのグループ子会社Ultimate Ears(UE)のオーディオテクノロジーと、ロジクールGのゲーミングテクノロジーを融合させたモデルで、原型となる「UE FITS」は2020年に発売されている。その発展系となる「G FITS」は海外では2022年10月に発売済みで、「UE FITS」は日本では未発売だったため、「G FITS」もこのまま発売しないのかと思いきや、海外での発売から半年、急遽発売となった。

【UE FITS(日本未発売)】
見ての通り、見た目は「G FITS」とまったく同じ
こちらはグレイ、ブラック、ライラックの3色展開

 ロジクール関係者によるとこの半年間「準備していた」という。何を準備していたかというと、「G FITS」の最大の特徴であるイヤーチップの成型に関するサポート体制の構築だという。そのほか、ペアリングがうまくいかない、アプリとの連携がうまくいかないなど、ワイヤレスにまつわるサポート体制を整えるために時間が掛かったようだ。裏を返せば、それだけ日本市場を本気で開拓するつもりだということだ。

【G FITSパッケージ】
G FITSパッケージ
パッケージを開けると最初に見えるQRコードからアプリをインストール
QRコードが描かれたカバーを外すと、本体とケースが見えてくる
ケースの裏地が色が変わっていて楽しい
同梱物は、本体、ケースのほか、USBドングルと充電用のUSBケーブルが付属している

 この「G FITS」が実現している「LIGHTFORM」と呼ばれるイヤーチップのカスタムフィットテクノロジーは素晴らしい。もともとの発想は、プロのアーティストの世界で利用されているカスタムIEM(インイヤーモニター)のカスタムメイドを、自宅で手軽に安価に実現するというものだ。カスタムIEMでは、専門ショップに赴き、耳型を取るという文字通りのオーダーメイド仕様で、その分だけ価格もプロ仕様で、数十万円するのもザラだが、「G FITS」なら3万円台でサクッとカスタムメイドのイヤホンが作れるというわけだ。

【LIGHTFORM】
特許取得済みの成型テクノロジーをLIGHTFORMと呼んでいる

 オーディオデバイスとしてのイヤホンの弱点は、その構造上、イヤホンを差し込む外耳を圧迫し続けるため、その密閉感、直結感の代償として、時間が経つにつれて耳が痛くなってしまうことだ。筆者も、音の直結感と遮音性の高さ、そして携帯性の良さからイヤホンやワイヤレスイヤホンを好んで使っているが、耳が痛くなってしまうことがどうしても避けられない。

 この点、「G FITS」は、長時間使っていると耳が痛くなるという、イヤホンの致命的な弱点をほぼ克服している。ゲームはその性質上、5分、10分ではなく、1時間、2時間、場合によってはそれ以上の長時間連続してプレイし続けることがある。筆者は毎日数時間ゲームプレイの時間に充てているが、今回のレビューでは基本「G FITS」を装着してゲームをプレイし続けたが、いつまで経っても耳が痛くならず、外したくならなかった。ウォーキングやランニングでも使ってみたが、ズレ落ちる感じもない。適度な密着感がありながら耳が痛くならない。個人的にはこれはイヤホン体験では初のケースで、これだけでも筆者的には“買い”だ。

 “ほぼ”を付けたのは何かというと、耳という複雑な形状をした器官だけに、LIGHTFORMといえども完璧なソリューションにはなっていないことだ。具体的に言うと、ボイスチャットしながらだと、口の動きに連動して外耳も動き、徐々にゴロゴロ感が出てくるため休憩を挟みたくなるし、仕事が忙しくて明らかに疲れているようなタイミングで装着すると、耳がむくんでいるためか、収まりが良くない。ただ、いずれにしてもずんずん痛くなって「もう限界!」という感じにはならない。

 このLIGHTFORMテクノロジーに、LIGHTSPEEDによる超高速無線接続、それが3万円台。この価値がわかるゲーマーはここで即決していいし、以下は読む必要がない。ここで即決できなかった方のためにもう少しディテールを掘り下げてみよう。

サポート体制も充実。ワクワクするLIGHTFORM体験

 ここからはLIGHTFORMについて具体的に紹介していこう。

 「G FITS」のイヤホン本体は、ケースの中で密封された状態で収まっている。開封すると、イヤーチップがふにふにした柔らかい素材になっており、素材が劣化しないように密封されていることがわかる。

【成型前のイヤーチップ】

 ケース内の案内に従い、専用アプリをインストール。その後は、アプリの案内に従っていくだけでLIGHTFORMが完了する。アプリインストール含めて事前準備が数分、成型を待つ間が60秒。10分内外で準備が完了する。成型中は、アプリ画面に幾何学的な風景が表示されながら、G FITSからはポップなBGMが流れ、耳がほんのり熱くなる。そしてこの成型中だけLEDが発光し、わざわざその風景を記念撮影させてくれる。なかなか楽しい儀式だ。

【LIGHTFORM】
まずはペアリングする
耳に装着後、軽く本体を押さえる
成型中。結構大きめのサウンドが鳴るため、外の声が聞こえなくなる
LIGHTSPEEDの設定。PCを持っていない場合、後回しにしたい場合は飛ばして良い
以上で完成。わずか数分のプロセスだ

 少し気になったのは、このLIGHTFORMの成型プロセスは、やり直し不可の一発勝負の割に、ステップがやや煩雑で、スマートフォンへのペアリングに慣れている人でないとわかりにくいだろう。分からない場合はカスタマーサポートがこの設定も手伝ってくれるということなので遠慮無く問い合わせるといい。

【ペアリング】
アプリからペアリングを促されるが、ここは手動。いったんアプリから離れて設定に切り替える必要があるが、ちょっとわかりにくいと思う

 なお、成型がうまくいかなかった、耳のサイズが通常と異なりサイズが合わない、あるいはフィット感に違和感があるといった場合もカスタマーサポートを頼ることができる。ちなみにイヤーチップはMが標準で同梱しているが、S、M、Lの3サイズが存在し、交換も可能。さらに夏期以降は、スペア用として購入することも可能で、価格は1組4,950円を予定しているという。

 筆者は今回、ホワイトとブラックで2度「LIGHTFORM」を試した。1回目は軽めに挿入、2回目はやや奥まで挿入して成型してみたが、いずれも装着感、聞こえ方は変わらなかった。考えて見れば、挿入した耳の形に即して成型しているだけなので、装着感が変わらないのは当然のことだ。左右ともに、もっとも自然な位置でLIGHTFORMを行なうのがオススメだ。

【カスタマーサポート】

ロジクールGの伝家の宝刀“LIGHTSPEED”に対応した唯一のワイヤレスイヤホン

 続いて接続方式について見ていこう。「G FITS」は、BluetoothとLIGHTSPEED、2種類の接続方式に対応している。Bluetoothは汎用のSBCとAACの2種類のコーデックに対応しており、高音質、低遅延のAAC接続を「ゲームモード」と呼んでいる。

 Nintendo SwitchはAAC非対応のため、自動的にSBCでの接続となるが、iPhoneをはじめとしたスマートデバイスではゲームモード(AAC)が利用可能だ。これは自動認識して切り替わってくれるわけではないため、AAC対応デバイスに接続する際は、アプリでゲームモードのアイコンをタップして切り替える。音の遅延についてはほとんど認識できないが、音質についてはゲームモードに切り替えることで一段向上するのがわかるはずだ。

【BluetoothとLIGHTSPEED両対応】

 そして「G FITS」最大の魅力が何度も繰り返しているようにイヤホンでありながらLIGHTSPEEDに対応しているところだ。BluetoothのSBCで約0.2秒、AACで約0.1秒ほどの遅延があるとされるが、LIGHTSPEEDでは人間の脳が知覚できる限界値とされる0.01秒よりも少ない遅延で、有線同等の高速通信を実現している。

 このLIGHTSPEEDは、PC、Macのみならず、PS4、PS5、そしてNintendo Switchにも対応。ドライバインストール不要でUSBポートにドングルを差し込むだけでLIGHTSPEED接続が可能となる。

 これにより、日頃はゲーム機やPCではLIGHTSPEEDで楽しみながら、スマホやSwitchはBluetoothで、という非常にお手軽で便利な使い方ができる。LIGHTSPEEDとBluetoothの切り替えは、本体を3回タップするだけ。片手でサクッと切り替えができるのは心地よい。

 自宅ですべてのゲーム機で試してみたが、もっとも相性の良いゲーム機はNintendo Switchだった。というのも、TVモードで遊ぶときは、ドックのUSBポートにドングルを差し込めばLIGHTSPEED接続、ドックから外して携帯モードにすると自動的にBluetooth接続に切り替わる。逆にドックに繋いでTVモードに戻す時は、LIGHTSPEEDに手動で繋ぎ直す必要があるのが玉に瑕だが、非常にスマートだと感じた。

【Switchは両対応で相性抜群】
Nintendo Switchは、USBドングルを差せばTVモードはLIGHTSPEEDで接続が可能。
【PS5はLIGHTSPEEDのみ】
PS4/5はUSB接続によるLIGHTSPEED接続のみとなる
PS5はType Cへの接続も可能だが、かなり長くなる
音声出力画面
マイク画面
Bluetoothでは機器として見つかるものの接続はできない
【PCではG HUBを利用可能だが機能は限定的】
PC/MacでLIGHTSPEED接続するとG HUBが利用できるが、アプリと比較して機能は制限されている。なぜ肝心のLIGHTSPEEDで機能を制限するのか。ここは明確にマイナスポイントだ

 なお、G FITSを使っていて唯一残念だと感じたのは、ミックス再生に対応していないことだ。ミックス再生は、複数の機器の音声を同時に出力する機能で、ゲーミングヘッドセットではもっともホットな機能と言っていい。スマホでボイスチャット(通話)しながらゲーム機で遊ぶでもいいし、好きな音楽を鳴らしながらゲームをプレイするでもいい。そういうワガママなニーズに応えてくれるのがミックス再生だ。

 現状ロジクールGでは、ハイエンドのG93xシリーズおよび、最新型のG735のみがミックス再生に対応しており、G FITSは残念ながら非対応となった。理由を問い合わせると、グローバルではミックス再生に対するニーズはそれほど高くなく、開発当初から想定していなかったという。

【G735】
LIGHTSPEED&Bluetoothでのミックス再生に対応したG735

 ミックス再生に対応していないのは残念だが、G FITSはワイヤレスイヤホンでありながら、LIGHTSPEEDに対応した点が大きなセールスポイント。ミックス再生は後継モデルでの対応を期待したいところだ。

【USBドングル問題】
USBドングルはケースに収納できない。これは地味に不便だ
Switchケースのカートリッジ入れに置いたらなかなか収まりが良かった

音質は必要十分。長時間プレイでも耳が痛くならない&LIGHTSPEED対応が最大の魅力

 最後に、気になる音質について紹介しておきたい。冒頭でも触れたようにG FITSのベースとなっているのはUE FITSだ。UE FITSをベースに、LIGHTSPEED対応を果たしたのがG FITS、という説明で大方合ってるが、厳密には細かい仕様が進化している。

【UE譲りの音質】

 Bluetoothのバージョンは5.0から最新の5.2に進化し、耐水性もIPX3からIPX4に進化、ドライバーについては口径は10mmのまま変更はないものの、ゲームで特に重要視される高音域と、ボイスチャットで重要になる中音域がよりクリアに鳴るような改良が加えられてるという。

 筆者は今回、PS5、Nintendo Switch、PC、iPhoneで、ゲームのみならずアニメの視聴や、音楽再生など、あらゆるシーンで使用してみたが、確かにゲームとの相性が良いクリアな音質だと感じた。

 UE FITS譲りのビームフォーミングマイクも良好で、相手に聞こえづらさは与えず長時間にわたって良好なボイスチャットが可能だった。このコンパクトさでしっかりとしたマイク性能を備えているのは素晴らしい。ボリュームもイヤホンとしては必要十分で、総じてゲームでの利用はまったく問題ない。

【ビームフォーミングマイク】
G435で話題を集めたマイク埋め込み式のビームフォーミングマイク

 その一方で、低音は若干もの足りない。AppleのワイヤレスイヤホンPowerBeats Proで体感できるようなガツンとした低音がない。低音が大事な音楽、たとえばジャズなどを聴くと明らかにパンチが足りない。イコライザーには「低音ブースト」のプリセットも用意されているが、単に高中音域をカットしただけの期待外れの音になっただけだった。

 音質について言えば、同じ価格帯、あるいはもう少し安い価格帯でもG FITSを上回るイヤホンはいくらでもある。音質を重視するか、機能を重視するか。このあたりがチョイスの分かれ道になるだろう。

【ワイヤレスイヤホン】
筆者が利用している主なワイヤレスイヤホン。G FITSは純粋に音質だけ言えば、上位に食い込むものではないが、ゲーム利用で考えれば、迷いなくG FITS一択だ

“速いイヤホン”が欲しいアクティブなゲームファンにぜひ!

 機能面についてもう少し補足をしておくと、まず、アクティブノイズキャンセリング機能がないことを不安視するゲームファンもいると思うが、LIGHTFORMによるパッシブノイズキャンセリング(物理的な設計やフィット感によるノイズの低減)が非常に優秀で、なくてもまったく困らなかった。

 むしろゲーミングというカテゴリのプロダクトであることを踏まえると、音質を削ってまでアクティブノイズキャンセリング機能を入れることが果たして必要なのかとすら思うし、飛行機の機内や、鉄道のガード下でどうしても頻繁にゲームしなければならないというような奇特な方以外はなくても困らないと思う。

【パッシブノイズキャンセリング】
G FITSの大きなアドバンテージはLIGHTFORMによるカスタムフィットだ
有線のG333との比較
3人による成型の違い。拡大して見ると微妙に異なるのがわかるはずだ
耳の痛さはイヤパッドでは解決できない

 G FITSの操作は、タップ式。主な機能は3つで、LIGHTSPEED/Bluetooth切り替えが3タップ、マイクオン/オフが2タップ、ボリュームアップ/ダウンが1タップとなっている。

 このタップ操作は若干慣れが必要で、接続切り替えのつもりでマイクがオフになったり、ボリュームをいじるつもりでやっぱりマイクがオフになったりなど、誤操作してしまうことがあった。また、今の状態が確認できないのもマイナスだ。このあたり、せっかく専用のスマホアプリがあるのだから、バッテリーの残量以外に、今の状態を表示したり、マイクやボリューム操作を可能にしても良いと思う。

 ちなみに出荷時のバージョンでは、装着時にタップ操作を誤認識されることがあったが、これはファームウェアアップデートで無効になった。その他、接続安定性の強化やマイクのオーディオ処理改善など、細かいバグが修正されているので使用する前にファームウェアアップデートを実施しておきたい。

【ファームウェア更新を忘れずに】
ファームウェアはPCにLIGHTSPEED接続することで更新が可能

 G FITSのレビューを開始して約1カ月になるが、すっかり外出時に欠かせないアイテムになった。とにかく嵩張らないため、出先でのゲーミングに重宝するし、帰宅後もLIGHTSPEEDでそのままイケるのがいい。なんといっても長時間使っても耳が痛くならないため、そういう使い方が可能なのだ。

 音質については純粋に価格帯で見ると“中の中”というところだが、ゲームプレイ時に欲しい音はしっかり鳴ってくれるし、そもそもこの超小型デバイスにオールインを求める時点で無理ゲーだろう。ゲーマーとしては“イヤホンでLIGHTSPEED”という時点で合格点を出したい。“速いイヤホン”が欲しいアクティブなゲームファンにぜひ使って貰いたいゲーミングギアだ。

【G FITS】
【ライラック】
UE FITSに用意されているライラック。新色の登場にも期待したいところだ