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どうぶつたちは“いつの間にか大切な存在になる”。「あつまれ どうぶつの森」に秘められた想像を膨らませる記号的デザイン

【CEDEC 2020】

9月2日〜9月4日 開催

 「あつまれ どうぶつの森」のプレーヤーの中には、ひとめ見たときに「う〜ん、このキャラあんまり好きじゃないかも」と思ったどうぶつでも、いつの間にか毎日話しかけるようになっていたという経験がある人もいるのではないだろうか。

 筆者はまさにそのパターンで、「う〜ん」と思っていたどうぶつに対して、プレゼントをあげるほど愛着が深まったことがある。そのときはあまり意識していなかったことだが、それほどまでにどうぶつたちに愛着が湧いてしまうのはなぜなのだろう。

 CEDEC 2020では、任天堂 企画制作部 アートディレクターの高橋幸嗣氏、任天堂 企画制作部 アーティストの柴田朝子氏および杉本裕美氏により、シリーズ初のHD対応となった今作における具体的なキャラクターやオブジェクトの制作過程が紹介された。そこでは、キャラクターがかわいいだけじゃなく、ユーザーの想像を膨らませる仕掛けが明かされた。

【スピーカー】

「想像のスキマ」をつくることが大事! 「遊びのきっかけ」を見逃さない情報量で伝える

 「どうぶつの森」の世界には、いろいろな遊びがある。釣りをしてもいいし、着替えを楽しんでもいい、どうぶつたちと話すのもいいし、何もしなくてもいい。ユーザーが自分なりに目的を持って遊ぶことができ、それにより人それぞれの体験が生まれる。その体験がたくさんあるほど、「どうぶつの森」のコンセプトである「人と人とのコミュニケーション」に繋がっていく。

 「どうぶつの森」では、そんなコミュニケーションに繋がる「遊びのきっかけ」が画面上に多く表示されるようになっている。例えば、「どうぶつの森」における何気ない日常を切り抜いた下の画像。

 この画像には、多くの「遊びのきっかけ」が隠されている。まず、川で泳いでいるサカナは釣ることができる。次に、プレーヤー後ろのバケツは移動させたり拾ったりできる。川の向こうにいるどうぶつには話しかけることができ、その奥の家は入れる。地面には雑草が生えており、摘んだり植えたり、DIYの材料にしたり売ることもできる。木は斧で切り倒したり、果物は拾える。プレーヤーキャラクターではファッションを楽しめる。草地は穴を掘ったり崖を積んだりでき、川は埋め立てられる。

実はこの画像に写っているほぼ全ての要素で遊べる

 「遊びのきっかけ」がここまで見つかる理由は、画面上部の地面を湾曲させることで、遠くの「遊びのきっかけ」を目に入りやすくするといった工夫がなされているからでもある。

工夫する前の状態
製品版でも見る風景

 しかし、「遊びのきっかけ」が多く見える分、過去作から解像度が大幅に上がった今作では、それが埋もれないように情報量をコントロールする必要がある。それぞれの要素が主張しすぎず、ユーザーが思いつく「遊びのきっかけ」として機能する「どれを選んでも良い、どれを選ばなくても良い、と思える画面」。そんな画面を目指し、何を画いて何を画かないかを見極めるためのアートの指針を立てた。

【記号化】

 現実そのものをゲーム内に反映させると、情報量の多さからどこを見ていいかが埋もれてしまいやすい。しかし、そのものらしさを上手く記号化できると、見どころが整理され、ユーザーが関わりやすい「遊びのきっかけ」に繋がる画となる。

 どのくらい画で語るべきか、記号化の具合がどのくらいがいいのかは、ゲーム内の役割によって変わってくる。例えば、ムシやサカナは写実から少し記号化した位置になる。博物館に寄贈したり、他のユーザーに見せびらかしたり、次のきっかけに繋がる動機となるように、生き物や歴史の文脈が伝わる嬉しい画の情報になっている。

 プレーヤーは写実的と記号的の中央辺りに位置する。プレーヤーキャラクターに自分をどれだけ投影するかは人それぞれなので、ユーザーがどんなコンディションでも思いを重ねられるよう、顔や手足のディテールに意味をのせすぎない情報量になっているといった具合だ。

【デザインの幅】

 また、記号化することは、「想像のスキマ」という可能性を生み出していると考えているとのこと。現実のものの情報量から、記号化することで“捨てた情報”が「想像のスキマ」となる。ユーザーはそのスキマを埋めようと記憶から情報を呼び起こし、自ら遊びの目標や動機を生み出すことになるのだという。

記号化したことで情報量を捨てた……
のではなく、「想像のスキマ」をつくった

 しかし、画の情報量が少なすぎると、「想像のスキマ」を埋める負担が多くなり、見る人が疲れてしまう。反対に、画の情報量が多いと、それだけでユーザーが満足することに繋がり、受動的になってしまう。どうしたら可能性が広がるか、どうしたらたくさんの組み合わせが生まれるのか、目に見える部分を魅力的にするのはもちろん、目に見えていない「想像のスキマ」も魅力的にするかが大事だ。

 それにはどうしたらいいか。高橋氏らは、歴史や属性、世界観など、見た目だけでなく、そのものが背負っている文脈も含め、画で語れないかを考えているという。ユーザーがものを見た際に、「これ知ってる!」や「これ憧れてた!」という記憶や知識、経験と結びつけば、次の動機に繋がりやすくなるためだ。

 また、人がもの見て感じることや印象、イメージも語れないかを考えている。川がキラキラしてきれいだという感覚を画にできれば、画で語る情報が少なくとも、見る人の解釈でイメージを膨らませることに繋がるのだ。

 記憶やイメージは、見る人によって異なるため、無限にあるといえる。記憶やイメージに結びつくような画にできれば、「想像のスキマ」に思い思いの解釈がのっかり、無限の価値が生まれることになる。されにそれが、人と人とのコミュニケーションに繋がる。どのくらい画で語るべきなのか、そこがアーティストとしての腕の見せ所になる。

 それでは、「どうぶつの森」シリーズでおなじみの草のパターン模様は何を現わしているのか。まず、現実と照らし合わせて考えてみるため、現実の草地をサンプルとして撮影する。すると、全体を覆う緑に点々と違うものが混ざっているのがわかる。それを形と色で解釈するとパターン模様が見えてくる。つまり、「どうぶつの森」における草のパターン模様は、植生や落ち葉、生育度を記号化したものになっているのだ。

現実の草地サンプル
植生や落ち葉、生育度の違いを見ていくと
パターン模様が浮かび上がる
色を変えれば、季節の彩りを表現できる

 草のパターン模様は、過去のハードの制約の中でどれだけ表現豊かにできるかという工夫から生まれた側面がある。しかし、現実と照らし合わせ、十分に検討することで、表現力が上がった現行機でも魅力ある表現であるという判断になった。過去作の見た目をスタイルとして採用するのではなく、今作の表現力のなかでどのような情報として取り入れるのかが重要になる。

 次に、ゲームの役割と照らし合わせながら、表現力の向上を検討する過程が紹介された。開発中期には、草のパターン模様のうえに、ポリゴンの草を生やしていたのだという。これは、過去作でできなかった立体的な表現の可能性を探る過程だったのだが、雑草と草地が交ざってしまうことで情報量が多くなり、雑草を抜くという「遊びのきっかけ」がわかりづらくなってしまった。

右下に雑草が配置されているが、草地もポリゴンの草が生えているので視認しづらくなっている
これが製品版の草地。遠景は画による表現が少なくなるが、草の立体的なシルエットが表示されていることで草らしさが表現されている
境界の草は設置感を豊かにする。木や家といったオブジェクトの足元などで立体の草にしかできない役割を果たしている

いつの間にか大切な存在に。どうぶつたちをデザインするうえで大切なポイントとは

 「どうぶつの森」において、どうぶつたちはプレーヤーとともに暮らしていく大切な仲間だ。また、どうぶつの数は約400体存在するため、それぞれのユーザーの島で住んでいるどうぶつが異なる可能性が上がり、他の人に紹介したくなるといったコミュニケーションにも繋がる要素になっている。

 そんなどうぶつたちは、過ごして行くうちにいつの間にか大切な存在になるように、「関わりたい」と思える感情移入しやすい見た目と、「見ていたい」と思える生き生きとした行動をポイントにデザインされているのだという。

 まず、「関わりたい」と思える感情移入しやすい見た目とは何か。どうぶつたちは、遠くからでも誰なのかわかりやすいように、記号的なシルエットでデザインされている。また、どうぶつたちとは、色々な会話して関わっていくことで何が好きか何を考えているのかを知れるようになっている。そのため、シルエットに種族以外の情報を与えないようにすることで、そのどうぶつがどういう性格なのかなど、会話から想像が膨らむような「想像のスキマ」がつくられている。

 例えば、「ネコ」のほっぺたにフワフワの毛があるような情報があると、1つの形から想像できる見た目が限られてしまう。しかし、シルエットを統一しておくことで、様々なネコの種類を想像することができるようになるのだ。バリエーションをもたせるのであれば、シンプルな共通の形状から、できるだけテクスチャの差だけでつくっていく。

ちなみに、しずえさんやたぬきちは役割のあるどうぶつなので、それぞれシルエットが異なり、目立ちやすいようになっている

 さらに、シルエットを統一することで、個性の幅を広げるということにも繋がっている。三毛猫やヒマラヤン、シャム猫などの現実に存在しているネコを表現できるのと同時に、歌舞伎メイクのネコやミカンっぽいネコなどの突飛なデザインであっても、シルエットが統一されているため「ネコ」だと認識することができる。シルエットの中でも表現できる幅が広いので、キャラクターアーティストも自由な発想でデザインできるのだ。

 どうぶつたちはプレーヤーと同じ目線で会話するので、話している際に感情が伝わりやすいということが大事になる。そのため、本作では、35種族のどうぶつたちが登場するが、「うれしい」や「かなしい」といった感情表現のシルエットが記号化されている。全てのキャラクターは同じ骨構造で構成されており、同じアニメーションで動かしている。それぞれの種族らしい動きをするのではなく、プレーヤーと同じ動きをするので、感情移入がしやすくなっている。

 また、アニメーションが記号化されていることで、遠く離れていてもどうぶつの感情を読み取ることができる。

 ここから、生き生きと見えるようなディテールをプラスしていくことで、感情移入がしやすい見た目にしていく。しかし、悪戯に情報を足すだけでは画が語りすぎて「想像のスキマ」を邪魔してしまう。そこで、あえて従来のデザインではなく、少し異なるテイストの絵でどうぶつたちを描き、「語りすぎない」ディテールアップのポイントを探っている。

【語りすぎている例】
目にハイライトが入ることで、オーロラの「考えがよめない底知れなさ」やブーケの「元気なアイドル」といった個性が崩れている
【具体的なディテールアップ】

 次に、「見ていたい」と思える生き生きとした行動だが、これは、どうぶつたちをいつの間にか大切な存在になるキャラクターとするためには、どうぶつたちが機械のように行動しているという印象を与えてはいけないためのものだ。

 それには、以下の3点を表現するために、どうぶつの行動を「自ら何かする」と「見つけて何かする」を描き、それらにバリエーションをもたせることが大切だと考えた。

 「自ら何かする」と「見つけて何かする」という動きは、本作をプレイしたことがある人であれば、どこかで見たことがあるだろう。ご飯を食べたり、ヨガをしたり、本を読んだり、運動をしたり、はたまた、ムシを追いかけたり、設置した家具で遊んだり、これらの多くの行動が、どうぶつたちが生き生きとしているような印象を与えている。

 また、「自ら何かする」と「見つけて何かする」の行動が一瞬で切り替わってしまうと機械のように感じてしまうため、「悩む」という演出が間にはさまれている。

【自ら何かする】
【見つけて何かする】
【悩む】
筋トレ中
ボールを見つけてもすぐに移動せず、じっと見つめて悩んでいるような動作をする
その後、移動して遊ぶ

 これらの動作により、どうぶつたちと関わりたい見ていたいと思えてくる。毎日見ていたり、話しかけたりすることの積み重ねで、ユーザーだけのどうぶつたちとの思い出ができあがる。こうして、どうぶつたちは「いつの間にか大切な存在になるキャラクター」となるのだ。

そのもの「らしさ」を追求! 家具のデザインで目指していることは

 本作は、室内だけでなく、屋外にも家具が置けるようになった。自分の島の中だけでも色々な空間が作れ、フレンドの島に行ってみると、自分では考えもしなかった空間が出来上がっていたりする。

 家具を「ほしい」と思い、自分だけの世界をつくる、そこで他の人とのコミュニケーションを通して、「どうぶつの森」がさらに楽しくなる。それが「家具」のデザインで目指したことだという。

 もし、家具を見たときに思っていたものと違うと、その時点で飾る気が起きないだろう。反対に、よくできてるなと思う家具は飾りたくなるはずだ。そのためには、そのものの「らしさ」を表現することが大切になる。

 それでは、「らしさ」とはなんだろうか。「らしさ」とは、そのものの共通の特徴や、構造の説得力を取り入れるということ。扇風機であれば、手や物が入りにくいようにできているガードフレームであったり、扇風機のボタン部分にあたる。

扇風機のすべての要素を作るのではなく、誰もが共感できそうな部分だけを抽出し「想像のスキマ」を残している

 「らしさ」が整ったら、ここで1度モデル化する。そこからさらに、「らしさ」を基本として調整していく。しかし、これだけでは完成にならない。どの「らしさ」も同じ用に主張しているので、「らしさ」の中でも一番見てほしい場所を「顔」と決める。扇風機の場合は、羽の部分が顔。強調するために、明度や彩度を調整したり、「指入れ禁止」のシールを貼って調整する。

【扇風機】
初期モデル

 次に、自分だけの世界を表現するためには、どのような家具が必要になるかだ。家具を作ったときに、誰も使わなければもちろん意味がないが、全員が同じ使い方をしても差が出ない。そのため、多くの家具を用意し、人によって飾る家具を変えていく必要がある。

 しかし、同じ種類の家具であってもバリエーションをもたせることで、好みが違う人に飾ってもらうような工夫ができる。例えば洗面台には、ナチュラル以外にも北欧風や和風、ファンシーなどのバリエーションが用意されており、他のインテリアとの組み合わせ次第で様々なタイプの部屋を演出できる。

 ほかにも、ホワイトボードであれば、ボードに書かれている内容を変化させることで、オフィスやサッカーの試合、警察の捜査など、異なるシチュエーションを演出できるようになっている。

【洗面台】
【ホワイトボード】

 こうして様々な世界が生まれるということは、どんな家具の組み合わせでも気持ちの良い空間にする必要がある。家具には、直径10cmのマグカップから人形、数十メートルを超す灯台やプールまで用意されている。現実のサイズで比べると、灯台と人形のサイズには大きな差があるわけだが、「どうぶつの森」では最大でも9マス以内で、高さは4マス以内に収める必要がある。

 こうした現実のサイズと違うことで生じる違和感を減らすため、粗密な計算をしている。小さい家具は、1マスの中でも小さくし、大きい家具は、手すりの本数を間引いたり、ドアの細かい要素は省くなどし、要素の「引き算」を多めにすることで、小さい家具との差を少なくすることができる。

 また、サイズが合っていないと大きく違和感があるベッドを基準にすることで、違和感のないサイズを見定めることができる。家具をベッドと合わせて、サイズに調整していくと、同じく違和感のないサイズ感になる。

 そうすると、その家具もまた他の家具の基準にすることができるようになり、これを繰り返すことで、サイズ感の精度を上げることができる。

ほかにも家具には、心を動かす遊び心が含まれている

 最後に高橋氏は、「どれを選んでも良い、どれも選ばなくても良い、と思える画面を目指してでき上がったものは、『語りすぎない日常』だった」と語った。続けて、「現在のゲーム選択のなかで、表現できる幅はとても広いです。だからこそ、その中で何を選択するかの価値は高まっていると思います。その選択の分だけゲーム体験があります。そして、その選択の分だけユーザーの想像の可能性が生まれます。想像の可能性が生まれる限りゲームの可能性も広がり続ける。私たちはこれからも、その可能性に答えるデザインにしていきたいです」と本セッションを締めくくった。