レビュー

「HUMANITY」レビュー

映像美だけじゃない“骨太さ”に注目。「人の群れ」から生まれる練られたパズルアクションに

【HUMANITY】

対応プラットフォーム:PS5/PS4/PC(Steam)

5月16日 発売予定

価格:3,410円

 エンハンスは、パズルアクションゲーム「HUMANITY」を5月16日に発売する。プラットフォームはPS4、PS5、Steamで、PlayStation Plusエクストラ及びプレミアムの会員は発売日当日から無料でプレイすることが可能だ。

 プレーヤーは1匹の柴犬となって、ステージ上に現れる群衆の列をゴールへと導いていくというゲームが展開する本作。美しい映像作品のような見た目とは裏腹に、よく考えられたゲームシステムと作り込まれた90以上のステージの完成度が高く、ステージのエディット&投稿機能やVR機器にも対応した、遊びでのある内容となっている。

プレーヤーの柴犬とともに、主人公といえる存在の群衆。個体もそれぞれ制御されていて、群衆から離れたときも独立して動く

 ユニクロのウェブディレクションや、KDDI端末「INFOBAR」のUIデザイン、NHKの「デザインあ」のディレクションなど、映像関連のコンテンツを多数手がける、気鋭の映像クリエイターの中村勇吾氏が、齢50才を過ぎて初めて挑戦したゲームタイトルで、同氏が代表をつとめるtha ltd.が開発を手がけ、エンハンスがパブリッシングを担当している。

 弊誌では中村氏並びにエンハンスのプロデューサー水口哲也氏へのインタビューをお届けしているが、本稿ではそのプレイレポートをお届けしていきたい。

【【日本語字幕版】『HUMANITY』- Reveal Trailer | PS5/PS VR2, PS4/PS VR, Steam】

無限に現れる人の群衆を柴犬が誘導。ゴールとなる光の柱にたどり着かせるのが目的

 全ての人類から自我が失われた世界で、唯一理性と意志を保ち続ける最後の指導者が、本作のプレーヤーキャラクターとなる柴犬だ。なぜ柴犬なの!? という話はひとまず置いておいて、プレーヤーはこの柴犬を操作して、意志も目的も失った人間達をゴールとなる「光の柱」へと導くことがゲームの目的となる。ゲームのストーリーはプレイ中のメッセージとして挿入され、ゲーム進行を妨げず、なおかつプレーヤーの脳裏に刻まれる演出だ。

柴犬となったプレーヤー。何者かが意識に話しかけてくる

 ゲームはステージクリア型のアクションパズルで、箱庭状のステージの特定の扉から列となって現れる人の群れを誘導してゴールへと導くことが目的となる。人の群れに意志はなく、常に直進をし続け、壁にぶつかれば足踏みをしながらその場に滞留し、足場がないところでは奈落へと落ちていく。ブロック3段以上の高さから落下すると潰れて消失するなど、描写はなかなかショッキングだが、「滅びているのは肉体だけで、その魂は不変であり、失われたとしてもすぐに再生し、再び扉から現れるという設定」があるのであまり気にせずにプレイしていい。

 この手の群衆を誘導するゲームというと、筆者の世代は「レミングス」(Psygnosys/1991年)を思い出してしまい、「全員救出するぞ」という使命感が頭を巡るわけだが、本作は一定数の群衆が光の柱にたどり着けさえすれば、その間にどれだけ人々が失われてしまってもペナルティになることはないのでご安心を。

ゲーム冒頭のチュートリアルのシーン。列を作って途切れなく歩いてくる群衆を、ゴールとなる光の柱に導くのだ
進む先に足場がなくても直進する群衆はそのまま落ちてしまう。落ちてもペナルティにはならないが、このままではゲームが進まない

 プレーヤーの柴犬はステージ上を自由に移動でき、ジャンプもブロック2段分ほどの高さまで飛び上がれ、奈落に落ちてもすぐに復帰する。また群衆の中をワープするように自在に動き回ることができ、このアクションを使って攻略するステージもある。

 柴犬には群衆を誘導する力があり、それを具現化したのが、ボタン操作で地面に置けるアイテムだ。このアイテムは柴犬がいる場所に配置され、もう一度ボタンを押すと取り除けるようになっている。特別なルールがあるステージ以外は、何個でも何度でも置けるが、動いているギミックの上には置けないというルールもある。最初は群衆が移動する方向を矢印マークで指定する「TURN」しか使えないが、ゲームを進めると群衆をジャンプさせる「JUMP」など、他の効果があるものが使えるようになっていき、その都度切り替えて使う仕組みだ。

矢印の形をした「TURN」。最もスタンダードな誘導アイテムで、通過した群衆が矢印の方向へと進む
新しいアイテムが出たとき、「?」のアイコンの場所まで行くと、説明が見られる
「JUMP」によって次々と飛び上がる群衆。見ていて気持ちがいい

 ゲームを進めていくとステージ上に様々なギミックも登場。群衆の進行方向に置いてあると彼らが押して動かすブロックや、矢印の方向に強制的に進む床、群衆が登って上に上がれる壁、群衆が通過すると浮かび上がるファン、入った群衆が泳いで移動する水のブロックなど多彩で、それらを作動・停止させる床のスイッチ(群衆が踏むことで作動)なども存在している。これらを活用したり、回避したりするためにもまた群衆の誘導が必要となるのである。

黒いブロックは、一定数の群衆が押して進む
ギミックによってステージ攻略のコツが大きく変わる

 こうしたルールを踏まえつつ、常に前進を続ける群衆を誘導して一部を分断させたり、特定の場所を行き来させてスイッチを押したままにさせたりと、色々工夫が必要となるわけだが、新しい能力やギミックが出てくるときは、最初は簡単でだんだん難しくなるレベルデザインが施されているので、じっくり挑んでいけるはずだ。

時間が静止した状態でアイテムを置き、時間が動き出した後は見ているだけというステージもある

人々の群衆とは別の存在が、ゲームをさらに面白くする

 各ステージには「GOLDY(ゴールディ)」なる金色の像がいくつか存在している。群衆が接触すると群衆と一緒に動き出すという性質を持っていて、これをゴールに導くと、柴犬に新たな能力が備わるという大きなメリットがあるのだが、GOLDYは群衆と違って一度奈落に落ちると、ステージをやり直さない限り復活しない。そのためよりデリケートな扱いが必要となる。

 さらに配置してある場所が意外に厄介で、回収するには一手間も二手間もかけないといけないこともある。特定のステージ以外は回収しなくてもクリアできるのだが、回収数がステージのアンロックに繋がっているところもあるので、取れそうなところはできるだけ取っておくのが定石となるだろう。

人々の倍ほどある大きさのGOLDY。特定の場所に静止していて、群衆が接触すると一緒に動き出す
GOLDYを規定数集めると、ゲームプレイに有利な要素が順にアンロックされていく

 また先のステージには、このGOLDYを巡って対立する「OTHERS」なる、人とは違う群衆が現れる。OTHERSと人間は相容れない関係であるが、両者とも「GOLDYが大好き」という設定があり、OTHERSがGOLDYに触れるとGOLDYは彼らの動きについていってしまい、回収することができなくなることもある。彼らとの対立は後にバトルに発展することとなり、ストーリーとゲームに大きなうねりをもたらし、プレーヤーを退屈させることがない。

OTHERSは色が違うのですぐにわかる。群衆がGOLDYに触れると現れることもある

PSVR2の“神視点”が良い。遊びやすさも向上

 本作はVR機器にも対応していて、ここではPS5対応のPlayStation VR2を使用して試してみた。体験前は一体どのようなものになるのか想像ができなかったのだが、実際に味わってみると感覚にはきっと驚かされるはず。

VRでのプレイ時の画面。止め画ではわからないが、VRならではの立体感も見た目の楽しさを強調してくれる

 VRモードでゲームを始めると、VR空間の中にステージ全体が自分の手が届くぐらいの場所に現れ、まるで神様にでもなったかのようにそれをあらゆる視点から眺められるのだ。ゲーム自体は変わらないものの、カメラ視点がある程度限定された通常プレイ時よりもステージを広く見渡せ、立体的な距離感も分かりやすくなり、ゲームとしても遊びやすくなる印象もあった。

 本作のちまちまと動き回る群衆は見ていて飽きないのだが、VR機器で眺めるとその愛らしさが一層高まり、箱庭が好きな人ならゲームへのモチベーションも向上するはず。没入型の体験とはひと味違うので、ぜひ味わってみてほしいものだ。

ステージ全体を見渡しやすいのもVRでプレイ時のポイント。これが以外に大事だったりする

 またゲーム本編とは別に、プレーヤーがステージをエディットする「STAGE CREATOR」と、そこで作ったステージを投稿したりプレイしたりする「USER STAGE」も用意してあり、楽しみ方には事欠かない仕様で、じっくり遊び込めるのではないだろうか。

「STAGE CREATOR」は、ステージを作るエディタが用意されている
他のプレーヤーが作ったステージも楽しめる

他分野のクリエイターが構築した、斬新な着眼点のゲームデザインに魅せられる

 映像クリエイターが手がけたゲーム作品ということもあり、見た目がアーティスティックで、一見はどんなゲームなのか分かりづらい印象もあるが、実際に触ってみると、骨太なパズルアクションとしてしっかり作り込まれていることがわかるはず。ストーリー展開によってゲーム内容に新しい展開が発生する演出は近年のゲームらしく、単調になりがちなパズルゲームに新鮮な驚きを生んでいる。

クリエイティブディレクターの中村氏はスマホのUIなども手がけていて、本作のインターフェイスや画面構成にもそれが生きている

 リプレイ時に設置したアイテムをそのまま残して再開する仕様や、ステージクリアのヒント(というより、ほぼ解答)の映像が全ステージ分用意されているなど、プレーヤーに優しい要素も組み込まれていて、総合的な間口は広めに作られているようにも感じられた。

メニューの「HINTS」から見られるヒント映像。ステージクリアの手順がほぼ分かる。ここを見るとゲームプレイ実績にある「ヒントを見た回数」が加算される
アーティストの声を加工して構築したというサウンドも面白く、本作の世界観やグラフィックスにマッチしている

 本作は、1990年代後半のゲーム市場にゲームとは別の畑のクリエイターが参入し、斬新なゲームが多数リリースされていた頃のことを思い出させてくれるタイトルだった。この「HUMANITY」に触発された作品が今後出てくることにも期待がかかる。