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SCARZ Absolute、「eXTREMESLAND 2018」グループリーグ敗退が決定
アラブNASRに続いてモンゴルD13にも完敗。ますます層が厚くなるアジア勢
2018年10月19日 20:36
10月19日、BenQのゲーミングブランドZOWIEが主催する「Counter-Strike: Global Offensive」のeスポーツ大会「eXTREMESLAND 2018」の会期2日目に日本代表SCARZ Absoluteが出場し、モンゴル代表Devil XIII(D13)と対戦した結果、0:2(Cache 13:16、Train 14:16)で破れ、グループリーグ敗退が決定した。
「最低でもグループリーグ突破、できればベスト3」を目標に上海入りしたSCARZ Absoluteだったが、1勝はおろか1ゲームも取れないまま終戦を迎えることになった。初日はアラブのダークホースNASRに敗れ、2日目も練習試合でも1度も負けたことがないというD13に0:2で完敗。昨日と今日で2連敗したため自動的にグループリーグでの敗退が決定した。
2日目までの結果を見ていると、SCARZ Absoluteと共にアジアの強豪として国際大会で活躍する5POWER(中国)、Chiefs(ANZ)、MVP PK(韓国)、BOOT(シンガポール)といったチームは順当に2連勝し、早々と決勝トーナメントへの出場を決めている。そうした中、強豪の1つであるSCARZ Absoluteは、国際大会の経験の少ないNASRに完敗し、負ければ後がない背水の陣で臨んだ2日目のD13戦でも、随所で見事な個人技を魅せていたものの、チームとしてはほとんど良いところなく敗れてしまった。
筆者は、サードウェーブ主催のeXTREMESLAND 2018観戦ツアーに参加していたIgnisやRIGの選手達と共に観戦していたが、感想を聞くと「SCARZらしさが全然出ていない」、「個人技に頼りすぎている」、「雰囲気が暗く、声が出ていない」、「俺たちなら絶対勝てていた」とかなり手厳しかった。それはそうだろう。自分たちを打ち破ったチームが無様に負ける姿を見に、わざわざ上海まで来たわけではないからだ。
個人的には、日本の「CS:GO」の実力は、過去の「CS 1.6」時代や「CS Source」時代と比較して格段に上がったと思っているし、SCARZ Absoluteも毎年強くなっている。実際、SCARZ Absoluteは、日本の「CS:GO」コミュニティを牽引する存在として数々の国際大会に出場し、結果を残してきた。とりわけ今年に入ってからの成績は目覚ましいものがあり、SCARZ自体も、プロチームへの貢献に報いるために、8月からゲーミングハウスを用意し、フルタイム給与制に移行。いよいよメジャー大会の出場や、eXTREMESLANDのようなアジア大会での優勝も見えてきた、と筆者自身も思っていた。ところが実際には、アジア大会優勝やメジャー大会出場は近づくどころか遠のいているのが実態かもしれない。
今回SCARZ Absoluteにとって大きな誤算だったのは、初期メンバーの1人であるpoem選手がフルタイム給与制に移行するタイミングで脱退したことだ。代わりに、今年からコーチとして加入していたReita選手がスタンドイン。eXTREMESLANDの日本予選であるGALLERIA GAMEMASTER CUPを筆頭に、ESL Pro Leagueの中国予選、IEM Chicagoのアジア予選などに出場し、GALLERIA GAMEMASTER CUPは見事優勝、国際大会の予選大会でも5POWERやBOOTに勝利するなど、高いパフォーマンスを見せてきた。
“1人世界レベルのスナイパーがいればメジャー大会に行ける”と言われるエイム命の「CS:GO」界において、Reita選手という優れたスナイパーを獲得できたのは、SCARZ Absoluteにとって大きな財産だ。しかし、1人のスナイプの力だけで試合に勝てるというほど、「CS:GO」のeスポーツシーンは甘くない。
「CS:GO」は、常に7つ用意されるマッププールから、BO1なら1つ、BO3なら3つのマップを選んで戦う。マップの選択は、バンが先で残ったものが選択される。当然、お互いに相手が得意なマップをバンしあうため、多くのマップを習熟するチームが有利だ。
この“マップの習熟”というのが今回の敗退の鍵を握るポイントだと思う。「CS:GO」では、マップ別に、与えられた役割ごとに基本的な動きがあり、基本的な動きでは対処できない場合に変化を付けて相手を揺さぶるセットプレイが幾つか用意される。これがマップ分だけ用意されることになるが、プロチームなら習熟は難しくない。難しいのは、“自分が考える理想の動き”と、“チームが考える理想の動き”がピッタリマッチできているかどうかだ。言い換えれば、1つのチームの動きとして各選手が機能に徹することができているかどうか。これをフィットさせるためには長い時間が掛かる。
今年話題になったエピソードとしては、スウェーデンのXizt選手がいる。Xizt選手は、FaZeのolofmeister選手が個人的な事情により活動休止を発表し、その代わりとしてNinjas in PyjamasからFaZeに移籍したが、その直後に行なわれたIEM Sydney 2018では、いきなり優勝に貢献。olofmeister選手復帰後は、その実績を買われてfnaticにIGLとして移籍したという「CS」ドリームの体現者だ。
ただ、彼のケースは特殊と考えるべきで、基本的にはどんなプレーヤーでもチームに馴染むまでにはそれなりの時間が掛かると思う。今回のSCARZ Absoluteは、その点でうまく馴染ませることができなかったのではないかと感じた。コーチとして加入したつもりが、選手に復帰し、いきなり“戦犯扱い”されてしまうのはReita選手にとっては少々酷な話だが、これは個人の問題ではなくチームの問題であり、彼自身はすでに加入からこれまでに十分過ぎるほどの結果を出している。本大会でも個人スコアは平均以上であり、今後チームに馴染んでからのチームへの貢献が楽しみなところだ。
そしてもうひとつ、強く感じたのは、アジアの層がますます厚くなっていることだ。アジアは、HLTVの世界ランク15位のTyloo(中国)を筆頭に、世界ランク32位で本大会の優勝候補筆頭のMVP PK(韓国)、64位の5POWER(中国)など、メジャー大会に出場するチームが増えてきており、まさに伸び盛りの地域といっていい。
この背景には、莫大な“チャイナマネー”の存在がある。中国の「CS:GO」コミュニティでは、チーム丸ごとの買収や、有力選手の取り合いが多発しており、それに付随して選手達の給与水準も上がっており、全体的なプレイ環境は日本の遙か先を行っている。
「CS:GO」は、賞金総額100万ドル(約1億1,200万円)に達する“メジャー”と呼ばれるValveスポンサードの世界大会を頂点に、地域別のプロリーグ、地域別大会、国別大会、地方大会、ゲーミングカフェ単位のアマチュア大会と、壮大なeスポーツピラミッドが構築されている。日本最強のSCARZ Absoluteは、FACEIT Asia Minorなどのマイナー大会や、eXTREMESLANDのような地域別大会への出場に留まっているため、その恩恵にはまだあずかれていないが、メジャー大会に出場できるチームにスタンドインできれば、その報酬は軽く1,000万円を超えると言われる。
警戒すべきなのは、「CS:GO」は他のeスポーツタイトルと異なり、大会実施のレギュレーションが緩いため、アマチュア大会が開きやすいという強みがあり、中国では“明日のTylooのIGL”を夢見て肥沃なアマチュア層が育っているというところだ。
SCARZ AbsoluteやIgnisなどは、彼らとの熾烈な競争に勝たない限り、世界戦への切符が手に入らないことになる。彼らとの距離を縮めるために日々練習の密度をどう高めていくか、対戦型の練習機会をどう増やしていくのか。今回敗れてしまったSCARZ Absoluteには“負けて兜の緒を締めよ”という言葉を贈って本稿の締めくくりとしたい。