2018年10月23日 12:00
「奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ」のPC版が発売となった(PS4/Xbox One版は12月発売)。本作は「ウィッチャー」シリーズと世界観を同じくしており、シリーズの前日譚となる。プレーヤーは女王メーヴとして、恐ろしい帝国ニルフガードの侵略に対抗していく。
ウィッチャーの主人公ゲラルトは国に所属しない、妖怪退治の専門家だったが、今作は「ライリアとリヴィアの女王」として物語を進めていく。国と国の違いや、より「人間的」な視点で、人間や怪異、異種族を見ていくこととなる。
本作はマップを探索しアイテムを集め「デッキ」を構築していくカードバトルRPGだ。戦闘はウィッチャーでおなじみの「グウェント」。独特のルールを活用し戦っていく。カードゲーム初心者でも手軽にルールが覚えられ、達成感が得られる。苦手な人はスキップする機能もある。
「奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ」の最大の魅力はその世界観にある。ポーランドの開発者達による、独特の中世世界、民衆と国王、軍隊とならず者、戦争、そして異民族など、独特な価値観と語り口がある。その中で自分は女王としてどう決断していくか、その選択が楽しい。本格的なファンタジー小説を読み進めていくような気分になれる作品である。
強大な帝国の侵攻、女王メーヴはいかにこの戦争に立ち向かうか
「奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ」は、南方の大国ニルフガードに対し、北方諸国の王が集い「結束」を宣言した会議の帰路から物語は始まる。帰路の途中、王都で守りを固めているはずのカールドウェル伯爵が馬に乗ってやってきたのだ。国元で「野良犬団」という盗賊が暴れているのだという。メーヴは諸王の会合のために率いていた兵士を率い、その盗賊団を鎮圧する戦いを開始する。それは、ニルフガードとの大きな戦争へ繋がる戦いであった……。
本作は2D風のグラフィックスで描かれた、見下ろし型のマップで物語が進行していく。マップでの風景の描写は落ち着いたトーンで、小屋、建物、川に浮かぶボートや、要塞、洞窟、墓地など様々なものが描かれており、中世ヨーロッパを思わせる雰囲気が良い感じだ。住人達の服装や、キャラクターのアニメーションなどもシンプルだが、ドラマを感じさせる。3Dグラフィックスで世界を再現していた「ウィッチャー」シリーズとは大きく異なるが、大きな戦争という「歴史」がテーマになっている本作には、このグラフィックスがとてもマッチしている。
イベントでは精緻な筆跡によって描かれた人物達の会話シーンが展開する。「奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ」ではプレーヤーは「王としての決断」を迫られる。戦乱で飢えた民衆をどうするか、捕らえられた敵兵の処遇は、少数民族であるために人間達から嫌悪の目を向けられるエルフやドワーフをどうするか? 国を背負い、軍を統べる王女としてはどの決断が正しいのか……様々な選択が待っている。選択は結果に繋がり、時には大きな変化ももたらすという。「奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ」は、セリフも日本語に吹き替えられており、声優達の熱の入った演技により、ストーリーの臨場感も増している。
そして戦闘である。「奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ」の戦闘はカードゲーム、「グウェント」である。実は筆者は今作が「グウェント」初挑戦である。「ウィッチャー3」では「グウェント」周りのイベントはスキップしていた。「グウェント」はどんなカードゲームかの知識もなかった。初めてのプレイでは、やはりクセが強く感じた。基本的なルール、戦い方がよくわからず、とにかく最初から試行錯誤だった。
最初にどのカードを出すか、どういった出し方がコンボや、有効な使い方になるか……「奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ」は序盤の戦闘こそ難しく感じるものの、プレイを重ねることでコツがわかってくる。有効な攻撃方法、カードの出し方、次のラウンドを見越した戦い方など、覚えていくべきルールは複雑だが、カードを限定した「カスタムデッキ」や1ラウンドのみの「ショートバトル」が多く、これらで基本ルールを覚えていく、という流れになるのだ。
本作での「グウェント」の基本は「一般兵士をどう使うか」が鍵となる。本作には様々な能力を持った兵士がいて、これらを効率よく活用するのが勝利の鍵となる。女王自身の特殊スキルや、彼女を支える「レイナード」などキャラクター性を活かしたルールやカードも登場するが、基本は一般兵士の特性をどう活かすか、キャラクターの能力は兵士の力を活かしたり、戦力の底上げに使われる。兵士あっての軍隊、という雰囲気がルールに活かされているバランスは好感を持った。
戦いはパズル要素も強く、「グウェント」が初めてのプレーヤーにもわかりやすくなっている。さらに中盤にさしかかる頃には「別の戦い方」も提示されるのだ。「奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ」ではマップを探索することで様々なリソースが手に入る。戦い方を覚えてきた頃にはカードの選択肢が広がっており、序盤とは違うデッキを組むことも可能となっている。戦い方の幅が広くなり、「グウェント」に慣れたという気持ちになれる。
もちろん「複雑なカードゲームはちょっと」という人向けに、バトルをスキップする機能もある。このスキップは難易度を変えることでできる。本作ではゲーム中いつでも難易度が変えられるので、「ちょっと戦いに頭を使うより、この先のストーリーが見たいな」と思ったときは、いつでも難易度を変えて、サクサクストーリーを進めることができる。そして「奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ」は、ボリュームもたっぷりなのだ。大きなマップが5つも用意されており、メーヴは劇的な運命に翻弄されていくこととなる。ストーリー、世界観、そしてカードゲームと、様々な魅力を持った作品なのである。
特性を持つカードを使いこなせ、徐々に高度な戦術を覚えていく楽しさ
本作における「グウェント」の概要と、序盤のコツを紹介したい。「グウェント」は「ウィッチャー」シリーズのカードゲームを元としているが、今作でルールが変わった。そしてこの“新グウェント”は、現在βサービスが行なわれている「グウェント ウィッチャーカードゲーム」のリニューアルと連動している。本作の「グウェント」ルールがスタンダートとなるのだ。
「グウェント」では敵と味方それぞれが近接列と間接列の2列のフィールドがあり、ここに手札を出していくことでゲームが展開していく。手札には配備することで効果を発揮する「配備」、カードが場に出たことで使用可能となる「命令」などが設定されており、戦力値、アーマー値が表示されている。
手札がなくなったり、パスを双方がすることでラウンドが終了する。ラウンドが終了したとき、場に出ているカードの戦力値が高い方が勝ちとなる。全3ラウンドで行なわれ2ラウンドをとった方が勝ちとなるルールだ。ラウンドが終了すると基本的に全てのカードが墓地に送られる。次ラウンドに戦力を温存するため、手札があってもパスして次に繋げるというのも大事な戦略だ。
序盤で鍵になるカードは「装甲馬車」。命令スキルを発動させると、自身のアーマー値に等しいダメージを列全体に与える。装甲馬車のアーマーは同じ列にカードが置かれるごとに追加される。装甲馬車を置いた後、多くのカードを短い時間で並べられれば、多数の敵カードにダメージを与えられるわけだ。
このカードと相性が良いのが、出現と同時に2体の軽装歩兵隊を生成する「軍用荷馬車」。このカードを置くだけで、装甲馬車に3のアーマーを与えることができる。他にも1つ出すとデッキの中から同名のカードを全て出せる「リヴィア軍の長槍兵」もとても有用だ。1枚刃に出すだけで瞬時に他のカードを並べられるカードがあると装甲馬車はとても役立つ。
「奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ」はこういったカードの活用方法を丁寧に戦闘で教えてくれる。女王の特殊能力をどう活用すれば良いか、女王の装備を変えることで特殊能力が変わること、レナードはリヴィア軍のカードととても相性が良く、置くことで命令を再度実行できる。いつレイナードを投入すれば良いか……カードゲームに慣れている人ならこういった活用法はすぐわかるかもしれないが、筆者は何度も敗北し、再戦しながら覚えていった。
本作のシングルプレイとして面白いところは2つ目のマップで全く違う戦い方を覚えるところだ。ガストンを首領とする盗賊団が主力となり、カードの陣容もがらりと変わる。レナードは役に立たなくなってしまい、これまで覚えた戦術が使えなくなってしまう。しかしこれは一時的なもの、ゲームを進み資産が増えれば、再び以前のカードを“雇用”し、デッキが組めるようになる。そのときにはガストンの戦術にも精通しており、どちらの戦い方もできるようになっている。そしてそこから先は、2つ、もしくはそれ以上のデッキを使いこなすことで戦いって行けるようになる。
そして、「奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ」は「グウェント ウィッチャーカードゲーム」にも繋がっていくのだ。本作でカードゲームの楽しさに目覚めた人は、世界のプレーヤーと腕が競える。ポーランドでは「グウェント」は大人気であり、派手な大会なども行なわれている。日本でも小規模ながらオンライン大会が行なわれている。今作がこういった大会へと足を踏み出すきっかけになるのではないだろうか。
マップが大きく意味を変えるボーナスミッション、新キャンペーン
「奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ」の魅力はやはり世界観とストーリーにある。戦闘もカードゲームとしての面白さもさることながら、物語を反映している要素が強いのが楽しい。敵兵と戦うだけでなく、次々現われるグールを撃退したり、翼と毒針、鉤爪を持つマンティコアと戦うなど変則的で、モンスターの特性を活かす戦いがあったり、RPGとして凝っており、開発スタッフのゲームへの情熱を強く感じる。
正当な騎士であるレイナードと、盗賊ならではの戦闘術に長けたガストンがきちんとカードゲームのルールでも活かされているのが面白い。リヴィア兵に力を与えるレイナードはトリッキーな戦いをするガストンの兵にうまく力を貸せないのだ。リヴィア兵を雇用し力を充実させるまでレイナードはデッキに入らなくなる。ガストンとレイナードは対立しているが、メーヴを信じ戦うという所では共通しているし、お互い敬意も持っている。イベントの会話でそういったキャラクター達の関係性が語られるのも楽しい。
本作はAAA級のタイトルと比べると地味だし、ストーリーも史実をテーマにしたような重厚な雰囲気だ。「ウィッチャー」シリーズと比べると妖怪などの登場も少なく、地に足がついている。しかしだからこそ、戦争が起きたときの人々の思惑、兵士達、民衆達の勝手で、だからこそ切実な想い、他種族や敵兵に向ける生々しい感情などで丁寧に“戦争”を描いており、好感が持てる。もちろんリアル一辺倒の堅苦しさはなく、童話的な雰囲気や、ダークファンタジー要素もあって、独特の重さと、渋さを感じさせるファンタジー物語となっている。
細かい探索を行なうチマチマしたところも筆者は好きだ。マップに配置されてる資源はマップを細かく見ることで見落としがちな資源もきちんと拾える。見えているのに届かず、長い距離を回り道して取ったりする。様々な場所で見つかる宝の地図は、合う地形が見つけにくい。ひたすら探索のためにマップを動き回るのも細かい作業が好きなプレーヤーには楽しい時間だ。
「奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ」はボリュームが大きな魅力である。探索、戦闘、ストーリー……キャラクターも大きな魅力である。女王メーヴは北方の地をニルフガードと戦いを繰り広げていく。他国の王とその軍、エルフやドワーフといった異民族、住人を悩ます妖怪、様々なキャラクターとの出会いも待っている。「カードゲーム」ということで敬遠する人もいるかもしれないが、戦いをスキップしてストーリーを楽しむというプレイもアリだと思う。
筆者は「ウィッチャー3」でこの世界に初めて触れた。「ウィッチャー3」に関しては、様々なイベントや、かっこいいゲラルト、魅力的なキャラクターは覚えているが、戦争していた国の背景や、北方諸国の違いなどまでは印象に残っていない。“王の視点”でプレイできる本作をプレイすることで、もう1度「ウィッチャー3」をプレイすると、かなり感触が変わると思う。まずじっくりクリアを目指し、「奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ」を遊んでいきたいと思う。
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