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「GALLERIA GAMEMASTER CUP」、世界への切符は絶対王者SCARZに

世界戦を視野に入れた経験の差が如実に、プロチームは世界へ挑む!

9月29日、30日開催

会場:LFS池袋 esports Arena

 サードウェーブは、「Counter-Strike:Global Offensive(以下、「CS:GO」)」の日本一決定戦「GALLERIA GAMEMASTER CUP」のオフライン決勝大会を、LFS池袋 esports Arenaで開催した。9月30日には、前日に勝ち上がったIgnisと、SCARZ Absoluteがぶつかり、日本一の座を、そして世界大会の切符を争うこととなった。

 今回も、イベント進行にOooda氏、司会にyukishiro氏、解説にnoppo氏、XrayN氏。実況にabara氏と、SaSRaI氏を起用し、選手達の作戦、立ち回り、駆け引きなどが細かく言及される、とてもリッチな環境で観戦を楽しむことができた。

 Ignisと、SCARZは“宿命の対決”と言える。昨年もこのチームが日本一を争い、SCARZが勝利した。SCARZはプロチームであり、Ignisは「アマチュア最強」を自負するチームだ。SCARZは世界戦でも善戦、さらなる飛躍をと求めるファンも多い。Ignisは会場でも「GO! Ignis」と書いた紙を振り回すなど熱心なサポーターがいて、どちらも負けられないという強い思いが感じられた。

プロゲーマーチーム、SCARZ Absolute
アマチュア最強のIgnis

 解説者達の注目は「どのマップが選ばれるか」。「CS:GO」は世界戦で選ばれるマップ、あまり使われないマップがある。どこまで行ってもプレーヤーの時間は限られる、マップへの理解が勝負への絶対的な条件になる以上、プレーヤー達は「どのマップを濃く練習するか」が重要になってくる。日本一を争う超上級者同士がどのマップを選ぶか、勝つために自分に有利な、相手より1秒も長く練習したマップでの戦いを行なうか、それこそが勝つための条件なのだ。

 MAP選択はBANという「このマップでは戦わない」という宣言をしてから戦うマップを選択していく。その駆け引きの中で1戦目のマップは「MIRAGE」、「TRAIN」、「NUKE」となった。noppo氏、XrayN氏が強く反応したのが2戦目でIgnisが選んだ「TRAIN」である。通常、対戦では選ばれることの少ないマップなのだ。「俺たちはここで勝つために練習してきたぞ」というIgnisの宣言なのである。SCARZがこれをどう打ち破るか、そこが今回の戦いの山場となりそうだ。

司会を務めたyukishiro氏。運営側は、Ignis優勝を予想した人も多かった
マップが決定される。Ignisが選んだ「TRAIN」が話題に

試合直前のSCARZ。カメラに気づいてVサイン

 そして「MIRAGE」での戦いが始まった。「MIRAGE」のマップの大きな特徴は中央に大きな広間があり、ここからA、Bどちらにも移動できること。防御側はどこで待つか、偵察に誰を出すか、考えることとなる。相手がどう動くか、少ない情報で動きを予想し、瞬時に戦力を集中する、チームとしての連携、そして時には複数の相手を1人で相手にし、仲間が来るまで支えなくてはならないという個人の力量が試されるのだ。

 この戦いで実感させられたのは、お互いの極めて高い力量である。前日のIgnisは守りが巧みで、少人数で鉄壁のように敵を寄せ付けず、敵の進路を限定させる強さを見せつけた。ところがこの戦いではその防御が通用しないのだ。また、「攻撃と防御の有利さ」もあまり感じさせない。前日のIgnisの防御の凄さが際立っていたため、一層SCARZの突破力、敵に誤った情報を与え、誘導する力を実感させられた。

 観戦側は全ての選手が表示される実況用クライアントで見ているので、全てのプレーヤーの位置が把握できる。1人だけのプレーヤーが孤立し、そこに敵のメンバーが集まってくるのを見るとハラハラしてしまう。しかしそれはSCARZが的確に敵の少ない場所に兵力を集中し、Ignisがそれを察知できないという状況を意味する。

 SCARZは優勢にラウンドを取っていく。Ignisは流れを引き戻そうとファインプレーで会場を沸かせるが、SCARZはその流れを断ち切るのだ。敵の裏をかいて連続キルなど個人技も光るのだが、昨日のような大活躍ができない。それは、お互いがとても高いレベルの実力を持っているからだ。徐々に生まれた差はやがて大きくなり、16対5でSCARZが勝利した。

「MIRAGE」では終始SCARZが優勢に試合を進めた

 そして「TRAIN」である。自信を持ってるからこそこのマップを選んだIgnisは、テロリスト側でスタート。SCARZが3、Ignisが1とほんのちょっと差をつけられるが、ここから3-4と逆転、わずかだがリードし続け、試合を重ねていく。

 前半は明らかにIgnisがSCARZを翻弄していた。「TRAIN」はその名の通り中央に列車の貨車がおいてある広い空間がある。防御側は爆弾設置地点に向かういくつかのルートを守らなくてはいけないのだが、SCARZはここを読み切れなかった。何度か裏をかかれ突破され、わずかだがプレーヤーの数で上回れる展開が多く、Ignisのリードを許していた。

 しかし、ここからSCARZが“対応”していく。筆者には彼らは「突破力」という多少強引な方法でIgnisのマップ対策を打ち破ろうとしているように思えた。昨日の対戦相手TeamDWFNが試みた戦術に近いと思うのだが、数カ所を守らなくてはいけないIgnisに対し、察知されてもかまわないので戦力を集中させ、薄い守りを強引に突破してしまう。DWFNはそれで1人に数人が倒されてしまったのだが、SCARZはその隙がなく、守りを抜き、ポイントを取っていった。

 さらにマップの特性にも対応した。壁を貫通するスナイパーライフルは5人の内1人、多くて2人が定石なのだが、SCARZは3人にライフルを持たせ、そして狙撃を行なったのだ。ペースが崩れたIgnisは資金繰りでつまずいてしまう。そこをSCARZはついてきた。上回った装備で各個撃破を行ない相手を減らし、有利な展開を続けた。SCARZは差がついていたポイントを逆転し、16対14というぎりぎりのところで勝利、見事日本一となり、世界への切符を手にした。

Ignisが指定した「TRAIN」。まず1戦目でIgnisが絶対有利な状況からミスで落としてしまった。SCARZは苦戦するが、徐々に慣れていき、相手の資金を減らす戦略もハマり勝利をもぎ取った

優勝はSCARZ Absolute。プロチームとして寝食を共にし、環境作りからの準備が勝敗をわけた
悔しさをにじませるIgnis。来年の大会への意気込みを語った

 表彰式の後、試合を両チームの代表に試合を振り返ってもらった。まずIgnisに「MIRAGE」を振り返ってもらったが、こちらも色々対策や作戦を考えてきたが、思った以上にボコボコにされてしまった、という。「TRAIN」に関しては1戦目で後1人にして人数が絶対的に有利だったにもかかわらず、裏をかかれ爆弾を解除されてしまったのが影響が大きかったという。要所要所でポイントを取られてしまったとのことだ。

 来年への戦いに向けては、「僕らはLAN大会に出たことがなかった」とこういったオフライン大会での経験の少なさを語った。こういった大会の環境の対応そのものに時間がかかってしまったとのことだ。「来年はもっと経験を積んで勝ちたい」とIgnisのメンバーは語ってくれた。

 SCARZは、「MIRAGE」に関しては指揮官が上手かったのでその士気がきちんとはまったという。「TRAIN」に関しては、「ラッキーだった」とのこと。そして「相手のことをあまり悪く言いたくないが、相手のミスも勝因だった」と語った。「純粋な知識の差よりもLAN経験の差が大きかったのではないか」とのことだ。

 SCARZは世界戦にも出場し、大会参加の経験を積んでいる。「僕らも最初の頃は緊張していた」。大会出場の経験がやはり差になったのではないか、とのことだ。過度の緊張は思考を鈍らせる。大会の経験はその場での考えに影響したという。SCARZはプロのゲーミングチームである。彼らは共同生活し、そして同じ場所で戦っている。大会での戦いに近い環境で、声を出し、情報を共有し、指示を受けて戦っている。その差が、やはり大きいのではないかとのことだ。

プロとしての活動が実を結び、世界への切符を手にしたSCARZ。アジアNo.1を目指しての戦いへ向かう

 世界戦に向けては、「本当にがんばりたいです。世界大会のLAN大会に出場できる機会が増えてきて、慣れてきたな、とも感じています。メンバーが替わり、チーム内の役割も変わっています。課題とかは作らなくてもどんどん強くなると思っています。時間をかけて強くなっていきます」と語った。今回の優勝は、世界戦へ向け、オフライン環境を突き詰めてきたそのアプローチがはっきり出た結果とも言えそうだ。

 eスポーツが今後ますます盛んになっていく中で、「オフラインによる大会」、選手達が一堂に会し、ステージの上で戦う。それは多くの観客を目の前に、選手達が戦う姿を実況されるという「エンターテイメント」として必要な要素であり、選手達はその環境への順応を求められる。

 番組などの進行に集中力を乱されたり、機器の不調にも影響を受ける場合もある。異国での時差など、世界戦の選手は様々な問題にも対応しなくてはならない。そういったときに、プロゲーマーチームは環境作りも含めて対応している。「ゲームでプロプレーヤーになる、eスポーツで結果を出すのに求められるものは何か」というものの一端が見えたように思う。

 SCARZが今回優勝できたのは、そして世界大会で活躍しているのには、そういった今後を見据えた準備をしているからだ。世界への可能性、それをきちんと追い求めるには何が必要か、彼らの活躍は今後の日本のeスポーツに影響を与えていくだろう。世界での活躍に期待したい。