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鳥のさえずりにも工夫あり! 「星のカービィ ディスカバリー」に仕掛けられたサウンドのアイデアとは【CEDEC2022】
音が聞こえる位置や距離など3Dならではのこだわりも
2022年8月24日 13:21
- 【CEDEC2022】
- 開催期間:8月23日~25日
発売30周年という大きな節目を迎え、まだまだ成長を続ける「星のカービィ」シリーズ。3月に発売されたNintendo Switch用アクション「星のカービィ ディスカバリー」はシリーズ初の3Dゲームとしてリリースされたが、そんな本作におけるサウンド表現についての工夫が「CEDEC2022」にて紹介された。
「『星のカービィ ディスカバリー』 カービィらしさを継承し、再構築したサウンド表現」と題された本講演では、ハル研究所の開発本部 第1開発部にてサウンドクリエイターを務める小笠原雄太氏と下岡優希氏、開発本部 第3開発部にてスペシャリスト エンジニアを務める根本卓氏の3名がセッションを実施。本作において「カービィ」らしいサウンドを手掛ける手法についてを紹介した。
「カービィらしいサウンド」を作るために考えたこと
前提として「星のカービィ ディスカバリー」を制作する上で、シリーズ初の3Dアクション作品になることからサウンドを再構築する必要があった。30年もの歴史を持つIPとなっているため、これまで大切にしてきた「考え方」を踏まえつつ、新たな取り組みを行なう必要があったという。まずはじめに制作において「カービィらしいサウンド」を作り上げるために“ゲームが面白くなるか?”というキーワードを軸にしたことを明かした。
サウンド表現においてはキーワードとなる“ゲームが面白くなるか?”を細分化し「ゲームならではの面白さ」、「ユニークな面白さ」、「楽曲単体の面白さ」の3つをテーマとして挙げたという。
「ゲームならではの面白さ」ではステージ内の楽曲を何度聞いても聞き疲れしない工夫や、速いテンポ、転調を採用。「ユニークな面白さ」では様々な音楽ジャンルを取り入れるようにしたほか、サウンドスタッフの個性を尊重し独自の方向性によって各楽曲の魅力の創出を目指した。「楽曲単体の面白さ」としては思わず口ずさむようなしっかりとしたメロディーを取り入れることに重視し、ユーザーを引き付ける魅力になるよう仕上げたという。これら3つのテーマを捉えつつ、「星のカービィ」シリーズの魅力の継承および3Dアクションゲームとしての再構築が図られた。
ここまでは「カービィらしいサウンド」を作り上げるための考え方が紹介されてきたが、ここからは「星のカービィ ディスカバリー」におけるより細かな工夫が明かされた。
ステージ内の見えない境界線で楽曲が変化!
1つ目として紹介されたのは「インタラクティブミュージック」についてだ。その名の通りゲームをプレイする上でのインタラクティブ(双方向性)な楽曲の工夫に関する内容となっており、本作においては1つの楽曲を複数のブロックに分割したのだという。ゲームの展開によって再生ブロックを変化させる試みを取り入れており、ボス前のステージでは不穏な雰囲気を感じさせ、ボス登場シーンでは驚きを与えられるように1つの楽曲を細かく分けて曲調の変化させているようだ。
楽曲は複数の構造に分けられているが、今回はBodyとBridgeの変化ポイントが紹介。実際にゲームを遊んでいるプレーヤーには見えないエリア分けが行なわれており、その境界を跨ぐことで自然に楽曲が変化する。このエリアはステージ引き返すなどの逆方向に移動した際にも元の楽曲へ自然と変化するようになっているという。
柔軟なサウンドリスナーの配置によってより自然な聞こえ方に
次に紹介されたのは「カービィらしい3Dサウンド」について。こちらでは音が聞こえる中心の位置となる「サウンドリスナーをどこに置くか」という問題をテーマに様々な工夫が紹介された。
従来のゲームではプレーヤーの視点となるカメラの座標や、操作キャラクターにサウンドリスナーを置くことが多いが、「星のカービィ ディスカバリー」ではカメラワークが自動で切り替わるなどの問題があり、そのまま採用することができなかった。
そこで画面の中心かつカービィに近い位置にサウンドリスナーを置く「カメラ中心」が採用された。これにより左右に偏りすぎない定位感でありながら、アクションゲームとして重要な音を聞き逃さないような位置にすることができたという。講演では実際の映像とともに紹介されたが、こちらでは本来であれば見ることができない音の聞こえる範囲が可視化されており、その範囲内に敵などの音を発するものが入るとその音が聞こえるようになっていた。なお、特殊なカメラワークが採用されるステージも存在するため、一部では内製ツールを用いて調整を行なった箇所も存在するという。
環境音にも工夫あり! ゲームのためのサウンド演出
最後に紹介されたのは「ゲームのためのサウンド演出」について。こちらでは作中に登場するワドルディたちのバンド「ドルディーズ」において、音に合わせてワドルディを動かす工夫が紹介。さらに、環境音についての新たな試みが明かされた。
前述したように「星のカービィ ディスカバリー」はシリーズ初の3Dアクションゲームになったが、2Dアクションでは少なかった環境音を取り入れる必要があったという。これまでは背景や空気感、状況などを楽曲のみで表現していたが、探索し発見する面白さを生み出すため、現実世界のように環境音を積極的に採用。森のフィールドでは環境音として鳥のさえずりが用いられているが、よく聞いてみるとこちらがメインテーマのメロディーになっていた。さらに工業地帯では金属がぶつかる音、砂漠では風の音がメロディーを再現しており、楽曲のモチーフ(メロディー)を随所に散りばめることで世界観を表現しているという。
実際にゲームをプレイしている際には敵であったり、フィールド上の仕掛けに注視し、環境音にはあまり注意が行かなくなってしまいがちだが、じっくり聞くことで音楽的に感じられる要素を生み出しているようだ。
本講演の最後には「これから歴史あるIPの開発へ関わっていく方へ」として「長い歴史を持つ作品に携わる際には大きなプレッシャーがかかるが、作品に対し丁寧に向き合うことで作品の本質を見い出し、その作品の新しい歴史を築くことができる」という3人のメッセージも発信された。
「星のカービィ ディスカバリー」は既存の「星のカービィ」ファンの心を掴みつつ3D作品としての変化を求められた作品で、今回の講演ではサウンドチームの様々な工夫が垣間見える内容になっていた。目には見えないあらゆる工夫がカービィの暖かな世界を生み出しているようだ。
© HAL Laboratory, Inc. / Nintendo