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4年先を見据えた究極のアイドルビジュアル表現。「アイドルマスター スターリットシーズン」におけるグラフィックス実装事例

【UNREAL FEST EXTREME 2022 SUMMER】

5月23日〜5月28日 開催

プレイステーション 4/PC用アイドルプロジェクトプロデュースゲーム「アイドルマスター スターリットシーズン」

 ゲームエンジン「Unreal Engine(以下、UE)」を学べるオンラインイベント「UNREAL FEST EXTREME 2022 SUMMER」において、「アイドルマスター スターリットシーズン」での描画に関する解説が行なわれた。

 ゲームプレイ時に見ている画面が、どういう描画処理や最適化を経て生成されているのかを知れる内容だが、難易度「辛口」とあるように、平素からCG・映像雑誌「CG WORLD」を読んでいる人を前提にしたノリだった。よって「Unreal Engineって名前を見聞きしたことある!」人向けに、比較的わかりやすいパートをかいつまんでお届けする。

 登壇は、バンダイナムコエンターテインメント・久多良木勇人氏とILCA・岩本東治郎氏。テクニカルリードプログラマである岩本氏がほぼ解説をする形だった。

 「アイドルマスター スターリットシーズン」は、キャラクターはセルルック、背景はフォト寄りといったビジュアル構成になっている。マルチプラットフォームで配信されているため、プラットフォームに応じてグラフィックスやフレームレートなどの処理に違いがあり、制約の少なさで行くと、Steam版になるだろう。もちろん、PC環境次第の部分はある。

 基本設計として挙げられたのは、プラットフォームごとのフレームレートとDeferred Rendering方式のふたつ。PS4は30~60fps、PS4 Proは40~60fps、PS5は60fps、PCは24~240fpsになっている。PCはスペックに対してなぜか24fpsが存在するのだが、これはアニメのfpsに合わせたとのことだ。Deferred Renderingは遅延シェーディングと呼ばれ、メリットはざっくりいえば、ひとつのシーンに多くの光源を配置できることにあり、後述するキャラクターや背景の処理につながっている。なお、本作はUE4.24で実装されたものだ。

 実際のゲームやPVで見てもわかるが、光源が多い。どのシーンでもアイドルを素敵に見せるためとなるが、動的ライティングの例がわかりやすいものだった。ライト自体に色情報は含まれておらず、マテリアルの出力時点で決定されている。当初は、動的ライティングで色反映を行なっていたが、セルルックに適した明確な陰影との相性がよくなったそうだ。

キャラクター描画の構成要素だけを見ても複雑
【【スタマス】「アイドルマスター スターリットシーズン」ローンチPV【アイドルマスター】】

 UE4.24ではレイトレースの制限が多くあったため、いくつかのライトはレイトレースシャドウをオフにしていた。またレイトレといえば、パフォーマンスの要求値が高いため、一部品質の設定をオフにしているほか、全ステージでバウンス(光の反射)数は2。無制限になるほど、写りこみの見た目はよくなるが、もちろんパフォーマンスへの要求が高くなる。セッションでは、ステージ奥の反射物に写るアイドルを例に精度の解説があった。これはフォトモードでもわかる部分なので、Steam版で確認してみるといいだろう。

中央にある光沢面を持つ鐘とそのアップ
またレイトレースにそのまま対応すると、律儀に影が落ちてしまうため、上記のように影マスク処理で前髪の落ち影を消している。なお、岩本氏は左の状態も好きとのこと(筆者も好き)

 本作でもっとも処理的に重いとされるステージ「国立ライブフォーラム」では、フルHD(内部解像度200%)においてレイトレーシングを効かせると、GeForce RTX 3090でも60fpsになるという。これはSteamではタイトルを長期的に販売できるため、4K60fpsを見据えて、4年先の環境を考えた結果とのことだ。DLSSやFSRの組み込みは、もっとそれらの登場が早ければであったそうで、もう少し軽くできる可能性があるようだった。また、もともとPS4で動くように設計しているため、レイトレースを使わない場合はミドルレンジGPUでも十分に動かせるよう最適化もされている。

 さて、先の光沢面の反射で、アイドルのスカートの中などが見えてしまうことへの対策が気になった熱心な人もいるだろう。これは描画的に回避が難しいこともあり、カメラワークに制限を設けたり、スパッツを履いていただいたりといった対策を取ったとのことだ。

イベントシーンの背景も部分的に動くが、これはCGWORLD vol.281の特集に詳しくあり、セッションでは速足で解説が終了した

 すっかりゲームシーンでもおなじみになったが、ボケについて。光学のシミュレートからすると被写体より奥の「後ろボケ」は急激に進化している。本作でも効果的に取り入れられているが、やはり独自の調整が目立った。これはスクリーンショットを見てもらったがほうがわかりやすいだろう。

解像度によってボケ味に変化が生じてしまうため、なるべく同じになるようにCinematic DOFにカスタムした例
描画順によっては左のように眉やまつげだけ、DOFが反映されないため、半透明の焦点補正を入れてフォローしている例

 編集氏はUEを勉強している人向けに記事を書いてはどうだろうと言っていたのだが、UEをちょこちょこ遊んでいる筆者からすると、応用事例の塊すぎて、そうはならんやろであった。よって興味が持てるような路線を選んだわけだが、UEに興味を持ったら、とりあえず、がんばってみよう。手元にゲーミングPCがあればUEは動く。Epic Gamesのアプリケーションからいつでもダウンロード可能だ。新しい沼はすぐそこにある。

CGWORLD vol.281