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【CEDEC2021】「メギド72」をV字回復させた“こだわり”が判明。スマホゲーム運営におけるポイントとは

多種多様な分析、企画の徹底的なこだわりを重視

【CEDEC2021】

開催期間:8月24日~8月26日

 ディー・エヌ・エーが提供するAndroid/iOS用RPG「メギド72」は本作独自のバトルシステムが魅力の作品となっている。2017年にリリースされた本作は順風満帆な運営を行なっていたわけではなく、一時はサービス終了の話が内部から上がるほどの低迷をみせていた。そんな本作が改修を経てV字回復を遂げるが、そこに至るまでの“こだわり”を紹介する講演がCEDEC2021にて実施された。

 講演はゲームデザインを担当する早川真央氏、マーケティングを担当する魏健人氏の2名が登壇し本作の運営におけるノウハウを語った。「『メギド72』の事例でお伝えする『こだわり』によってユーザーを熱狂させるスマホゲーム運営手法のエッセンス」という題名の本講演では「ゲームデザイン」と「マーケティング」の2つにフォーカスし、そこに秘められた“こだわり”が明らかになった。

右からゲームデザインを担当する早川真央氏、マーケティングを担当する魏健人氏

「メギド72」のリリース当時の動向

 「メギド72」は2017年12月にリリースされたタイトルで、「ドラフトフォトンシステム」と呼ばれる独自のバトルシステムを採用している。戦略的なシステムやスマートフォンならではの操作感、派手な演出や多数のキャラクターなどがポイントで、リリース後に多くのアクティブユーザーを獲得した。

 しかしながら、リリース後アクティブユーザーの減少が続き、大きく低迷。この問題を改善すべく、2018年に大改修を実施しユーザー数が一気に増加したことでV字回復を遂げる。最も低いときに比較する15倍ほどのアクティブユーザーを獲得し、今なお高い人気を誇るスマートフォン向けゲームへと成長した。

リリース後アクティブユーザーが減少。大改修によってV字回復をみせた

 本講演はV字回復するために行なった運営方針の改善が主な内容となっており、「ゲームデザインの『こだわり』を運用するために」という前半と、「マーケティング施策での『こだわり』実践例」と2つの観点からサービスを提供していくためのノウハウが紹介された。なお、本講演の内容は運営3年目までにスポットしたもので、現行体制ではなく旧体制の取り組みを分析したものとなっている。

ゲームデザインの「こだわり」はデータの分析とゲーム環境の把握がポイント!

 前半にあたる「ゲームデザインの『こだわり』を運用するために」ではゲームデザインを中心にどのような施策を行なったのかが語られた。アクティブユーザーの減少に至ってしまった理由として「ガチャキャラクターにレアリティの差分がない」点が問題であったと考えており、ガチャで新たなキャラクターを実装してもキャラクターの固有モーションやエフェクトが同じであるため、魅力が感じられなかったのではないかと早川氏は分析した。

 この問題に対しての解決方法として「緻密な分析」と「分析結果を基にゲームデザイン設計ができる人材のアサイン」を実践した。ディー・エヌ・エーではこの点を重視しており、アナリストを投入するなどしてユーザーの動向をしっかりと把握するのだという。具体的な内容としては、「キャラクターを平等に扱う」ことが中心にあったと語った。

キャラクターを平等に扱うことを中心にバトルでの魅力を感じさせるキャラ作りを目指した

 キャラにはレアリティが存在するため、性能面を見た場合のパラメーターに依存しないバトルでの魅力が必要になる。多くのゲームではこの点に対するアプローチとして、「属性」や「すくみ」の関係性でバランスを生み出すことが一般的となっている。しかし、「メギド72」はリリース後に改修を行う必要があったため、新たな要素として属性など入れるのは難しかった。

 そこで「タクティカルソート」と呼ばれる要素を新たに加えた。楽器を持ったキャラクターの「協奏」や「点穴」、「Hボム」などキャラクター自身が持つ要素を加え、これまでになかった組み合わせが発生。使用率が低かったキャラクターにも選択肢が生まれた。新たに属性を追加してもプレーヤーにとっては嬉しくないが、「タクティカルソート」の追加は遊びのバリエーションが増えるという変化が生じるため、これが遊び方自体(遊びの形質)を変えることにつながったという。

遊び方自体を変化させる「タクティカルソート」
図でゲーム内環境をしっかり把握。同じ戦術の「タクティカルソート」を生み出さないよう見極めを行なう

 さらに、新キャラクターを実装する際に見た目やストーリーなどキャラクターの魅力だけでは売上の担保が難しいと考えた。そのため「メギド72」では性能を重視するというこだわりを明らかにした。ゲーム環境をしっかりと把握し、バトルで力を発揮することが重要であるとした。

 これにはゲーム内環境(メタ)を把握し、環境にマッチするキャラクターをタイムリーにリリースすることで売上につなげたという。一方でタイムリーなキャラ制作は難しく、1年半前にキャラクターの設計を開始し、リリースに向けて準備を進めるようだ。この間に多種多様な分析を実行し設計角度を上げていく。

キャラクターの制作には1年半前という長い期間を設けるという

 総じて「タクティカルソート」と呼ばれるシステムを追加し、プレーヤーの遊び方にバリエーションを加える。さらに、ゲーム環境を運営側でしっかりと把握し、データを分析することで将来の予測に役立てる。新たなキャラクターは性能を重視することでゲームとして遊んでいて楽しいという思いを感じさせる。ゲームデザインにおいて、こだわりは「メギド72」としての独自性を追求するためのポイントへと生まれ変わる。

マーケティングの「こだわり」はゲーム内企画のインタラクティブ性を重視!

 次に「マーケティング施策での『こだわり』実践例」としてマーケティングにおいてどのような施策を行なっているかを公表した。

 「メギド72」ではハーフアニバーサリーを「メギドの日」として様々なイベントを行なっており、本講演では2019年に実施された3回目の「メギドの日」の企画が紹介された。1年目2年目の「メギドの日」はTwitterを活用した施策を実施していたが、3年目は大きく踏み込み「メギドミー賞」と呼ばれる企画を実施した。

 「メギドミー賞」は約2カ月半にも及ぶプレーヤー参加型の投票企画で、全10部門が存在し、イベントやキャラクターなどの部門に分けて大賞を選ぶ。

ハーフアニバーサリーにあたる「メギドの日」
約2カ月半にも及ぶ「メギドミー賞」を実施した。

 プレーヤーの視点に立って「メギドミー賞」というワードを聞いただけでは企画がどういったものなのかがわからないが、格式ある式典らしさをとことん追求し、プレーヤー自身に投票をさせることで受動的な企画ではなく能動的に参加させる企画へと変化させたようだ。

 企画はPV・生放送のアウトプットクオリティを底上げし、長期に渡って段々と盛り上げていくことや、投票を2度に分けることで参加を促す。50種類のも及ぶノミネートPVを用意しゲーム内では体験できない雰囲気を映像によって演出する。さらに授賞式は3D空間でゲーム内の登場キャラクターが司会進行をしているかのような演出を取り入れたという。

複数のノミネートPVや3D空間における演出を取り入れ注目度を高める
キャラクターはフルボイスかつモーションキャプチャーを取り入れ3D空間上で生き生きとキャラクターが司会を務める

 約2カ月半にも及ぶ企画であったものの、最後までこだわりを貫き通すことでニコニコ生放送では99.3%の「とても良かった」を獲得するなど、好評を博した。自身が投票したキャラクターが選ばれるのではないかというワクワク感なども相まって「メギドミー賞」実施後にはプレーヤー数が増加する結果が見られた。

企画実施後にアクティブユーザーの伸びが確認できた

 このようにプレーヤーの自身が直接的に、企画に参加できるようにすることでライブ感を感じさせる。さらに、ゲーム外で実施する企画に関しても動画へのこだわりを追求。これらの働きかけによってよりインタラクティブであるとプレーヤーに感じさせられるかどうかが重要であるように感じた。また、リアルタイムな盛り上がりを感じさせることで、プレーヤー個人の企画に対する印象も、より大きなものになるのではないだろうか。

 もうすぐサービス開始5年目に突入する「メギド72」。サービス継続型ゲームおけるプレーヤーの「飽き」に対し、様々な観点からアプローチに取り組んでいることが確認できた。ゲームとして遊ぶだけでなく、クリエイター陣がもつ“こだわり”を知ることで本作に対する理解が深まる講演内容となっていた。

「メギド72」の現体制の方針や考えは「週刊ファミ通2021年7月22日号」のインタビューとして掲載されている