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ゲームを文化にするための必要なステップ。スクエニ、過去開発資料の保存ノウハウを伝授【CEDEC2022】

【CEDEC2022】

開催期間:8月23日~25日

 世の中に浸透しているといっても過言ではないゲーム文化。最新のゲームだけでなく、過去に発売され“レトロゲーム”や“クラシックゲーム”と呼ばれるたゲームも根強い人気だ。長いゲームファンであれば当時のゲーム開発資料などを見てテンションが上がった、という経験もあるのではないだろうか。

 しかし、ゲームが一般的に大きく認知されたであろう家庭用ゲーム機・ファミリーコンピュータですらも、発売からすでに40年近い時間が経っている。会社の引っ越しや、書類・テープ類の劣化によって過去の開発資料が損なわれるケースが増えてきているのだ。

 本日8月25日まで開催中の開発者向けカンファレンス「CEDEC2022」では、「資料を資産へ、スクウェア・エニックスにおけるゲーム開発資料発掘プロジェクト[実践!資料保存活動の現場編]」という講演が行なわれた。

 本講演では、スクウェア・エニックス社内で進められている過去資産のサルベージプロジェクト「SAVE」をもとに、実際の作業工程をはじめ、作業を進めることで見えてきた改善点や注意点、記録メディアへの対処方法など、どのようにして過去のゲーム開発資料を引き上げ、そして保存しているのかが、スクウェア・エニックスの三宅陽一郎氏、スクウェア・エニックス・ビジネスサポートの小林一弘氏、松永圭一郎氏、阿部拓人氏によって語られた。

過去資産のサルベージプロジェクト「SAVE」。アナログ資料をデジタル資料に

 「SAVE」とは、スクウェア・エニックス社内で進められている過去資産のサルベージプロジェクトだ。資料目録を作成し、アナログ資料をデジタル資料化、そしてその情報を社外・社内に伝えてくことを主な目的としている。

 なお、「SAVE」に関しては昨年2021年のCEDECでも語られていた。そこでは、本プロジェクトの最大の目的として、過去資料を活用できる形にするということが語られている。

 また、昨年の講演が多くのメディアに取り上げられ、社外に本プロジェクトの活動が認知されたようだ。これにより世界最大のCGカンファレンスのアジア開催「SIGGRAPH ASIA」に招待され、タイトーと合同で講演および過去資料の展示を行なった。

 ゲーム開発資料をうまく公開することで、国内・海外のゲームファンだけでなく、ゲームファンでない他の企業とも繋がれることがわかった。

「SIGGRAPH ASIA」では、これまでに発掘された開発資料やデザイン画、基板やゲーム本体が展示された

 この「SAVE」プロジェクトは実際に誰が作業するのか。スクウェア・エニックスでは、同社グループ会社スクウェア・エニックス・ビジネスサポートの社員が担当している。

 「SAVE」の性質上、機密情報を多く含むので短期採用などでは厳しい。資料整理専門業者があるものの、ゲーム資料専門の業者はいない。定年を迎えた元開発者にお願いする方法もあるが、比較的新しい業界であるため定年を迎えている人員が少ないという理由だ。

 正規雇用であり、本業務として対応可能、断続的・継続的に協業できることが強みとなる。

紙類は全てスキャンしデータ化。「SAVE」で行なう実際の作業工程

 では、実際の作業工程を見ていこう。

 スクウェア・エニックス・ビジネスサポートが作業場として使用しているのはオフィスの執務室。使用機材は、資料をスキャンするための複合機、資料を撮影するデジタルカメラ、資料をデータ化するためのノートPCの3つとなっている。

 主な作業工程は、資料の撮影と紙類のスキャン、PCにデータを移し、Excelで管理表を作成するという流れだ。

 写真撮影では、まずダンボールの中身を全て取り出し、内容物を広げた状態で撮影する。その画像はPCに保存するだけでなく、カラー印刷しておく。これは、作業完了後にダンボールを戻す際、その写真を同梱しておくことで、ひと目でダンボールの中身をわかるようにしておくためだ。

 その全体写真とは別に、資料をひとつずつデジカメで撮影し、PCに保存しておく。

 紙類は複合機をつかってスキャンする。と同時に、画像データのテキスト部分を文字データにするOCR処理も行なう。スクエニでは複合機の機能を使っているそうだ。

 これらの作業が終われば、Excelで管理表を作成する。管理表では、資料のカテゴリ(ソフトウェア・グッズなど)と内容を記載する。スキャンした資料はファイル名も記載し、すぐに確認できるようにしておく。

 これで作業完了だ。

【作業工程】

 資料を細かく撮影し、紙類は全てスキャンしていることから、非常に骨の折れる作業に思える。作業者は4名で、確認者は3名だが、もちろん他の業務もあるため、基本的には4名のうち1名が作業にとりかかる体制になっているとのこと。ダンボールの中身によって作業量は大きく変動するが、1カ月で5から10箱ほど保存できているようだ。

 実際に作業してみると、さまざまな問題点が見つかる。「SAVE」をはじめた当初は不慣れなこともあり、箱内の資料をすべてスキャンしてからネームなどの保存作業を行おうとしていたが、ファイル数が多く煩雑になり、大幅に時間がかかってしまったようだ。今はある程度スキャンしたら作業を区切るやり方になっている。

 また、撮影した画像データが混ざってしまわないように、1箱終わる度にカメラ内の画像を消去するといったTipsも語られた。

 その他、作業では古い資料を取り扱うので、注意すべき点が多くある。なかでも、資料をまとめているホッチキスの針は錆びている事が多く、無理に外すと損傷の原因になりやすい。針を外す際はリムーバーを使用することをオススメしていた。

 保存してある資料には、紙以外にも音楽や映像、データといった記録メディアがある。記録メディアには、CDやDVD、micro SDのほか、コンパクトカセットやフロッピーディスクなどが存在する。特に90年前後の資料にはフロッピーディスクが用いられているケースが多いようだ。

 記録メディアは外観からは記録された情報がわからないうえ、ものによっては専用の再生機械が必要になるが、メディアの劣化から記録情報が失われる可能性が高まってきている。現在の保存形式へバックアップするのが望ましい。

【記録メディア】

 気をつけなければいけないのが、再生時にメディアが破損する可能性があるということ。HDDやフラッシュメモリなどが破損することはほとんどないが、フィルムや磁気テープはリスクが高い。再生時にテープが伸びてしまったり、経年劣化で切れてしまうということがあるようだ。

 テープメディアが破損する原因としては、癒着が主な問題になっている。高額にはなるが、破損する可能性のあるメディアは専門業者に依頼し、破損する可能性がないメディアは自分たちでバックアップする方法をおすすめしている。

ゲームを文化にするための必要なステップ。ゲーム開発の歴史を公開していくこと

 ゲーム開発の歴史は文化・学術の世界である。ゲームを文化にするためには、ゲーム開発の“歴史”が重要。三宅氏は、過去の開発資料を保存し、公開していくことが、広く長く社会に受容してもらうためには必要な作業であるとした。

 発売から何十年と経過しても、長く愛されているゲームタイトルは数多くある。その1つ1つには歴史があり、文化がある。昨今はクラシックゲームが復刻されることも多い。何十年前の作品が埋もれずに、こうしてゲームの映像や資料で残ることが、そして現代に引き継がれていくことが、ゲーム文化にとって重要であると知った。

 三宅氏は、これからゲーム開発資料の保存に取り組みたいという企業があれば連携して進めていきたいとしつつ、「ゲーム業界全体でこういった運動に取り組んでいきたい」とセッションを締めくくった。