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【GDC 2019】Google新サービス「Stadia」で変わるゲームプレイ環境

YouTube動画からインストール不要のゲームをオンデマンドプレイ

【GDC 2019】

3月18日~3月22日(現地時間) 開催

会場:Moscone Center

 GDC2019、2日目となる19日(現地時間)、Googleは、新しいゲームプラットフォーム、Google「Stadia」を発表した。「Stadia」は、世界中に配置されているGoogleのデータセンターからゲームをオンデマンドで配信するもので、既存のPlayストアでのゲーム配信とは、まったく異なるテクノロジを基盤としている。「Stadia」でのゲームプレイは、どちらかと言えば、AmazonプライムビデオやNetflixでの動画視聴に近いものだと言える。ゲームに対するGoogleの取り組みとしては、まったく新しい一歩を踏み出したということになる。

冒頭に登壇したCEOのSundar Pichai氏

 ただし、ゲームストリーミングは、「Stadia」が世界初の革新的なサービスというわけではない。それどころか、むしろ「Stadia」は後発で、先行するサービスと競合することになる。また、ゲームストリーミングとは異なるテクノロジではあるが、やはり「Stadia」と競合するゲーム配信サービスは多数存在する。

 本稿では、既存サービスと対比させながら、「Stadia」サービスの特徴をまとめると共に、Googleの狙いを考察していきたい。

発表会の多くを語ったVice PresidentのPhil Harrison氏

 さて、「Stadia」について早速まとめていこう。「Stadia」は、ゲームストリーミングに分類されるサーバークライアントモデルのサービスだ。ゲームストリーミングという呼称のほかにも、クラウドゲーミングやゲームオンデマンドとも呼ばれることもある。ゲームストリーミングでは、ローカルクライアントは入力と出力装置としての役割を担うだけで、ゲームの実体はリモートサーバで実行される。

 PCやコンソールゲーム機の本体だけが、どこか知らない遠い所にあって、自分の手元にあるコントローラーやディスプレイとインターネットを介して繋がっている状態をイメージすると、ゲームストリーミングの本質にかなり近い。

 処理の大部分をサーバー側に委ねてしまうことから、クライアント側には高速なCPUもGPUも、そしてHDDやSSDといったストレージでさえも不要だ。ゲームストリームの表示に必要なハードウェアスペックは、動画ストリームの表示に必要なものと、さほど大きく変わらないことから、比較的ロースペックのデバイスでもパフォーマンスは良好だ。

 ストリーミングゲームでは、コントローラーやマウスからのゲームプレーヤーの入力が、そのままネットワークを介してサーバーに送信される。入力を受信したサーバー側では、ゲームロジックの処理と、その結果を反映させたフレームの内容が生成される。クライアント側では、サーバから送り返されたフレームの内容を表示してプレーヤーにフィードバックする。

 この入力、処理、出力の基本サイクルとそれぞれの内容は、デバイス単体でスタンドアロン実行しても基本的には変わらないのだが、ゲームの中核の処理を自前で行なわないでサーバー側に委ねることから、クライアントサーバーモデル特有のスタンドアロンにはない特性を持つ。

【Assassin's Creed Odyssey】

 ひとつ目の特性は、「Stadia」のようにサーバー側が高い演算性能を持つ場合、クライアント側のGPU性能に依存するインストールゲームより、描画されるグラフィックスがリッチになることだ。

 本セッションで紹介されたUBISOFTの「Assassin's Creed Odyssey」の場合、PC版の1080p解像度、30FPSではGeforce GTX 970やRadeon R9 290が推奨されており、4K解像度30FPSではGeForce GTX 1080やVega 64が推奨されている。「Assassin's Creed Odyssey」は、必ずしも最新のハイエンドPCを要求するゲームではないが、それでも4~5年経過したミドルクラスの環境では高望みはできない。

 ところがストリーミングである「Stadia」の場合、プロトタイプテスト段階の「Project Stream」時代でさえ1080p/60FPSを実現しており、さらにはローンチ時に最大4K/60FPSに引き上げるとしている。

 この解像度とフレームレートだけをみれば、ハイエンドGPU以外の多くの環境で、「Stadia」が従来のインストールゲームを圧倒するように感じる。ただし、ネットワークを通じて配信する関係上、ストリームゲームでは、映画などのストリーム配信と同様に圧縮が行なわれており、まったく同等の画質で配信されるわけではない。

 多くのGPUにはH264動画用のハードウェアデコーダーが内蔵されており、「Stadia」がH264エンコードではないとしても、このハードウェアデコーダーを圧縮ゲームストリームのデコードに活用していると考えられる。

 間断なくストリーム伝送可能なネットワーク状態が確保できている前提なら、多くのクライアント環境で最大4K/60FPSの圧縮ゲームストリームを表示できるのも頷ける。「Project Stream」の段階で1080p/60FPSにとどまっていたのは、どちらかというと、サーバー側のGPU性能やネットワークがボトルネックになっていたり、Chromeのゲームコンソールに課題があったのだろう。なお、「Stadia」では、ローンチ時の最大4K/60FPSに加え、将来的には最大8K/120FPSを実現するとしている。

【StadiaのFPS】

 2つ目の特性は、ローカルデバイス側での不正なプログラムやデータの改変、リバースエンジニアリングといった行為を、合理的に阻止できることだ。何しろクライアント側のストレージにはゲームに関する一切のプログラムとデータを保管しないのだから、改変が可能になる余地はない。加えて、ゲームロジックの処理をサーバー側で行なうことから、別のプログラムを用いてゲームが使用しているメモリ領域をスヌープしたり、書き換えたりといったことも、理論上ありえない。

 従来のインストール型のアプリケーションの場合でも、セーブデータをローカルではなくサーバー側に保持したり、OSによってはサンドボックス実行が前提だったり、コンンソール機のようにハードウェアに対する柔軟なアクセスが禁止されているものもあるが、こういった保護措置を取らなくても、「Stadia」ではプログラムもデータも確実に保全される。

 3つ目の特性は、Googleならではのものだと言えるだろう……Googleは「Stadia」のゲームコンソールとして、Chromeウェブブラウザを活用する。Chromeブラウザがサポートしている環境であれば、デバイスやOSを選ばない。

 実際にはゲームコンソールの機能は拡張プラグインとしての実装や、ウェブアプリとしての実装になるはずだから、厳密に言えば、「Stadia」でゲームをプレイするために追加で何もインストールする必要はない、とまではいかない。それでも、ゲームそのものを構成するプログラムやデータを、ローカルデバイスにインストールする必要はなくなるから、「Stadia」はゲームを試しやすい環境だと言えるだろう。

 その他、ゲームプレイの中断データに対して、GoogleマップやドライブのようにURLでアクセスできるようにして、他の環境に移動してプレイを継続したり、他の人と共有したりする機能もGoogleならではのユニークなものだ。特に準備をしておかなくても、いつでもどこでも外出先でも簡単に自宅でのプレイ状態を引き継いでゲームプレイを再開できるのは便利だ。

【Stadia仮想サーバースペック】

 最後に、先行している他社のサービスのうち「Stadia」と競合するサービスと比較したい。正面から競合するゲームストリームサービスとしては、NVIDIAの「GeForce NOW」が挙げられる。北米を始めとする数カ国で2017年1月よりベータテストが続いており、GDC2019と時期を同じくしてサンノゼで開催されているGTCでは、「GeForce NOW Alliance」として日本のソフトバンクからもサービスが提供されることが明らかとなっている。

 「GeForce NOW」のうち、「GeForce NOW for PC and Mac」は、仮想マシンの性能に応じた利用料を支払って利用する(現在は無料のベータに戻っている)。当初の計画では、GPU性能をGeForce GTX 1060やGeForce GTX 1080といった自社のGPUモデルを明示して選択させるものだった。

 他にも、PC and MAC版とはやや異なるビジネスモデルで、ゲームもできる廉価なストリーム動画プレーヤーとして、リビングエンターテイメントの主役を狙うセットトップコンソールの「SHIELD」デバイスに向けにも「GeForce NOW」がリリースされている。

 「Stadia」と「GeForce NOW」を数字で比較するのは大変難しい。というのも、「GeForce NOW」の仮想マシンはGPU性能以外未公開であるほか、GPUについてもスケーラブルなため比較しにくいのだ。それでも強いて比較すると、GeForce GTX 1080換算で、8.2TFLOPSということになる。

 対する「Stadia」は、AMDと協業するサーバー側の仮想マシンの性能が、GPUの10.7TFLOPS、56コンピュートシェーダーを筆頭に、CPUにx86互換2.7GHz、L2+L3キャッシュ9.5MB、16GB RAM(最大484GB/sec.の転送レート)だというから、かなりのものだ。後発であるだけに、スペック面でNVIDIAを強く意識して打ち出してきたとも考えられる。

発表会の多くを語ったVice PresidentのPhil Harrison氏

 強力なスペックや洗練されたサービスパッケージ、多くのパートナーに人気ゲームタイトルと、Google「Stadia」には隙がない。しかも、これらに加えて「Stadia」には、非常に強力なYouTubeからの導線がある。YouTubeと連携しながら成長するであろう「Stadia」のポテンシャルは計り知れない。いよいよ成功と呼べるストリーミングゲームサービスが生まれるのか、今後も引き続き動向を見守りたい。

【Youtube導線】