レビュー

「イース・メモワール -フェルガナの誓い-」レビュー

“イースシリーズ最初の一本”にもピッタリ!名作が演出強化と遊びやすさ向上で決定版に

【イース・メモワール -フェルガナの誓い-】

開発・発売元:日本ファルコム

ジャンル:アクションRPG

プラットフォーム:Nintendo Switch

発売日:4月27日

価格:4,840円

 30年以上の歴史を持つ日本ファルコムのアクションRPG「イース」シリーズ。そのゲームデザインはドットキャラクターが体当たりで攻撃するシンプルなものから、3Dキャラがパーティバトルをはじめとした多彩なシステムで戦っていくものへと進化していったが、その間を繋ぐ発展期の名作とも言えるのが、今回紹介する「フェルガナの誓い」だ。

 オリジナルは2005年にリリースされたPC版で、ナンバリング第3作「イースIII」のリメイクだがリメイク元は原案というレベルで内容は一新されている。背景3Dのキャラクター2Dといういわゆる“2.5D”スタイルで、ジャンプや移動も織り交ぜた剣攻撃によるコンボと、特徴的な3種類の魔法を駆使して戦う、スピーディで爽快感あふれる作品となっている。

 2010年にはPSPにイベントシーンのフルボイス化などの追加要素込みで移植。今回、そのPSP版をベースにさらにグラフィックのHDリマスターやBGM・SEの高音質化、新要素の追加が行われ「イース・メモワール -フェルガナの誓い-」としてNintendo Switch向けにリリースとなった。

 筆者もPC版以来久しぶりにプレイしたが、大量に湧き出るザコ敵をザクザク倒していく手応えや、自然系や遺跡など多彩なロケーションのダンジョン探索、その舞台ごとの伝承に触れていく神秘的なストーリーなど、最新作にも通じるイースシリーズの魅力を再確認することができた。それでいて最新作に比べるとボリュームはコンパクトなので「イースってどんなゲームか気になってるけど、アクションRPGでいきなり数十時間級はちょっと……」という方にも“最初の一本”として推せる作品だ。

 主人公の冒険家、アドル=クリスティンの世界各地での冒険を描くイースシリーズは、基本的に作品ごとに物語が独立しており、本作からのプレイでも全く問題ない。元は20年近く前の作品でありつつも各種リファインにより現在プレイしても違和感なく楽しめるように仕上がっているので、本記事ではそうした改良点にも焦点を当てて紹介していきたい。

爽快なアクションと探索しがいのあるマップが魅力のアクションRPG

 本作の舞台はフェルガナ地方。アドルの相棒で元盗賊のドギの故郷だ。フェルガナで異変が起きていることを旅先で聞いてドギと共にこの地を訪れたアドルが、魔物の出現といった事件を解決していくうちに、やがてこの地に伝わる伝承の神秘に触れ、大きな陰謀に立ち向かっていく。

主人公のアドルが相棒のドギと共に、ドギの故郷フェルガナへ訪れることから物語が始まる

 ゲームはフェルガナ地方各地のダンジョンを探索し、ボスを倒すことで物語が進むといった形で展開。アドルの基本的なアクションは移動とジャンプ、剣攻撃で、これらの組み合わせによりスムーズで高速なコンボ攻撃ができる。イースシリーズの特徴としてザコ敵がかなり多めに沸き、移動しながらすれ違いざまにどんどん倒していくのが気持ちいい、無双系とも言える爽快なアクションが楽しめる。一方でボス戦はパターンを把握して攻撃可能なタイミングを見極めヒット&アウェイしていくのが肝と、メリハリの効いたプレイ感となっている。

ザコ戦ではハイスピードな剣戟のコンボによる無双感のあるアクションが楽しめる

 また、ゲームを進めることで、「リングアーツ」という魔法が使えるようになる。魔法は火球による遠隔攻撃、旋風をまとった回転斬り、衝撃波をまとった体当たりの3種類。攻撃に使えるだけでなく、火球を当ててギミックを作動させたり衝撃波で特定の壁を壊したりと、探索においても活用する場面がある。

 とくに活用場面が多いのが回転斬りで、ジャンプと組み合わせることで旋風と共に舞い上がり、滞空時間を延ばすことができる。通常のジャンプでは届かない場所にある宝箱を取るなど探索面で有用なほか、ゲーム進行においてもこれを使って崖を飛び越えるような場面もあり、必須のテクニックだ。この“旋風ジャンプ”や、同様にゲーム進行で習得する2段ジャンプを駆使して足場を飛び移りながら高低差のあるマップを踏破していく、いわゆるプラットフォーマー系ジャンプアクションの側面が強いのも「フェルガナの誓い」の特色と言える。

ボス戦は敵の猛攻を避けながら攻撃の隙を伺い、剣や魔法で一気に攻めるヒット&アウェイが基本
ジャンプと回転斬りを組み合わせて滞空時間を延ばす“旋風ジャンプ”は探索におけるキーとも言えるテクニック。これを駆使してちょっとわかりにくい場所にある宝箱を見付けたりするのも本作の醍醐味だ

演出面ではキャラクターイラストが一新。そしてなんとアドルがイベントで喋る!

 ゲームの概要を紹介したところで、ここからは「イース・メモワール」版での改良点などを見ていこう。まずは演出面だが、やはり一番の見どころはキャラクターイラストのリファインだろう。

 本作では主要キャラクターはもちろん、街の住人なども含む30人以上のキャラクター全員に立ち絵などのキャラクターイラストがある。その時点でアクションRPGとしてはなかなか凝った作りなのだが、「イース・メモワール」版ではその全てがリファインされた。微調整というレベルではなく、もとのイラストのキャラクターデザインを活かしつつも完全に新規で書き起こされたものとなっている。

 リファイン版のイラストは、ゲーム全体の雰囲気と乖離しないよう過度に今風の絵柄には寄せず落ち着いたタッチでありつつ、それでいて2023年にリリースされるゲームとして遜色のないクオリティだ。とくにヒロインのエレナをはじめ女性キャラクターの可愛らしさ、美しさはぐっと引き立てられた印象を受ける。

 なおリファイン前のイラストもクラシック版として収録されており、設定でいつでも切り替え可能。リファイン版でどう変わったか比較してみるのも面白いかもしれない。

エレナのリファイン版イラスト
設定でクラシック版に変更することもできる

 また本作はPSP版の時点でイベントフルボイスとなったが、「イース・メモワール」版では新たに、主人公アドルにもボイスが追加された。CVはもちろん、昨今のイース作品でアドルの声を演じる梶裕貴さんだ。

 ただこの発表を知ったとき、筆者は「アドルのボイスが追加ってどういうこと?」と疑問に感じてしまった。というのも、イースシリーズは一部作品を除き会話シーンで主人公の台詞がないタイプのシナリオ構成となっており、シナリオ自体に変更がないのであれば、ボイスの追加といってもアドルが喋る余地はないように感じたからだ。

 しかしこの疑問は、実際にゲームをプレイしたらすぐに解決した。本作ではアドルの台詞がない分、彼の言動はナレーションで補足されるのだが、このナレーションに合わせてアドルがボイスで台詞を喋ってくれるのである。たとえば「アドルはガードナーに自己紹介をした。」というナレーションに「はじめまして」というボイスがつくといった形だ。

 一言二言ではあるのだが、長年アドルを演じられている梶さんの演技は流石にキャラを掴んでおり、気さくで心優しい面や、正義感にあふれる面などが短い台詞からしっかり伝わってくる。とくに昨今の作品においては選択肢の形で示される台詞や周囲とのやり取りの描写などによってアドルの人物像もそれなりに確立されているので、そこからアドル自身のファンになったような人にはとくに嬉しいファンサービスと言えるのではないだろうか。

 またナレーションに合わせたボイス以外では、一部の選択肢を選んだ際のボイスや特定のボス戦で戦う相手に投げかたりするボイス、攻撃時の掛け声などの戦闘ボイスも追加されている。

例えばこのナレーションに合わせて「はじめまして」というアドルのボイスが再生される。ゲーム後半の重要なシーンなどではなかなかにぐっと来る台詞もあり、アドルファンには嬉しい追加要素だ

 そのほかこちらはPSP版からある機能だが、BGMを「フェルガナの誓い」バージョンから、オリジナルのパソコン版である「イースIII」バージョンへ変更可能。PC-8801とX68000という2機種版が収録されている。当時の音源による電子音ならではのアタックが強く軽妙なサウンドはなかなかクセになるので、気に入ったBGMがあったらぜひパソコン版とも聴き比べてみてほしい。

ハイスピードモード実装で経験値稼ぎが楽に。そのほか遊びやすさへのさまざまな配慮も

 続いて、プレイのしやすさという面での改良点などを見ていこう。まず紹介したいのがゲームスピードをワンボタンで1.5倍や2倍にできる「ハイスピードモード」だ。

 移動の時短やボス戦を敢えて高速化させるやり込みなど色々な用途が考えられるが、筆者のお勧めの使い方は「経験値稼ぎのスピードアップ」だ。イースは伝統的にレベルを1上げることによる変化がそれなりに大きく、ボスに歯が立たない場合、アクションの腕以前に純粋にレベルが足りていないという場合も多い。そんなときは手近なザコ敵を倒しまくって経験値稼ぎとなるわけだが、本作ではマップを切り替えると即座にザコ敵が復活し切り替えも一瞬なので、経験値稼ぎはしやすくなっている。

 ハイスピードモードならこれをさらにスピードアップしてサクサクレベル上げが可能。とくにアクションの腕を活かして低レベルでボス撃破、とはなかなか行かない初心者~中級者にありがたい機能と言えるだろう。2倍だと速すぎて操作がおぼつかない場合は1.5倍と、段階的に速められるのも嬉しいところだ。

ハイスピードモードのおかげでボスに勝てないときなどのレベル上げ効率が大幅にアップ

 初心者向けの配慮としては、その究極とも言えるものが実装されており驚かされた。それが「時計塔のスキップ機能」だ。

 時計塔とは、回転する歯車を飛び移るなどしながら塔を登っていくダンジョンで、「フェルガナの誓い」におけるひとつの名所にして難所となっている。本作ではゲーム開始時に難易度をいくつかから選べるが、そのうち最低のVERY EASYでのみ、この時計塔の攻略をスキップすることが可能になる。

 正直、足場飛び移り系のジャンプアクションという観点において時計塔だけが突出して難しいというわけではないので、「ここまで来られた人なら時計塔も頑張れば行けるのでは……?」という気もしないでもないが、かなり登っていっても足場を踏み外すと最悪の場合一番下まで真っ逆さまという場合もあり、アクションが苦手だと心を折られる可能性もなくはない。とくに近年の作品からイースのファンになった人が主にストーリーを追うために本作をプレイするような場合に、最悪の場合の保険が用意されているのは安心感に繋がるかもしれない。

「フェルガナの誓い」屈指の名所にして難所である時計塔を、難易度VERY EASY限定とはいえスキップできてしまう。ストーリー目当てといった人でもできれば攻略にチャレンジしてほしいが、いざというときの保険があるだけでも安心感は増すだろう

 また、こちらは新機能ではなく従来からある機能だが、足場の飛び移りが苦手な人への配慮としては「Not Fall」機能も注目だ。本作では足場を踏み外すと下層にある別マップへと落ちていき、元の場所へ復帰するにはかなり回り道をしながら登っていかなければいけないというマップがそこそこある。飛び移りに失敗するたびにこれを繰り返すのはなかなかにキツく、このあたりは流石に一昔前のゲームであると感じるのだが、Not Fall機能をONにすると、足を踏み外したとき下層のマップに落ちるのではなく、そのマップに入った所からやり直しができるようになる。

 こちらはPC版では通常難易度であるNORMALの下のEASYから使える機能だったが本作では難易度に限らず利用できるので、何度も足を滑らせてしまうという人は使ってみてもいいだろう。ただし、本作では敢えて足場から落ちて下層のマップへ移動することで道が拓けるような場合もある。「Not Fall」機能は設定によりワンボタンでON/OFF可能にできるので、下層の探索を終えたら飛び越えるのに専念するためONにするなど、状況に応じて使い分けるのが重要だ。

「Not Fall」機能をONにすると、足場を踏み外すと下層のマップへと落ちていってしまうような場面で、マップ移動せずマップの入口からやり直せる。Not Fallといってもあくまで別マップへ移動しないだけで、足場を超えて先へ進むのは自力で頑張る必要がある。親切すぎない程よいサポートといったところだ

20年近く経っても色褪せない名作に、現代のプレイヤーへの配慮も施された決定版

 ここまで「フェルガナの誓い」の概要、そして「イース・メモワール」版での改良点などを紹介してきた。今回改めてプレイして感じたが、ジャンプなどを駆使して探索する攻略しがいがあるマップに、敵の攻撃を見切り突破口を拓く達成感のあるボス戦と、アクションRPGとしてのクオリティは元が20年近く前の作品であっても全く色褪せない、今プレイしても存分に楽しめるものとなっている。

 それでいてジャンプアクションとしてのシビアさやボスの手強さなど、現代にプレイするゲームとしては少しハードルを上げそうな部分については、PSP版と今回の「イース・メモワール」版という二度の改良を経て、とっつきやすさが大幅に向上している。

 プレイ時間も昨今の大作に比べると程よく控えめで、「イースシリーズ最初の1本」としても推せるし、「イースVIII」「イースIX」など最近の作品からシリーズに入った人が過去作にも触れてみたいという場合にもぴったりの1本となっている。アクションRPGファンに幅広くお勧めすると同時に、現行プラットフォームでのプレイが難しい他のシリーズ作品についても同様の取り組みに期待したいところだ。